「DAWでソフトシンセはいろいろと使っているけれど、音作りはちょっと苦手でプリセット音色に頼っている」、「フィルターのいじり方程度なら分かるけど、シンセの音色をゼロから作るのは……」なんて思っている人は少なくないと思います。そんな人に、ぜひお勧めしたいのが、VCOやVCF、VCA、EG、LFO……といったバラバラのモジュールを組み合わせて音を出すモジュラーシンセの利用です。少し取っつきにくい印象があるかもしれませんが、これを使えば、シンセサイザの構造や音作りを否応なく学べちゃいますからね。
とはいえ、いま流行りのユーロラック・シンセを揃えるとなれば、初期費用だけで10万円、20万円が軽く飛んでいってしまいます。ところが、そのユーロラック・シンセを完全にソフトウェアでエミュレートするソフトウェア、Modularというものが、先日Softubeから発表され、9,900円で発売されたのです。しかも、Softube製品は8月中なら最大40%オフというセールが展開されていて、このModularも今なら7,920円。この価格なら、モノは試しに、ということで購入して試してみたところ、予想以上に面白かったので、紹介してみたいと思います。
Softubeがユーロラックのモジュラーシンセをソフトウェアで実現させたModular
このModularについて、先日Softubeの開発者が来日した際にインタビューをし「ソフト版ユーロラックも誕生、スウェーデンの技術者集団Softubeが生み出す物理モデリングツールが国内で発売に」という記事でも紹介していました。記事にもある通り、Softubeはギターアンプやミキシングコンソールをはじめ、さまざまなハードウェアを忠実にエミュレーションすることで世界的にも注目を浴びているベンチャー企業。そのSoftubeが開発した新しい製品が、ユーロラックをエミュレーションするModularなのです。
先日、来日時に取材させていただいたSoftubeのヘンリック・アンダーソン・フォーゲルさんとジョー・ロートンさん
ユーロラック=EuroRackとは、ドイツのDoepfer(ドイプファー)社が提唱するモジュラーシンセサイザーの規格。高さ3Uサイズ=128.5mmで、幅が1/5インチ=5.08mmの倍数で規定される大きさのモジュールを組み合わせて、自分だけのシンセサイザを組み上げていくという、ややマニアックなシステム。とくにヨーロッパで大ヒットとなっており、数多くのメーカーがここに参入し、多くのミュージシャンも普通に使うようになってきています。またRolandもこのユーロラックに参入したという話は「Rolandがモジュラーシンセのエントリー向けモデルを発売。A-01Kとユーロラックで遊ぼう!」という記事でも紹介した次第です。
Rolandが発売したユーロラックのシンセサイザ、Roland SYSTEM-500 Complete Set は実売25万円
1つ1つのモジュールは1~2万円程度で入手可能なものが多いのですが、実際に使えるシンセを組み上げるとなると、結構な投資になってしまいます。しかも、DAWと連携させたいなどと、デジタルとのインターフェイスを揃えようとすると、さらに高価になるため、なかなか手を出しづらいのが実情。そうした中、Softubeが開発するModularなら、非常に安価にユーロラックの世界をPCの中で実現できてしまうのです。しかも、ビンテージ機材を復刻させるのではなく、現行で販売されている製品をそのままの形でソフトウェアで物理モデリングさせているのも嬉しいところなんです。
その現行製品とは、具体的にいうと、ユーロラックの生みの親であるDoepfer社のAシリーズ。アナログシンセサイザのコアである、VCO、VCF、VCA、ノイズジェネレータ、エンベロープジェネレータ、LFOが、そっくりそのまま用意されているのです。単に真似て作ったというのではなく、SoftubeがDoepferと協力の元に開発された、Doepfer公認のソフトウェアだから、まさにホンモノなんですよね。
さらに、ミキサーやステップシーケンサ、MIDIとのインターフェイスやDAWとのクロック同期システム、スイッチ、ディレイ……とさまざまなモジュールが一通り揃っているのも嬉しいところ。そして、これがDAW上で動くプラグインとなっているんですね。
Cubase上のプラグインとして動かしたSoftube Modular
もちろんWindowsでもMacでも動作するハイブリッド環境であり、VST、AudioUnitsおよびAAXの環境で動作します(Modularを使うには、無料のiLokアカウントが必要になります)。
StudioOne 3でも動作を確認。ただしWindows 10の場合、iLokの問題から設定が必要
