1月22日~25日のNAMM Show 2015を前に、各社が新製品の発表を始めていますが、CakewalkもSONARの新製品を同社のWeb上で発表しました。「次はSONAR X4か?」と待ち構えていたのですが、今回はX4の名称はなく、「SONAR Platinum」、「SONAR Professional」、「SONAR Artist」というシンプルな名称の3ラインナップとなっています。
その背景には、今回のバージョンから従来のようなパッケージで売り切りという形から、Adobeなどが採用しているのと同様のサブスクリプション制度、つまり定期購読のような従量課金制度に切り替えてアップグレードをしていくため、あえてバージョン番号を外したようなんですね。でも、これって日本でも同様の体制に移行するのでしょうか?また、ひとつ大きいネタとしてはDSD対応。これがどんなものなのか私の推測を交えつつ、SONARの新バージョンについてまとめてみたいと思います。
SONARの新製品、3ラインナップがアメリカのCakewalkから発表された
まず、Cakewalkサイトの情報から主な新機能をピックアップしてみると、以下の17種類となっています。
●DSD対応
DSDフォーマットデータのインポートとエクスポートを実現。DSDファイルのネイティブ再生にも対応
●VocalSync(Platinum)
メインボーカルとコーラスのように複数に分かれているボーカルパートのタイミングを整えることで、クッキリとした音に仕上げる。
●REmatrix Solo(Platinum、Professional)
ProChannelに組み込む形で搭載されるOverloudのMoReVoxというコンボリューション・リバーブ。ゼロレイテンシーを実現する。
●新しいコントロール・バー(Platinum、Professional、Artist)
各機能へワンクリックでアクセスすることができる操作性を実現。コントロール・バーは上、下、浮動と自由に動かせる。
●Mix Recall(Platinum、Professional、Artist)
エフェクト、フェーダーのオートメーションなどを含む複数のミックス結果ワンクリックで切り替えて、比較することができる。
●新しいFXチェーン
FXチェーンの機能、操作性を向上させ、より使いやすいものに進化。
●新AudioSnap(Platinum、Professional)
オーディオクォンタイズ機能であるAudioSnapのエンジン部分を一新。
●Addictive Drums 2(Platinum、Professional)
SONAR Platinumは「Addictive Drums 2 Producerバンドル」(実売価格23,000円前後)を、SONAR Professionalは「Addictive Drums 2 Soloバンドル」(実売価格12,000円前後)を標準で付属。
●16種類のアンプ・シミュレータ(Platinum、Professional、Artist)
カントリーからロック、ファンク、またベースアンプも含め、16種類のアンプ・シミュレータを装備。
●パターンツール(Platinum、Professional、Artist)
スマートツールパレットに新たにパターンツールを搭載。必要箇所を選択した後、ドラッグしていくだけで、選択したパターンを並べていくことができる。
●FXスタッキング
コンソールにおけるインサーションエフェクトの機能・ユーザビリティの改善。
●AUXセンド拡張
コンソールにおけるAUXセンドのルーティングに自由度を持たせ、より複雑なルーティングへの対応も可能に。
●ピアノロール・ヴューの拡張
ピアノロール・ビューの見栄え改善するとともに、垂直方向のズームの解像度向上。
●MIDI機能拡張
MIDIのタイムストレッチ、ベロシティのレイヤリングの実現など、より使いやすいエディタに改善。
●再利用・ピン機能
ミキシングセッション中に、ピンのプラグインを再利用することを可能に。
●Command Centerの搭載
Cakewalkソフトウェアをダウンロードしたり、インストール、アップデートを管理できるCommand Centerを搭載
●VSTの拡張
複数のVST3-MIDI入力バスに対応。これによりVienna Symphonic Libraryのようなものも扱えるようになる。
今回のSONARはPlatinum、Professional、Artistの3種類となった
パっと見た目のUIはSONAR X1以降、それほど大きく変わっていないし、とくにSONAR X3と比較すると、劇的な変化というのはなさそうです。そうした中で、個人的に気になるのは、やはりDSD対応という部分です。Cakewalkサイトの新機能としては小さくしか表記されておらず、詳しい情報は何もありませんでしたが、Cakewalkの掲示板を見てみると、CTOであるNoel Borthwickさんが解説していました。
これを見ると、やはりTASCAMが開発に絡んでいるようで、TASCAMからの技術供与があるみたいですね。PyramixやSONOMAなど、DSDを利用可能なDAWは以前から存在しているので、今回のSONARを「DSDに対応した初のDAW」と呼んでいいのかはよくわかりませんが、Noelさんの説明を見ると、DSDフォーマットのインポートとエクスポートに対応したとのこと。DSDIFF、DSF、WSDのいずれのフォーマットであるかの記述はありませんでしたが、まあ、基本はどれも同じですし、必要あればAudioGateなどを使えばコンバート可能ですからね。
TASCAMのDA-3000などと連携させることでDSDの扱いが可能になる
