ゼンハイザーのハイエンドマイクロフォンMKH 8000シリーズに双指向性のコンデンサマイクMKH 8030が仲間入り!

SENNHEISER(ゼンハイザー)が1945年の創立より培ってきたマイクロフォン製造技術すべてを投入して製造された、ハイエンドマイクロフォンラインナップMKH 8000シリーズに、双指向性マイクMKH 8030(299,200円税込)が新たにシリーズのラインナップに入りました。MKH 8030は、M-S方式ダブルM-S方式Blumlein録音に対応しており、フィールド録音、スポーツ中継や一般放送、劇場、オーケストラのレコーディング、スタジオ音楽に最適なマイクとなっています。

これまでMKH 8000シリーズは、オムニのMKH 8020、カーディオイドのMKH 8040、スーパーカーディオイドのMKH 8050、ワイドカーディオイドのMKH 8090、ショットガンのMKH 8060、ロングショットガンのMKH 8070が発売されてきましたが、ここに待望の双指向性マイクであるMKH 8030が仲間入りを果たした形です。同じシリーズにこの双指向性マイクが登場したことにより、複数のマイクを組み合わせて行うMS録音などを、同じ質感、同じく高いクオリティのマイクで行えるようになったのです。そんなMKH 8030の発表会に先日伺い、博士研究員でサウンドエンジニアの齋藤 峻さんによるMKH 8030のレコーディング音源を聴いてきました。実際プロのエンジニアがこのマイクをどう評価しているのか伺えたので、MKH 8030の概要とともに紹介していきましょう。

従来のコンデンサマイクとはまったく異なる双指向性コンデンサマイクMKH 8030

来年設立80周年を迎えるSENNHEISER

SENNHEISERは、1945年にフリッツ・ゼンハイザー氏によって設立され、家族経営の小さな会社からスタートしました。創業当時から変わらずドイツを拠点にしており、現在は世界中の約2,200人の従業員を率いる、まもなく80周年を迎える老舗大手メーカーとなっています。業界では、もはや定番中の定番メーカーで、SENNHEISERのマイクがあるのが当たり前。ヘッドホンの評価も高く、多くのエンジニアがSENNHEISERのヘッドホンを愛用しています。

これまで、いろいろな指向性を持つマイクがMKH 8000シリーズに登場してきた

MKH 8000シリーズの特徴。従来のコンデンサマイクとはまったく異なる設計で開発されている

そんなSENNHEISERのMKH 8000シリーズに新たに仲間入りする形でリリースされたのが、MKH 8030です。まずはそのMKH 8030のプロダクト・マネージャーであるSENNHEISERのKai Lange(カイ・ランゲ)さんによる紹介ビデオがあるので、こちらをご覧になってみてください。

このビデオにもあるとおり、一般的な小型のコンデンサマイクロホンカプセルはAFコンデンサマイクというものを用いています。これは柔軟性どころか、音響感度を抑える硬質なダイアフラムを特徴としており、耐久性も低く、過酷な環境から影響されやすくなっています。そうした従来のAFコンデンサマイクの問題を解決し、信頼性、耐久性、正確性に優れたのが、RFコンデンサの原理を採用したのがMKH 8000シリーズだ、というのです。

MKH 8030にはRFコンデンサマイクが採用されている

通常、コンデンサマイクは、音波がダイアフラムを動かすと、コンデンサの静電容量が変化し、これを音声信号に変換しています。そのため構造上ダイアフラムは硬質である必要があり、高い張力をかけられています。一方RFコンデンサマイクは、連続的な8MHzの交流電流をダイアフラムの振動で変調し、直ちに復調することで音声信号を取り出します。低張力のダイアフラムを使用するため、低域に対する反応が非常によく、最低周波数まで広い応答範囲を実現しているのです。ちなみに、AFはAudio Frequencyの略でオーディオ周波数を意味し、RFはRadio Frequencyの略で高周波を意味しています。MKHという名前はドイツ語のM=Mikrofon(マイクロホン)、K=Kondensator(コンデンサ)、H=Hochfrequenz (高周波)を由来としています。

ダイアフラムにテンションがかからないことによるメリットは大きい

つまりMKH 8000シリーズは、従来のコンデンサマイクとはまったく異なる技術を用いたマイクなわけですが、ほかにもMKH 8000シリーズにはさまざまな特徴があります。さきほど低周波域まで収音できると書きましたが、上は最大50kHzまで対応しています。さらに従来のコンデンサマイクでは、リニア化された周波数特性を得るために中音域を音響的に減衰させる必要があり効率が損なわれていましたが、RFコンデンサマイクにその必要はなく、そのままの音を収音することが可能。また、従来のコンデンサマイクはフラットな周波数を音響フィルターを使って作る一方、MKH 8000マイクの場合、フィルターが不要なので、自然な音像を実現しています。

MKH 8000シリーズはSNがよく、湿気に強い

単にRF技術を取り入れれば、優れたマイクが作れるというわけでなく、これだけのクオリティを出せるのはSENNHEISERの技術があってこそ。またMKH 8000シリーズは、Push-Pullカプセル設計を採用しており、ダイアフラム前後の空気抵抗を均質化することで、最大SPLまで揺れ方向の違いによる歪みがなく、ノイズを低減し、非常にクリアな信号を実現。さらに低インピーダンスのカプセル設計とRF電流の流れによる振動により水分を蒸発させるので、多湿の気候でも完璧に機能するのです。

