すでにご存じの方も多いと思いますが、先日スウェーデンのメーカー、teenage engineeringから非常にユニークなビートマシン、EP-1320 medieval(メディーバル)が発売されました(税込実売価格:55,000円)。見た目はまさに電卓というフォルムですが、ここに表記されている文字=アルファベット、数字は古典的なフォントでラテン語・古英語表記。またディスプレイには何やら怪しい雰囲気のキャラクタやマークがいろいろ表示されています。
そして音を出すと、中世ヨーロッパを彷彿させるサウンドで、実際昔のヨーロッパの楽器のサウンドをサンプリングした音で奏でられる音楽が現代のビートに乗って飛び出すという斬新なマシン。言うならばファイナルファンタジーやゼルダの伝説、キングダムカム……といったRPGの世界観に近いサウンドを簡単に生み出すことができるビートマシンなんです。実は形状は2年前に発売されたEP-133 K.O.IIとまったく同じながら、剣や鎧の音なども含む中世ヨーロッパをイメージするサウンドにすべて差し替わっているとともに、機能もいろいろチューニングされています。またEP-1320 medievalはEP-133 K.O.IIと同様に多機能・高性能な音源、シーケンサとして単体で使えるだけでなく、USBでPCと接続することでさまざまな拡張性を持たせることが可能。さらにMIDIの入出力、SYNCの入出力を備えて外部機器との連携性も高くなっているのです。このEP-1320 medievalとはどんなマシンなのか、少し試してみたので紹介してみましょう。
teenage engineeringの新作、EP-1320 medieval
スウェーデンのteenage engineeringはデザイン性を重視しながら非常にユニークな楽器をいろいろと出してきた斬新なメーカー。7年前には「これってモデム!? レトロ方式でPCと通信するドラムマシン、Pocket Operater PO-32[tonic]を買ってみた」という記事でPocket Operatorシリーズを取り上げたことがあったし、OP-1シリーズは大ヒットとなり、新モデルであるOP-1 fieldが登場したことは2年前の記事「現代の最高峰ガジェットシンセ、teenage engineering OP-1 fieldの多機能性とその実力」でも取り上げていました。
最近のteenage engineeringは単なる楽器メーカーにとどまらず、デザイン的にかなり尖ったスピーカーを出したり、ラジオを出しているほか、キャリーバッグやハンドバッグ、ポーチ、さらには机を出すなど、高級ブランドメーカーへと進化していっているようです。楽器の視点からいうと、どこか違う世界に行ってしまったのかな……とも感じていましたが、もちろん中枢はやはり楽器メーカーであり、非常にユニークな製品を次々と開発しているのです。
中でもK.O.IIは世界的な大ヒットサンプラーとなり、長らく入手が困難な状況が続いていたようですが、最近ようやく入手しやすくなってきたようです。OP-1 fieldが374,000円(税込)という価格だったので、「もうteenage engineeringは庶民には手の出せない価格帯のメーカーになってしまったのか……」なんて思ってましたが、K.O.IIも今回のmedievalも55,000円と手ごろ価格でちょっと安心したところでした。
さて、実際の機能などの初回に入る前にまずは、このmedievalのイメージビデオをご覧ください。
こうなると、ちょっとRPGの世界観というより、中世の怪しい儀式……といった感じかもしれませんが、こんなサウンドを作り出すことができるのがmedievalなんです。中世ヨーロッパの楽器サウンドが出せるソフトシンセや、サンプル素材というのはある程度あったとは思いますが、ビートマシンでこのサウンドというのはかなり斬新ですよね。
