ロングセラーの大ヒット定番マイク、オーディオテクニカAT2020/AT2040開発物語

とても手ごろな価格ながら非常に高品位なマイクとして定番になっているオーディオテクニカのコンデンサーマイクAT2020やダイナミックマイクAT2040。AT2020は2006年リリースなので、今年で18年を迎え、AT2020シリーズの全世界の累計販売数も200万本を超える実績を持っているとのこと。AT2040も3年目となる製品です。いずれも東京・町田にあるオーディオテクニカ本社で開発され、今も世界中で販売されている大ヒット製品。従来スタジオの定番のマイクってアメリカメーカーやドイツメーカーの高級品が多かった中、なぜ日本メーカーがここまで安く、高性能なマイクを作ることができ、今も売れ続けているのでしょうか?

そこにはオーディオテクニカだからこそできた設計思想、開発理念があり、試行錯誤を何度も繰り返しながら作り出された、というバックグラウンドもあるのです。AT2020やAT2040はどのような背景で企画され、どのようにして開発されたのか、そしてどうやって世界中に受け入れられていったのかなど、オーディオテクニカ本社で話を聞いてみました。一方で定番ヘッドホンとしてやはり幅広い層で使われている、オーディオテクニカのATH-M50xも今年で10周年。そんなロングセラー製品、AT2020、AT2040,ATH-M50xを対象としたセール「クリエイター応援キャンペーン」が年明け1月15日まで開催されています。このセールについても併せて紹介していきます。

オーディオテクニカのAT20シリーズ。左からAT2050、AT2040、AT2020、AT2035

AT2020、AT2040開発者インタビュー

今回オーディオテクニカ本社でお話を伺ったのは株式会社オーディオテクニカ 商品開発部マイクロホン開発課の金津亮さん。金津さんは入社19年のベテラン。さすがにAT2020の開発当時はまだ直接関わってはいなかったようですが、その後数々のヘッドホン、マイクの開発、製造に携わってこられた方で、AT2040は企画の段階から手掛けてきた、とのこと。その金津さんに、AT2040はもちろん、AT2020やそのバリエーションともいえるAT2035やAT2050についても、主に技術的側面からいろいろ聞いてみました。

今回インタビューさせていただいた商品開発部マイクロホン開発課の金津亮さん

AT2020はアメリカのガレージミュージシャンのために開発された

--AT2020やAT2040など、AT20シリーズについて、その開発された経緯、背景などについて教えてください。
金津:AT20シリーズの話に入る前に、まずAT40シリーズについてお話をしておいたほうが、分かりやすいと思います。当社が最初にスタジオ向けのマイクロホンとして製品化したのがAT4033で、これが1991年でした。それまでスタジオ向けのマイクロホンというと、非常に高価なものがほとんどだったなか、安価でありながら、期待を大きく上回るクオリティーの製品としてヒットし、1992年のAESでベストマイクロホンとして選出もされています。AT4033を含めたAT40シリーズは、2013年にAT50シリーズが登場するまでフラグシップという位置づけであり、現在も販売されています。そうした中、アメリカでガレージミュージシャンと呼ばれる人たち、日本でいうDTMユーザーが増えていったのです。彼らは経済的に余裕はないけれど、その中からトップミュージシャンが生まれるかもしれないし金の卵ともいえる人たち。大事な将来のお客様でもあります。そうした人たちに、もっと安価だけど、スタジオクオリティーとして使える期待を遥かに超えるコストパフォーマンスを持ったマイクを提供しよう、と開発したのが2006年発売のAT2020なんです。

2006年にガレージミュージシャン向けに発売されたAT2020

--その後、AT20シリーズとして、いろいろなものが登場したわけですね。
金津:AT20シリーズの位置づけとしては、AT40シリーズのエントリーモデルであり、フラグシップへの入り口です。AT2020の後にはハンドヘルドのAT2010、スティックタイプのAT2021(海外のみでの取り扱い)、AT2020と同様のサイドアドレスのコンデンサーでありながら、音の特性に違いのあるAT2035、AT2050といったものがあり、最後に登場したのがダイナミックマイクのAT2040でした。

AT2020とその内部

ダイアフラムは直径15.4mm/24.3mm、厚さ2μm

--AT2020とAT2035、AT2050は見た目もそっくりではありますが、何が違うのですか?
金津:中身がいろいろと異なっており、とくに我々がユニットと呼んでいる空気の振動を電気信号に変換するマイクの心臓部分が違うんです。このユニットの中に、振動膜が入っているのですが、AT2020に入っているのが直径15.4mmで厚さが2μmというもの。薄い高分子フィルムに金を蒸着させたものとなっています。実はこれAT4033と同じ寸法なんです。もっとも膜のテンションの掛け方が違うので、別のものではあるのですが。一方AT2035とAT2050はどちらも直径24.3mmで厚さは2μmというもの。それぞれの特性に合わせて掛けているテンションは変えています。

