1月23日、アメリカ・アナハイムで行われている世界最大の楽器の展示会、The NAMM ShowのMIDI Association(MIDI協会)のステージにおいて、「MIDI Lifetime Achievement Award(MIDI 生涯功労賞)」の表彰式が行われ、日本人3人を含む、計7人が表彰されるとともに、トロフィーが授与されました。
受賞したのはローランドの元社長でTR-808やTB-303の開発者である菊本忠男さん、ヤマハで元技術者でDX7の開発を行った西元哲夫さん、そしてコルグさらにはヤマハのそれぞれの技術者としてさまざまな製品開発に携わった故・平野勝彦さんのほか、Sequential Circuitsの元プロダクトマネジャーのJohn Bowenさん、MIDI Associationの技術標準委員会・初代委員長のChris Meyerさん、アメリカの映画音楽作曲家のJeff Ronaさん、そしてIMA(国際MIDI協会)を立ち上げたBrian Vincikさんのそれぞれ。どんな受賞内容なのか紹介してみましょう。
MIDIの規格を作る非営利業界団体、MIDI Association
今回「MIDI Lifetime Achievement Award(MIDI生涯功労賞)」なるものの表彰を行ったのはアメリカに本部がある世界的な非営利業界団体であるMIDI Associationです。MIDI Associationは、楽器メーカーを中心としたMIDI製品や新しいMIDI仕様を開発する企業と、ミュージシャンを中心としたMIDIを使用して音楽やアートを創作する世界中の人々を結びつけることを目的とした団体です。
「MIDIって何だ?」と疑問に思う方は「今さら聞けない、『MIDIって何?』『MIDIって古いの?』」といった記事を参考にしていただきたいのですが、電子楽器同士を接続してデータのやりとりをする世界規格のことで、誕生から40年以上たった現在も、音楽制作になくてはならないものとしてフルで使われている規格でもあります。
そのMIDI規格を制定したり、運用におけるさまざまな取り決め、活用を進めているのがMidi Associationなのです。実は日本には一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)という業界団体がありますが、まさにMIDI AssociationとAMEIは常に連携しながら物事を進めているのです。
MIDI AssociationがMIDI生涯功労賞を発表
そのMIDI Associationが1月23日にアメリカ・アナハイム・コンベンションセンターで行われているNAMM ShowのMIDI Associationブースにおいて、「MIDI Lifetime Achievement Award(MIDI生涯功労賞)」の表彰式を行ったのです。
これまでもさまざまな表彰を行ってきたMIDI Associationですが、今回のMIDI生涯功労賞は1983年から1990年にかけてMIDIに貢献した人たちということで、7名に対する表彰を行っているのです。
そのうち3人が日本の開発者ということで、非常に喜ばしいことですが、偶然のことながら、そのうち2人については、今月DTMステーションの記事で取り上げていたのです。そう、今年最初の記事でもあった「TR-808やTB-303などの開発者で元Roland社長の菊本忠男さんが開発した新兵器X Modal Musicは世界に革命を起こすか!?」で取り上げていた菊本忠男さん、そして1月17日に「ジョン・チョウニング博士とヤマハOBが振り返る、40年前のDX7誕生までの道程」という記事で取り上げていた西元哲夫さんのそれぞれ。
今回の表彰でお二人のお名前を見て、とても嬉しくなるとともに、改めて偉大な人たちなんだなと認識した次第でもありました。
表彰された7人のMIDIレジェンドの方々
その表彰された7人のみなさんのプロフィール、会場においては以下のように紹介されていました。
ジョン・ボーエン(John Bowen)氏
ジョン・ボーエンは、1970 年代後半のシンセサイザー ブームの初期のころ、Sequential Circuits の製品スペシャリスト兼サウンド デザイナーでした。ジョンは Sequential の創設者である Dave Smith と働き、その後ヤマハの Dave Smith 部門と Korg R&D サンノゼでカール・ヒラノと Dave と働きました。ブライアン・ヴィンシックとジョンは、1985 年に MIDI 協会が設立される前の MIDI の初期の混乱期に、世界中に MIDI 仕様を普及させる役割を担っていました。
平野 勝彦 (Katsuhiko “Karl” Hirano)氏
平野氏はヤマハとコルグ両社で勤務。ヤマハではDX7 (MIDIを実装した最初の製品の1つ) に携わり、MIDIの黎明期には日本のMIDI組織とMIDI協会間のコミュニケーションを統括。米サンノゼでヤマハのデイブ・スミス部門で勤務し、コルグR&Dが設立された際にデイブ・スミス(Dave Smith)氏とともにコルグに移籍。平野氏は2019年に逝去。
