とっても不思議なリバーブサウンドであるShimmer Reverb(シマー・リバーブ)。そのShimmer Reverbサウンドを別次元にまで高め、その凄さを世の中に大々的に広めたのが2010年に発売された米Strymon(ストライモン)のBigSkyでした。そのBigSkyの新モデルであるBigSkyが先日リリースされて話題になっています(税込実売価格:115,000円)。これはペダル型のリバーブでギター用としてはもちろん、シンセサイザ用、ドラム用などとしても使える非常に多彩であり、独特なサウンドを作りだす、ハードウェアのエフェクトです。
DTMユーザーからすると、「エフェクトはプラグインであるべき」という意見が多くありそうではあるけれど、ハードウェアにしかできないサウンドがあるのも事実。このBigSky MXはまさにそんな独特なサウンドを作り出す魔法の小箱でもあるんです。そのBigSky MXを少し試すとともに、ここにはUSB Type-C端子が搭載されており、DAW側からその動作をコントロールすることが可能になっているので、この機能についてもいろいろ試してみました。
プラグインで実現できないエフェクト!?
何でもプラグインで実現できる時代ではありますが、やはりハードウェアでないと出せない音、出せない味というのもあります。ビンテージ機材がその代表であり、アナログを通すことでいい感じに仕上がることがあるのも事実で、そのためあえてアウトボードとしていったん外に出して使う使う手法がとられています。
一方、デジタルモノでも、ハードウェアならでは、というものあります。確かに論理的に考えるとデジタルでできてプラグインでできないものはなさそうですが、メーカーがあえてプラグイン化していないケースも多いと思うし、レイテンシー/処理速度の面でプラグイン化できないというケースもありそうです。今回紹介するBigSky MXはその2つの側面がありそうですが、まずは以下のビデオの冒頭3分間だけでもサウンドを聴いてみてください。
これはギタリストの鈴木健治(@kenjisuzuki)さんによるBigSky MXの紹介ビデオですが、ちょっとサウンドを聴いただけでも、このBigSky MXの独特な世界観が分かると思います。
Shimmer Reverbってどんなリバーブ?
先ほどの鈴木健治さんのビデオの1:56あたりから「旧モデルとの比較デモ」として紹介しているのがShimmer Reverbのサウンドです。もともとBigSky MXの前モデル初代BigSkyの前身となったBlueSkyが登場したのは2010年のこと。そこに搭載されたShimmer Reverbのサウンドがあまりにも斬新であったことから一世風靡し、さまざまな音楽作品にも採用されてきたので、ご存じの方も多いと思います。さらにBlueSkyを大きく機能UPしたBigSkyが登場し、幅広く使われるようになっていったのです。
その後、このBigSkyのShimmer Reverbを真似たエフェクトもいろいろ登場してきたのも事実ですが、やはりオリジナルの良さは今も変わらずで、それが今回の新機種であるBigSky MXにも受け継がれているわけです。
※2024.8.3修正
記事初出時、初代BigSkyの登場を2010年と記載しましたが、BlueSkyの間違いでした。お詫びして訂正いたします。
でも、この幻想的なサウンドを聴いて「これどうやって作ってるんだ?」と不思議に感じる人も多いと思います。少しだけ種明かしをすると、これはピッチシフターとリバーブを組み合わせて作り出しているんです。オリジナルの音に1オクターブ上のピッチシフターを使って音程を上げた上でリバーブを通す音と、オリジナルの音をそのままリバーブに通す音をミックスすることで作り出しているんのですが、そのパラメータ調整が絶妙にできているので、こんなサウンドになるんですね。
12種類のリバーブ・アルゴリズムを搭載し2台のリバーブを同時に利用できる
もちろんBigSky MXは単にShimmer Reverbのためだけのリバーブというわけではありません。まずはリバーブのアルゴリズムとしてよく知られている
ROOM
CHAMBER
PLATE
SPRING
といったものが搭載されています。PLATEは大きな鉄板を使ったリバーブをエミュレーションするもの、SPRINGはバネを使ったリバーブをエミュレーションするものですね。
さらに
CLOUD
BLOOM
CHORALE
MAGNETO
NONLINEAR
