JASRAC理事になったボカロP、ねじ式さんとM3を回ってみた。参加者は著作権周りどう管理してる!?

まだまだ知る人ぞ知るイベントである、M3。これは音楽を作る人たちがブース出展し、自分の作品をCDにしてここで頒布(販売)するという、音系・メディアミックス同人即売会。春と秋に1日ずつ開催されるイベントで、この秋は10月27日に開催されました。基本的には趣味で音楽を作る人の集まりではありますが、実際にはアマチュアだけでなく、プロミュージシャンも数多く参加しており、まさに国内最大規模のCD販売イベントとなっているのです。コロナ禍で出展数を規制したり、来場者の入場を規制して、やや規模は縮小していましたが、先日のM3 2024秋では、過去最大となる1,200を超えるサークルが出展し、過去最大の来場者が訪れるという、すごい規模のイベントへと成長しているのです。

そのM3に10年以上毎回ブースを出しているのがボカロPのねじ式(@nejishiki0221)さん。今回、ねじ式さんは「新譜を出していないので、比較的暇なんですよ」ということで、少しインタビューをさせていただいたのとともに、一緒に会場内を歩きながら、ねじ式さんと繋がりの深いミュージシャンのブースを案内していただきました。そこで、みなさんにどんなDAWや音源を使っているのか、著作権についてどう管理しているのかなど伺ってみたので、紹介してみたいと思います。

JASRAC理事のねじ式さんと一緒にM3会場を回ってみた

音系・メディアミックス同人即売会、M3とは

M3については、これまでも「実はCDが売れてないのはメジャーだけ!? 万単位の人が押し寄せ、CDを買い漁る、音系・メディアミックス同人即売会[M3]」、「1万人超がCDを買い急ぐ、音系・同人展示即売会M3の威力」、「コロナ禍における大イベント、M3-2020秋が無事に開催。音系・メディアミックス同人即売会の様子を見てきた」といった記事で紹介する一方、DTMステーションが運営するレーベル、DTMステーションCreativeとして出展する形でも何度も参加しており「DTMステーションCreativeでM3に初出展。滑り出しは上々!?売上情報、収支状況を全公開」という記事で、運営の実情を赤裸々に紹介してみたり、「10月28日、M3-2018秋にDTMステーションCreativeとして出展。『心をこめて feat. 結月ゆかり』のマルチトラックデータ、d-girlsの『CHANGE THE WORLD -Remix-』をリリース」という記事で告知したこともありました。

M3は毎年春と秋にそれぞれ1日だけ開催されている

こうした記事でも紹介してきた通り、よく報道されている「CDが売れない」という話は嘘だろう、と思うほど、ものすごい活況であり、この秋のM3は過去最大の出展数、参加者数となっていたほどです。出展しているサークルも日本全国から集まっていますが、CDを買い求めにやってくる来場者も全国から。会場となっている東京流通センターが羽田からモノレールですぐの場所ということもあって、中には北海道や九州から買いにやってきて、1、2時間で目的のものを買い終えたらトンボ返りしてしまう人も……。

10:30の開場とともに大勢の人たちが入ってくる

そう、ここにはYouTubeやニコニコ動画で音楽作品を発表している人たち=サークルも多く、普段は顔出ししていないようなアーティスト、ミュージシャンが手売りの形でCDを頒布しているから、ここがまさにリスナーとクリエイターをリアルにつなぐ場となっているのです。だから、人気サークルのブースには長蛇の列ができ、開場する10:30から終了の15:30まで列が途絶えないところもあるくらい。半年に一度、たった5時間しか開催されないイベントとあって、多くの人が集うのです。

ねじ式さんインタビュー:創作の活力としてリスナーとの出会いは大切だし、資金確保も重要

そんなM3において、今回注目したのはボカロPのねじ式さん。ねじ式さんは、DTMステーションでも何度かインタビューさせていただいたこともあったし、M3レポート記事の中でも2回ほど登場してもらったことがありました。

2015年以来、ほぼ毎回M3に出展しているというJASRAC理事のねじ式さん

 

