4月3日に発売されて空前の大ヒット製品となっている大人の科学マガジン特別編「歌うキーボード ポケット・ミク」。eVocaloidの初音ミクとして歌わせることができるだけでなく、GM音源+XGエフェクトとして利用できるこの機材が4,980円というのは安すぎる!と、私も2台購入してしまいましたが、複数台購入したという方も結構いるのではないでしょうか?
そのポケット・ミク、単体でも十分に楽しむことができますが、PCと接続すると、可能性は大きく広がります。そして、続々と登場している「Webアプリ」というものを利用することで、想像もしなかった面白いことがいろいろできるのですが、その存在を知らない人も少なくないでしょう。DTMの経験がまったくない人でも簡単に使える、Webアプリについて紹介してみたいと思います。
ポケット・ミクはWebアプリとの組み合わせで、その実力を存分に発揮させることができる
先日の記事「PCとのUSB接続で威力100倍、ポケット・ミクの実力を探る」において、ポケット・ミクをUSBで接続するとPCからは「NSX-39」という名称のMIDIポートとして見えること、MIDIシステムエクスクルーシブ・メッセージを利用することで歌詞情報が送れることなどを紹介しました。
しかしMIDIシステムエクスクルーシブを使うのは、多くの人にとっては難しく、分かる人でも、これで1曲歌わせるのは苦労すると思います。でも、学研の大人の科学のサイトにある「ポケミクアプリ01[Preset]」を利用することで、歌詞を簡単に送ることができます。
ポケット・ミクの各ボタンに自在に歌詞を割り当てることを可能にするポケミクアプリ01
具体的にはWindowsでもMacでもGoogle Chromeを用いて、所定の「おまじない」をした上で
ポケミクアプリ01[Preset]
へアクセスすれば、MIDIの知識もDAWの知識も一切不要で、すぐに使うことができます。
そうポケット・ミクのひらがなで歌詞を入力するだけでA、I、U、E、Oのボタンに歌詞を割り当てることが可能なのです。各ボタンともに最大64文字まで入力できるほか「SHIFTキー+A、I、U、E、O」さらに「VIBRATOキー+A、I、U、E、O」のそれぞれにも最大64文字ずつ割り当てられるので、64文字×15=最大960文字文の歌詞情報を設定できるわけです。
でも、ここでふと浮かぶ疑問が「ポケミクアプリ01ということは02とか03があるの?」ということ。また「Chromeでのおまじないはどんな意味を持っているの?」というのも気になるところ。その疑問を大人の科学編集部にぶつけてみたところ「ポケミクアプリの開発はヤマハさんに依頼しているので、直接ヤマハさんに聞いてもらったほうが詳しく教えてもらえるはず」とのこと。さっそく開発担当者に連絡をとって、お会いしたところ、面白い情報をいろいろ伺うことができました。
ポケミクアプリの開発を担当されたヤマハの多田幸生さん(左)と河合良哉さん(右)
お話を伺ったのはヤマハ株式会社・研究開発統括部の多田幸生さんと河合良哉さん。多田さんによると「ポケット・ミクを動かすアプリはいろいろな作り方ができますが、インストールが不要で簡単に使えるWebアプリは多くのユーザーにとって使いやすいと思います。内部的にWeb MIDI APIというものを使っているのですが、ヤマハとしても、現在標準化が進められており、仕様が固まりつつあるWeb MIDI APIを普及させたいと考えており、その便利さを多くの人に体験していただければと思っています」とのこと。
Webアプリとは、ブラウザ上で動くアプリケーションで、指定のURLにアクセスするだけで使えるものです。前述のポケットミクアプリ01がまさにそれで、インストール作業が不要なのは確かに便利です。ネット環境がないと使えないのがネックではあるけれど、一度起動してしまえば、ネット環境が切れても使うことができます。
「これまでWebアプリから直接ポケット・ミクなどの外部MIDI機器へ直接アクセスすることができなかったのですが、2月21日にリリースされたChrome バージョン33からWeb MIDI APIが実装されたため、これを利用しています。ただし、Chromeの初期状態ではWeb MIDI APIが無効となっているため、有効にする設定が必要になるのです。現在、このポケミクアプリが利用できるのはChromeだけですが、近い将来Firefoxなどでも利用可能になるのでは……と思っています」と河合さん。
Google ChromeのWeb MIDI APIを有効にすることで、ポケミクアプリなどが利用可能になる
そう、先ほどの「おまじない」とはWeb MIDI API機能をオンにするためのもの「chrome://flags/#enable-web-midi」をアドレスバーに入力後、「Web MIDI APIを有効にする」の欄にある「有効にする」をクリックし、Chromeを再起動すること。一度設定してしまえば、PCの電源を落としても、有効の状態は保持されます。
間もなく公開されるポケミクアプリ02はリアルタイムに文字を指定して歌わせることができる
そして気になる02以降ですが、すでに「ポケミクアプリ02[Realtime]」の開発は終えており間もなく公開予定とのこと。これは画面に表示される文字盤にマウスオーバーするだけで、その文字がポケット・ミクに送られ、発音できるというもの。まさにリアルタイムに歌わせることができるツールなのです。
「じゆうちょう」 を利用することで文字盤の配置も自在にできる
右手でマウス操作、左手でポケット・ミクのカーボンキーボードの操作をする、といった形になり、思い通りに演奏するのには、結構練習が必要な気がしますが、これはなかなか楽しそうです。より、扱いやすくするために文字盤の位置を自由に配置できる「じゆうちょう」というものも用意されているのも便利そうです。
ポケミクアプリ00[Config]では、ポケット・ミクのボタンでドラム演奏することなどが可能になる!?
