音楽クリエイターにとって、著作権管理は避けて通れない重要なテーマです。特にYouTubeやサブスク配信など、デジタルプラットフォームを活用する現代の音楽制作において、収益を最大化するためには適切な管理が必要になります。でも、著作権管理というと、とても難しそうなイメージがあるため、 しっかり対応しなくては……と思いつつも、つい後回しにしている、というクリエイターの方も多いのではないでしょうか?
そうした中、先日DTMステーションの姉妹番組であるDTMステーションPlus!に、JASRACの新理事に2024年6月に就任した作曲家の関美奈子さんとボカロPのねじ式さんのお二人を迎え、「JASRACに入ればYouTube動画再生収益が増えるってホント?」というタイトルで、著作権にまつわる特集を行いました。実際にご自身の体験なども踏まえつつ、クリエイターはどのように対応していくべきなのか、その中でJASRACはどのような位置づけにあるのか、また、JASRACの制度がどのように進化し、クリエイターにとってどんな利点があるのかなど、番組内で取り上げていったので、その概要を紹介してみましょう。
JASRACに入るとYouTube収益はどう変わるのか?
ご覧になった方も多いと思いますが昨年「DTMerもJASRACに入れば、YouTube動画再生収益が増えるってホント?JASRACに行って聞いてみた」という記事を掲載したところ、かなりの反響がありました。
このときはJASRACのネットメディア部ネットメディア課にインタビューを行ったのですが、今回は新任理事のお二人にも同じテーマで少し角度を変えながらお話を伺っていきました。
まずはJASRACと契約することで、YouTubeの広告収益とは別に著作権使用料が受け取れる仕組みについての説明がありました。Google(YouTube)はJASRACと包括契約を結んでおり、Googleから支払われた著作権使用料を動画の再生回数に応じて権利者に分配する、という仕組みです。
「YouTubeから広告収益を得ているクリエイターは多いですが、そこに著作権使用料は含まれていません。JASRACに信託することで、著作権使用料を受け取れるようになります。」(ねじ式さん)
また、YouTube上で「歌ってみた」「弾いてみた」「踊ってみた」などで利用されても、JASRACと契約していれば適切に著作権使用料が分配されるという点も大きなポイントです。これは、YouTubeだけに限らず、TikTokやInstagramなどのショート動画プラットフォームにも適用され、クリエイターの楽曲がどのような形で利用されても適正な収益を得ることが可能となるのです。
さらに、JASRACと契約すると、YouTubeに限らず、他の配信プラットフォームをはじめ様々な場面での音楽利用で著作権使用料を受け取れる可能性が広がります。たとえば、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービス、さらにはカラオケやライブイベントでの利用も対象となるため、クリエイターの収益源が多様化することになります。カラオケでは、自分の楽曲がどれだけ歌われたかに応じて収益が発生し、ライブやコンサートで演奏される場合にも著作権使用料が発生するため、長期的に安定した収益モデルを築くことができる、というわけです。
非常にハードルが下がったJASRACの契約条件と手続き
とはいえ、JASRACと契約する って、かなり条件が厳しい もの、という印象もあり、なんとなく敬遠してしまっているクリエイターも少なくないと思います。確かにかつてはJASRACと契約するためのハードルが高かったものの、現在はより多くのクリエイターが参加しやすくなっています。
「昔はCD販売の実績などが必要でしたが、今はYouTubeやニコニコ動画で再生回数1000回を超えるだけで契約資格が得られます。これはボカロPなどのネット音楽クリエイターにとって非常にって非常に朗報です。また、Apple MusicやSpotifyなどのサブスク配信、さらには通信カラオケにおける利用 などでもJASRACとの契約が可能です」(関美奈子さん)
契約手続きもオンラインで簡単に行えるようになり、独立系のアーティストやフリーランスの作曲家がよりスムーズに参加できるようになりました。また以前はJASRACと契約するために費用が必要でしたが、現在はそれも無料となっているので、その点でも心配はまったくいりません。
ゲーム音楽制作とJASRACの関係
ゲーム音楽に関しても、JASRACの仕組みは柔軟に対応できるようになっています。従来は、ゲーム会社との「買取契約」によって著作権を会社に譲渡する必要があり、JASRACと契約すると仕事がしにくいという問題がありました。しかし、現在では「ゲーム委嘱」という特例があり、ゲーム会社がゲーム内やゲームの販促において自由に利用できる権利を確保しつつ、クリエイターはゲーム以外の用途で楽曲が利用されたときに収益を得ることが可能になりました。
「これによって、ゲーム音楽クリエイターも安心してJASRACと契約し、収益を得る幅を広げることができます」(関美奈子さん)
ゲーム音楽の市場は世界規模で拡大しており、特に海外のコンサートや配信サービスでの利用が増えています。JASRACは海外の著作権管理団体と連携し、国際的な収益を確保できる仕組みも整っているため、 国内市場にとどまらず、海外展開を考えるクリエイターにとって大きなメリットとなります。
フリーランスクリエイターのための新制度
ところで2024年11月に施行された「フリーランス保護法」により、フリーランスのクリエイターが安心して働ける環境が整備されましたが、JASRACは以前から契約内容の明確化、報酬支払いの透明性向上、ハラスメント防止対策などを進めています。
「これまでは契約書なしで仕事を受けることが当たり前のようになっていましたが、これからはしっかりと書面を交わすことでトラブルを防ぐことができます」(関美奈子さん)
「びっくりするくらい当たり前のことを守らないところもありますからね。書面でのやりとりなしになんとなく『楽曲書いてよ』と言ってこられたり、楽曲制作が終わって納品してもまったく支払いがなく、催促したらやっと『あぁ、ごめん、ごめん』と払ってくるなど、いい加減なところが少なくありません」(ねじ式さん)
今回の番組では、このようにJASRACがネットクリエイターのニーズに合わせた柔軟な対応を進めていることが紹介されるとともに、YouTubeやゲーム音楽など、従来の音楽ビジネスとは異なる分野でも、適切な著作権管理によってクリエイターの収益向上に繋がる情報もたくさん紹介されました。
「JASRACに入ることで音楽活動の可能性が広がることを、多くのクリエイターに知ってほしいですね」(ねじ式さん)
このようにクリエイターにとって、いろいろな意味で味方になってくれるという点も見えてきました。また、この記事では割愛しますが、駆け出しクリエイターに向けて、作家事務所との付き合い方についての話題もあがりました。詳細はDTMステーションPlus!の番組のアーカイブで見ることもできるので、お時間ある際に、ぜひじっくりとご覧になってみてはいかがでしょうか?
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JASRACサイト
DTMステーションPlus!第245回
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