2019年にクラウドファンディングという形で登場し、とっても小さくてカワイイけれど極悪ベースサウンドが鳴ると国内外で大きな話題となったパリピデストロイヤー(ParipiDestroyer)。そのパリピデストロイヤーを開発した日本のメーカー、SYNTHERNET(当初DigiLogTokyoのサブブランドCrazy Synth Kidsとして出していましたが、現在はSYNTHERNETに移行)が新たな製品を3つリリースしています。
ひとつはおそらく世界最小のUSB Type-C対応のオーディオインターフェイスであるAIF22(税込価格14,000円)、2つ目は超小型のパッシブミキサー/スプリッターであるMIXSPLIT(同3,000円)、そして3つ目も超小型なグランドループ・アイソレーターであるGL-ISO(同3,000円)のそれぞれ。SYNTHERNETは開発者である森口祥多が運営する個人メーカーであるため、小ロットの生産となっていますが、独自性の強いユニークなメーカーとして着実に製品点数を増やしてきています。その新製品3つをチェックしてみるとともに、森口さんにも話を伺ったので紹介していきましょう。
世界を驚かせた超小型の極悪ベースサウンドマシン、パリピデストロイヤー
シンセ好きのみなさんだと、記憶にある方も多いと思いますが、2019年1月、パリピデストロイヤーという名前のシーケンサ内蔵の超小型ベースシンセが登場し、大きな話題になりました。そのパリピデストロイヤーの演奏動画がこちら。
見ても分かる通り、非常に小さなガジェットシンセではありますが、かなり図太い音が出るベースシンセなんです。左右に光るノブを回すとフィルターが効いたり、ディケイを変えられるなど、これでいて立派なシンセ機能を装備しつつ、シーケンサも搭載されているので、みんな驚いたわけです。
実際、そのパリピデストロイヤーが手元にありますが、写真で見ても、凄く小さい機材であることがよく分かると思います。
そのツイートの翌月2月にはクラウドファンディングが開始され、国内外トータル321台の資金が集まるなど、個人のメーカーとしてはまさに大成功を収めたのです。ただ、その後、コロナ禍に入ってしまい、部品不足などに陥ってしまったこともあり、ユーザーへの納品は少し遅れたようではありますが、購入したという人は一応に喜んでいるようではありました。
そのパリピデストロイヤーのクラウドファンディングをした時点ではDigiLogTokyoというメーカー名で展開していたのですが(パリピデストロイヤーは、DigiLogTokyoのサブブランドとしてCrazy Synth Kidsというブランドになっていた)、その後現在のSYNTHERNETというブランドに変更されています。その経緯などについては、この後の森口さんのインタビューをご覧いただきたいのですが、今回のSYNTHERNETから新たな製品が3種類誕生したのです。
USBーC接続の世界最小オーディオインターフェイス、AIF22
その一つがおそらく世界最小のオーディオインターフェイスであるAIF22です。これは39mm(W)x 54mm(L) x11mm(H)で25gという驚異的な小ささであり、USB Type-C接続、USBバスパワーで動作するオーディオインターフェイスとなっています。
今時、「マッチ箱サイズ」なんて表現はあまりしないかもしれませんが、パリピデストロイヤーがマッチ箱サイズなのに対し、AIF22はその半分のサイズなんです。手のひらに乗せてみるとこんな感じなんです。
仕様としてはステレオミニ3.5mmのライン入力とライン出力兼ヘッドホン出力が1つずつある2in/2out。16bitの分解能でありサンプリングレートは32kHz/44.1kHz/48kHzのそれぞれに対応する形で動作するというものになっています。
USB接続されるとLEDランプが点灯。出力に関してVOL +/-のボタンで音量調整ができ、MUTEボタンを押すとミュートし、再度押すとミュート解除となる形です。一方、ラインインに関してはサイドにあるTRIMを回すことで調整可能となっています。
また真ん中にはDIRECTと書かれたスイッチがありますが、これをONにすることでライン入力されたものが、そのままライン出力兼ヘッドホン出力にダイレクトモニタリングされる仕様になっています。ちなみに入力はラインのみであり、マイク入力やギター入力には非対応。シンセなどの機材のために開発したものとのことで、その辺は割り切った仕様になっているのです。
オーディオインターフェイス機能という面では、それだけのいたってシンプルなものですが、とにかく小さく持ち運びしやすいオーディオインターフェイスが欲しいという人にとっては最高の機材だと思います。
ここまで小さいと失くしてしまわないか心配になるほどですが、iPhoneやAndroidなどのスマホとともに持ち歩くことで、いつでもどこでもレコーディングしたりDTMに使ったりできるという機材なのです。
もちろんUSB 2.0接続のUSBクラスコンプライアントのデバイスですから、iPhone/iPad、Androidに限らずWindowsでもMacでも利用可能。一つ持っておいて絶対に損のない機材ではありそうです。
超小型のミキサー/スプリッターのMIXSPLIT