「さらに3つ目のアプリとして、ポケミクアプリ00[Config]も現在開発中です。これはポケット・ミクの各ボタン機能を大きく変えることを可能にするもの。たとえばドラムモードにすると、各ボタンにスネア、キック、ハイハット……と割り当てることができ、ポケット・ミクがドラムマシンになってしまう、という具合です。どんな機能を割り当てると面白いかなど、探っているところです」と河合さんは話してくれました。
なぜポケミクアプリ03でなく00なのかを確認したところ、「設定はどう遊ぶかを創造する原点」ということで00としたそうです。
Yamaha-WebMusicサイト
ところで、このポケット・ミクの中枢にはヤマハのNSX-1というチップが入っているわけですが、そのNSX-1用のWebアプリというものも多田さん、河合さんのチームで開発をしており、「Yamaha-WebMusic」というサイトで公開されています。こちらは、以前紹介したeVY1シールドでも使えるWebアプリであり、ポケット・ミクで使う際には「Volume上」+「Volume下」+「U」と3つのキーを同時に押して「NSX-1モード」に切り替える必要があるのですが、かなり強力に使えるWebアプリとなっています。
具体的には
歌詞入力アプリケーション:text-input
1トラックシーケンサ:single-track-daw
音声認識・発音:kodama
の3つのWebアプリが公開されています。
簡単に紹介するとtext-inputは、ポケミクアプリ01に近いもので、歌詞をNSX-1に送るというもの。歌詞を送った後、画面上のキーボードをマウスでクリックすると歌わせることが可能なほか、USB-MIDIキーボードを接続して、そちらから演奏することも可能になっています。
single-track-dawは、1トラックのピアノロール型シーケンサ。ちょうどVOCALOID Editorのような感じでデータ入力をして歌わせることが可能になります。
さらにkodamaはPCのマイクに向かってしゃべると、その言葉を認識して画面に表示され、その言葉をNSX-1がしゃべってくれるというもの。これはGoogleの音声認識技術を使っているとのことですが、なかなかの認識性能で、ちょっと面白いですよ。
「この3つのWebアプリは、ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービス、GitHub上で公開しています。というのは、これらのアプリで多くの人に楽しんでもらえるようにする一方、プログラムがわかる人のためにこの3つをオープンソースとして公開しているのです。single-track-dawのソースコードを改良してマルチトラック化してくれる人が現れてくれたらいいな…なんて思っているところです」と多田さんは説明してくれました。
一方、河合さんは仕事以外に趣味?でもWebアプリを開発しているようで、先日、
Voice Layer
Standard MIDI File Player
という2つを公開しています。
これらはポケット・ミク、NSX-1に限らず、GM音源ならどれでも利用できるようになっているのですが、これもなかなか便利なものです。
まずVoice LayerはUSB-MIDIキーボードを弾くと、複数のMIDIチャンネルで同時に音が鳴らせるというもの。ちょうどシンセサイザのパフォーマンスモードのような感覚でポケット・ミクの歌声とユニゾンでピアノ、ストリングス、ブラスを同時に鳴らすといったことが可能。もちろん、最大16ch同時が可能で、もちろん各チャンネルのオン/オフ設定、音色設定も自在にできます。
またStandard MIDI File Playerは文字通り、スタンダードMIDIファイルのプレイヤー。画面には、各チャンネルに流れるMIDI信号がリアルタイムに表示されるので、これもなかなか面白いですよ。
今後、こうしたWebアプリはどんどん登場してきそうですが、これらを利用することで、ポケット・ミクの機能を120%どころか300%でも500%でも引き出すことができると思います。どれも簡単に使えるものばかりですからで、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか?
【関連サイト】
歌うキーボード ポケット・ミク製品情報
ポケミクアプリ・ページ
Yamaha-WebMusic GitHubPage
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