VOCALOID5の桜乃そらがアップデート。これまでボカロでは不可能だった歌い方が可能になり、結月ゆかりや初音ミクにも適用可能！

昨年「声優・井上喜久子さんCVのVOCALOID＆VOICEROID『桜乃そら』が誕生。一足先に試してみた！」という記事で紹介し、「“VOCALOID・VOICEROID制作は自分の歌声のMRIみたい!?”、声優・井上喜久子さんが語る『桜乃そら』開発の裏舞台」という記事でも取り上げたAHSが発売するVOCALOID5用のボイスバンク、「VOCALOID 桜乃そら」(ハルノソラ)。

その発売から10か月経過したタイミングで、無償での大きなアップデートが発表されました。これはVOCALOID5で追加された新たな機能、アタック＆リリースエフェクトを拡張する機能で、これまでのVOCALOIDでは絶対不可能だった、さまざまな発音を可能にしてくれるというもの。しかも、このアタック＆リリースエフェクトは、桜乃そらで使えるだけでなく、結月ゆかりや紲星あかりといったAHSのVOCALOID、さらには初音ミク、Megpoidなど他社のVOCALOID3/VOCALOID4ライブラリにも適用できるという画期的なもの。このためだけにVOCALOID5 Editorと桜乃そらを導入しても損はないといえるユニークな機能なのです。実際これがどんなものなのか紹介してみましょう。

VOCALOID 桜乃そらにアップデータが登場し、オリジナルのアタック＆リリースエフェクトが追加された

すでにみなさんもご存知の通り、昨年、ヤマハはVOCALOID5を発表し、そのシステムが大きく強化されました。従来通りスタンドアロンのアプリケーションとして使えるほか、VSTiおよびAudio Unitsに対応するとともに、ReWireにも対応して、CubaseだけでなくAbilityやStudio One、Liveなど、各種DAWとも連携しやすいシステムへとなりました。

詳細は「4年ぶりの新バージョン、VOCALOID5が誕生。各DAWで使えるプラグイン化するとともにUI・機能も大幅変更。調教も簡単操作で設定可能に！」の記事を参考にしていただきたいのですが、歌声合成エンジンとしてはアタック＆リリースエフェクトへの対応というのが目玉機能でもありました。これは「しゃくり上げる」、「ビブラートでゆらす」といったことを簡単に実現するための機能で、これによって大幅に表現力を上げることができるというものです。

歌わせ方を簡単に脚色できるアタック＆リリースエフェクト機能

しかし、このアタック＆リリースエフェクトには、各ボイスバンク（従来でいうところの歌声ライブラリ）ごとに、特有の歌わせ方を実現可能となっており、今回、桜乃そらのアップデートでは、その部分の強化が図られたのです。

アップデータを適用すると、アタック＆リリースエフェクトのバリエーションが増える

AHSの担当者によると「本当は、昨年のVOCALOID 桜乃そら発売時に、専用のアタック＆リリースエフェクトを搭載したく準備を進めていました。ただその当時はサードパーティが使用できる開発環境がなく、当初からヤマハさんと二人三脚で開発を進めた結果、ようやく今回アップデートで対応できる形になりました」とのこと。

といっても、すぐにはピンと来ない方もいると思うので、以下のデモをご覧ください。

お分かりになりましたか？単純な「あー」という発音に対し、アタックエフェクトのORNAMENTATIONに追加された「V Pronounce」を適用すると「ヴァー」となります。従来日本語のVOCALOIDで「V」の発音をさせるのは非常に困難であり、「バー」とするか、ここに音量を調整するパラメータを動かすことで、無理やりそれっぽく聴こえるようにするしかなか方法がなかったのですが、それをいとも簡単に実現できるようになったのです。

アタックにORNAMENTATIONの「V Pronounce」を設定。バックに蝶の柄があるのが新規追加のもの

同様に日本人にとって難しい「R」の発音も、リリースエフェクトのORNAMENTATIONの「R Pronounce」で実現できるようになりました。これは、イギリスやオーストラリアにはないようなアメリカ英語に特化したアメリカ英語風の末尾のRを発音するためのもの。そう「あー」にこのリリースエフェクトを設定すると「あーR」（日本語での文字表現が難しいですが…）ってできるのです。この両方を同時に設定すれば、「ヴぁーR」って発音も実現できるわけですね。