ご存じの方も多いと思いますが、そのねじ式さん、今年の6月にJASRACの理事に就任しているんです。お堅いイメージの組織と、ボカロPという組み合わせは、ちょっと不思議にも感じるところですが、理事になった現在も、従来と変わらず、M3に出展して、自らブースに立っていました。そんなねじ式さんを捕まえて、少しインタビューするとともに、M3に出ていたミュージシャン、アーティストの方々のブースをいくつか一緒に回って、お話を聞いてみたので、順に紹介してみましょう。

--ねじ式さんがはじめてM3に参加されたのはいつごろだったのですか?
ねじ式:私がねじ式としてデビューしたのが2013年、翌年の冬にM3の存在を知ってサークル参加を申し込んだので、最初の参加というと2015年の春です。それ以来、ほぼ毎回、M3には参加させていただいてます。

東京流通センターで行われるM3会場には膨大な人たちが詰めかける

--ねじ式さんにとって、M3って、どんな位置づけのイベントなんでしょうか?
ねじ式:音楽においてクリエイターとリスナーを結びつける、もっとも大切な交流の場ですね。M3って、YouTubeやニコニコ動画などの動画投稿サイトに自分の曲を投稿している人が非常に多いんです。ふとしたキッカケで再生数が1万とか2万に伸びることもあるけれど、本当に自分の曲を好きな人なんているんだろうか……と疑問に感じたり、不安に思うネットクリエイターってすごくいらっしゃると思います。それがM3で実際にリスナーと対面できて、フィジカルにCDなどを買いに来てくれるって、ものすごいこと。創作に自信を持つことができるようになるし、次の創作に挑む力をもらえる。そんな重要な場所なんです。逆にリスナーにとっても、クリエイターに対してリスペクトを伝えられる場所でもありますよね。

開場前には、多くの人たちの待機列ができる

--ビジネス的な面ではいかがですか?
ねじ式:とても重要な場だと思います。一定層の方々が支えてくれる売り上げが創作のための重要な資金に繋がるからです。たとえば学生をしながら創作活動をしている人、サラリーマンの傍ら創作活動をしている人にとって、創作資金がないとなかなか次のステップに踏み込むことができません。そうした次の創作のための資金を得られる場という意味でもM3はとっても重要なところだと感じています。

M3 2024秋には1200を超えるサークルが出展した

--超大物になられた、ねじ式さんにとって、M3は今も変わらない位置づけなんですか?
ねじ式:大物なんて言われると照れ臭いですが、JASRAC理事になり、ある程度自分の声がいろいろなところに届くようになった立場としても、M3は大切な場所なんだ、ということを多くの人に伝えたいし、音楽クリエイターであれば、こんな立場になっても出続けることができる場である、ということを知ってもらいたいですね。

M3当日券の販売所にも長蛇の待機列ができていた

--ところで、M3にサークル参加されている方で、JASRACと著作権信託契約を結んでいる人って結構いるものですか?
ねじ式:個人でJASRACメンバーになっている方は、まだ非常に少ないと思います。行列ができているような人気クリエイターの場合、音楽出版社に所属されている方も多いと思いますが、その音楽出版社を通じて信託しているというケースは多いと思います。もちろん、それもひとつの形だとは思います。でも個人でJASRACメンバーになることのメリットは非常に多くあるんです。先日のDTMステーションの記事にもありましたが、YouTubeやニコニコ動画で1年に1000回以上の再生実績があればJASRACメンバーになる条件を満たすので、ぜひ検討してみることをお勧めします。自分の創作活動に対する正しい利益を得るために、JASRACメンバーになり、さらには準会員、正会員となることは長期的に見て重要な意味を持つと思います。クリエイターをずっと続けていくためには、どうしたらいいのかというのを、伝えていきたいですね。
※編集注
JASRACと著作権信託契約を結んだ音楽クリエイターを「信託者」といいます。「信託者」のうち、JASRACの事業目的に賛同し、 所定の手続きを行ったうえで、入会金と会費をお支払いいただくと「会員(準会員)」になります。「準会員」のうち一定の条件を満たした方が「正会員」になることができます。信託者・準会員・正会員のいずれも、使用料の徴収、分配の取り扱いに違いはありません。

