VOCALOIDが4年ぶりにバージョンアップし、VOCALOID5として本日7月12日よりヤマハから発売されます。このVOCALOID5はダウンロード専用製品となっており、ボーカロイド公式ショップから購入可能。製品としては4つのボイスバンク(従来でいうところの歌声ライブラリ)を持つVOCALOID5 STANDARDが25,000円(税抜)、8つのボイスバンクを持つVOCALOID5 PREMIUMが40,000円(税抜)となっています。
これまでのVOCALOIDと同様にスタンドアロンで動作するほか、VSTiおよびAudio Unitsのプラグインとしても動作するため、WindowsおよびMacにおけるほぼすべてのDAWでVOCALOID5を組み込んで使えるようになります。UIも大きく変わると同時に、より簡単に高いクォリティーでの打ち込みを実現できる新たな制作フローが導入され、VOCALOIDが劇的な進化を遂げています。実際、何がどのように進化したのか、一足早くVOCALOID5に触れてみたので、その内容を紹介してみましょう。
VOCALOIDが4年ぶりのバージョンアップを果たし、VOCALOID5として発売開始
これまでのVOCALOID4ではVOCALOID4 Editor、VOCALOID4 Editor for Cubase、歌声ライブラリと製品が分かれていましたが、今回はそれらが統合された形で
- VOCALOID5 STANDARD
- VOCALOID5 PREMIUM
という2製品になりました。いずれもエディタおよびボイスバンク(歌声ライブラリという名前が変更になった模様)が入っていて、単体売りではなくなっています。
見た目的にも機能的にも大きく進化したVOCALOID5 Editor
以下がVOCALOID5の概要を紹介するビデオです。
エディタのほうは大きく進化し、見た目も機能もかなり変わっています。もっともVOCALOIDの初期バージョンからの基本であるピアノロールで打ち込んで、そこに歌詞を流し込んでいくという考え方自体はそのままですから、従来ユーザーが戸惑うということはないと思います。
Kaori、Ken、Amy、Chrisの4キャラクタのボイスバンクがVOCALOID5 STANDARDに含まれている
先に製品構成から紹介するとVOCALOID5 STANDARDにはまったく新たなボイスバンクが4つ搭載されています。具体的にはKaori、Ken、Amy、Chrisの4人で以下のとおり。
ボイスバンク名 | 言語 | 特徴 |
Kaori(カオリ) | 日本語 | ソウルフルな歌声の日本語女性ボイスバンク。伸びのある歌声でパワフルなジャンルに最適です。 |
Ken(ケン) | 日本語 | シャープで透き通った日本語男性ボイスバンク、軽やかな歌声でJ-POPを歌いこなします。 |
Amy(エイミー) | 英語 | ライブした現代的歌声の英語女性ボイスバンク。ナチュラルな発音と多様な声色が魅力でR&BからPopsにマッチします。 |
Chris(クリス) | 英語 | オーセンティックなR&B英語男性ボイスバンク。甘く柔らかな低域から伸びのあるパワフルなハイトーン・ボイスまで広い音域を歌いこなします。 |
一方、VOCALOID5 PREMIUMのほうはこの4人に加え、従来からのVY1、VY2、CYBER DIVA Ⅱ、CYBER SONGMAN Ⅱの4つのボイスバンク(いずれもVOCALOID5形式になっているので、VOCALOID3やVOCALOID4では読み込めません)が付属した製品という構成です。
試しにVOCALOID5と初音ミクV4Xを1つのマシンにインストールすると、そのまま使うことができた
ついでにデータの互換性について先に紹介しておくと、従来のVOCALOID3およびVOCALOID4用の歌声ライブラリはVOCALOID5で読み込むことができ、そのまま使うことが可能ですが逆は不可です。またvsqxファイルおよびsmfファイルのインポートは可能ですが、VOCALOID5専用のvprという形式が誕生し、エクスポートはvprのみとなっています。
Studio One 4上でもVSTiとしてVOCALOID5 Editorを起動し、使うことができた
前述の通り、VOCALOID5のエディタ機能はWindowsおよびMac環境のスタンドアロンで使えるほか、VSTiおよびAUのプラグインインストゥルメントとして使えるようになりました。実際、Cubase 9.5シリーズで認識するのはもちろんのこと、Studio One 4、Ability Pro 2.5、Ableton Live 10でも使うことができましたが、ほかのDAWでもほぼすべてOKだと思われます。ちなみにWindowsの場合、デフォルトでは
C:\Program Files\Common Files\VST2
フォルダにいるので、DAW側からここを指定するようにしてくださいね。
