フランスのUVIが、史上最強といって間違いない非常に強力なテープシミュレータ・プラグイン、Tape Suiteをリリースしました。これまでも多くのメーカーからテープシミュレータは存在していましたが、このTape Suiteは既存のものとは次元が異なる強力なもので、ホンモノのテープレコーダーを通したサウンドをリアルに作り出すことができる、というもの。磁性体を使ったテープの特性を正確に物理モデリングで再現するとともに、Dolby NRなどで知られるノイズリダクション機能を録音時、再生時それぞれで再現させるほか、速度調整やテープとヘッド距離の調整、アジマス調整などデッキの細かな調整を行ったり、低域のワウ効果や中域のフラッター効果を出すなど、テープデッキマニアも垂涎の超強力なシミュレータなのです。
しかもテープに録音した音にするだけに留まりません。Tape Suiteの名の通り4種類のプラグインから構成されており、テープサウンドに変更するColorのほかに、テープディレイを再現するDelay、テープサウンドを利用したフランジャー効果を出すFlanger、同じくテープサウンドを利用したコーラス効果を出すChorusから構成されており、いずれも同じテープシミュレータエンジンの上で成り立っているのです。実際どんなものなのか試すとともに、Tape Suiteの開発者であるUVIのジュディ・ナジュンデルさんにメールベースでのインタビューができたので、紹介していきましょう。なお、Tape Suiteは通常15,000円ですが、7月14日まで発売記念セールで9,000円と、その機能、性能からは信じられない価格で入手することが可能なので、ぜひ、チェックしてみてください。
アナログテープをベースにした4種類のプラグインで構成されるTape Suite
まず、UVIのTape Suiteのトレーラービデオがあるので、こちらをご覧になってみてください。
ビデオの作り方が上手というのはあると思いますが、かなりグッときますよね。ナカミチ、ソニー、ティアック……といろいろなメーカーのテープデッキが登場していますが、これらの機器をそのまま再現するというとは異なり、テープデッキをその仕組みから正確に物理モデリングして、テープデッキを通した音にするユニークなプラグインとなっています。
そしてユニークなのは、同じテープシミュレーションの技術をベースに、異なる4種類のプラグインで構成されている、という点です。具体的には
Flanger
Chorus
Color
の4種類です。マスタリング用などでテープのサチュレーション感や質感を加えるために使うのか、楽器の音作りのエフェクトとして利用するのかなど、目的によって使い分ける形になっています。
超強力で、リアルなテープサウンドを実現する4つのエンジン
その4つのプラグインのベースになっているのが、UVIが独自に開発したテープのシミュレーション技術で、これが従来のテープシミュレータとは大きく異なる、非常に高度で優れたものになっています。
いずれのプラグインも、画面右下のボタンを押すと、下が広がり、4つのパラメータが表示されます。見てみると
compander
playback filtering
modulations
という4つに分かれていますが、これがテープサウンドを実現するための、4種類のエンジンとなっているのです。
詳細は開発者インタビューにあるので、ここでは簡単に説明すると、まずtape simulationではテープの磁性体部分を物理モデリングでシミュレーションしています。これによって、サチュレーション感や、音の歪みなどを再現しています。
companderはノイズリダクション機能です。テープ時代をご存じの方ならお分かりの通り、各デッキにはDolby NRやdbxなど、ノイズリダクション機能が搭載されていました。そして録音時に掛けるとともに、再生時にもオンにすることで、音をよくすることができたわけですが、裏ワザ的に録音時だけDolby NRをオンにして、再生時にはオフにすることで、より高域が立った音にできるなど、いろいろな使い方もありました。ここでは、そうしたエンコーダ、デコーダそれぞれを利用でき、NRの種類も3種類が用意されています。
そしてplayback filteringはテープそのものの調整やテープデッキの再生ヘッドの特性をモデリングするものとなっています。speedパラメータではテープ速度を調整できるとともに、thicknessはテープの厚さ、widthではテープの幅を調整するため、コンパクトカセットなのか、1/2インチのテープなのかによって、サウンドは大きく変わってきます。さらにspacingではテープとヘッドの距離の調整、azimuthではヘッド角度の調整など、かなりマニアックにいじることが可能なのです。