AT2020の内部に入っている直径15.4mm厚さ2μmというダイアフラム

--いわゆるダイアフラムと呼ばれる部分ですよね。AT2035とAT2050ではテンションの掛け方以外は同じものなんですか?
金津:いえ、構造も違うんです。AT2050のほうはDCバイアス方式となっており、+48Vのファンタム電源から内部回路で百数十ボルトまで昇圧し、固定端に印加しています。これによってコンデンサーに電荷を溜める形になっており、振動膜が揺れることにより電気信号が発生する仕組みになっています。それに対してAT2035はAT2020と同様のバックエレクトレットという方式になっています。振動膜と相対する固定端に特殊な高分子材料をラミネートし、エレクトレット現象化させています。エレクトレットというのはエレキとマグネットを掛け合わせた造語で、永久磁石のように半永久的に電荷を保つという特性を持っているため、外部から電圧を加える必要がありません。つまり、そのための複雑な電気回路が不要になるのです。こうした方式の違いが音質にも影響してくるのです。

バックエレクトレットという方式になっているAT2035

豊かな低域と高域まで滑らかに伸びるダイナミックマイク、AT2040

--では続いて金津さんが開発されたAT2040について、どういう背景で生まれてきたのかなど、教えてください。
金津:2017年ごろ、アメリカの販社からPodcast向けのダイナミックマイクが欲しい、という要望とともに製品に関する企画書が送られてきたのです。確かにPodcast、配信向けというニーズはありそうだな、とは思ったのですが、この企画書にはグッと来るものがなかったのです。総花的というか、いろいろな方面に手を広げすぎていてターゲットがハッキリしないように思えたのです。そこで私が思う形で技術側で企画書を新たに書き直して、販社側に戻したところ、それで了解をもらうことができ、開発をスタートさせることになったのです。

喋り声をしっかり捉える形で開発されたダイナミックマイク、AT2040

--金津さんの企画書での意図というのはどういうところにあったのですか?
金津:AT20シリーズは手ごろな価格でありながら、スタジオクオリティーで驚くような高品位な音である、ということにあります。そこで、ほかは削っても音には徹底的にこだわりたい、という開発方針をとったのです。メインターゲットがPodcastつまり喋り声であるため、豊かな低域がありつつ、高域まで滑らかに伸びていく音にしたい。それでいて、歯擦音は適当に抑えていく。さらにポップノイズに対する対策もマイク側でしっかり行いたいと、いい音にするための部分はいろいろと盛り込んでいったのです。

ユニット部分はダブルドーム方式になっていると解説する金津さん

ダブルドーム方式、軽いコイル、ポップノイズ対策などこだわりが随所に

--もう少し具体的に教えてもらえますか?
金津:まずマイクのユニット部分ですが、この中の膜部分をダブルドーム方式というものにしています。ダブルドーム方式自体は必ずしも珍しいものではないのですが、ダイナミックマイクとしては非常に薄い12μmのものと、25μmのものという2つの膜を組み合わせているのです。それにコイルがついているのですが、振動する部分の軽さにこだわったため、コイルの巻き数を少なくして、非常に軽い構造にしています。これによって低域のレスポンスがよくなり、低い声もしっかりと拾うことができるようになるのです。ただ、巻き数が少ないから、コイル自体はユニットの段階では50Ωしかありません。そのため信号のレベルが非常に小さいという問題が出てしまいます。そこで、ユニットの外側にトランスを置き、ここで昇圧させているのです。結果としてAT2040の感度はダイナミックマイクとしてはとても高いものになっているのです。一方でショックマウントも内部にしっかりした構造のものを入れています。ショックマウント自体はハンドヘルドマイクなら基本的に搭載されていますが、ここまで大きいものはあまりないと思います。ガンマイクなどで2点で釣っているものをご覧になることがあると思いますが、そういったイメージで完全にユニットを浮かせている、という形です。ダイナミックマイクでここまでしっかりしたショックマウントを入れているものはあまりないと思います。それに加えてポップノイズ対策です。

ユニット分を宙に浮かすような形になっているAT2040のショックマウント構造

 

--そのポップノイズ対策はどのようにしているのですか?
金津:ポップフィルターを外側に付けてもらうという手もありますが、AT2040では内側に特殊な素材を組み合わせた形でポップフィルターを実現しているんです。ご存じのとおり、ポップフィルターを使うことによって、高域が減衰しやすくなります。そこで、伸びやかな高域を失わないにするにはどうすればいいか、膨大な素材、形状を組み合わせながら実験をしていったのです。その結果、このAT2040に搭載した2つの素材を発見したのですが、これを見つけたときには、本当に奇跡かと思いましたね。トップとサイドは同じ素材となっており、その間にスポンジのような形状のものが入る形です。まれに「分解して中身を見たい…」という方がいらっしゃいますが、お客様自身での分解は避けてほしいところです。というのも、このトップとサイドに隙間があると空気が入ってしまい、ポップノイズの抑制効果がなくなってしまうからです。製造現場においても、この部分は特に厳密にチェックをしており隙間がないようにしています。分解するとどうしてもこの隙間ができてしまい、結果として音質に大きな悪影響を及ぼす可能性があるので、その点はご留意ください。

