Sound&Recording Magazineなどを読んでいると、よく目にするUNIVERSAL AUDIOのUAD-2やApolloといった機材。「多くのプロのレコーディングエンジニアが使っている機材であり、スゴそうというところまでは分かるんだけど、詳細になるとちょっと分からない…」という人も多いはず。また、価格的に見ても結構高そうなので、DTMユーザーにとっては敷居の高い機材のようにも思えます。
ところが実は、手ごろに入手可能な価格の製品もあるのだとか…。また、先日取材させてもらった鈴木Daichi秀行さんのスタジオでもWindows7ベースのCubase7に組み込んで使っているなど、DTMユーザーにとっても大きな意味を持つ機材のようなのです。私自身、まだ使ったことはないのですが、先日UNIVERSAL AUDIOのインターナショナル・セールスマネジャーであるユウイチロウ“ICHI”ナガイさんが、来日していたので、お話を伺ってみました。
UNIVERSAL AUDIOのユウイチロウ“ICHI”ナガイさん
--UAD-2、恥ずかしながらまったく使ったことがないのですが、これがどんなものなのか、教えていただけますか?
ICHI:UAD-2の前に、まずは当社について簡単に紹介しておきましょう。UNIVERSAL AUDIOは1958年に故ビル・パットナムSr.が設立した会社です。彼自身はエンジニアであり、ミュージシャンであり、プロデューサーなのですが、「現代レコーディングの父」とも言われている人です。ミキシングコンソールを生み出したり、世界で初めて人工のリバーブを用いたレコーディングを行ったりと、今でいうサウンドエンジニア、ミックスエンジニアの仕事を初めて行い、ミリオンセラー作品を生み出してきた人でもあるのです。こうした音楽制作に関わりつつ、数多くの機材を開発しており、その中にはプロの現場で必須のツールといわれる普遍的な名機LA-2A、1176コンプレッサ、610チューブコンソールなどを生み出してきたのです。
--そんな長い歴史のある会社だったんですね。
ICHI:ただ、パットナムが1989年に他界したこともあり、会社は一度畳んでいるんです。それを1999年に息子たちが復活させました。現在の社長はビル・パットナムJr.です。彼らが最初に取り組んだのは、LA-2A、1176Aの復元です。やはり現場からのニーズの高いコンプレッサをもう一度作ろうと、倉庫にある部品や資料などを調べながら、長い時間かけて、アナログで完全な形で再現したのです。これらは現在でも当社の重要な製品の一つとなっています。ただ、ビル・パットナムJr.がやりたかった本当の夢は、これらをデジタル化することでした。大学でモデリング技術などを学んだビル・パットナムJr.は約2年かけて、アナログ回路をシミュレーションするサーキットモデリング技術を用い、自分たちで再現したLA-2Aや1176Aをさらにデジタルでも再現させたのです。これが2003年にリリースしたUADだったのです。
UNIVERSAL AUDIOのLA-2A(写真はプラグイン版の画面)
--なるほど、アナログ回路そのものを作った人が、デジタル技術でそれを再現するというのは、すごいですね。現在そのUADがUAD-2になっているということですよね?ここで、よく分からないのが、UAD-2のハードとソフトの関係なのですが…。
ICHI:UAD-2は、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ:信号処理演算専用チップ、Analog Devices社のSHARCというチップが採用されている)を搭載したハードウェアでPCIeのボードタイプのものFireWireタイプのものなど複数のラインナップがあります。グレードによって搭載しているDSPの数が異なり、DSPが多いものほど、処理能力が高くなるわけですね。一番下の製品としてはDSPが1つのUAD-2 SOLOというものがあり、DTMユーザーなら、これが使いやすいかもしれません。この上にプラグインソフトを載せて動かすわけですが、SOLOとDSP8つのOCTOで音が違うわけではありません。まったく同じプラグインが動くけれど、処理能力によって同時に動かせるプラグインの数が違ってくる、ということなのです。
DSPを内蔵するFireWire接続タイプのUAD-2 SATELLITE
--そのプラグインとして、LA-2Aや1176Aがあるということですね。
ICHI:その通りです。SOLOでも「Analog Classicsプラグイン」というものが標準バンドルされており、この中にLA-2A、1176Aのほか、Pultec EQP-1Aイコライザー、RealVerb Proルームモデラーが含まれています。しかし、これらに限らず、UNIVERSAL AUDIOでは60種類以上のプラグインを用意しています。これらに共通しているのは、世界中のスタジオで使われている普遍的な機材を正確に再現していることです。そして、いずれもサンプリングなどの手法で真似るのではなく、アナログ回路の根底部分から完全な形で再現すること。そのためには当社だけで実現するのは不可能であり、元の機材を開発した企業に協力を得て行っています。
PCIe接続でデスクトップPCに内蔵して使うUAD-2 SOLO
--そう、そこが非常に不思議に思っていたところなのですが、UAD-2のプラグインを見ると、Roland、Neve、AMPEX、STUDER、MANLEY、Solid State Logic……と、そうそうたるメーカーのロゴが並んでいますよね。あれは、どういうことなんですか?
