1月にアメリカ・アナハイムで開催された世界最大規模の楽器の展示会、NAMM SHOW 2014。ここで大きな話題になった製品の一つがUNIVERSAL AUDIOのapollo twinだったと思います。これは、以前にも紹介した同社のUAD-2を内蔵したオーディオインターフェイスで、デスクトップに置けるとてもコンパクトな機材です。
これを接続することで、単にUAD-2+オーディオインターフェイスということに留まらず、プロが使っているレコーディングスタジオそのものがDTM環境に持ち込める、とのこと。NAMMでの発表と同時に、国内の店頭での発売も開始されたため、すでに使っているという人も少なくないようですが、ちょうどUNIVERSAL AUDIOのインターナショナル・セールスマネジャーであるユウイチロウ“ICHI”ナガイさんが来日されていたので、お話を伺ってみました。
先日発売されたUNIVERSAL AUDIOのapollo twin
このapollo twinを一言で説明するとしたら「DSP搭載のオーディオインターフェイス」ということになるのですが、これまでのオーディオインターフェイスとは、一線を画すもので、さまざまな面で違いがあるのです。
先に単純なスペック面から見ていくと、今回発売されたapollo twinは
apollo twin | solo (実売価格:75,000円前後)
apollo twin | duo (実売価格:95,000円前後)
の2ラインナップで、いずれも形状的にはまったく同じコンパクトな機材です。24bit/192kHzにまで対応しており、カタログを見ると2IN/6OUTと記載されていますが、実は10IN/6OUTとしても使えるというユニークな機材でもあります(この点については後述します)。
お話を伺ったUNIVERSAL AUDIOのユウイチロウ“ICHI”ナガイさん
また現在、オーディオインターフェイスといえばUSB接続というのが一般的ではありますが、このapollo twinはUSB接続ではなくThunderbolt(AppleとIntelが共同開発した高速汎用データ伝送の規格)接続という、まだ珍しい方式。
apollo twinはThunderbolt接続となっている
とはいえ、Thunderboltの端子の装備は、すでにMacでは標準になっており、IntelのベアボーンPC、NUCなどにも搭載されてきています。USB 2.0と比較すると、転送スピードが圧倒的に速いため、高品位なデジタルオーディオを安定して送れるという面では、大きい意味を持っているんですよね。
また名称からも分かる通り、soloはUAD-2のDSPを1つ搭載したもの、duoは2つ搭載したものとなっています。ということは、apollo twinとは「Thunderboltオーディオインターフェイス+UAD-2」であるということなんだろう、と思ったら、ICHIさんからは「ちょっと違う!」という指摘をいただきました。
単なるDSP搭載オーディオインターフェイスではなくスタジオ環境そのものだと主張するICHIさん
「これは単機能の組み合わせではなく、まさにプロの現場で使われているレコーディング環境のオールインワンシステムなんです。単にオーディオインターフェイスで入出力ができるとか、DSPでエフェクト処理ができるだけでなく、この中にはミキサーコンソールもあるし、マイクプリアンプ、スピーカーコントロール機能もあります。そしてマイクをつなげれば即、マイクプリを経由した音にすることができるし、ギターを接続すれば、自動でHi-Zモードでの入力に切り替えられ、ビンテージアンプで鳴らした音で演奏できるんです」(ICHIさん)
試しにギターを接続して演奏してもらうと、確かにモニタースピーカーから、「おぅ!!」と感じるサウンドが飛び出してきます。しかも、まだDAWを動かしていない状態で、即使えてしまうんですね。
「ギタリストも、いきなりレコーディングをするわけではなく、なんとなく弾いているうちに、フレーズが浮かんで来たり、乗ってきていい演奏ができるでしょ。そこで、『これをこのまま録ろう!』と思ったところで、Pro ToolsでもCubaseでも、Logicでも好きなDAWを起動してレコーディングすればいいんですよ。とにかく、分かりやすく、直感的に使え、しかもプロのレコーディング環境で使われているのとまったく同じ、最高のサウンドで使えるのがapollo twinの最大の特徴です」とICHIさんはギターを弾きながら、実演してくれました。
ギターを弾くと、すぐにアンプを通したサウンドが飛び出してくる
しかもPCのCPUのプラグインを通すのではなく、DSPによるUAD-2のアンプシミュレータで動作させているので、96kHzの動作でレイテンシーは1.1msecとのこと。この辺も驚異的ですよね。
DSPで往年のギターアンプをシミュレーションする
一方、マイクプリ部分で使われているのは「ユニゾン・プリアンプ・テクノロジー」というもの。これはオーディオインターフェイス内でハード的に(DSPで)マイクプリとマイクの相互作用をエミュレーションし、クラシック・アナログ・プリアンプの挙動を実現しているのです。ターゲットとしているモデルのマイクプリに合わせてApolloのマイクプリのインピーダンス、ゲインのヘッドルーム、挙動までもをデジタルコントロールできるという前代未聞の機能。