中世ヨーロッパの楽器やSE音のサンプリングデータ220種類を96MBで収録
その中世ヨーロッパの楽器としてはギッターン、ハーディー・ガーディー、バグパイプ、ボウハープ、マウスハープ、ショーン、シトル、トムベース……といったものがあるほか、クワイアのようなものもいろいろ入ってたり、もちろんトランペットを使ったファンファーレだったり、剣と剣がぶつかりあう音や鎧をつけて歩く音、宿屋のざわめき、民衆の叫び……といった効果音も含め、220種類の中世ヨーロッパサウンドがサンプリングデータとして用意されています。
では、このmedieval、そのサンプリング音が超高音質の膨大なデータなのかというと、それとは真逆なものとなっています。最近のソフトウェア音源だと数十GBといった容量のサンプル素材を持ったものも少なくないですが、このmediavalの中に収められているサンプリングデータが入ったROMの容量は96MB。それに加えて32MBのRAM=ユーザーメモリも用意されていて、ここにユーザーが好きな音をサンプリングして、音源として使っていくことができるのです。
いずれにせよ96MB、32MBという一昔前のメモリ容量なんです。つまりHi-Fiサウンドを求める機材というのではなく、軽快にサクサク動くことを重視した機材なんですね。実際、まったくストレスなく小気味よく動作してくれるのは快感でもあります。
リアル入力もステップ入力もOK
使い方に関するマニュアル的な情報は、いろいろとすでに出ているので、ここでは細かな操作方法は割愛しますが、基本的な使い方としては、前述の古楽器などのサンプルデータを選んだ上で、打ち込んでいくという手法。A~Dの4つのグループ(トラック)があり、ここにメロディーだったりリズムだったりを打ち込んで音を重ねていくのです。それをシーンとしてまとめ、それをプロジェクトに並べていくという構造になっています。
このシーケンスデータの入力方法は大きく分けて3つあります。ひとつは電卓のキーを弾く形でリアルタイムレコーディングしていくという方法。赤い[codex]と書かれたボタン(録音ボタンですね)を押しながら、紺色の[fabula]と書かれたボタン(再生ボタンですね)を押すと、metrum(メトロノームのことですね)が鳴りだすので、電卓のキーを弾いていけばいいのです。あらかじめそれが1小節なのか2小節なのか、4小節なのか……といった設定をしていくことで、その小節分をループする形でレコーディングしていくことができます。ちなみに、まさに電卓という感じの叩き心地ではあるけれど、ちゃんとベロシティ(強弱の2段階)は感知するし、押し込めばアフタプレッシャーも検知するなど、かなりよくできたシステムに仕上がっています。またこのリアルタイムレコーディングの際には、自動的にクォンタイズもかけた形で録音されるため(クォンタイズのかからないフリーモードもある)、適当に入力してもいい感じで入って行ってくれます。
2つ目は再生しながら入力したいところで、録音ボタンを押しながら弾くことで、そこだけ上書きするという方法。録音ボタンを押さなければ、録音されずに音だけ確認できるためリハーサルには便利です。
そしてもう一つはステップ入力です。電卓の表示部分には小節、拍、Tickが表示されるので、音を入れたいタイミングに合わせて打ち込むことで1ステップずつ入力していくことが可能です。ちなみに、各テンキーにさまざまなサンプリング音を割り当てることができる一方、サンプリング音を選んだ上で[claves]ボタン(キーボードのことですね)を押すと、テンキーで音階をつけて演奏することができるようになります。これを単純に12音階で弾くことができるだけでなく、スケール設定することによりマジャー、マイナーだったりドリアン、フリジアン、リディアン、ミクソリディアンといった設定にすることも可能になっています。
ラテン語や古英語表記なので、操作が謎解きのよう!?
