Steinbergの楽譜作成ソフト、Doricoが初のメジャーバージョンUPで2.0に。低価格版も誕生し、バンドスコア、コード譜も手軽に作成可能に

楽譜作成ソフトとしてFinaleSibeliusという老舗定番製品がある中に、1年半前、まさに殴り込みをかける格好で登場して話題となったSteibergDorico(ドリコ)。DTMステーションでもこれまで何度か取り上げてきましたが、この度、初のメジャーバージョンアップを果たしDorico 2.0となって発売が開始されました。今回のバージョンアップでは、上位版としてDorico Pro(市場想定価格57,600円)とエントリー版のDorico Elements(市場想定価格9,900円)の2ラインナップに分かれ、初めてのユーザーでも導入しやすい商品ラインナップになりました。※価格は税抜き、以下同
今回のバージョンアップでは楽譜作成ソフトとしての順当な進化をしていると同時に、Cubase譲りのMIDI機能が強化されたり、Nuendo譲りのビデオとの連携作業が可能になっているのが大きなポイント。一方、フル・オーケスラ用など本格的な楽譜作成だけでなくバンドスコア、コード譜などが手軽に作れるようになったのも重要なポイント。どんなソフトになったのか、その概要をチェックしてみましょう。
     

Dorico 2.0はドイツのSteinbergが開発し、ヤマハが発売する楽譜作成ソフトです。Steinbergというと、やはりCubaseのイメージが強いのですが、DoricoはCubaseのスコア機能が強化されて独立した……というわけではなく、イギリスのまったく別のチームがゼロから開発したソフトであり、まさに打倒Finale、Sibeliusというイメージで開発された正統派の楽譜作成ソフトです。

Dorico ElementsとDorico Proの2ラインナップになったDorico 2.0

とはいえ、Steinbergのソフトですから、CubaseやNuendoの資産を有効活用し、発展させていくというのは当然の流れであり、今回のDorico 2.0ではそうした面が色濃く出てきています。主な進化ポイントを中心に見て行きましょう。

パッケージの中身はライセンスコードとUSBドングル(Elementsには入ってない)。ソフトウェア自体はダウンロード

まず一つ目はNuendo 8そして、Cubase 9に搭載されているビデオとの連携作業を実現した、という点です。「楽譜作成ソフトにビデオ搭載って、何のため??」と不思議に思う方も少なくないと思いますが、これは劇伴作家さんであったり、劇伴の演奏のために楽譜を見ながら指揮をする人のための機能。まさにDTMステーションPlus!でご一緒している作曲家であり、レコーディング代棒指揮(作曲家の代わりにレコーディング用の指揮をすること)もこなす多田彰文さんを思い浮かべてしまいましたが、そうしたプロの方々が使うための機能ということのようです。

楽譜とビデオが同期できるようになった

ビデオを楽譜と同期させた上で、専用のビデオウィンドウで再生し、必要に応じてマーカーを加えてスコア上に表示させたり、テンポオートメーションを用いてマーカーと拍を揃える……といった機能が搭載されています。Nuendo、Cubaseと同様、QuickTimeをインストールすることなく、Steinberg独自のデコーダーでMOVファイルを再生できるというのも特筆すべきポイントですね。
ビデオボタンをクリックすることでマーカーを打っていくこともできる

一方、Doricoは印刷する楽譜を作成することを主眼に置きつつも、CubaseのようなMIDIシーケンス機能も充実させてきており、再生画面を見ると、まさにDAWかMIDIシーケンサか……という雰囲気になっています。

パっと見、Cubaseを彷彿させるMIDIトラックが並ぶ画面

もちろん、ここの各トラックをどのVSTインストゥルメント(ソフトウェア音源)で再生するか、どの音色を使うかは自由に設定できるし、Dorico Proにはマルチ音源 HALion Sonic SE 3のサウンド 1,300 以上、さらにはオーケストラ音源 HALion Symphonic Orchestraライブラリーが付属しています。そのため、これで一通りのMIDI演奏ができるのです。