Ability Pro 2.5上でもVSTiとして使うことができた
一方で「VOCALOID Editor for Cubaseはどうなったの?」と心配する方もいると思います。確かにCubaseとのコンビネーションは完璧でしたからね。基本的にはVSTプラグインで十分便利に使うことが可能ですが、どうしてもという方のためにVOCALOID4.5 Editor for Cubaseというものが付属しているので、機能的にはほぼ従来通りでVOCALOID5の新機能を享受することはできませんが、VOCALOID5のボイスバンクを利用することは可能となっています。
ついでにいうと、VOCALOID2以来ご無沙汰となっていたReWireにもひっそりと対応していました。ヤマハに確認したところ「β版的扱いで非サポートです」とのことで、製品紹介ページでも触れられていませんでしたが、各DAWのスレーブとして使えることを確認しました。
では、そのVOCALOID5で進化した点について見ていきましょう。ここからはWindowsでスタンドアロン版を起動した場合の画面を中心に見ていきますが、まず新規プロジェクトを立ち上げた画面の見た目は黒っぽく、ずいぶんカッコよくなっていることに気づくと思います。これは単に色を変えたとかデザインを変更したということではなく、機能的にも大きく進化しているのです。
新規プロジェクトの起動画面
主だった機能を順番に見ていきましょう。まず基本的な入力方法ですが、従来の通りのピアノロール画面で音符を入力して歌詞を入力していくもののほかに、予め歌詞が入った調声済みのフレーズを試聴し、気に入ったものを選んで貼り付けていくだけで歌声制作が行えるという手法が追加されました。もちろん、そのフレーズのデータベースは膨大なので、その中、フィーリング的にいいと思うものを選んで、貼り付けてから、それをエディットしていく、なんて方法もあるのです。
2000種類以上あるプリセットフレーズ&オーディオから試聴して選択という方法が搭載された
そのフレーズ、膨大にあるだけに、どのボイスバンクに対応しているのか、それが英語なのか日本語なのか、またタイプや、ハードなんかハスキーなのかシャウトなのかといったカラーで絞り込むこともできるようになっています。今までなかった手法なので、最初はちょっと戸惑う面もあるかもしれませんが、ある意味これを組み合わせていくだけで曲が作れちゃうのは画期的ですよね。
日本語に絞り込むと「あ、そーれ」とか「あ、やっとやっと」といった合いの手などもいろいろ出てくる
しかも、このデータベースの中にはVOCALOIDのデータだけでなく、「Yo!」、「Yeah!」、「Oh!」、さらには「あ、そーれ」、「いよ~」なんてオーディオサンプルも大量収録されていて、これをトラックに貼り付けていくことも可能。そう、VOCALOID5 EditorにはVOCALOIDトラックのほかにオーディオトラックがあるのですが、従来のようにステレオトラック1つ+モノラルトラック1つといったものではなく、最大32トラックという制限の中で自由な組み合わせでトラック作成できるので、まさにVOCAOID5 Editor1つで音楽制作することも可能になっているんですね。今後アップデートやボイスバンクを追加する際などに、このデータベースも増やしていけるものと思われます。
最大合計32までの範囲で、VOCALOIDトラック、オーディオトラックを自由に追加していくことができる
次に紹介するのも、まったく新しい機能で、好みの歌い方・声色に一発変換する「スタイル」というもの。これは「Alone」、「Full Emotion」、「Short Echo」……などなどさまざまな名前のスタイルを選択すると、同じボイスバンクであっても、まったく異なる歌い方や声色に調整されるというもの。これによってメインボーカル風、コーラス風、さらにはロボット風などにすることができ、そのスタイルの数は100種類以上。さらにパラメーターを調整することで、より細かくブラッシュアップすることが可能になっています。
右上の「STYLE」タブをクリックすると現れるスタイル設定の画面
で、そのパラメータを見てみると、ここに従来からのVOCALOIDのパラメータなども出てくるのですが、そこも少し変わっているし、相当進化しているっぽいのです。VOICE COLORというところを見るとEXCITER、GROWL、BREATHINESS、AIR、MOUTH、CHARACTERといったパラメータが並んでいます。たとえばEXCITERなんていうものは初めて登場したわけですが、これは声のハリを調整するためのもので最小のMUFFLEDから最大のBRIGHTに動かすだけで、まったく違う声に変化するほど。またBREATHINESSは以前からありましたが、従来これを上げていくとザラザラしたノイズっぽいものになる傾向だったのに対して、よりホンモノっぽくなっています。最大にすると完全な無声音になるということからも、その違いを理解いただけるのではないでしょうか?
