先日もお伝えした通り、まもなくSONARの新バージョンが発売されます。メンバーシップ制という、これまでとは少し異なる形での発売ではありますが、いわゆるサブスクリプションとは異なる方式であることもハッキリしました。そう、サブスクリプション制だと契約が終了すれば使えなくなってしまいますが、SONARのメンバーシップ制は、従来のパッケージ販売とまったく同じように使い続けることができますし、価格的にもこれまでのSONARと大きく変わりません。
そのSONARの新バージョンについて、2月19日に記者発表会が行われた際、来日していたCakewalkの社長、マイケル・フーバー(Micheal Hoover)さんにいろいろと話を伺うことができました(以下敬称略)。「なぜメンバーシップ制をとったのか?」といったことはもちろんのこと、「Roland傘下からGibson傘下に移って、実際のところどうなのか?」、「その昔のOpcodeのように潰れてしまう心配はないのか?」など、単刀直入に伺ってみたので、そのインタビュー内容を紹介していきましょう。
Cakwalk社長のマイケル・フーバーさんにインタビューしてみた
■Giboson傘下に入ったCakewalk
--Rolandの子会社であったCakewalkが、昨年突然Gibson傘下に移るという発表があったときには、正直驚きました。
フーバー:それは、我々にとっても同様です。それまでRolandとは、テクニカルパートナーとして、ビジネスパートナーとして、とてもいい関係性を築いてくることができました。でも企業も世の中も、常に変化するものですから、こうした関係性の変化は致し方のないことだと思います。その中で、今回CakewalkがGibsonの傘下に入ることになったのは、お互いハッピーだったと思うし、お互いがWin-Winだったと感じています。
インタビューさせてもらった、Cakewalkの社長、マイケル・フーバーさん
--実際、Cakewalk社内で変化というものはあるものですか?
フーバー:開発体制自体に大きな変化はないのですが、人事部がGibson本社内に置かれるなど、社内体制は少し変わってきています。これまでRolandとは、それぞれ別会社として運営してきました。ボストン(Cakewalk)とナッシュビル(Gibson)と地理的には少し離れてはいるものの、同じアメリカ国内の会社ということで、効率的な運用ができるようになってきました。NAMM SHOWに出る際の手配をGibson側が行ってくれて、Gibsonブース内にCakewalkが出展できるというあたりも、われわれにとってはすごく良くなったところですね(笑)。
--あまり聞いてはいけない話なのかもしれませんが……。CakewalkがGibson傘下に移った際に、国内では「Opcodeのような運命にならないだろうか?」、「VisionのようにSONARも消えてしまうのでは…」といった不安の声が多くありましたが、その辺はどうなのでしょうか?
フーバー:それは、私もこれまで一番多くもらった質問ですよ(笑)。まず、そうした心配はいりません。CakewalkがGibson傘下に入ったことは、倒産しかかっていたOpcodeを買収したのとは状況がまったく違いますし、今回は目的がハッキリしています。明確な戦略があるのです。ギターを軸に考えた場合、ギターというモノがあり、それを演奏するところまではGibson側の商品、サービスで賄えますが、それをレコーディングし、ミキシングし、マスタリングするといったプロセスを持っていなかったので、そのためにCakewalkが欲しかったのです。これからは、そこまでをトータルにビジネス展開ができるように、タッグを組んでいくわけです。
--Opcodeのように消えてなくなることはない、と。
フーバー:はい、絶対に大丈夫です。当時はリーダーが誰であるかもハッキリしていなかったようですが、今回は役割分担も明確です。それより何より、GibsonのCEOであるヘンリー・ジャスキビッツがSONARの古くからのユーザーなんですよ。ヘンリーから直接、私に「これは、どうやって使うんだ?」なんて電話がかかってくることがありますからね(笑)。
■サブスクリプションはアメリカでも受け入れられていない!
--さて、今回メンバーシップ制というものが導入されました。制度自体は先日の記事にも書いたとおりであり、内容もある程度理解できました。でも、なぜサブスクリプション制ではなく、メンバーシップ制だったのですか?
フーバー:Adobeがサブスクリプション制を導入したこともあり、SONARでも検討してみようと社内で議論する一方で昨年の夏ごろ、ユーザーにアンケート調査を行ったのです。アメリカ国内で行った調査ではあったのですが、5,000人程度からフィードバックがあり、総じてサブスクリプション制は不評でした。みんな怒っているんですよ。「SONARは絶対にサブスクリプション制にするな!」、「サブスクリプションにするなら他のソフトに行くぞ!」ってね。
--日本の報道を見ていると、「日本の商習慣には馴染みにくいけれど、アメリカでは、ごく一般的であり、広く受け入れられている」なんていう論調をよく見るのですが、違うんですか?