各トラックに自由に音源を割り当てていくことができる
さらに今回の新バージョンでは、MIDIのオートメーション機能が搭載されました。これは譜面側とは直接関係しないのですが、より臨場感のあるMIDI演奏を可能にするため、ダイナミクスやPAN、モジュレーションなどを設定して自由に動かすことができるようになったのです。その意味でもCubase的になったといっていいと思います。


MIDI CCを利用したオートメーションの書き込みも可能。ただし演奏用であって楽譜には反映されない

同様に繰り返し再生という面も、Dorico 2.0になって強化された点です。今回のバージョンではこれらのリピート記号も再生において反映されるようになったので、より使いやすくなっています。ただし、D.C.やFineには対応してないようでした。
カッコによる繰り返し記号も演奏に反映されるようになった

一方、楽譜において重要な要素である拍子記号の表示方法を3種類から選ぶことができるようになりました。従来通り、個々の譜表に表示できるだけでなく、括弧内の組段すべてをまとめて中央に大きな拍子記号として表示することができたり、組段の上に拍子記号を表示することも可能となったのです。

拍子を大きく表示することが可能に

これにより、どこで拍子が変わるのかをより分かりやすく強調する効果ももたらし、結果として演奏しやすい楽譜になるというわけです。


拍子は大きく3種類の記載の仕方が可能

この見やすいという面では、新たに手書き風フォントが追加されています。さすがに漢字やひらがななどの日本語フォントはありませんが、コード表記をしたり、英語でのタイトル表記に利用することで、柔らかいニュアンスの楽譜を作れそうです。

フォントを選択して、手書き風な文字にすることもできる
さて、個人的には非常に便利に感じているのは、バンドスコアやコード譜で利用できるスラッシュ表示に対応したことです。フレージングを奏者の解釈に委ねるときや、アドリブやソロでの演奏の際、斜線だけを表示させたり、符尾付きの斜線でリズムのみを指定するという方法です。

こんな感じにリズムだけを入れたコード譜を簡単に作成することができる

あるパートからフレーズをコピーし、ほかのパートにスラッシュとしてペーストすることにより、メロディーやコードの動きをスラッシュに編案したり、また任意の範囲で小節を選び、そこにスラッシュを埋めて一括管理するなど、素早いワークフローが可能になっている点も使いやすさという面では重要です。

コード自体は文字で入力してもOK
ちなみにコード表記自体は以前のバージョンからも可能であり、単純に文字で入力するだけ。分数コードも文字で入力するとキレイな形で表記してくれるほか、MIDIキーボードを接続している場合、キーボードでコードを弾くと、そのコード名を表示してくれるという機能も備えています。
鍵盤でコードを弾くと、コードを自動認識・入力できる

そして、もうひとつDorico Proとなっての大きな強化点がdivisi、ossiaへの対応です。弦楽器などで、同じパートの演奏者たちが曲の中で違う声部を分担する際に用いるのがdivisiです。ただdivisiは記譜が非常に複雑で、手書きでないとなかなか難しいという面がありました。しかしDorico Pro 2.0では、それを合理的に管理できるようになっているのです。

1つのパートに異なる声部を割り当てていくdivisi

またossiaは譜表の上や下に表示して、演奏が困難な箇所に対して代わりのフレージングや装飾音のガイドを表すものですが、そうしたこともDorico Proで表記しやすくなっています。さらに鍵盤楽器やマレット打楽器などのために、曲の途中で譜表を追加したり、減らすといったケースがありますが、こうしたことにも対応しています。

途中で譜表を増やしたり減らしたりできる

そのほかにも、システムトラックというものが設けられました。これは記譜モードにおいて表示できるトラックで、これを利用することで、すべての組段をまとめて小節単位での追加や削除ができたり全パートの選択やコピーなど頻繁に用いる作業が楽にできるようになっています。