ここではWindows 10上でCubase Pro 8.5およびStudio One 3 Professionalを使って動かしてみました。最初、Studio Oneでうまく動かなかったので、おや?と思ったのですが、iLokがまだWindows 10に完全対応できていないのが原因のようで、PreSonusのナレッジベースのページにしたがって、Studio OneをWindows 8互換モードに設定してみたところ、うまく動作してくれました。
起動しただけだと、まったく何も入っていない状態
さて、Modularを起動してみると、最初はまったく何もないラックだけの状態。ここで、「ADD」というボタンをクリックしてみると、Modularに含まれる全モジュールが表示されるので、ここから組み込むモジュールを選択します。まずは音を出す元となるオシレーターとして、DoepferのA-110 VCOを組み込んでみましょう。
Modularで使えるモジュールの一覧が表示されるので、ここから組み込みたいモジュールを選択する
一番左上にあるA-110 VCOにマウスオーバーすると、英語ではあるけれど、このモジュールについての説明が表示され、よく見ると、「BUY HARDWARE」なんてボタンもあります。
DoepferのA-110 VCOにマウスオーバーすると、購入ボタンも出てくるが、とりあえず無視して、モジュールを組み込む
とくに買う必要はないのですが、ここから通販サイトに飛んで、ハードウェア版であるホンモノのDoepfer A-110 VCOが購入できる宣伝にもなってるんですね。ちなみに、金額的には150ユーロだったので、1万7000円程度。Modularが2つ以上買えちゃう値段ですね(笑)。
さて、このVCOを組み込んだだけでは音が出ません。やはりモジュラーシンセですから、パッチングケーブルを使って接続しないと何も動かないんです。
VCOのノコギリ波の出力をMAIN OUTPUTへ接続すると、「ブー」と鳴り出した
そこで、VCOのノコギリ波の出力端子を、MAIN OUTへルーティングさせると……、ブーという音が出てきました。確かにこれでVCOが動いているのが確認でき、Tuneのノブをいじれば音程も変わります。
MIDI TO CVを利用することで、PCのUSB-MIDIキーボードを弾くことで音程を出せるようになった
とはいえ、これでは演奏も何もないので、MIDI TO CVというモジュールを追加して、DAWからのMIDI信号をVCOに入れるようにします。ここでは音程の信号を出力するNOTEをVCOのCV1に突っ込んでみます。これによって、DAWに接続しているMIDIキーボードの演奏によって音程が変化するようになりました。
ただ、これでは音程が変わるだけで、音は鳴りっぱなしで困ります。そこで、次に音量をコントロールするためのA-132-3 DVCAというモジュールを並べてみました。そう、これはVCAが2系統入ったシンプルなモジュール。
さらにVCAを接続することで、ようやく楽器っぽくなってきた
もちろん、置いただけでは何も機能を果たしてくれないので、VCOからMAIN OUTPUTへ繋がっているパッチケーブルをVCAのInに接続。そのOutをMAIN OUTPUTへ繋ぎ直した上で、MIDI TO CVのGATE出力をVCAのCV Inへと接続してみます。これで、ようやくとってもシンプルな電子楽器になりました。単にノコギリ波の音が出るだけですが、鍵盤を弾くと演奏できるモノフォニックの音源ですね。
そしてVCF、ADSRを追加すると、ようやく原始的なシンセサイザが出来上がった
さらに、A-108 VCF8というフィルタ、A-140ADSRというエンベロープジェネレータを追加した上で、パッチングケーブルで接続していくと、とってもシンプルなシンセサイザになります。ソフトウェア上でいじっているだけなんですが、なんか電子工作をしているような感じで、とっても楽しくなってきます。
私自身も、最近、こんなモジュラーシンセをいじることがなかったし、実のところ、ユーロラックを持っていないので、かなり新鮮な経験をすることができました。やっぱり、「どれをどう接続すれば、どう変化するんだ!?」と試行錯誤の連続。でも、それがすごく楽しいし、改めてアナログのシンセサイザってこうなんだよね、って実感することができます。
そして何より驚くのは、このModularの音の太さ。ここでは、本当に単純にStudio Oneは母体となっているだけで、Modularの出力をそのままオーディオインターフェイス、そしてモニタースピーカーへと接続していただけなんですが、まさにアナログという音が出てくるんです。これがSoftubeの技術力ということなんですかね、この音だけで結構感激しちゃいますよ。
MIDI TO CVがあるので、Studio OneやCubaseなどDAW側のMIDIシーケンス機能でModularを演奏させることはできるのですが、それとは別にModularにはステップシーケンサが用意されているので、これを使ってみることにしました。
ステップシーケンサをルーティングしてみたが、ステップシーケンサが動かない!?