菊本忠男 (Kikumoto Tadao)氏
菊本氏は、ローランドの元社長であり、同社の研究開発センターの責任者を務めてきました。菊本氏は、ベース シンセサイザーのTB-303とドラム マシンのTR-909を設計しました。また、ドラム マシンTR-808の主任エンジニアでもありました。彼は、テンポ、再生、停止メッセージの追加を含む初期のMIDI 1.0仕様に提案を行いました。
クリス・メイヤー(Chris Meyer)氏
クリスは、MIDI Association の技術標準委員会の初代委員長であり、Sequential Circuits、Digidesign、Marion Systems (Tom Oberheim)、および Roland R&D US で勤務しました。初代TSB委員長としての彼の仕事は、MIDI Time CodeやSample Dump Standardなど、MIDIの多くの重要な開発につながりました。現在、彼はWebサイト、Facebookページ、YouTubeチャンネル「LEARNING MODULAR」を運営しており、そこでモジュラー合成をマスターする方法を多くの人に伝えています。
西元 哲夫 (Nishimoto, Tetsuo) 氏
西元氏は、日本楽器製造株式会社 (現ヤマハ株式会社)のLMデザイン部門に勤務していました。彼は、後にMIDIとなる Dave Smithのユニバーサル シンセサイザー インターフェイス提案に対する最初のドラフトをまとめました。また、伝説のFM音源搭載機であるGS1、DX7の開発にも携わり、ヤマハを家庭用オルガンメーカーからシンセサイザーメーカーへと導いた人物です。
ジェフ・ロナ(Jeff Rona)氏
ジェフは、アメリカの映画音楽作曲家です。彼はハンス・ジマーのメディアベンチャーのメンバーでした。彼の作品には、シャークウォーター、トラフィック、ゴッド・オブ・ウォー III、ファントム、ヴィーラムなどがあります。ジェフ・ロナは、MMA (MIDI 製造業者協会、DBA The MIDI Association) の創設者であり、元会長です。ジェフは、MIDI イノベーション アワードの審査員も数年務めています。
ブライアン ヴィンシック(Brian Vincik)氏
ブライアンは 1983 年に、MIDI 開発の初期段階で MIDI 仕様 1.0 (日本以外) の唯一のソースであった国際 MIDI 協会 (IMA) と呼ばれる最初の MIDI ユーザー グループを結成しました。ブライアンはヒューレット パッカードのエンジニアで、MIDI がコンピュータ業界に与える可能性をすぐに見抜きました。IMA は、MIDI の形成期の数年間、MIDI 仕様の配布を担当しました。
表彰式会場ではアメリカ在住の4名が座談会を開催
その表彰式、残念ながら菊本さんや西元さんは参加されていませんでしたが、ほかの受賞者4人が登壇するとともに、MIDI Associationの理事であるアサン・ビリアス(Athan Billias)さん司会の元、MIDI規格制定時のエピソードなどを振り返る座談会が開催されました。
ちなみにアサンさんご自身もKORG USAそして日本のコルグで開発者として6年間働いたのち、ヤマハ・アメリカでプロオーディオのマーケティングを行ってきたという経験を持つ人物。そのアサンさんによると、昨年来日して、菊本さんに今回の表彰に関する話をした際、同じ賞をヤマハの西元さん授与するよう強く主張していたのだとか。
その辺の経緯についてはMidi Associationサイトのアサンさんによるブログ記事「Tetsuo Nishimoto (西元 哲夫) – Rivals & Friends, Connected By MIDI」というタイトルで紹介されているので、ぜひそちらもご覧になってみてください。
菊本さん、西元さんのトロフィーはヤマハ、ローランド担当者が代理授与
その座談会の後、アサンさんから登壇者の4人へ、トロフィの授与が行われました。
そうした中、今回は残念ながら欠席となった菊本さんへのトロフィーはローランド株式会社のSVP of Researc&Innovationのポール・マッケイブ(Paul MacCABE)さんが受け取りました。
一方の西元さんへのトロフィーは、ヤマハ株式会社の電子楽器開発部音源プラットフォームグループのリーダーであり、AMEIのMIDI規格委員の委員長でもある三浦大輔さんが、受け取り、その後、みんなでの記念撮影などが行われました。
※2025.1.26 【お詫びと修正】
初出時、写真およびキャプションにミスがありました。訂正してお詫びいたします。
できれば、いつか菊本さん、西元さんの対談企画などできたらな、とも思っているところです。改めて受賞者のみなさん、おめでとうございます。
【関連情報】
MIDI LIFETIME ACHIEVEMENT AWORD情報(Midi Association)
菊本忠男さん受賞に関するローランド・プレスリリース
元ヤマハ株式会社従業員 『MIDI生涯功労賞』受賞のお知らせ – ニュースリリース – ヤマハ株式会社