またパートのまとめ、パートの拡張という機能が搭載されたのもアレンジする人にとっては便利そうです。これは楽器編成に応じたパートの振り分けをすばやく行えるようにするもので、元の楽譜より少ない編成で演奏する場合にはパートをまとめ、逆に多い編成の場合はパートを拡げることを実現するもの。マルチペーストにより元のワンフレーズをワンステップで複数範囲に複製することができるなど、使いこなすとかなりアレンジ効率が上がりそうですね。
2つのパートを1つにまとめてしまう機能、反対に2つに分ける機能なども装備している
以上、Dorico 2.0での新機能を中心に見てきました。前述の通りこのDorico 2.0はDorico ProとDorico Elementsの2種類があり、各機能の違いは記事下のとおりとなっています。またDorico 1.xのユーザーがDorico Proにバージョンアップする場合は、Steinberg Online Shopから10,000円で行えます。先にまずDociro Elementsを購入し、その後気に入ったらDorico Proにアップグレードすることも可能で、この場合はDorico Pro UG from Dorico Elementsを43,000円で購入することで実現できます。
またDorico Proを新規ユーザーが購入する場合、FinaleおよびSibeliusからのクロスグレードも用意されており、29,700円と割安価格で入手することが可能です。さらにアカデミック版のクロスグレードなら18,000円と非常に安くなるようですね。
さすがにElementsのクロスグレードはありませんが、Elementsのアカデミック版は6,750円で入手可能なので、学生であればその権利をうまく活用すると良さそうですよ!
【関連情報】
Dorico 2.0製品情報
Steinberg Online Shop

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◎Rock oN ⇒ Dorico Pro
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◎サウンドハウス ⇒ Dorico Pro
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  Dorico Pro Dorico Elements
記譜    
臨時記号 標準、ダブル、微分音、カスタム 標準、ダブル
小節番号 複数フォーマット 一種類
小節線の種類 豊富に対応 縦線、複縦線、終止線、繰り返し線
音部記号 26 プリセット 7 プリセット
音符 / 休符のカスタムグルーピング
括弧のカスタマイズ
コード記号 9 プリセット、カスタマイズ可能 1 プリセット
キュー
ストリングスの Dividi
扇状連桁、ステムレット
調号 フルカスタマイズ可能 最大 7 フラット/シャープ
符頭 30 プリセット、フルカスタマイズ可能 30 プリセット
オクターブ線 フルカスタマイズ可能 限定
オシア
楽器毎の譜表の数の変更
ページ番号 カスタマイズ可能 自動
ペダル記号 フルカスタマイズ可能 限定
奏法 カスタマイズ可能 220 プリセット
リハーサルマーク カスタマイズ可能 限定対応
無音程打楽器楽譜 カスタマイズ可能 限定対応
再生    
内蔵音色 2000以上 (8GB ライブラリー) 1500 (2GB ライブラリー)
HALion Symphonic Orchestra
記譜の解釈 カスタマイズ可能 固定
浄書    
専用の浄書モード
縦間隔の編集
リズミックな間隔の編集
個々の要素をグラフィカルに調整
カスタマイズ可能な浄書設定
連桁、声部の初期設定
テキストフォント フルカスタマイズ可能 限定
音楽フォント
音符間隔の設定 フルカスタマイズ可能 限定
譜表、組段の間隔 フルカスタマイズ可能 自動
カスタマイズの可否    
ページレイアウト  
音符間隔 フル調整可能 限定
調号
臨時記号
奏法
符頭
テキストフォント フルカスタマイズ可能 限定
音楽フォント
コード記号
記譜オプション カスタマイズ可能 固定
浄書オプション カスタマイズ可能 固定
再生オプション カスタマイズ可能 固定
記譜と編集    
パートまとめ、拡張
声部への貼り付け
フィルタリング フル 限定

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