既報のとおり、ヤマハ純正のVOCALOID2であるVY1なる製品が9月1日に発売されることになり、すでに予約受付が開始されています。ただ、ヤマハからは今のところ正式なアナウンスはなく、受付を開始したVOCALOID STOREのサイトに行っても、それほど情報はありません。今のところある詳細情報はITmedia NEWSで報じられた「キャラクターなしのVOCALOID VY1 初のヤマハ製、9月発売」くらいです。
でも、なぜこれまで表に出てこなかったヤマハが突然製品を出すのか、デモ曲が妙なほどに滑らかな歌声なのはなぜなのかなど疑問がいっぱいです。そこで、ITmedia NEWSにもコメントを出されていたVOCALOIDの産みの親でもあるヤマハの研究開発センター音声グループマネージャーの剣持秀紀さんをはじめとするみなさんに話を伺ってみました。
まず最初の疑問であった、なぜ常に黒子に徹してきたヤマハが急に製品を出すことになったになったのか、という点について聞いてみました。すると剣持さんからは意外な答えが。
「あくまでも、ヤマハが黒子であることには変わらず、ライセンスビジネスという枠組みはまったく同じです。クリプトン・フューチャーメディアさんや、インターネットさん、AHSさんなどと同様に、今回新たにビープラッツさんにライセンスしたという形です。だから、ヤマハの製品ではないし、サポートもビープラッツさんが行い、VY1についてヤマハがプレス発表するというものでもないのです」
え?ヤマハ製というから、ヤマハ製品だとばかり思っていたのですが、そうではないようです。では、そのヤマハ製とはどういう意味なのでしょう?
「ただ各社にライセンスするだけではなく、各社がカバーしきれない部分について、側面から支援してVOCALOID市場をもっと盛り上げていきたいという思いはありました。たとえばキャラクタのないVOCALOIDの需要は一定数あると考えていましたが、この時点でそれにトライするのはかなりの冒険となります。そこにチャレンジしたのが1点です。さらに、VOCALOIDのコンテンツ部分、つまり声のデータベース制作においても、従来とはかなり違う作り方をしたのです。このデータベース制作は、実験的な意味もあって今回ヤマハで行いました」と剣持さん。
ビープラッツが運営するVOCALOID STOREでのみ発売される VY1
これまで初音ミクなら藤田咲さん、鏡音リン・レンなら下田麻美さんというように、声優さんが表に立った形で、声の収録が行われていました。また、よく記事などにも書かれていましたが、声の収録には「あーだーいーだーうーだーえーだー」などと呪文のような無意味語を歌わせていたようですが、これを大きく変えたというのです。
まず収録したのは、確かにある一人の声優さんとのことですが、VOCALOIDに向いた人の声を選んだとのこと。実際データベース制作に携わった研究開発センター主任の入山達也さんは
研究開発センター主任の入山達也さん
「VOCALOID向きと思われる3人に絞った声優さんの中から1人を選んだのです。まあ、選んだというよりも、本当にいい人に出会えたという感じでしたが、とてもいい音で録ることができましたね」と語ります。
でも、VOCALOID向きってどういうことなのでしょう?
「たとえばハスキーな声の人は明らかに向いていません。VOCALOID1のときよりはよくなりましたが……。また、歌がうまい人がいいわけではないんですよ」と剣持さん。
入山さんと同様にデータベース制作に携わったヤマハのサウンドテクノロジー開発センターの吉田雅史さんは
「波形のキレイな人がいいですね。つまり均一な声が出せる人です。とくにアタック部分、つまり歌い出し部分にはどうしても人のクセが出やすいのですが、これが音ごとに異なると、言葉によって音色が変わったりニュアンスが変わってしまいます。その意味で今回の声優さんはどの音も同じように歌うことができ、とってもよかったのです」と語ってくれました。
なるほど、これがVY1の歌声が滑らかである大きなポイントのようです。さらに従来の無意味語で歌っていたのを意味ある言葉に置き換えたのも大きな違いのようです。
「無意味語で長時間歌っているとどうしてもモチベーションが落ちてしまい、結果として均一な声でなくなってしまいます。そこで、少しでもモチベーションをあげようと、意味ある言葉にするとともに、その言葉のイラストを作ってそれを見せながら歌ってもらいました」(剣持さん)
そのイラストを描いたのが入山さん。実は、入山さんはニコニコ動画でVOCALOID-PVのPさんとして著名な「いぬちP」(本人いわく、「いぬちPは僕の人差し指の先なんです」)。そうした地道な苦労がVY1へと結実しているのです。