といったBigSky MXならではのリバーブのアルゴリズムがいろいろと入っています。CLOUDは70年代後半に開発されたテクニックを活用した豪華で大きなサイズ感のあるアンビエントリバーブ、BLOOMはサウンド全体にクリスタルなぽりふぉにっく管楽器のサウンドを加えるというもの、CHORALEはまるで歌声合成のような感じでテナー・バリトンの歌声を追加するもの、MANETOはリバーブというよりはディレイ、コーラス系のエフェクト、そして、NONLINEARは物理現象を無視したリバーブで、特殊効果や独特なテクスチャーを作り出すことができるというものです。
さらに、これらとは別に
というものも搭載されています。そうIR=インパルスレスポンスを使ったデジタルリバーブですね。
BigSkyではこれら計12種類のリバーブ・アルゴリズムが利用できるというのが大きな特徴です。そして、ここには2系統のリバーブが同時に利用できるようになっているのも大きなポイント。2系統を並列に並べてミックスして出すこともできるし、それぞれLとRに割り振ることも可能。また1系統目から2系統目へ、2系統目から1系統目へ直列に接続して鳴らすことも可能になっています。
3コア800MHz ARMプロセッサで32bitフロート演算を実現
そんなさまざまなリバーブサウンドを利用することができるBigSkyですが、今さら言うまでもなく、これは完全なデジタルエフェクトです。14年前の初代BigSkyと比較して、より複雑なアルゴリズムのリバーブを数多く装備しているだけでなく、2つリバーブを同時に扱えるようになっている背景には、ここに強力なプロセッサを内蔵していることがあります。
初代のBigSkyはAnalog DevicesのSHARCというシングルコア366MHzのDSPが搭載されていたのに対し、BigSky MXでは3コア800MHzのARMプロセッサが採用されているんです。ここであんまりマニアックな内容にまでは言及しませんが、心臓部がまったく異なるものになっているんですね。簡単にいえばBigSky MXの心臓部はコンピュータ。これによって非常にパワフルな処理をリアルタイムに行っているのです。またこのプロセッサによって32bitフロート演算を行っており、劣化のない非常に高音質なエフェクトを実現しています。
そういうこともあってなのか、初代のBigSkyと、この新しいBigSky MXでは同じプリセットでも微妙に違う音になっているようです。そのため、あえて、初代と同じ音にするためのモードが搭載されているのも面白いところです。
なお、入出力は6.3mmのフォンジャックを使ったアナログのみとなっていますが、ここでのA/Dコンバータ、およびD/Aコンバータは24bit/96kHzとなっているという点も見逃せないところです。
USB Type-C搭載で、Windows/Macとの連携が可能
さて、このBigSky MXになって進化した点の一つがUSB Type-Cの端子を備えたこと。これは電源供給用ではなく、あくまでもコンピュータとの接続用。ただし、前述の通りオーディオの入出力はアナログのみとなっていて、このUSB Type-Cを通じてやり取りできるのはMIDI信号となっています。
WindowsおよびMacで接続する上において、とくにドライバなどは不要。接続すればすぐに使えるようになっています。
またStrymonがサポートしているのはWindowsおよびMacとなっていますが、USBクラスコンプライアントとなっているので、iPhoneやiPad、Androidとも接続は可能だと思います。実際、iPhoneで接続してみたところMIDIポートとして認識して使うこともできました。
無料ユーティリティのNIXIE 2でプリセットを管理、IRデータのやりとりも
では、USBで接続して何ができるのか。もっとも簡単で便利に使えるのがStrymonが無料公開しているユーティリティソフト、NIXIE 2というソフトを使うことです。
現時点でNIXIE 2はベータ版ということでフル機能使うことはできず、とくにプリセットのエディットはWindows版もMac版もできないようです。そのためBigSky MXをUSB接続すると認識して画面に表示はされているもののグレーアウトされた状態でこの画面上でパラメータを動かすことはできません。
とはいえ、BigSky MXに入っているプリセットを自動的に読みだしてくれて、プリセットの選択を画面上で行えるほか、プリセットデータをもとにお気に入りのライブラリを作ったり、そのプリセットデータをまとめてバックアップを作るといったことも可能になっています。もちろん、BigSky MX本体でエディットして保存した結果もここで管理できるので、いろいろ便利に活用できそうです。
またファームウェアのアップデートもこのユーティリティでできるので、コンピュータでBigSky MXをコントロールするつもりはない、という人でもこれだけは適応しておいたほうがよさそうですね。