フーバー:そんなことは決してないですよ!私自身も、社長とは名乗らず、「Cakewalkのマーケティング担当のマイケルです。SONARについての意見を伺わせてください」ってユーザーに電話をして話を聞いたりもしたんですよ。そうすると、ほとんどの人が「一度お金を支払ったところで買い切りにしたい」「毎月お金を支払うのは嫌だ」っていう声ばかりでしたね。Adobeのようなレンタルモデルは、広くは受け入れられていませんよ。それは世界共通なのではないでしょうか?一方で、「新機能はどんどん増やしてほしい」という声は大きくあるし、社内体制としても、わざわざ1年後のバージョンアップを待って機能を搭載するのではなく、できたものはユーザーメリットのために、どんどん機能追加していきたいという思いはあったのです。こしたことを、上手に統合するには、どうしたらいいだろうか…と考えた結果、メンバーシップ制というものが生まれたわけです。
サブスクリプションではなくメンバーシップ制がとられることになった
--それぞれの、いいとこ取りというわけですね。今後、やっぱりサブスクリプション制にする…なんてい言い出す可能性はないのですか?
フーバー:もちろん、世の中が変化して、ユーザーがサブスクリプションがいい、と求めるようになれば検討しますが、現時点ではそういう考えはありません。
■SONARはMac対応しないのか?
--話題は変わりますが、SONARはずっとWindowsのDAWであり、Mac版はありません。音楽制作という分野においてはMacのシェアは大きく、DTMステーションの最近の調査でもMac比率が43%とかなり高くなってきています。Cakewalkとして、SONARのMac版を出す、もしくはSONARとはまったく別にMac用のDAWを出すという考えはないのでしょうか?
フーバー:まず、Cakewalkとしては、Macに対しても積極的に取り組んでいます。実際、ソフトウェア音源やエフェクトなどは、現在すべてWindows/Macハイブリッドで出しています。ただし、SONARをMacに移植できるかというと、やはり無理なのが実情です。SONARは、Windowsに最適化するように設計してきたという経緯があるので、Macへの移植は実質的に不可能なのです。あるとしたら、まったく別のDAWを開発するという手段ですが、そこにリソースを割くための優先順位をどうするかですね。やはり現行のSONARの機能強化などを優先させたいというのが、現時点での考え方です。
日本国内におけるDTMユーザーのWindows/Mac比率(DTMステーション調べ)
--とはいえ、その昔、CakewalkもMetroというMac用のシーケンサを買収して、取り組んだこともありましたよね。
フーバー:よくご存じですね。もう15年近く前になると思いますが、実はMetroを買収したときの最初のプロダクトマネージャーが私だったんですよ。ただ、エントリーユーザー向けのMetroのウケはあまり芳しいものではありませんでした。ユーザーからは、「もっとプロフェッショナル用途のハイエンドなソフトが欲しい」という声ばかりであり、われわれも「プロフェッショナル用途ならSONARをお使いください」と答えざるをえなかったのです。そうした経験からも、中途半端なソフトをMac用に作ろうという考えはなく、SONARに集中してリソースを投下していきたいという方向性なのです。
--なるほど、ご自身がMetroのプロダクトマネージャーだったんですね!ちなみに、Cakewalkに入られたのはいつごろだったんですか?
フーバー:私がCakeawlkに入社したのは、Cakewalk Pro Audio 6のころですから、17年前ですね。大学ではオーディオ・エンジニアリングを専攻していたものの、純粋なエンジニアとしてのキャリアではなく、プロダクトマネジャーやソフトウェアデザイナーとして働いてきたんですよ。こうして長年Cakewalkという会社を経験してきたからこそ、ユーザーのみなさんの要望も分かるし、みなさんを満足させられる製品づくりもできるわけです。
--では、最後に日本のユーザーのみなさんに向けて、メッセージをお願いします。
フーバー:Cakewalkは長年Rolandと友好的な関係を続けてきたし、音楽の面においても深く関わり合ってきました。そのことは、現在の我々にとっても大きなベースとなっています。今回、Gibson傘下ということで、体制は大きく変わりましたが、Cakewalkメンバー一同、エンジョイしているし、エキサイティングな気持ちでいます。また、Gibson傘下という意味では、TEACも同じであり、Cakewalkとは兄弟関係にあります。そのTEACが日本での流通元となってくれるだけでなく、今回搭載したDSD機能のように、SONARの機能強化を行う上で重要なパートナーとなっているのも、嬉しいところです。これからTEACとも手を携えて、日本のユーザーのみなさんに満足いただけるようなサービス展開を図っていきます。心配しなくて大丈夫です。ぜひ、これからもSONARをどんどん活用いただければと思います。
--ありがとうございました。
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