またサンプリングレートを変換せず、DSDファイルのネイティブ再生も可能とのこと。おそらくASIO 2.1対応でDSDに対応したUSB-DACなどがあれば、再生できるということなのだと思います。2.8MHz対応か、5.6MHz対応かということは記載されていませんが、「TASCAM DA-3000などの機材が必要」とありますから、おそらく2.8MHzも5.6MHzも大丈夫でしょうね。またDSD対応機材がなくても、PCMへリアルタイム変換して再生することも可能になっているようです。
一番気になるのは、DSDでのレコーディングができるのか、さらにはDSDデータに対してのエディットができるのか、という点。これについては将来的に検討するけれど、現状では非サポートとのこと。まあ、そもそもDSDでレコーディングできるオーディオインターフェイスが、現状一般には市販されてないですからレコーディングは無理としても、ぜひ多少なりとも編集ができるようになるといいですね。
ところで、新しいSONARの機能そのものよりも気になるのが、価格体系についてです。ソフトウェアの世界ではAdobeがサブスクリプション制度という新しい制度を導入して以来、いろいろな企業がこの方式を検討しているようで、先日ProToolsのAvidもサブスクリプション制度を導入して話題になっています。各社によって、その内容はいろいろ違うので、細かいことについては、分かりにくいケースも多いのですが、簡単に言ってしまえば、「買い切りではなく、年額や月額の形で使用料金を払って使う」という方式ですね。
価格体系が従来の買い切り型ではなく、年額チャージまたは月額チャージという重量課金制度になった
CakewalkのSONAR新バージョンのトップページを見ると「Platinumは年額$499か月額$49,99、Professionalは年額$199か月額19,99、Artistは年額$99か月額$9,99」とあるので、$1=120円で計算すると、Platinumの年額が6万円。結構なお値段ですよね。ただし、調べてみると、アップグレードの場合や、2年目以降の場合など、設定メニューが細かく分かれています。具体的には以下のとおりですね。
SONAR Platinum | SONAR Professional | SONAR Artist | |
新規ユーザー | 年額$499 / 月額$49.99 |
年額$199 / 月額$19.99 |
年額$99 / 月額$9.99 |
2年目以降の会員 | 年額$199 / 月額$19.99 |
年額$99 / 月額$9.99 |
年額$49 / 月額$4.99 |
X3 Producerユーザー | 年額$149 / 月額$14.99 (早期価格) |
年額$99 / 月額$9.99 |
年額$49 / 月額$4.99 |
X2 Producer以前のユーザー | 年額$199 / 月額$19.99 |
年額$99 / 月額$9.99 |
年額$49 / 月額$4.99 |
SONAR Studioユーザー (全バージョン対象) |
年額$299 / 月額$29.99 |
年額$99 / 月額$9.99 |
年額$49 / 月額$4.99 |
その他のSONARユーザー | 年額$399 / 月額$39.99 |
年額$149 / 月額$14.99 |
年額$49 / 月額$4.99 |
毎年6万円も払っているとキツイですが、2年目以降24,000円というなら一概に悪くはなさそうに思います。
とはいえ、そもそもこの制度が日本でも導入されるのか?というのが最大のポイントです。そこでさっそくTASCAMの担当者に連絡をとって聞いてみたところ、返ってきたのは笑いながら「ノーコメント」という答えでした。顔色から見て、明らかに決まっているようですが、NAMM前ということもあって、まだ発表できないんでしょうね。
ただし、以前、この担当者と話をしていた際、伺っていたのは、「SONARの販売・サポート方法は、従来のRoland時代から変わり、基本的には本国と同じ方針できくことにしています」ということ。この話から推測すれば、当然、日本もこのサブスクリプション制度が近いうちに導入されるということなんでしょう。
その際、$1=120円で計算するのか、$1=110円なのかといったことは分かりませんが、現行のSONAR X3の価格体系から考えても、実効レートから大きくかけ離れた価格になる可能性は低いと思います。
買い切りのパッケージ販売がいいか、サブスクリプション制度がいいかは、人によって好き嫌いも分かれるところだと思うし、実際に試してみないことには分からない……というのも事実だと思いますが、1点気になるのは「もう、OSもマシンも現状のままでいいし、アップデートもサポートもいらないから、いま動いているSONARを使い続けたい」といった場合でも払い続ける必要があるのか、という点です。
この点については、SONARのメンバーシップ制度についてのFAQを読むと、1年分支払うと、ライセンスが得られるので、使い続けることは可能となっているようです。また「とりあえずArtistを使ってみたけれど、途中からPlatinumへのアップグレードしたくなった」といった場合にも支払った金額・月数に合わせた対応も可能になっているようですよ。こうしたサービスは当然ネット接続した上で認証をかけて……という仕組みになっているのだと思いますが、入手方法の選択肢はいろいろ出てきそうですね。
前述のとおり、細かな価格はハッキリしませんが、国内でも近いうちに同様のサービスがスタートすることが予想されます。まずはTASCAMからの正式発表を待つことにしましょう。
【関連情報】
SONAR新バージョン情報(Cakewalkサイト:英語)
SONAR X3シリーズ製品情報(TASCAM)
Cakewalkサイト