そのAIF22とともにリリースされたのは、AIF22よりも、さらにちょっぴり小さいMIXSPLITなる機材です。
これミキサーでありスプリッターでもあるというものなのですが、「こんなものが欲しかった!」という人が多そうなすごく重宝しそうな機材なのです。
これを一言で表現すると「パッシブの4chミキサーでかつ4chのスプリッターであり、さらにステレオを2chのモノに変換するYスプリッターとしても使える機材」です。
片側に4つの3.5mmの端子が並んでいて、反対側にも同じく4つの3.5mmの端子が並んでいます。またそれぞれの4つの端子は貫通しているから覗いてみると、向こう側が見えるという、ちょっと不思議なデザインになっているんです。
もう少し詳しく紹介すると、パッシブ、つまり電源不要で動作する機材でありSTEREO1~STEREO4の4つのステレオ入力からの信号をミックスし、MIX OUTから出力可能となっています。また、このミックス結果はMIX OUTから出力するだけでなく、RING/RとTIP/LからRとLそれぞれのモノラル信号として出力可能になっているのです。
「ミキサーのボリューム設定はどうするんだ?」という声が聞こえてきそうですが、これは超小型のパッシブ機材。もちろん、フェーダーのようなものはなく、単純に足し合わせるだけ。バランス調整するのであれば、「出力する機材側で行ってね」という仕様となっているのです。
そして、これは電源を使わないパッシブ機材であるため、入力と出力をひっくり返すことができるというのもユニークな点です。そうMIX OUTのところにはSPLIT INとも表記されていますが、ここにステレオ信号を入力すると、先ほどのSTEREO1~STEREO4にスプリット=分割して同じ音を出力することできるのです。4つヘッドホンを接続したりすると、インピーダンスの関係で音量が極端に小さくなってしまいそうですが、ラインインへの接続であれば、そうした問題も起こらないはずです。
そしてこのMIXSPLITにはもう一つ、触れていなかったY-SPLITという端子があります。こちらはステレオをLとRのモノラルにスプリットするための入力端子。「あれ?さっき、その話出ていたのでは?」と思う方も多いと思います。そう、先ほど4つのステレオ入力に入れた信号がミックスされてLとRにスプリットされるということを解説しましたが、実はY-SPLITにプラグを差し込むと、その4つの入力とは回路が切り離され、これとは独立した形で、Y-SPLITに入力した信号がRING/RとTIP/Lから出力される形になるのです。
アイディア次第でいろいろと使えるMIXSPLIT。これも一つ持っておいて損はなさそうですね。
複数のUSB機材接続時に起こるハムノイズを阻止する超小型デバイス、GL-ISO
そしてもう一つ登場したのがGL-ISOです。これはいわゆるグランドループアイソレーターと呼ばれるもので、やはりMISPLIT同様、電源不要のパッシブで動作する小さな機材です。MIXSPLITと比較すると、さらに一回り小さなデバイスで、3.5mmの端子が両端に1つずつあります。
たとえば、USBオーディオインターフェイスをPCと接続し、それとは別にMIDI用にシンセサイザをUSB接続するというケースはよくあると思います。このとき、そのシンセサイザの出力をオーディオインターフェイスと接続すると、ブーンというハムノイズが入り込んでしまうというケースに遭遇したことはありませんか?これがグランドループと呼ばれる現象。詳細の解説はここでは省きますが、複数の機器が異なるグラウンド(接地=アース)経路を共有する際、電位差があると、ハムノイズが起こってしまうのです。このループを断ち切って、ノイズが起こらないようにするのがグランドループアイソレーターです。
グランドループアイソレーター自体はそう珍しいものではありませんが、ここまで小さいものは見たことがありません。やはりiPhoneやAndroidなどのスマホに複数の機材を接続しても同様のグランドループが発生することがあるので、それを阻止する目的で便利な機材です。もちろん、スマホに限らず、さまざまなシチュエーションで利用することが可能。とにかく小さいので、いざというときのために、持っておくとよさそうですね。
以上、SYNTHERNETの新製品3つを紹介してみました。以下の森口さんのインタビューにもある通り、今後もさまざまな製品を出していくとのことなので、ぜひSYNTHERNETの動向をチェックしていきたいと思っています。
開発者のSYNTHERNET森口祥多さん、インタビュー
--今回出した3つの新製品、SYNTHERNETというブランドからのリリースとなっていますが、このSYNTHERNETについて簡単に紹介してください。
森口:以前はDigiLogTokyoというブランドで展開していました。これは大学時代の友人と二人で製品開発などを行っていたものですが、友人が楽器メーカーに就職したこともあり、数年前からは私一人で運営している個人メーカーとなっています。そのためDigiLogTokyo自体が消滅したわけではないのですが、一応そことは切り分けるという意味で2024年から新ブランドとして展開しています。
--大ヒットとなったパリピデストロイヤーもSYNTHERNETになってますよね?
