ドイツのSteinberg(スタインバーグ)が開発し、ヤマハが販売するという強力なタッグの元、少しずつシェアを伸ばしてきているDorico(ドリコ)。歴史ある楽譜作成ソフトであるFinale(フィナーレ)や、多くのプロユーザーも使っているSibelius(シベリウス)などにどう戦っていくかを工夫しているようですが、初期バージョンが発売されてから2年の間、着実にバージョンアップを繰り返し、機能を追加していきています。
この5月にDorico 2.0としてメジャーバージョンアップを果たすとともに、上位版のDorico Pro(市場想定価格57,600円)とエントリー版のDorico Elements(市場想定価格9,900円)の2ラインナップに分かれたところですが、先週Dorico 2.1へとアップデートし、プレイバック機能を中心に強化が図られています。実際どんなことができるようになったのか、紹介してみましょう。
Steinbergの楽譜作成ソフト、Dorico Pro 2.1
Doricoをご存知ない方のため、改めてその概要を説明すると、これはCubaseでお馴染みのSteinbergが開発する楽譜作成ソフトです。作曲家・編曲家がクラシック、オペラ、ミュージカル、ポップス……とさまざまなジャンルの作編曲のために使うことができる一方、いわゆる浄書家さんや楽譜を出している出版社などが、印刷に耐えうるキレイな楽譜を作るために用いるソフトでもあります。もちろん学校など教育関係での活用もされるソフトであり、楽譜を作成するという意味で幅広い使われ方がされています。
上位版のDorico Pro 2とエントリー版のDorico Elements 2の2ラインナップがある
「Cubaseも昔から譜面機能が充実していたので、それが発展したわけね!」と思う方も少なくないと思いますが、実はルーツ的にはCubaseとは直接関係なく、Steinbergのイギリスにいるチームがまったく新たにゼロから開発されたもの。
CubaseのMIDIシーケンス機能などは引き継いでいる
とはいえ、同じSteinbergだけに、再生のためのソフトウェア音源にはこれまで培われてきたものが利用されており、マルチ音源、HALion Sonic SE 3 のサウンド 1,300以上と、オーケストラ音源 HALion Symphonic Orchestra (HSO) ライブラリーが付属しています(Dorico Proのみ)。またHSO には、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器と数十種類の演奏技法を含む100以上のパッチやコンビネーションが用意され、一般的なすべてのアーティキュレーションとボウイングを豊かな表現力とダイナミックレンジで再現できるなど、かなり優秀なものになっています。
高性能なVSTインストゥルメント、HALion Sonic SE 3やそのライブラリも装備
もちろんVST3に対応した音源なので、Cubaseユーザーであれば、これらをCubaseで活用するということも可能になっています。またこれまでのバージョンアップの過程で、CubaseのMIDIシーケンス機能もDoricoに搭載されてきており、ピアノロール画面を見ても、Cubaseっぽくなってきており、VST エクスプレッションマップや MIDI再生時の調整、オートメーションなど、高度な操作も可能になっています。
8月28日現在、最新版は2.1.0というバージョンになっている
さて、そのDorico 2.1の新機能として、またいろいろ追加されているのですが、今回かなり強化されているのがプレイバック機能です。
リズミックフィールの設定で演奏時に利く形で曲全体にスウィングをかけることができる
具体的にはスウィング再生に対応したのが、大きなポイントの1つ。再生オプションのリズミックフィールで設定することで、好みのスウィングに曲全体を設定すると、そのスウィングで再生できるほか、範囲指定した上で、テンポのポップオーバーでその部分だけをスウィングさせたり、反対にスウィングを止めたりすることも可能です。
また地味ながら便利になったのが、「SHIFT+スペース」というショートカットで実現できるようになった再生機能。ある場所から再生を始めた後、一度ストップさせ、「SHIFT+スペース」とすると、もう一度同じところからスタートさせることができるんです。おそらくユーザーからの声で実装された機能なんでしょうね。