またピッチを動かすという点でもユニークな効果を実現させることができます。以下のビデオをご覧ください。

こちらの例において一つ目は単純に「あー」という発音でしたが、2つ目はVOCALOID5標準のアタックエフェクトでピッチの下げを実現させています。が3つ目では井上喜久子さんの声でピッチの下げを行っているのでよりリアルになっています。また4つ目は標準のしゃくりあげ、5つ目と6つ目は井上喜久子さんの声を利用したしゃくりあげとなっています。

ちなみに5つ目がSora Cool Up Fast、6つ目がSora Natural Up Fast2というパラメータになっています。それぞれ桜乃そらクール用、桜乃そらナチュアル用ではあるのですが、クール用にNaturalを使ったり、ナチュアル用にCoolを使うなどクロスして使っても面白そうだと思います。

アタックのピッチで「Sora Cool Up」を設定

一方、ピッチ変化一つとして、母音を変化させる用意されています。たとえば「Up oh-ah」、「Up ooh-ah」といったのがそれ。以下のビデオをご覧ください。

どうですか？「あ」に対して設定することで、「おわー」とか「うわー」といった自然な発音ができ、この歌詞を「さ」に対して設定すると「そわー」とか「すわー」となるのです。こうしたことは、これまでVOCALOIDで発音させたくても、なかなか実現することができませんでしたらから、かなり表現の幅が広がったわけです。

スクリームやシャウト、またビブラートやトリルなどの表現方法がある

そのほかにも今回の桜乃そらのアップデートで追加されたアタック＆リリースエフェクトにはスクリームやシャウト、またビブラートやトリルなどさまざまな表現方法があるのですが、ここまで見てきてもわかる通り、蝶の模様がバックにあるのが、その追加されたものです。そして、これらは結月ゆかりや初音ミクなど、ほかシンガーで入力する入力する場合は、VOCALOID5標準のものしか選択肢に現れず、使うことができません。

桜乃そらクールをナチュラル風にしたり、ナチュラルをクール風にするトーン変換もできる

ところが、裏ワザとして、まず桜乃そらクールや桜乃そらナチュラルでアタック＆リリースエフェクトを設定して入力したのち、シンガーを切り替えると、設定したものをそのまま利用することができるのです。つまり「ヴぁーR」とか「おわー」という表現、さらにはスクリームとかシャウトを、従来からあるさまざまなVOCALOIDの歌声に適用することができるというわけなのです。

桜乃そらのアタック＆リリースエフェクトを設定後にボイスを変更することで、他のボイスでも適用できる

ただし、この桜乃そらのアタック＆リリースエフェクトは、井上喜久子さんの声をサンプリングして作ったものなので、別のVOCALOIDにそのまま適用すると違和感が出てしまいます。そこでほかのシンガーに変更した場合、桜乃そらで使う場合より、少しニュアンスを弱め、不自然さが出ないようにしてあるとのこと。実際に試してみましたが、まったく違和感なく使うことができたので、かなり応用範囲は広そうですよ。

これまでVOCAOID5の導入を見送っていたという人も少なくないと思いますが、この機会に桜乃そらとセットで入手してみるというのもいいと思いますよ。

※2019.5.28追記

今回のタイミングで「VOCAOID 桜乃そら」の体験版が公開されました。Windows版の「VOCALOID 桜乃そらナチュラル」および「VOCALOID 桜乃そらクール」そしてMac版の「VOCALOID 桜乃そらナチュラル」および「VOCALOID 桜乃そらクール」の計4つがダウロード可能で、いずれも14日間、フル機能を使うことができます。ただし、これを利用するにはヤマハのVOCALOID 5 Editorが必要となります。

【体験版ダウンロード】
「VOCALOID 桜乃そら」体験版ダウンロード