ねじ式さんから紹介いただいたクリエイターのみなさん

ねじ式さんインタビューの後、ねじ式さんと一緒にM3会場内を回って、ねじ式さんと繋がりの深いクリエイターのみなさんのブースに伺い、どんなDAWを使っているのかを伺うとともに、著作権に関してどうされているのかなどごく簡単なインタビューをさせていただきました。

EO(エオ)さん

今回ねじ式さんと一緒のブースで出ていたEOさん(右)

EOさん DAW:Cubase Xアカウント:@eo_aui7740

これまでお手伝いでM3に来たことはあったのですが、自分でM3に出たのは今回が初です。ボーマスや超会議などには出ていたのですが、M3は少し雰囲気が違って、リスナーさんの作品愛を感じますね。
ねじ式さんからお勧めいただいたこともあって、今年7月にJASRACの準会員になったところです。

月乃さん、Capchiiさん

Capchiiさん(左)と月乃さん(右)

月乃さん DAW:Cubase Xアカウント:@tsuki_nxo

Cubaseは中学生のころから使うようになり、それ以来、レコーディング用として、ずっと使っています。私がM3に最初に出たのは2018年の春で、それ以来毎回出ています。まさにM3を楽しみに生きていますので!応援してくれる人たちと直接お会いできるので、本当に活力になっています。

著作権については、まだよくわからなくて、きちんと管理などできてないのが実情です。

Capchiiさん DAW:FL Studio Xアカウント:@Capchii

曲を作るようになったのが10年くらい前で、そのころからずっとFL Studioを使ってます。音源はSERUMとか、最近だとVitalなんかをよく使ってます。
M3は2017年あたりからほぼ毎回出ています。月乃さんと一緒に出るようになったのは最近です。自分にとってM3は、まさにお祭りみたいな感じです。三歩歩いたら知り合いがいるという感じで!リスナーさんとの交流の場であると同時に、クリエイター同士で情報交換できる、すごい希少な機会でもあるので、今後も大切にしていきたいです。

いるかアイスさん、市瀬るぽさん

市瀬るぽさん(左)といるかアイスさん(右)

いるかアイスさん DAW:Cubase Xアカウント:@irucaice

Cubaseは6年くらい使っています。その前はLogic Proを使っていて、もっと前はフリー版のReaperでしたね。
M3に最初に出たのは2015年秋で、それ以来、ほぼ毎回参加しています。たまたま昨年超会議と被って出られませんでしたが、それ以外は全部だと思います。私にとっては居心地のいい、安心感のあるイベントであり、絶対に出たいイベントです。ここでリスナーさんと直接会えるのが嬉しいですね。私自身はボカロ曲を作っていますが、ここではいろいろなクリエイターと友達になれるのも楽しいところです。
著作権はドワンゴさん、クリプトン・フューチャー・メディアさんなどを通じてJASRACさんに預けていますが、JASRACさんと直接お付き合いしたことはありません。すごく興味はあるのですが、まだ私たちにとってどういう意味があるところなのかなど、ちゃんと理解できていなくて……。そうしたことに関する情報交換の場があったら嬉しいですね。
※編集注:JASRACによるクリエイター向けイベント「JASRAC Creator’sPath」は情報交換の場として要チェックです。以前の記事「日本の音楽シーンを牽引する松井五郎さんが語る『作詞の極意』。JASRACの音楽クリエイター向けイベントCreator’s Pathより」など、参考にしてみてください。

市瀬るぽさん DAW:Cubase Xアカウント:@LUPO_Reportage

もともとLogic Proを使っていたのですが、いるかアイスさんと合作することが多くなったこともあり、ファイルのやり取りが便利なように、Cubaseを使うようになって2年です。音源はSerum、MassiveのほかAmple Soundのギター音源なんかをよく使います。あとSonic AcademyのKick 2なんかも最近よく利用しています。