さらにこのNIXIE 2にはIR Managerというものも搭載されています。これは前述のIMPULSEアルゴリズムで使うIRデータを管理するためのもの。本体にあらかじめ入っている22種類のIRデータはとくに動かすことはできないのですが、ここに手持ちのIRデータを転送して使うことが可能になるのです。
ネット上を検索してみるとフリーのIRデータ(wavファイル)も数多くあるので、それらをこのIR Managerを通じてBigSky MXに転送することで利用できるようになります。
ちなみにStrymonはNIXIE(Version 1)というソフトも公開していますが、これはBigSky MXは対象外となっており、これを起動してもまったく使うことはできないようですね。
プログラムチェンジ、コントロールチェンジでDAWからコントロール
通常、BigSky MXをコンピュータと連携して使うのは、このNIXIE 2を使うところまでではあるものの、それで終わらせたらもったない。DAWと連携させることで、より積極的な活用ができるようになっているので、少し試してみました。
そもそもDAWから何ができるのかというと、MIDIを利用して、BigSky MXのプリセットを変更したり、各種パラメータの変更ができるのです。そのため、たとえばライブでギターを演奏しながら、プリセットを切り替えたり、パラメータを変化させていくという場合、これを自動で行うことができるわけです。
そのプリセットの変更に用いるのが、プログラムチェンジです。ご存じの通りMIDIのプログラムチェンジは1~127となっていますが、BigSky MXのプリセット番号は000A、000B、001A、001B、002A……となっています。そのため000A~063Bまで扱える形です。では064A以上はというと、MIDI BANK切り替えで扱えるようになっています。MIDI CC 0の値が0の場合が、先ほどの000A~063Bまで、MIDI CC 0が1のときは064A-127B、MIDI CC 0が2のときは128A~149Bという、やや変則的なプリセット変更です。
一方、各パラメータはというと、マニュアルにすべて記載があります。これもちょっとわかりにくいのですが、前述のとおり、BigSky MXは2系統のリバーブが使えるようになっており、Reverb 1を変更する場合とReverb 2を変更する場合でコントロールチェンジの番号が異なるようになっているのです。
たとえばReverb Type、つまりリバーブのアルゴリズムを選ぶ場合、Reverb 1の場合ならMIDI CC 1に対して0~11を、Reverb 2ならMIDI CC 2に対して0~11を出力する形です。ただし、本来のMIDIのコントロールチェンジの使い方としてはCC 1はモジュレーション、CC 2はブレスコントローラと決まっているので、やや反則的な使い方ではありますね。
MIDI出力を利用してオートメーションの書き出しも
一方、どこまで使うことがあるかはわかりませんが、演奏中にプリセットや各パラメータを動かすという場合、オートメーションを利用することもできるのですが、そのオートメーションをBigSky MX本体のパラメータを動かした結果を記録していくことも可能になっています。
ただ、この方法が若干トリッキーでした。まずデフォルトではパラメータを触ってもMIDIのプログラムチェンジも、コントロールチェンジも出力されません。これはBigSky MX本体の設定機能を使って出力可能にしておきます。
ただ、これでもUSBからはMIDI出力されないので、おや?と思ったのですが、実はBigSky MXには3種類のMIDIポートが用意されているんです。その1つがUSB Type-C端子なのですが、それ以外にDIN 5 PINのMIDI入出力があります。さらにEXP端子を設定によってMIDI入力にすることが可能となっています。
試しにDIN 5 PINのMIDI出力をDAWへ入れてみたところ、こちらから信号が来ていました。これを利用するには、オーディオインターフェース内蔵のMIDI端子など、別途MIDIインターフェイスが必要となりますが、うまく活用することで、BigSky MXを120%使い切ることが可能になりそうです。
以上、やや妙な角度からStrymonのリバーブ、BigSky MXを紹介してみました。ギター用としてはもちろんですが、アウトボードとしてシンセ用のエフェクト、ドラム用のエフェクト、さらにはボーカル用途などでも面白い効果が発揮できそうなので、ぜひDAWと組み合わせて使ってみてはいかがでしょうか?
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