先ほどから、ボタンの意味の解説をしていますが、ラテン語だったり古英語だったりするので、ボタンを見ても何を意味してるのかさっぱり分からない……というのがちょっと難しいところ。まあ、マニュアルもあるし、謎解きのようで面白いといえば面白いけど、使い方に慣れるまで、ちょっと大変かもいれません。ディスプレイ表示もパッと見何のことやらさっぱりわからないのですが、そのアイコンの一覧を見ると、こんな感じですね。
まあ、兄弟機種であるK.O.IIを使っている人であれば、キー操作はほとんど同じなので、すぐに慣れると思います。逆にいえば、K.O.IIの各ボタンを見ると、何を意味するものなのか理解するのが早そうですね。
ちなみにK.O.IIで[FX]となっているエフェクトボタンはmedievalでは[pocus]と書かれています。意味としては「呪文、まじない、奇術、手品」といったもののようなので、なるほど……と感心するところ。そんな中世の時代にエフェクトなんてあるわけないですから、そうやってそれっぽい単語を当てはめているわけですね。
そのエフェクトもK.O.IIとは少し変わっています。エコー、リバーブ、ディストーション、アンサンブル、フィルタ、コンプレッサ、ディメンジョン・エクスパンダ(音を立体的に広げるエフェクト)が選択できるようになっています。
またK.O.IIになかった機能としてアルペジオ機能も追加されています。これは[quantum]ボタン(K.O.IIではTIMINGボタンですが、クォンタイズっぽい名前なのでなんとなく通じそうでもあります)を押しながら複数のテンキーを同時に押すと、その音の間でアルペジオが鳴る形になっています。 ところで、ディスプレイの上にある蓋を取り外すとバッテリーボックスが登場してきます。これを見るとわかる通り単4電池4本で駆動し、これだけで結構な時間使うことが可能です。またスピーカーのメッシュの蓋を外すとスピーカー部も現れるのですが、その左下にはマイクが内蔵されており、これを使ってサンプリングできるようにもなっています。ここでちょと面白いのはこの蓋の取り付け部分がレゴのサイズになっており、レゴとの互換性があるという点。つまり、レゴで組み立てた蓋を乗せるなんてことも可能になるわけです。またサイドにも左右5つずつ穴が開いてますが、これらはヘッドホンを挿すためとか、オーディオ機器と接続するための端子というわけではないんですよ。
これもレゴ互換の穴でレゴのタイヤを取り付けて、medievalをクルマにしてしまう…なんてことができるんですね。この辺がまさにteenage engineeringの遊び心という感じですが、この辺のレゴとの互換性部分もK.O.IIとまったく同じになっています。
USB Type-C端子を通じたコンピュータとの連携
さて、ここから少しmedievalの外部入出力、外部連携機能についても見てみましょう。まず、基本的な部分としてはオーディオ入出力として、本体のスピーカー、マイクがあるほかに3.5mmのステレオミニでの出力と入力があります。出力のほうはヘッドホン/イヤホンを取り付けて音をモニターしてもいいし、外部のモニタースピーカーなどに接続してもいいですね。
また入力はラインインになっているので、コンピュータのオーディオ出力とつないでもいいし、CDプレイヤーなどのオーディオ機器と接続してもOK。ここを通じてサンプリングして32MBのメモリに取り込んで音源として使うことができるわけですね。
そして、USB Type-Cの端子もあります。これはWindowsやMacと接続するためのものとなっており(iPhone/iPadでも認識してやりとりできることも確認しました)、これを通じていくつかのことができるようになっています。
まず一番大きいのはWebアプリを利用して、サンプリングデータの管理ができる、ということ。medievaとコンピュータをUSB接続した上で
ここにアクセスすると以下の画面のようなWebアプリが立ち上がります。
画面右側にはサンプルライブラリの一覧が表示されます。自分でサンプリングしたデータもここに表示される形です。それをテンキーの好きなところへドラッグすることで、そのキーにサンプリングデータを割り当てることが可能です。これを本体だけで行うことも可能ですが、その場合番号でしか表示されないので、この画面を使うのが圧倒的に使いやすいですね。
また、左に表示されているmedievalのディスプレイ部分に波形が表示されていますが、ここを使ってサンプリングの頭や終わりを調整するといったことも可能です。また必要あればデータ全体のバックアップやリストア、また工場出荷時の状態に初期化するといったことが可能になっています。
一方でDAWを起動するとMIDIの入出力ポートとしてmedieval=EP-1320が見えます。このときMIDIトラックからMIDI信号を出せば、medievalを鳴らすことが可能です。逆にmedieval側のMIDIの出力設定をONにしてMIDIチャンネルを設定すると、テンキーで演奏したものをDAW側にレコーディングすることができるし、DAW側で音源を立ち上げればそれを鳴らすことも可能になります。つまりUSBを通じてMIDIの入出力ができるようになっているのです。先ほどのWebアプリもMIDIを使っているんですね。ただしオーディオ信号の入出力はできません。