Push-Pullカプセル設計を採用することにより、歪みを低減

複数のマイクと組み合わせて使うと真価を発揮するMKH 8030で行うM-S録音方式

低いセルフノイズ、低い非線形歪み、正確な指向性、正確な低周波応答、正確な高周波応答、そして過酷な環境における耐久性を実現しているのが、MKH 8000シリーズなのですが、ここに理想的な双指向性マイクとしてMKH 8030が仲間入りを果たしたのです。双指向性マイクとは、フロントとリアに鋭い指向性を持つマイクで、複数のマイクと組み合わせることで、その真価を発揮します。そして複数のマイクを組み合わせて使用するには、正確性が非常に重要なのですが、前述の通りMKH 8030はそこをクリアしています。MKH 8000シリーズに共通する部分ですが、MKH 8030のサイズ感は非常にコンパクトで、設置位置で困ることはなく、複数のマイクを組み合わせる際も使用しやすいという特徴があります。もちろん、単体でも後方にノイズが少ない場合に鋭い指向性を活かした収録が行えたり、逆にフロントとリアに収録したい音がある場合に使用できるのですが、よく利用されるケースはやはりM-S録音方式だと思います。

単一指向性マイクと双指向性マイクを組み合わせて行うM-S方式の録音

M-S方式での録音とは、ステレオ録音の一つで、Mid(ミッド)とSide(サイド)の音声信号を分けて処理する方法。マイクは単一指向性マイクと双指向性マイクの2本用意し、単一指向性マイクを音源に向けて設置、双指向性マイクを90°クロスするように単一指向性マイクの真上か真下の同軸上に配置します。録音後は、DAWやミキサー上でこれをミッドとサイドになるように設定します。設定は簡単で、単一指向性マイク(M)のトラックのPanをセンターにし、双指向性マイク(S)のトラックを複製して、1つを左に振り切り、複製したトラックの位相を反転させて右に振り切ります。こうすることで、単一指向性マイクのトラックはミッドをコントロールでき、双指向性マイクの2つのトラックでサイドをコントロールできます。このとき、双指向性マイクの2つのトラックはグループ化してボリュームフェーダーをリンクさせて置くと便利です。

複製したトラックの片チャンネルの位相を反転させ、ミッドとサイドを作る

このM-S方式での利点としては、2本のマイクが同じ地点にあるため、音源の定位が正確で、たとえばステージ上の演者を音源から想像しやすいです。また、空間の広さを後処理で変更することができるので、サイドのレベルを変えてルーム感を演出することができます。またマイクの設置方法も簡単で、マッチドペアのマイクを2本用意する必要もありません。MKH 8030は、MKH 8000シリーズと組み合わせると特性が同じなので最高のセッティングですが、もちろん手持ちの単一指向性マイクと合わせても問題なしですよ。

非常に正確な収音能力を誇る

小さいのに低音域まで豊かに録れていた

さて、冒頭でもお伝えしたようにレコーディングした音源を載せることはできないのですが、博士研究員でサウンドエンジニアの齋藤 峻さんがMKH 8030を実際に使ってみた感想とレコーディング環境について紹介します。

博士研究員でサウンドエンジニアの齋藤 峻さん

「今回はピアノとチェロのデュオコンサートを録音させていただきました。僕の場合は、全体を録るメインマイクと楽器に立てるスポットマイクで収録することが多いです。メインマイクは、MKH 8030とMKH 8040のMSセッティング。そのサイドにMKH 8020を2本、AB方式で設置しています。またNeumannのKK 184とKM 120を比較対象としてMSセッティングで立てています。そしてピアノにはMKH 8090を使用しました。実際聴いてみるとMKH 8030とMKH 8040のMSセッティングに、AB方式をちょっとずつ足すとより自然なステレオイメージを作ることができましたね」(齋藤 峻さん)

実際に行われた録音のマイクプラン

「実はずっと双指向性マイクをMKH 8000シリーズで出してほしいな、と思っていたんです。双指向性マイクがあると、Hamasaki Cubeだったり、Hamasaki Square、MS Triangular prism、Blumleinといったいろいろな方式で遊べるので、かなり嬉しかったですね。MKH 8030はサイズ感がいいですよね。小さいので、演者の前に立てても邪魔にならないし、複雑な構成のマイクセッティングも作りやすいです。双指向性マイクは、少し帯域や音場が狭いという印象があったのですが、MKH 8030はむしろ帯域も音場も広いなと感じましたね。このサイズなのに低音域が豊かに録れていたのには驚きました。これまでMSでのレコーディングは好きではなかったのですが、今後は積極的に取り入れていきたいですね」(齋藤 峻さん)

双指向性マイクがあると、さまざまな方式を試すことができる

以上、スタジオレコーディングでも、フィールドレコーディングでも大活躍するMKH 8000シリーズの新作MKH 8030について紹介しました。SENNHEISERの技術が詰め込まれたMKH 8030をぜひ試してみてはいかがでしょうか?

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MKH 8030製品情報

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