ICHI:これは絶対に必要という機材を絞り込んだ上で、各メーカーとの共同開発を行っているのです。つまり、実機の開発時の仕様書を公開してもらったり、回路図を見せてもらうなどの協力をしていただき、我々が再現した音もチェックしてもらっているのです。もちろん、すぐにOKしてくれる企業ばかりではありません。何度も熱心にお願いにいき、我々の実績も見てもらったうえで、協力していただいています。実際、いまも要請をしているメーカーが複数ありますからね。
UNIVERSAL AUDIOのサイトを見ても各社のロゴが並んでいる
--とはいえ、自社製品のレプリカ?をUNIVERSAL AUDIOという他社から出すというのはちょっと妙な気もしますよね。それは各メーカーにとってうれしいことなのでしょうか?
ICHI:もちろん会社によって事情は異なりますが、UAD-2のプラグインを出したことによって、実機にも注目が集まり、モノが売れるという現象が起こっているようです。今後も、数多くの名器をUAD-2で復元していきたいですね。
--なるほど、徹底した復元があるからこそプロが使っているわけですね。ただ、一方で感じるのはPC側の進化です。CPU速度は年々高速化していて、安いPCでも複数のプラグインを数多く動かせるようになっています。そう考えるとわざわざDSPなど使わなくても、CPUでいいのではないか……、と。
ICHI:確かにタワー型のPCに最高速のCPUを使って処理すれば、動くかもしれません。しかし、我々が行っているような綿密なアナログ回路モデリングを行っていくと、やはりCPUには限界があり、大きなセッションとなるとローレイテンシーでの処理は不可能になってきます。やはり信号処理に特化したDSPに優位性があるのです。また最近は、ノートPCなどでDAWを動かすケースが増えてきており、そうなるとますますCPUパワーに限界が出てきてします。こうしたところでUAD-2を用いると、PC本体に負担をかけずに多くのエフェクト処理が可能になるのです。
--よくわかりました。ぜひ、近いうちにUAD-2を使ってみたいと思います。ありがとうございました。
UAD-2を内蔵したオーディオインターフェイス、APOLLO
以上、ICHIさんにお話を伺って、初めてUAD-2がどんなものなのかが分かってきました。で、話に出てきたUAD-2 SOLO COREというPCIe接続の内蔵カード、調べてみると実売価格が40,000円程度とのこと。確かにこれならば、われわれDTMユーザーでも十分導入可能そうな価格。いっぱいのエフェクトを同時には使えないという話でしたが、どんな音なのか使ってみるには十分ですからね。ぜひ、近々に試してみようと思っています。またFireWire接続の外付けタイプで2つのDSPを搭載したUAD-2 SATELLITE DUO COREだと80,000円程度のようですね。
ちなみに上記写真のAPOLLOはUAD-2を内蔵した18IN/24OUTのオーディオインターフェイスで、ThunderboltまたはFireWire接続が可能とのこと。こちらはDSPを2つ搭載したAPOLLO DUOが実売価格208,500円程度、4つ搭載したAPOLLO QUADが262,500円前後とのことで、ちょっと簡単に手を出すのは難しそうですが、いつかは触ってみたいですね。
【関連サイト】
UNIVERSAL AUDIO製品情報(フックアップ)
UNIVERSAL AUDIO本社サイト(日本語)
UAD-2(フックアップ)