RolandのSC-88Proという名前を見て、懐かしい、という思いの人も多いのではないでしょうか? SC-88Proは1996年10月に発売になったMIDI音源モジュール。それまで同社の最上位機種であったSC-88の上位モデルとして登場したもので、定価89,800円(税別)という製品でした。先日、大掃除で棚の整理をしていたら出てきたので、懐かしいネタシリーズということで、ちょっと取り上げてみたいと思います。
1996年当時、Rolandの規格であるGS音源とYAMAHAの規格であるXG音源が真っ向勝負で戦っていたのですが、GS音源よりかなり後から登場してきたXG音源にはエフェクトが充実していたため、機能面ではやや劣勢になっていたのです。そこに打ち出したSC-88Proは、エフェクトにおいても、かなり強力な機能を搭載し、音色数も1,117音と圧倒的なもので、「勝負あった!」と感じさせた製品で、大ヒットとなったのです。
1996年に発売されたRolandのMIDI音源モジュール、SC-88Pro
当時を知らない方からすると、「???」と思うかもしれませんが、この18年前の機材がどんなものだったのかを、少し振り返ってみたいと思います。
現在のDTMにおいては、ソフトシンセが一般的ではありますが、18年前のPCは非常に非力であり、ソフトシンセを動かすほどの計算処理能力がなかったのです。正確にいえば、ちょうどそのころにソフトシンセは誕生してきたのですが、まだ「音がなんとか出る」というレベルであり、まともに音楽を鳴らすためのツールとはなっていなかったため、PCの外部にこのようなMIDI音源モジュールをつけて鳴らすのが基本だったのです。
また、現在のDTMにおいて重要なハードウェアといえば、オーディオインターフェイスですが、当時はオーディオインターフェイスもまだ一般的ではなく、DTMとは「MIDI音源モジュールとMIDIシーケンサを用いて音楽を制作すること」を意味していたのです。
そうした中、RolandのGS音源規格とYAMAHAのXG音源規格を中心に、さまざまなMIDI音源モジュールがあったのです、まさに“第1次DTMブーム”(そんな言葉はないし、ほんとにそれを第1次と呼んでいいのか、実は第2次とか第3次だったかもしれませんが)の絶頂期であった1996年に登場したのが、このSC-88Proだったのです。
MIDI2系統の入力を装備していたので、合計32ch=32パートのマルチティンバー(32種類の音色を同時に出せるということ)で、最大同時発音数は64という仕様。前述のとおり、音色数は1,117音と、当時としては最高スペックのものとなっていたのです。まあ、現在なら「音色数が1,000以上ある」と言われたところで、あまりすごいとは思わないだろうし、「で、その中のオイシイ音色はどんなものなの?」なんて言われてしまいそうですが、その当時は、いっぱい音色があることが偉かったんですよね……。
SC-88ProもPCM音源であったわけですが、PCM音源ならば、やはり「どのくらいのデータ容量があるんだろう?」と気になる方もいますよね。で、当時のカタログを見てみると、以下のような記述がありました。
「SC-88Proは単純に内蔵音色の数だけを競う音源ではない。1音の深度、1音の広がり、1音の感動、1音の攻撃力こそを誇る音源である。その内部に40MBという未曽有の大容量ウェーブ・メモリーを搭載。一般的なコンピュータでさえ16MB程度のメモリーしか搭載していないことを考えれば、SC-88Proのクオリティは推して知るべし。」
やぁ、当時は私も40MB(※正しくは16bitリニア換算で40MBなので、実際にはもっと小さい)は、スゴイと思ったんですよ。でも、いまやPCM音源の容量ってGB単位が当たり前の時代。先日「BFD3はDAW標準音源とどう違うのか?HALion Sonic SE2と対決!」の記事で取り上げたアコースティック・ドラム音源、FXpantionのBFD3なんかは、ドラムだけで55GBですから、1,000倍以上ですよ!18年という月日は大きいんだな、と改めて感じる次第です。
Cubase AI 7で演奏することができた筆者の手元に残っているSC-88Pro
そのSC-88Proは、今も私の手元にあるので、久しぶりに電源を入れてみました。まったく問題なく動いてくれますよ!試しにCubaseを起動し、そのMIDI機能を使って鳴らしてみたところ、バッチリですね!音を聴いてみると、やっぱりゲーム音っぽいというか、明らかに今のDTMのクオリティーとは大きく異なるけれど、懐かしい音でいいですね!