AT2040の内部のポップガードは2種類の素材を組み合わせた形になっている

--いろいろな工夫がされて製品が出来上がっているんですね。そのAT20シリーズ、生産はどこでおこなっているのですか?
金津:マイクによっていろいろ違うのですが、心臓部ともいえる重要な部分は町田で、手作業により一つ一つ丁寧に作られています。AT2020のダイアフラム部分、AT2035とAT2050のダイアフラムからユニットまで、町田で製造されています。

AT2035とAT2050のユニット部分。この中にダイアフラムが組み込まれている

一切音を変えずに同じ製品を何十年も作り続けるワケ

--ところで、とくにAT2020は、いまやエントリー向けコンデンサーマイクの代表としてミュージシャンからYouTuberまで幅広く使われていますが、ここまで広まった要因をどう考えていますか?
金津:スタジオクオリティーの音を、安い価格で実現し、期待を大きく上回る音を実現するという、設計当初の思いが世界中に伝わった結果なんだと思います。もともとミュージシャン向けに開発していたので、低域から高域までかなり広いレンジでフラットに録ることができ、S/Nもよく、作りも堅牢であるというところが、ミュージシャンだけでなく、YouTuberをはじめとする配信を行う人たちにも受け入れられたのだと考えています。出荷台数でいうと2020年のコロナ禍に入ってから大きく伸びたというのも実際のところです。

AT2020は配信者などにも人気のマイクとなっている

--AT2020においては登場から20年近くが経過していますが、その間に仕様変更などはなかったのでしょうか?
金津:仕様に関しては一切変えていません。ただ1点、2020年に塗装を少し変更しています。というのも我々設計者も普段からSNSでお客様からの声をチェックしているのですが、黒い点々があるトーン塗装にしていたことに対して「ドットがゴミみたい」というレビューがいくつかあったのです。この塗装がどうもユーザーからウケていないという判断の元、シンプルなブラックに変更しました。それくらいでしょうか。もっとも20年も生産を続けているとどうしても電子部品の供給が止まってしまうというケースはあります。そうした際は、データシートを確認して代替部品を探し、組み込んで入念なチェックを行い、さらに加速度試験なども行って問題が起こらないことを確認していくのです。この際、電気的にも音的にも耳を使ってチェックし、問題ないとなったものに切り替えているので、発売当初から性能はまったく変わらないものを作り続けている形です。

AT2020やAT2040について解説してくれた金津さん

 

--最後に、お伺いしたいのは、どうしてこれだけロングランの製品を作り続けているのかという点について教えてください。特に日本のメーカーは数年ごとに新機種を開発して切り替えていくことが多いのに、なぜ20年も続く製品を作れているのでしょうか?
金津:AT2020は20年ですが、AT4033は30年以上、同じものを作り続けています。やはりこの手の製品に関しては、お客様からは「同じものが欲しい」という声をいただくので、それに応えていきたいという思いから続けています。音に関わる製品は、評価されるのに本当に時間がかかります。その評価を大切にしていきたい、と考えて変えずにいるのです。実際カスタマーサポートには10年近く使ったマイクを持ち込まれて修理を依頼される方もいらっしゃいます。それを何とかして直してお返しするわけですが、それだけ長く愛用いただけるというのは嬉しところです。そうした方々のためにも音を変えてはいけないと作り続けているのです。

--ありがとうございました。

クリエイター応援キャンペーン実施中

オーディオテクニカでは、現在「クリエイター応援キャンペーン」として、音楽・映像制作、配信などさまざまなシーンで活躍するアイテムをお得に購入できるセールを行っています。今回セールの対象となるのはATH-M50xとホワイトモデルであるATH-M50x WH、それと今回の記事で取り上げたAT20シリーズのマイクであるAT2020とAT2040のそれぞれ。

ATH-M50xは発売から今年で10周年となる

ATH-M50xが前モデルであるATH-M50をベースに大きく改良されて誕生したことについては以前「Audio-Technicaの定番モニターヘッドホン、M50xシリーズが累計出荷台数250万本突破」という記事でも紹介しているので、ぜひ参照してみてください。

いずれも通常より安く購入できるので、ぜひチェックしてみてください。

期間:2024/12/6(金)~2025/1/15(水)
対象製品:ATH-M50x、ATH-M50x WH、AT2020、AT2040
キャンペーン情報:https://www.audio-technica.co.jp/cmp/AT2020M50x/
ATH-M50x ¥22,990(税込)→セール価格¥18,480(税込)
AT2020   ¥14,520(税込)→セール価格¥12,100(税込)
AT2040   ¥14,520(税込)→セール価格¥12,100(税込)
※オーディオテクニカ公式オンラインストア価格

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【関連情報】
AT2020製品情報
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【価格チェック&購入】
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