M3は参加するようになってから12年くらいになりますが、自分にとってはCD即売会の実家のようなところですね(笑)。

実はつい先日、JASRACの準会員になりました。音楽出版社との契約がある楽曲もありますが、契約をしていない楽曲については取りこぼしていた部分も多かったので、著作権管理をJASRACに直接お願いすること にしました。Kendrix(ブロックチェーン技術を用いて楽曲の存在証明発行等ができるサービス)なども使ってリリース前からしっかり管理していければと思っています。

※編集注:Kendrixについては以前の記事「楽曲のブロックチェーン登録や存在証明ページの発行が無料でできるKENDRIXとは!?」をを参照してみてください。

アランさん、ピボさん(memex)

アランさん(左)とぴぼさん(右)

アランさん/ぴぼさん DAW:Cubase/Live Xアカウント:@memex_aran/@memex_pibo

私たちは、未来を実装するバンド、memex(@memex_am)として主にVRライブなどの形で活動していています。楽曲制作にはCubaseを10年くらい使っている一方、最近はAbleton LiveをVRライブでオーディオルーティングやSyncroomを通じたやりとりのために使うようにもなりました。音源はギターを生で録るのがメインではありますが、シンセとしてSERUMを使うほか、MODOBASE、最近だとTOKYO SCORING DRUM KITSなんかを使っています。
M3に最初に出たのはコロナ禍に入った2020年の秋で、それ以降毎回参加しています。普段はVR空間で、オンライン上でファンの方々とのやり取りをしている中、唯一リアル空間でみなさんと触れあえることができるM3は、私たちにとってとっても重要な場となっているんです。直接会話して、喜んでくれる顔をリアルに見ることで、すごくエネルギーをもらえるんです。ネットの場にはないリアルでのコミュニケーションというのも大切なんだと実感しているところです。
これまで著作権については私たちでコントロールしていました。またオンラインゲームにmemexとしての楽曲の収録もあるので、自分たちの管理でいいのではと思っていたのですが、今後のことも考えてJASRACへの信託についても検討しているところです。カラオケでの利用なども広げられたらと思っているので、著作権については真剣に考えていきたいですね。

日南めいさん

日南めいさん

日南めいさん DAW:Reaper ,Studio One Xアカウント:@Hinami_mei

レコーディングするときはこれまでずっと使い慣れているReaperを使って、曲を作るときには今はStudio Oneを使っています。私はコードとメロディを組み立てます。基本的に編曲はお願いしているから、音源プラグインを使うことはほとんどないんです。
M3は2022年の秋に出たのが最初で、今回が3回目となります。お客さんが来てくださって「楽しみにしてました!」とか「前回の曲がすごくよかったです!」なんて言ってくださるのがすごく嬉しくて、やりがいを感じますね。年に1度ライブは行っているのですが、ライブだと私のことをよく知っている人が多いのに対し、ここはポスターなどをみて、ちょっといいなと思って 来てくださる方が結構いるのが嬉しいところですね。
著作権に関しては、ちゃんとしなくちゃという思いはあるのですが、なかなかできていないのが正直なところです。とくに出版社さんとの付き合いがあるわけではなく、全部個人でやっているので、、ぜひこれから勉強して対応していきたいと思っています。

buzzGさん

buzzGさん

buzzGさん DAW:Cubase Xアカウント:@buzz_g

DAWは最初からずっとCubaseで、Cubaseしか使えないですね。音源はOmnisphere、Serum、Massive……あたりを使うことが多いです。
M3に最初に出たのは10年以上前でしたが、年に1回出られたらいいほう、という感じでしょうか。ボーマスなどと比較するとM3はすごく音楽好きな方が多い印象で、CDを試聴される方が多いですね。自分みたいにCDしかない人間にとってはすごく出やすいイベントでもあります。
著作権に関しては、、レコード会社さんからの依頼で楽曲提供をする場合は、基本的にはレコード会社さんの関係の出版社さんに預けています。正直なところ、事務的な手続きが得意じゃないので、全部お任せしちゃっているという状況ですね。

【関連情報】
M3サイト
JASRACサイト