今回鳴らしたのは、現在のPCと接続したオーディオインターフェイスにオマケでついているMIDI OUT端子をSC-88ProのMIDI IN端子に接続して鳴らしたわけですが、当時のPCとの接続の仕方として一般的だったのが、シリアルポートの利用でした。
※もし手元に当時のMIDI音源モジュールがあるので、久しぶりに鳴らしてみたいという場合は、RolandのUSB MIDI Interface UM-ONEmk2などを入手して試してみるのも手ですよ!
リアパネルにはMIDI端子のほかに、COMPUTERという端子があり、シリアルポートでPCと接続した
考えてみれば、今のPCでシリアルポート(RS-232C)を搭載したマシンなんて、ほとんど見かけなくなってしまいましたが、USB端子が登場する以前は、このシリアルポートというのが外部機器(モデムなど)と接続するうえで、比較的汎用的に利用されるものでした。
ただし、データ転送スピードが、当時のPC-9801とDOS/V機(現在のWindowsマシンの原型ですね)、Macのそれぞれで違ったため、モードを切り替え使っていました。そうPC-9801と接続する場合はPC-1、DOS/VはPC-2、MacはMacで、MIDIを利用する場合は、MIDIに切り替えて使っていたんですよね。今は、USBで接続すればOKですから、こうした点でもずいぶん使いやすくなりましたよね。
一方、YAMAHAのXG音源に負けていたエフェクト機能をSC-88Proでどう強化したのか、というと、本体にインサーションエフェクトというものを追加してきたんですよね。今のDAWなら、各チャンネルごとにプラグインでさまざまなエフェクトを掛けることができますが、当時はPCのCPUパワーでエフェクト処理をするなんて発想すらなかったので、SC-88Proというハード内で完結させていたのです。
インサーションエフェクトの例。全部で64種類ある中から1つを使うことができた
前機種のSC-88のといから、リバーブ(8種類)、コーラス(8種類)、ディレイ(10種類)、2バンドEQというものは装備していましたが、それとは別にこのインサーションエフェクトというものが登場し、利用できるのは1ch分だけではあったものの、さまざまな音づくりができるようになったのです。たとえばギターマルチのエフェクトの場合、コンプ、オーバードライブ、コーラス/フランジャー、ディレイといったものがセットとなっていたので、従来とは違う音づくりができた、というわけなんですよね。
DAWが5万円程度で購入できる現在から考えると、ちょっと信じられない気もしますが、89,800円もする音源単体が飛ぶように売れたというのだから、昔は景気がよかったんだなぁ…と思ってしまいました。
SC-88Proを中心にソフトウェアとセットにしたミュージ郎88Pro
なお、このSC-88Proを核に、シーケンサなどをセットにしたミュージ郎88Proというものも登場し、こちらは定価99,800円となっていました。Windows版、Mac版、それぞれ違うソフトがバンドルされていましたが、Windows版に搭載されていたのはCakewalk Home Studio 6.0、Singer Song Writer Lite、Score Grapher Lite……といったソフト、Mac版に入っていたのはFreeStyle(Mark of the Unicorn=現MOTU)、Singer Song Writer Liteなどとなっていました。
※名前からも想像できるとおり、Cakewalk Home Studio 6.0の現在版がSONAR X3 Essential、Singer Song Writer Liteの最新版がSinger Song Writer Lite 8ですね。
SC-88Proの後は、SC-8850、さらにはSD-90といった音源も登場してきたのですが、やはり第1次DTMブーム(しつこい!?)はSC-88Proが絶頂期だったように思いますが、いかがでしょうか?
このSC-88Proは大ヒット製品だっただけに、現在、ヤフオクなどを見ても、安い値段で結構出品されているようです。当時の独特なサウンドが楽しめる音源なので、機会があったら、試してみてはいかがですか?
なお、この手のDTM昔話をまとめた電子書籍をImpress Watchから「DTMの原点」という名前で販売しております。興味のある方は、ぜひご覧いただければ、と!
コメント
僕のパソコンデスクの下の方には、いまだに、
YAMAHAのXG音源MU-80が、います(^_^)v
シーケンサーが生まれ、MIDIが開発され、音源が本物のようになって、
インターネットで作った歌を聴いてもらえるようになって…。
本当によい時代に生まれたなあと思います。
この時代に生まれていなかったら、
僕は未だに、いくつか覚えた数少ないコードをギターで弾きながら、
誰も聞いてくれないオリジナル曲を、
部屋で一人で歌っていたと思います。
今から久しぶりにMU-80の電源を入れてみます(^_^)v
これのキーボード版SK-88Proをいまだ現役で使っています
MIDIインターフェースですが USB-シリアル変換ができる変わり種の
YAMAHA UX96(絶版) と一緒に愛用しています
SC-88と言えばハラカミレイを思い出す。
私もまだ持ってます。
MUも。
SC-88proのクリーンギターの音色にディストーションをかけてディストーションギターの音を出すという広告に、
うおおおお!すげぇぇぇ!!って感動したのを覚えてます。
今となっては何言ってんのか分からないって言われそうですがw
今ほどDTM人口は多くなかったと思うので、飛ぶようにって言ってもそこまでではなかったのかも?
