10月23日、ヤマハがNSX-1というまったく新しい技術を搭載したICを発表しました。これが、かなりスゴイもので驚いたのですが、「ICなんて、分からないよ!」という方も多いと思います。とはいえ、今後、このICを搭載した大人の科学シリーズ製品が登場したり、Arduino(アルディーノ)用のインターフェースが登場するなど、さまざまなデジタルガジェット、コンピュータ周辺機器、オモチャなどに搭載されることが予定されている、チェックしておくべき音源の心臓部なのです。
端的に表現すれば、VOCALOIDと非常にリアルなサウンドが出せる楽器、さらに汎用的なPCM音源であるXG音源の3つを組み合わせたICであり、世の中を大きく変えるといっても過言ではない画期的なデバイス。これで実際、どんなことができるのか、どんな音が出るものなのかを紹介してみたいと思います。
細かい説明の前に、まずは以下のビデオをご覧ください。
どうですか?私は、最初、これを見てビックリしたんですが、これがNSX-1というチップを使ったデバイスの簡単なデモ。このサックスのリアルさって、普通ではないですよね。その昔、ヤマハが出していたVA(バーチャル・アコースティック)音源といわれた物理モデリング音源の最新版か?と思ったら、そうではないのだとか……。
ここに使われているのはRAS=Real Acoustic Soundという名前の新方式音源。基本的にはサンプリング系の音源だけれど、さまざまなアーティキュレーション(演奏技法)が収録されており、それらをモーフィングするような感じで滑らかに繋ぎ合わせることで、このようなリアルなサウンドを作り出しているのです。
ご存じのとおりサックスは、同じ音程でも吹き方を変えることで、かなり音色や表現の異なった音が出せるわけですが、いろいろな吹き方による音を予めサンプリングデータとして持っておき、アーティキュレーションの指定を変えることで、サンプリングデータを切り替えて出すとともに、その切り替えをスムーズに行っているわけですね。
このRASはAEM=Articulation Element Modelingという技術をベースに作られたものとのこと。AEMはヤマハのTyrosという国内未発売のキーボードに搭載されている音源で、やはりアコースティック楽器のリアルな表現ができるというのが売り。確かに路上ライブのパフォーマンス用としてみるとなかなかウケそうですよね。そのTyrosに搭載されているシステムを非常に小さなICにまとめたのがNSX-1というわけなのです。
NSX-1のチップ自体は約12mm四方というとっても小さいデバイス
ちなみに、さっきのサックスのバックで流れていたBGMもNSX-1が鳴らしているもので、こちらはXG音源。XG音源自体は20年近く前に登場したヤマハのマルチ音源でGM音源の上位互換となっているもの。まさにDTMの歴史を支えてきた音源でもあるわけですから、古くからDTMをやってきた方ならよくご存じですよね。
そしてNSX-1のもう一つ大きな特徴はeVocaloidという機能を搭載していることです。まずは、以下のデモをご覧ください。
※NSX-1に搭載されているのはあくまでもeVocaloidTMであり、VOCALOIDTMとは別モノです。
これ、iPhoneから音を出しているわけではなく、iPhoneを使って演奏した音程情報と歌詞情報をNSX-1へ送り、NSX-1から音を出しています。
歌声自体はヤマハのVY1のeVocaloid版のeVY1。ただ、PC版のものと比較すると、ちょっとニュアンスに違いがあるような気もしますが、リアルタイムで歌わせている点はなかなかですよね。
「でもeVocaloidって何だ?」と思ったら、これはembedded VOCALOIDの略で、要は組み込み型のVOCALOIDという意味。NSX-1専用のシステムのようです。PC版のVOCALOIDと比較すると音声合成のための処理量、データベース量を大幅に削減したことで、この小さなIC上で歌声をリアルタイムに作り出すことを可能にしているようです。
この合成エンジンの仕組みは、先ほどのRASのシステムをうまく活用したものとなっており、音素から音素へ滑らかに切り替えることで、歌わせているようです。つまりエンジン自体がPC版とはちょっと違うみたいですね。
ただしRASと同じ仕組みを使っているという構造上、RASとeVocaloidの両方を同時に動かすことはできないとのこと。つまりRAS+XGまたはeVocaloid+XGという構成を選択する形になります。また、RASはポリフォニックですがeVocaloidはモノフォニックとなっており、和音を歌わせることまではできないようです。
NSX-1のシステム構成図。紫のボックス内がNSX-1のチップ内部
上に示した図が、NSX-1のシステム構成図。分かる人が見れば、ニュアンスがつかめると思いますが、XGの音色はROMで提供されているけれど、RASおよびeVocaloidはRAMとなっているので、外部からデータを与えて上げる必要があります。つまり、そうした部分はNSX-1を搭載した機器を作るメーカー側に委ねられているので、どんな製品が生まれてくるのかはメーカー次第。自由度が高い分、かなりいろいろな応用製品が出てきそうで楽しみなところです。
なお、NSX-1というネーミング。これはNew Sound Xの略で「歌って、奏でる、次世代音源」という意味を込めているそうです。「でもNSX-1って前に聞いたことがある……」という方は、かなり記憶のいい人。実はこのDTMステーションでも過去に数回取り上げたことがありました。そう、結局、ペンディングとなってしまったAndoroidデバイス、Miselu Neiroで使われていたのがNSX-1のプロトタイプだったのです。個人的には、Miselu Neiroが出てこなかったのはとっても残念ではありますが、同じ音源が、今後いろいろなメーカーから続々と登場するらしいので、期待が膨らむところです。
今後NSX-1搭載の機器の発表など、新しい情報が入ってきたらお伝えしていきたいと思っています。
【関連情報】
NSX-1に関するヤマハのプレスリリース