森口:パリピデストロイヤーも私ひとりで開発していたのですが、当初はDigiLogTokyoの製品のサブブランドCrazy Synth Kidsの製品としてリリースしました。ただ、その形を見直して現在はSYNTHERNETの製品と位置づけを変えました。個人メーカーであるため資金力やパワーの面で、大量生産ということは難しく、前回在庫がなくなってからは販売を中止している状況です。ただこのタイミングで久しぶりに復活させて再販売を開始したところです。
--パリピデストロイヤーのクラウドファンディング終了後、製品の到着が予定より遅れるという問題があったように記憶してますが、その辺少し状況説明をお願いできますか?
森口:その点では、多くの方にご迷惑をおかけしてしまい、改めてお詫びいたします。2019年2月にクラウドファンディングを行い、その2~3か月後に製品を届ける予定でした。ただ、クラウドファンディングスタート時、プロトタイプはできていたのですが、その後、せっかくなので乾電池で動作させるようにしよう、スピーカーも内蔵してしまおうと、仕様変更を行ったのです。それが想定していたよりも時間がかかってしまったのです。そうこうしているうちにコロナ禍に入り、部品不足が起きてしまい、それによる仕様変更も行ったのです。その結果、当初の予定より遅れてしまいました。結局2020年12月に届けることができました。
--今回3つの製品を発表したわけですが、開発者である森口さんから、少し製品に関する情報を補足してもらえますか?
森口:まずAIF22はシンセなどとの接続に特化した小さなオーディオインターフェイスで、スマホでの持ち歩きを想定して開発しました。自分で動画撮影する際にラインで録音する機材が欲しくて作ったのです。実は2025年にリリースしたというわけではなく、すでに約1年前にパリピデストロイヤーの一般販売と合わせて出してはいたのです。ただ、生産体制などの問題から在庫切れが続いていましたが、ようやく発売を再開できた形です。
--AIF22、スペック的にはいかがですか?
森口:最高で16bit/48kHzという仕様であるため、最高音質、ハイレゾ、というタイプのものではありません。TIのPCM2900Cというチップを使っているので、そういう仕様なのですが、とりあえずアナログでキレイな音で録りたいというニーズにはピッタリだと思っています。
--MIXSPLITについても教えてください。
森口:これも自分で欲しかったのが理由で作ったのですが、コンパクトなミキサーであり、スプリッターです。パッシブであり、単に抵抗で分けているだけあので、バランスを取るなど複雑なことはできません。でもドラムマシンとベースマシンとリードシンセをミックスしてAIF22に入れたい……といったときには便利に使えると思います。また、3.5mmのステレオをLとRに分岐するということも時々必要になるので、そんな機能も一緒に搭載しています。
--グランドループアイソレーターのGL-ISOも便利ですよね。
森口:これもとにかく小さいものがあると便利だなと思って開発しました。もっともグランドループアイソレーター自体は、安いものもいろいろあるので、3,000円というのは決して安くはないのかもしれません。グランドループアイソレーターをパッシブで実現するにはトランスが必要となりますが、とにかく小さいものを…と設計しようとした際、オーディオ用のトランスだとどうしてそれなりの大きさになってしまうのです。そこで、オーディオ用ではないけれど、小さくて、そこそこの音質が実現できるものを……といろいろ探した結果、良さそうなものを見つけたので、作り上げました。そのため、音質という面では、必ずしもいいものではないかもしれませんが、そこそこの音でグランドループを断ち切るという役目は果たせると思います。いろいろな場面で活用できると思うので、ぜひ利用してみてください。
--SYNTHERNETとして今後どのような展開を考えていますか?
森口:いろいろなものを考えていますが、パリピデストロイヤーの新バージョン的なものを開発しているところです。まだ名前などは決まっていませんが、パリピデストロイヤーよりもさらに小さく、ツマミなどはない形になります。もうまもなく正式に発表できると思うので、楽しみにしていてください。
--ありがとうございました。
電子楽器の展示即売会 “Synth Maker Popup #1″を2/22 (土) 池上C4Rにて開催!
そのSYNTHERNETの森口さんが主催する形で電子楽器の展示即売会「Synth Maker Popup」の第1回目が都内で開催されます。ここでもパリピデストロイヤーやAIF22をはじめとする機材が展示され、実物を見た上で購入できるとのことです。またSYNTHERNET以外にも複数の小さなシンセメーカーが出展するので、お時間ある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?入場無料で、チケットなども不要とのことです。
日時:2025年2月22日(土) 14:00~18:00
会場:東京都大田区池上5-6-20 Channel For Rent
地図:Google Map
関連情報:note記事
【関連情報】
SYNTHERNETサイト
コメント