スタジオにある高級コンプレッサーやEQは、今までUAD-2を始めとしたエミューションプラグインがリリースされてきているんですが、マイクプリだけはアナログアンプそのものなだけにデジタルでどうにかなるものでないとされてきました。けれどもこの新技術によってapolloのマイクプリが何十万円もするビンテージのマイクプリアンプの早替わりしてしまうというものなんです。実際に610-B TUBE マイクアンププラグインを入れてみると、オーディオインターフェイス内蔵のマイクプリとは思えないアナログサウンドに変化します。これはDTMユーザーにとって強力な機能なのではないでしょうか。使ってみると、アナログのマイクプリを触っている感じで簡単に操作できてしまうのも面白いところです。
こうした操作をICHIさんは、ものすごく簡単そうに使っているのですが、何かちょっと騙されているような気もします。だって、DSP搭載のオーディオインターフェイス、オーディオインターフェイス内蔵ミキサーって、難解で使いにくいものが多いのに、いとも簡単に操作しているんですから……。
画面に表示されるミキサーは、apollo twinのハードウェア機能そのもの
「apollo twinのいいのは、ソフトウェア的なミキサーが機能しているのではなく、画面に表示されているミキサーコンソールはapollo twinのハード自身なんです。だから画面操作と、パネル操作も完全に同じなんですよ。もちろん、掛け録りもできるし、素の音のままレコーディングして、再生時にUAD-2の機能を使ってエフェクトを再現したり、まったく別のエフェクトに差し替えるといったことも可能ですよ」とICHIさん。私も少し触ってみましたが、確かに違和感なく使えてしまうんですよね。
というわけで、お試しレコーディング。ここではPro Tools 11を使ってデモしてくれましたが、確かに今演奏していたセッティングのままの状態でPro Toolsを起動でき、そのままトラックへレコーディングできてしまうのですから、これまでの常識が覆されたような感じがします。
各種プラグインフォーマットでUAD-2のエフェクトが動作。画面は定番のLA-2A
エフェクトに関してはAAX 64に加え、VST、RTAS、AudioUnitsのそれぞれで動くため、ほぼすべてのDAWで利用できると考えていいようです。ただし、現状はMacだけの対応でWindowsには対応していないようです。
「上位機種であるapollo duo、apollo quad、apollo 16に関してはすでにWindows対応しているので、近いうちにWindowsには対応する予定です。開発中の現時点においてWindows 7とWindows 8での動作に違いがあるので、その辺の詳細を詰めているところです」とのことですから、Windows対応も時間の問題ですね。もっともThunderbolt搭載のPCが少ないので、そちらのほうが大きい問題かもしれませんが……。
上位機種であるapolloとの違いは、入出力やDSPの数だけであり、性能、音質自体はまったく同じ
では、その上位機種との違いはどんな点なのでしょうか?サイズ的にはずいぶんコンパクトになっていますが、気になるのは性能部分です。
「一般的に下位機種になると入出力数といったスペックが落ちると同時に、部品も変えて音質が落ちたりするものですが、apolloに関しては、入出力数、DSPの数が違う以外、性能はまったく同じで、音質的にも違いはありません。マルチでレコーディングするのではなく、DTM環境でボーカルだけとかギターだけを1つずつレコーディングしていくというニーズにはピッタリだと思います」ということですから、嬉しいところです。
apollo twinのリアパネル。左上にはOPTICAL INも用意されているのが分かる
DSPが1つのsolo、2つのduoともに、カタログ上の入出力は2IN/6OUTと書かれているのですが、これはアナログの入出力に限っての話なんです。具体的にはマイク入力が2つ(うち1つはフロントからのHi-Z入力との切り替えが可能)とメインアウト、モニターアウト、ヘッドホンアウトがそれぞれ独立して利用できる、という構成なのですが、いずれもアナログ入出力です。しかし、それとは別にデジタルの光入力も持っており、これはS/PDIF、ADATの切り替えが可能。S/PDIFや2ch、ADATは最大8ch分が扱えますから、これを追加して考えれば10IN/6OUTと見ることができるわけですね。
もう一つ気になるのがUAD-2の部分。UAD-2で実現するエフェクトは、まさにプロの現場で使われているものですが、業務用だけに、それなりの値段がしてしまいます。いくらapollo twinが安いといっても、このプラグインを買っていくとかなりの金額になってしまいます。
標準で付いてくる「リアルタイムアナログクラシック・バンドル」
しかし、apollo twinを買うと「リアルタイムアナログクラシック・バンドル」なるプラグインが標準で付いてくるのです。具体的には
・1176
・LA-2A
・PULTEC
・チャンネルストリップCS1
・REALVERB PRO
・SOFTTUBE AMPROOM ESSENTIALS
のそれぞれ。もちろん、数多くあるUAD-2のプラグインを追加で購入することで、音のバリエーションをいくらでも増やしていくことはできるのですが、まず、これだけのエフェクトが揃っているなら、かなりのことができそうですよね。
【関連サイト】
apollo tiwn製品情報
UNIVERSAL AUDIO製品情報(フックアップ)
UNIVERSAL AUDIO本社サイト(日本語)
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