その昔、レイ・ハラカミの曲がほぼすべてSC88proのみで作られていると知って、音楽のレベルは機材で決まるわけじゃないんだなーと思ったことを思い出します。40歳で亡くなるなんて、早すぎます……。
こんばんは。懐かしくなったのでコメします。
昔はソフトも機材も高かったので本当に必要な人か好きな人以外は二の足を踏んでしまうものばかりで、ちょっといじってみたい程度の好奇心で手を出すのはかなり勇気がいりました。この頃はたしかパソコンが普通に30~40万くらいしたはずなので9万以下なら機材としてはそれほど高く感じなかったかもしれません。
今は本当に恵まれてますよね。
55mkII、88、88STPRO、8850と、買い続けたSCシリーズが部屋に残留してございます
実メモリはリニア換算表記の2分の1ですね
当時は少ないメモリ上でのやりくり技術勝負でしたから、Rolandの音色作りが光ってました
また殆どの場合、DTM音源1台だけで演奏するものでしたから、音色数は重要だったのでしょう
作りやすさというのも、もの凄く重要でしたが、GSAEといった優秀なツールに恵まれてましたからね
すっかり忘れてたけど、確かにRS-232Cで繋げてましたよね。
その先にmidimanがあって、MU500とMIDIキーボードを接続してたような・・。
ん~、記憶が曖昧~、・・XG Works、8.1で動くんだろうか?
X68000でMU80と徹底的に王道とは逆いってましたねー
FM TOWNS専用のMIDI音源拡張ボードなんてニッチなパーツを持っていたなぁ。
特価で飛びついたのだけど、無駄遣いの局地でありました。
チョット前にハードオフのジャンクで2000円で捕獲しました。
使って見たら完動品。
音は確かに古臭いけどアナログ音源みたいに10年後とかに人気が出るかもですね。
売れてる人がMIDI音源だけで作ってヒットしたら欲しがる人が増えるんだろうな。
88Pro現役で使ってます。アナログ録音でDAWに取り込んでます。シリアル接続のドライバがないのでパソコンのOSをXPから更新できない…
SC-55mk2からSC88Proと使ってました。
当時はインターネット普及前で草の根BBSなどにアップされたMIDIデータをDLして聴き、
どうやったらこんな音が出せるかデータを解析してテクニックを学んでいました。
Sys-Ex.を駆使して液晶画面にドットで歌詞や絵を表示させたりするツールがあったり
同じ機材を持つ者同士での交流や切磋琢磨したことは自分にとって良い経験でした。
Mitsuさんナイスアイデア!
実際聴いてみたい
音源だけ利用して今の機材でエフェクトしてミックスしたもの作ってみて下さい
DTMを趣味にしている高校生です。
最近なら普通はDAWでやるもんでしょうけど
あえて、僕は古いハードウェア音源を入手してDTMやってます。
音質は劣っても、古いながら様々なパラメータを調整できて面白いです。
やっとSCシリーズ、MUシリーズを1台ずつ手に入れたのでじっくり味わおうと思います。
使いこなして音源の性能を限界まで引き出すのが今後の目標です(笑)
昔は88proなんて夢の夢で、5年くらい前にヤフオクで4000円で2台落として、使いもしないで
幻の名器がここに、、なんて想いでじっと眺めてました。プロになってからも、そういう愛着めいたものは捨てられませんでしたが,ソナーのバンドルからEZドラマーとか次々に手に入るようになったとき、一大決心で、全部友人にゆずりました。SD-90も、。今はVIENNA+EWQLSOP+BFD3+++
オーケストラ音源とかの収集家みたいになってますが、それぞれのイイとこどりで、DTMやってます。最初PCをやり始めのころ、大容量20Mハードディスクなんて広告を見て、胸を躍らせたのを
思い出します。MS-DOSの時代でした。藤本さんが仰るように、この時代に生まれ、音楽を職業にできて、しかも実生活を気の向くままに謳歌できたことに、感謝しきれません。やり始めのことは
