世の中には数多くのマキシマイザがあり、どれだけ音圧を上げることができるのかを競い合っています。その際、音が歪むことなく、ギリギリまで音圧を上げることに焦点が当たりますが、音圧を上げることによって、当然ダイナミックレンジは狭くなるので、音楽性、自然さはどんどん失われていきます。ここが最大のトレードオフともいえるところで「自然さはある程度、目をつぶってとにかくギリギリまで音圧を上げる」、「やはり一番大切なのは音楽部分なので、音圧を多少諦めて自然さを重心する」のハザマで、みなさん悩みながら調整しているのではないでしょうか?
そうした中、AIを駆使した革新的なプラグインを次々と開発するユニークなプラグインメーカー、Sound Magicが開発したのがNeo Loudness(通常価格$129、セール価格$49=約7,500円)というマキシマイザです。これは音響心理学に基づくこれまでにない手法を用いることで、音楽の自然さを保ちながら、従来マキシマイザと同レベルの音圧に引き上げることを実現している、というもの。実際どんなものなのか紹介してみましょう。なお、このNeo Loudnessを含む20以上のマスタリングに使えるエフェクトをセットにしたDSD Tools(通常価格$999、セール価格$299)というものもあるので、合わせて紹介してみましょう。
AIを駆使し、斬新なプラグインを次々と開発するSound Magic
独自性のユニークな技術で数々のプラグインを開発しているプラグインメーカー、Sound Magic。これまでも「EQの常識を覆す画期的なイコライザ、AIが調整すべき周波数帯を自動で割り出してくれるNeo EQシリーズのスゴさ」、「AIエンジンでボーカルをいい具合にしてくれるEZVoxが誕生。EQ、ディエッサ、コンプ、ダブラー、リバーブなどを自動で調整」、「Bechstein D 282、Bösendorfer 290SE、Yamaha C7…、8種の最高峰ピアノを再現する1TB超のサンプリング音源、Neo Pianoの実力」……といった記事で、これまでもいろいろ取り上げてきたことのある実績あるメーカーです。
そのSound Magicは2007年に中国・北京で誕生したメーカーで、現在はアメリカ・アナハイムやロンドンにも支社を持つメーカーへと成長しており、インストゥルメント、エフェクトを含め数々のプラグインを開発してきています。
ほかのプラグインメーカーと違うのは、独自のテクノロジーを次々と生み出して、それをプラグインに実装している、というところ。ミュージック・ドメイン・シンセシス、ハイブリッド・モデリング・テクノロジー、ヘッドホン・バイタライザー、モデリング・レガート・テクノロジー、3Dダブラー・テクノロジー……などなどユニークなアイディアと技術で、他社とは明らかに異なる面白いソフトを出しているのです。
実際、NAMM Showを主催するNAMM Foundationによる技術的卓越性と創造性を表彰するTECアワードにおいては、ノミネートされる常連となっています。具体的には2013年に同社のImperial Grandがノミネートされたのを皮切りに、2015年にはこの後で紹介するDSD Tool、2015年にはSerenade DSD/DXD/Hi-Res Workstation、2019年にNeo Piano、2020年にNeo ErhuとNeo EQ、Neo Reverb、2022年にChina Ensembleがノミネートされるなど、非常に注目度の高いメーカーなのです。
自然さをより引き立てながら音圧を上げるNeo Loudness
そんなSound Magicがリリースしたマキシマイザが今回取り上げるNeo Loudnessです。まずは以下のYouTubeのビデオをご覧になってください。デモ曲をフル楽曲で比較しているので、ちょっとサンプル長すぎる感じはしますが、アコースティックギターの曲、弦楽曲、ドラムの3つの楽曲で使用前、使用後の比較をしているので、飛ばし飛ばしででも聴いてみてください。
コンプレッサでつぶしたような音に鳴らず、自然なままに音圧が大きくなっているのが分かると思います。このYouTubeにあった曲も含め、ほかにもベースやピアノなどの使用前、使用後が並んでいるので、以下のSoundcloudで聴き比べてみたほうが分かりやすいかもしれません。
いずれもしっかり音圧が稼げているけど、元の音の自然さを残したままというより、明らかに自然さがより強調されて、元のものよりも、いい質感になっているのが分かると思います。こんな感じに音がよくなるコンプレッサ、マキシマイザってこれまで存在していなかったように思います。
第3世代となるNeo Loudness
もっとも、このNeo Loudnessは最近になって突然誕生した、というわけではありません。実は初代Neo Loudnessは2010年に登場しています。この時点で、音響心理学を取り入れて、音圧向上と自然さの両立ということを掲げていました。具体的にはサウンドを引き締め、ディテールを強化しするという、Neo Loudnessの基本的なアルゴリズムが確立していたのです。
その後2013年に第2世代となるNeo Loudnessに進化しています。この時、従来よりさらに音圧をブーストできるようになっていました。このときは、オーディオ スペクトルを拡張し、低周波数と高周波数の両方を豊かにして、より豊かでバランスのとれたサウンドを実現するという技術を実現していました。
そこから約10年たって、Neo Loudnessは第3世代へと大きくバージョンアップしました。従来からの技術は踏襲しつつ、さらに音楽に、より大きく豊かで、よりプロフェッショナルなサウンドを実現するように進化しているのです。
倍音構成の作り方で音の自然さを際立てることができる
でも、どうしてNeo Loudnessが従来のマキシマイザと違って、より自然な音にできているのでしょうか?そもそも、ここでいう音響心理学を取り入れたというのは何をしているのでしょうか?