[SHIFT+スペース]で、直前に再生した位置からもう一度再生することができる
そして、もうひとつ重要なのが再生機能における繰り返し記号の反映です。もともとリピート記号や1番カッコ、2番カッコなどには対応していたのですが、今回のバージョンからはバンドスコアなどでもよく利用する小節単位での繰り返し記号にも対応してくれたので、便利に使えそうです。もっとも、コード設定は反映されないので、リズムだけ反映して、コードは変化させていく……というところまでは対応してくれないので、今後はその辺にも期待ですね。
小節単位での繰り返し記号にも対応
一方、楽譜作成の上で大きな進化といえるのが、「符頭設定」です。符頭(ふとう)とは、音符におけるオタマジャクシの頭といえばいいのでしょうか…。この頭の大きさや傾きを変化させたり、しいては頭の形、デザイン自体をまったく別にしてしまうことも可能になりました。
いわゆるグラフィックソフト的な画面が登場してくるので、ここでデザインすればいいわけですね。まあ、普通はDoricoがキレイな音符を表示してくれるので、これで問題はないはずですが、あえて何か変化させたいという場合に、大きな力を発揮してくれそうです。
グラフィックソフトのような画面で符頭を自分で自由にデザインできる
またパート譜のレイアウトのコピーができるようになったのも、Dorico 2.1での進化点です。たとえばアルトサックス用に細かく譜面の大きさを設定したり、改行や文字の情報を入れたり、音符のスペーシングの設定をしていたとしましょう。これをソプラノサックス用、さらにはトランペット用、ベース用……にも同じように反映させたい場合、ページレイアウトのコピーを行うことにより、一発で反映できるようになったのです。こうすることで、楽譜作成効率も上がっていきそうです。
パート譜のレイアウトのコピーができるようになった
そして書き出しにおいても機能強化が図られています。Doricoでは、ここに入力されたデータをオーディオとしてWAVやMP3に書き出す機能がありますが、全体ミックスを書き出すだけでなく、指定したパートごとに、バラバラに一括して書き出すことができるようになっています。これはCubaseにも搭載されている機能ですが、ステムの書き出しなどにも利用できそうですね。
オーディオをパートごとに書き出すことが可能になった
同じくパートごとの書き出しとして、オーディオだけでなくMusicXMLの書き出しも対応するようになりました。こうして出力したものを別の楽譜作成ソフトに持っていったり、DAWに渡すなど、さまざまな応用ができそうです。
同じくMusicXMLの書き出しにおいてもパートごとに行えるようになった
そのほかにも各パートの先頭にある「フルート1」、「フルート2」といったインストゥルメント名を、縦方向で位置を変化させられるようになったり、拡大縮小をCubaseと同様のGキーおよびHキーでできるようになりました。以前からZキーとXキーでの拡大縮小には対応していましたし、それは引き続き対応しているのですが、やはりCuaseとの整合性を高めているんでしょうね。
Cubaseと同様、Gキー、Hキーのショートカットで拡大・縮小もできるように
なお、やや裏ワザ的な使い方ではあるのですが、グリッサンドを演奏する手法もSteinbergから公式発表されています。Doricoそのものはグリッサンドの再生には対応していないのですが、実際にどう弾くかを細かく音符で指定した上で、それらの音符を非表示にしてしまうという方法が用意されているのです。多少設定手順が面倒ではありますが、こうすることで、グリッサンドにも対応してくれる、というわけなのです。
グリッサンドの演奏情報を非表示にして演奏できるというやや裏ワザ的方法も…
以上、Dorico 2.1の新機能を中心にレポートしてみました。今後もまだまだいろいろと進化していくと思われるDorico。開発者であるSteinbergのDaniel Spreadburyさんのブログを見ると、今後CodaやD.C.やD.S.などにも対応していくと宣言しているので期待したいところ。また進化があればレポートしていきたいと思います。
【関連情報】
Dorico 2.0製品情報
Steinberg Online Shop
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