頭にちいさな一円玉のハゲがいくつも出来ていたのを思い出します。たぶん実力以上のあれこれを憶えるのに、頭が悪かったせいだと想ってますが、。 ホント、良い世代でした。でしたって書くと、もう終わってしまったかのようですが、とうに還暦を過ぎた今、余生も音楽一本道ってことで気楽に生きてみようと思います。ちなみに私は歌もの、バラード・演歌・歌謡曲などを頻繁に創ってます。折々に手に入った音源に感謝しつつ、真新しいハリウッド音源を眺めて悦に入っています。これから、インストールして格闘したいと思います。 因みにの追加ですが、私はSSW8.0VSとSSW6.0 を使って仕事をこなしています。SSWの6.0にはピンポン機能がついているため、手放せません。SSW用にHALion sonicを少しだけいじらせていただき、メインの音源として使っています。後は先述した諸々の音源の中の好きな音色を組み合わせての、オリカラ作りです。
ボーカロイドとかループとかは、先ずやったことがないです。ついでにゲームもやりませんが、
DTMというモノをやることが出来て、本当に幸せ感いっぱいです。
作曲などの才能は無いので、もっぱらオーケストラ用のクラシック曲をレコンポーザで打ち込んでいました。
1曲を打ち込むのに2週間~1カ月ほどかかり、エフェクトを着けないとモノラルで平べったく、とても聞けたものじゃないものが、エフェクトをかけ、パンを振り等していくうちに本物のオーケストラがいると思うくらい素晴らしい曲になった。もうこの手間をかける気力など到底ないが、再びあの感動を味わってみたい。
>>その当時は、いっぱい音色があることが偉かったんですよね……。
何か誤解しているようですね。別に偉かったわけではありません。当時はXG音源とのスペック競争が行われていた時代だった、ってだけですよ。Y社は常に後追いで数値だけは超えていましたが、短波形のループが多く、ペラペラの薄い音色ばかりでした。
実際、業務用カラオケ音源は現在に至るまでハチプロを基準にしています。XG音源を採用したのは1社のみで少数派。
ともあれ、時代を経て、後づけで当時のスペックを笑うのは、後出しジャンケンをしている小ずるさばかり目立って、あまり感心できない態度に見えますが?いかがですか?カッコ悪いですよ。
>>19
そのへんのカタログスペック競争を皮肉って「偉かった」と表現しているのではないでしょうか?
最近、無性にMIDI音源の音を聞きたいと思っていました。
昨日押し入れに眠っていたMIDI音源を約15年ぶりに出してきました。
初めて買ったHello musicのMU5と、音源のみで購入したSC-88VL。
USBとSerial変換ケーブルのドライバ問題もあり、WindowsXPで再生環境を構築しました。
やっぱ久しぶりに音源から出た音を聞くと感動しますね。
Windows10環境でも聞きたくなり、UM-One mk2をポチッとやっちゃいました。
>>19
単にスペックに関する事実を書いただけだと思いますが。
どう意地悪く読めば当時のスペックを馬鹿にしていると感じるのか。
ある意味ものすごい感受性ですね。呆れました。
88を嫌いって書いてるけど、実は大好きです! しかしながら、ヤマハのMU-500があったからこそ88Proをずっと使い続けたっていう経緯があります。おかげで、プロとしてこれまでやってこられたわけですから、頭が上がりません。単一のスペックを比べると音源として不満も上がって来ようかと想いますが、これだけ諸々が発達・進化してると何でもアリで、だから88とヤマハの合わせ技でかなり有難い目に合いました(笑) ソフトの音源なんかも部分的に利活用してるけど、それぞれの良いとこ取りすれば、予期せぬ相乗効果も半端なく、感激も倍増します♡ 持ってなければ創る ってことも今や楽しみの一つになってます♡
SoundCanvasVA使用しています。
88proで一基のみだったインサーションエフェクトを何台もかけられ、ドラムキットも3台以上セットできるので、かなり仕事で重宝しています。
さらに、一つ一つトラック毎にパラデータにして綺麗にミックスしなおすと、現在のソフト音源にヒケをとらないため、本当に素晴らしい音源だなあ!と痛感しています。
歌や生演奏とミックスしてもよく馴染みます。ありがたい限りです。
初めて廉価版買って、707のドラムの音出したときの感動、こんなにも音色がある!と心躍らせたあの時、EFXをオンにして音色がトンデモな音に変わった時の衝撃、いろんなワクワクとドキドキを与えてくれましたね・・・
もうすでに売っちゃいましたが。
懐かしいですねぇ。
SC-55mkII(前期リモコン有り)、SC-88、SC-88 Pro(2台)、SC-8850と使ってきました。全て現存しています。
昔はオーディオI/Fではなく外付けMIDI I/Fだったんですよね、Roland UMシリーズやYAMAHA UX256とか。