とりあえずMIDI TO CVを切り離し、CV信号とGATE信号をステップシーケンサから出す形でルーティングしてみたのですが、音が出ないというか、そもそもステップシーケンサが動いてくれません。そもそもスタートボタンがないというか……、あれ?と思ったら、ステップシーケンサのCLOCK INにクロックを供給する必要があったんですね。
ステップシーケンサへクロック共有することで、ようやく動きだした!
LFOから供給するのもありですが、せっかくなのでDAW SYNCというモジュールを加え、その1/16の信号をCLOCK INに接続してみました。すると、DAW側のテンポ、スタート・ストップに合わせて、このステップシーケンサが動くようになってくれました。
ものすごく原始的な接続、構成をしているだけなんだけど、これは楽しいですね。モジュラーシンセマニアな方々がハマっている理由が分かってきます。先日も、DTMステーションによく登場してもらっているミュージシャンの江夏正晃さんと話をした際も「ユーロラックは絶対ハード。ソフトじゃ、ホントの良さが分からない」なんて言ってましたけどね、このModularでも、その楽しさのキッカケは十分に掴めるな、と。
大須賀淳さんによるチュートリアルビデオ連載の第1回
ところで、こうしたモジュールの接続、さらりと行ったように書いてしまいましたが、実はアンチョコがあって、それを見ながら操作していました。そのアンチョコとは、映画「ナニワのシンセ界」の監督を務め、「21世紀のアナログシンセサイザー入門」などの著書もある大須賀淳さんによるModularのチュートリアルビデオ。「ソフトで始めるモジュラーシンセ入門」というタイトルでYouTubeを使った連載が公開されているんです。これを見ながら操作すれば、まったくの初心者でも、楽しみながらModularでシンセサイザを組み立てることができ、シンセサイザの基本が勉強できちゃうんですよね。淡々とした口調での説明ながら、本当に手際よくシンセを作っていく手法解説には感激します。ぜひ、ご覧になってみてください。
Modularはプラグインエフェクトとしても使えるのが面白いところ
と、本当にまだModularの機能の1%も使えてない気がしますが、7,920円の元は十分に取った気がします。そう、ModularはVST、AU、AAXのエフェクトとしても機能するので、まだまだ使い道はいっぱいありそうですしね。
Softubeは、よくこれだけのハードウェアをソフトウェアと実現したものだと感心しますが、前述のとおり、ほかにもアンプシミュレータやコンソールシミュレータなど、数々のハードウェアの物理モデリングを行っており、それらが8月中なら最大40%オフとのことですから、気になるものがあれば、このタイミングで入手しておくのがお勧めですよ!なお、Modularを含むSoftubeの全製品は20日間試せるデモ版も用意されているので、まずは、そちらを使ってから、というのもいいと思いますよ!
【関連情報】
Softube Modular製品情報
Softube日本語ポータルサイト
ソフトで始めるモジュラーシンセ入門
【価格チェック】
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