一方、従来のGENDERはCHARACTERに変更になったようですね。COOLからCUTEまで変更可能になっており、これも大きく声質を変えること可能ですね。一方、左側にあるSINGING SKILLにはBallad、Clean、Idol、Light、Powerful、Soulful、Straightというものが用意されえとり、それぞれでSKILLとAMOUNTのパラメータを調整すると、声質ではなく、歌い方が大きく変わってくるんですね。これを変えると、ピアノロールのあるMUSICAL EDITORでの波形が大きく変わってくることからも分かると思います。
VOICE COLORのところに、VOCALOIDの各種パラメーターが、その右にはROBOT VOICE、BREATHの設定が
さらにケロケロボイスを3段階で作ってくれるROBOT VOICE、状況次第で勝手に息継ぎをしてくれるBREATHがあるほか、画面下にはオーディオエフェクトも並んでいます。VOCALOID4では、ここにプラグインを入れることが可能になっていましたが、VOCALOID5自体がプラグインとして機能する方になった今回は、独自のエフェクトを装備しており、外部のものを呼び出す形ではありません。まあ、もし外部エフェクトを使いたいならDAWのトラックに掛ければいいわけですからね。
計11種類の内蔵エフェクトを自由に使うことができる
その搭載されているエフェクトとしてはGAIN、DE-ESSER、COMPRESSOR、EQUALIZER、DISTORTION、CHORUS、PHASER、TREMOLO、AUTO PAN、DELAY、REVERBのそれぞれ。もちろん、ON/OFFの設定や順番は自由に変更できるわけですが、一つずつ解説していたらキリがないので、ここでは割愛しますね。
各ノートに対して調教するためのアタック&リリースエフェクトが搭載された
そして、VOCALOID5における極めつけとも言えるのが、調教(調整)のシステム化です。これまで有名ボカロPと言われる人たちが、それぞれ独自の手法で上手に歌わせてきた技であった調教技。たとえば「しゃくり上げる」、「ビブラートでゆらす」といったものが、より簡単にできるようになったのです。これが「アタック&リリースエフェクト」というもので、自力では調整が難しかったビブラートなどの歌唱表現技法もアイコンを選んで貼り付けるだけで簡単に反映できます。さらに「エモーションツール」という機能を使うことで、歌い方の抑揚やスピード、音素の長さなどを、波形を見ながら簡単なマウス操作だけで調整できるようになるのです。
エモーションツールにより、抑揚やスピード、音素の長さなどを、波形を見ながら調整できる
私も、まだちょっと使っただけで、細かなところまで理解できていないところもありそうですが、VOCALOID5は、このように大きく進化しているのです。以下にヤマハが作成したVOCALOID5の機能説明ビデオ(日本語字幕付き英語ビデオ)があるので、ご覧になるとより理解できるかと思います。
このVOCALOID5 STANDARDで4つ、VOCALOID5 PREMIUMで8つのボイスバンクを持っているし、従来の歌声ライブラリもそのまま活用できるので、これで当面は十分な気もしますが、気になるのはVOCALOID5対応のサードパーティー製ボイスバンクがいつ、どのように登場してくるのか、という点。これについても情報が入り次第、取り上げていこうと思っています。
※追記 2018.7.12 11:15
株式会社AHSから声優・井上喜久子さんの声を元にした、VOCALOID5用ボイスバンク『VOCALOID 桜乃そら(ボーカロイド ハルノソラ)』が7月26日に発売されることが発表されました。詳細は追ってレポートする予定です。
【関連情報】
ボーカロイド公式サイト
ボーカロイド公式ショップ