人間の耳は特定の範囲の音量に対して鈍感になるという特性を持っており、これを利用してNeo Loudnessが作られており、オーディオ信号をインテリジェントに音を引き上げることを実現しています。
従来のリミッターは、特に頻繁に使用すると、音楽がタイトで生気のない音になり、本来の生き生きとした楽器の音ではなく、詰まった感じの音のままに前に押し出されてしまいます。そこを大きく改善し自然なサウンドを維持し、楽器のイメージをほぼそのまま維持しようというのがNeo Loudnessのコンセプト。
従来のリミッターやクリッパーは、限界まで押し上げると、偶数倍音よりも奇数倍音の歪みを生じさせることがよくあります。そこでNeo Loudnessでは、偶数倍音を優先し、全体的な倍音の歪みを少なくしているのです。その結果、より暖かく、より自然な、際立ったサウンドが得られるようになっているのです。
フェーズ1~3の3段階で音を調整していく
では、実際このNeo Loudnessは、どのようにして使うものなのでしょうか?
結構いろいろなパラメータがあるので、最初戸惑うかもしれません。また、これはAI制御というわけではないので、すべて自動でお任せとはいかないのがちょっと難しいところ。とはいえ、コツが分かれば、そう難しいものではありません。まず考え方として、Neo Loudnessには3つのフェーズがあり、その順番に設定を行っていきます。
まず最初はPHASE 1という基礎となる部分の設定です。機能的には小さなコンプレッサであり、ここでサウンドをタイトにするとともにディテール部分を強調。その上で最終段であるPHASE 3のためのヘッドルームを空けておくのです。またStrongとMildの2つのアルゴリズムがあるので、どちらを使うかを設定の上、各種パラメータを設定します。
続くPHASE 2はエンハンサー/EQのセクションです。ここでサウンドをより豊かでバランスのとれたものに調整します。
そして最後のPHASE 3が最終仕上げのところで、音圧をガツンと上げるマキシマイザ部分です。このマキシマイザもAとBという2つのアルゴリズムがあるので、少し比べてみるといいと思います。
なお、ちょっと分かりにくかったのが各フェーズの右上にあるボタン。電源スイッチのように見えるので、これを点灯させると各セクションがオンになるのかと思ったら逆。これはバイパススイッチのことで、点灯させると機能しなくなるんですね。この点、注意してください。
以上、Neo Loudnessについて紹介してみました。これだけの機能・性能を持って、約7,500円は安いと感じました。また以下のクーポンコードを利用することにより、20%オフにすることが可能です。ただし、このクーポンは$99以上に適用とのことなので、Neo Loudness単体だと適用されないのですが、ほかにも強力なプラグインがいっぱいあるので、ぜひセットで購入してみてはいかがでしょうか?
ハイレゾ処理用の強力なプラグイン集、DSD Tools
Sound Magicはさまざまな製品をまとめたセット製品をいくつか出していますが、Neo Loudnessを含めたハイレゾコンテンツ用のエフェクトプラグイン集としてDSD Toolsというものを出しています。
これは名前の通り、DSDをターゲットにしたものであり、PCMとDSDの橋渡しの役割を果たすプラグイン集、とのこと。DSDからPCMに変換した際の音の変化を補強して、本来のアナログのようなサウンドを取り戻すためのエフェクト群という位置づけのようで、内部的には2.8MHzとか5.6MHzで処理するシステムとなっています。ただ、必ずしもDSD用というわけではなく、192kHzや384kHzなどハイレゾのサウンドを処理する上で高品位に機能するものとなっており、実際Neo Loudnessも44.1kHzや48kHzでも問題なく使える形になっています。
このDSD Toolsの中には以前紹介したNeo EQやEZVoxをはじめ、20以上のプラグインが収録されています。現在ちょうどセールのタイミングで、$999が$299と1/3の価格になっています。さらに上記のクーポンを利用することで$232.90と激安で購入することが可能となっています。
【関連情報】
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