また、このUSBを通じたMIDI信号のやり取りではMIDI Clockの送受信も可能。これもmedieval側での設定は必要になりますが、これを利用することでDAWとの同期が可能になるのです。
MIDI入出力とSYNC入出力も装備し、外部機器との連携も
さらにmedievalにはUSBとは別にMIDIの入出力も搭載されています。3.5mmのポートとなっていますが、これを通じて外部のMIDIキーボードの出力をMIDI INに入れることで、テンキーを弾かずに外部のMIDIキーボードから演奏したりリアルタイムレコーディングすることが可能になります。
反対にMIDI OUTにMIDI音源を接続すれば、その音源をmedievalでシーケンスコントロールすることも可能なのです。
なお、このUSB端子に、MIDIキーボードを直接接続できると、すごく便利そうですが、それはできないようですね。USBは必ず親(ホスト)と子(クライアント)という役割があって、そのどちらかになるのですが、medievalは子であって、親になることができません。そのため親であるコンピュータとは接続できるけど、子であるMIDIキーボードとは直接接続できないんですね。では、USB-MIDIキーボードはまったく使えないのかというと、ワザを使えばできないわけではありません。そうちょっと面倒ではあるけれど、いったんコンピュータを介してDAWを使ってルーティングしてやればいいんですよね。手持ちのMIDIキーボードでmedievalを演奏したい、という場合はそんな使い方をしてみてください。
そしてもうひとつ、SYNCの入出力というものも搭載されています。これを利用すれば、K.O.IIやPocket Operatorなどと接続して同期できるのはもちろんKORGのvolcaなどのシーケンサ、ドラムマシンなどと同期させることが可能です。さらにはもっと大昔のドラムマシン、たとえばTR-808のような危機のDIN SYNC端子との連携も可能になっています。この際、3.5mmを5ピンDINに変換する必要があるのですが、これは同様のMIDI変換ケーブルだとうまくいきません。そうMIDIとDIN SYNCだと変換の配線が異なるため専用の変換ケーブルが必要になりますが、それを用意するのと、medievalのSYNC設定をSync24に設定すればOK。さまざまな機器と同期して演奏を楽しむことができます。
以上、teenage engineeringのEP-1320 medievalについて、やや妙な角度から紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?サウンドとしてもユニークだし、見た目のデザインも斬新でありつつ、かなり高度な機能を備えたビートマシンであることがある程度は伝わったのではないかと思います。唯一無二の機材だと思うので、ぜひ手に入れてみてはいかがでしょうか?
9月10日 DTMステーションPlus!で特集
DTMステーションの姉妹番組であるYouTube Liveおよびニコニコ生放送のDTMステーションPlus!において、9月10日にEP-1320 medievalを特集します。実際の操作方法やそのサウンドなどをじっくりお伝えしますので、ぜひご覧ください。
第242回特集「RPGの世界観!teenage engineering EP-1320 medieval」
配信日:2024年9月10日
時間:20:00~22:00
【YouTubeLive】https://youtube.com/live/ny8kQpS_7ZM
【ニコンコ生放送】https://live.nicovideo.jp/watch/lv345619452
【関連情報】
EP-1320 medieval製品情報
EP-133 K.O.II製品情報
【価格チェック&購入】
◎MIオンラインストア ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II
◎Rock oN ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II
◎宮地楽器 ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II
◎OTAIRECORD ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II
◎Amazon ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II
◎サウンドハウス ⇒ EP-1320 medieval , EP-133 K.O.II