さらにmodurationsではテープ再生速度を変更して、さまざまな効果を出すことを可能にしています。wowは0.1Hz~1.5Hzという低いうねりのワウ効果、flutterは5Hz~100Hzでのフラッター効果を再現。またrandomでランダムモジュレーションを実現するなど、まさに個々のテープレコーダーの特性的なものを実現できるようになっているのです。
4つのプラグインの使い分け
4つのプラグインの中で、もっともシンプルで、ベースになるのがColorです。これを利用することでテープを通したサウンドにすることができるので、マスタートラックに挿すといった使い方がよさそうです。
もちろん一言でテープレコーダーといっても、チープなラジカセのようなものから、超高級なStuderのA800のような最高級なものまで、さまざまなものがあるわけですが、このTape Suiteでは、パラメータを調整することで、そんなさまざまなテープレコーダーを再現することができます。とはいえ、テープの構造など細かく知らないユーザーが音作りをするというのも大変です。そのためUVIでは18種類のプリセットを用意してくれているので、まずはこれらを選んで使うのがよさそうです。この18種類は4つのプラグインそれぞれ共通ですね。
その上で各プラグイン用のプリセットもいろいろと用意されています。そのColorの場合は、テープシミュレータがTextureとして搭載されているほか、Speakerというものも搭載されていて、ここで録音するマイクや再生するスピーカーを設定できるようになっています。これによりテープとはまた異なるサウンドシミュレーションが可能です。
Delayは、テープを使ったディレイを再現するもの。実機としてはRolandのSpace Echo RE-202が有名ですが、そういったテープエコー、テープディレイを実現することが可能です。パラメータとして4つの再生ヘッドがあり、それぞれのディレイ時間を設定できるとともにPANを調整したり、それぞれのフィードバックをかけることも可能。一般的なデジタルディレイとは大きくことなるサウンドを作り出すことができます。
そしてFlanger、Chorusはそれぞれテープを使ったフランジャーであり、コーラスで、これも一般的なプラグインとはだいぶ違うったテイストのザラついた感じだけど、とっても気持ちいいサウンドを実現できるようになっており、UVIのFalconをはじめ、さまざまなソフトウェア音源に掛けることで、すごくいい味を出すことが可能です。
なお、以下に、Tape Suiteの概要を15分で紹介するUVIのビデオがあるので、これを見てみると、より理解が深まると思います。
7月14日まで発売記念セール。日本が世界最安値でTape Suite販売中、15日間体験版も
そんなUVIのテープシミュレーションプラグイン、Tape Suiteは通常価格が税込15,000円となっています。これだけの機能、性能を持ったものがこの価格なら、かなり安いように思いますが、UVIではTape Suiteの発売記念ということで7月14日まで40%オフのセール価格、税込9,000円での販売が行われています。
ヨーロッパ価格だと€99、アメリカ価格だと$99のそれぞれお40%オフとなっているのですが、現在の為替レートでみると€1=174.5円、$1=160.7円と超円安状況なため、それぞれで換算すると17,275円、15,909円で、そこに消費税が乗ってくるので、日本での販売価格が世界最安値となっているようです。近いうちに販売価格が見直されてしまう可能性も高そうなので、セールであるこの時期に買っておくのが絶対お得だと思います。
なお、UVIでは全機能を15日間無料で使える体験版も配布しています。買う前にちょっと試しておきたいとい方は下記のダウンロードページから入手してみてくだsだい。
そんなTape Suiteを開発したのはUVIの女性研究者である、ジュディ・ナジュンデルさん。そのジュディさんにメールでインタビューしたので、ぜひそちらも併せてご覧ください。
Tape Suite開発者、ジュディ・ナジュンデルさんインタビュー
--ジュディさんご自身の経歴など簡単に自己紹介をお願いできますか?
ジュディ:DTM Stationの読者のみなさま、こんにちは。ジュディ・ナジュンデル(Judy Najnudel)と申します。現在、フランスのパリにあるUVIでR&Dエンジニアをしています。私は2007年に音響エンジニアとして大学を卒業し、数年間テレビのポストプロダクションでシニアテクニカルマネージャーを務めました。その後、2017年に再び学校に戻り、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で音響信号処理とコンピューターサイエンスを音楽に応用した研究をしていました。それからも数年間IRCAMに留まり、UVIの資金提供によるマルチフィジックス、ノンリニアオーディオ回路モデリングに関する博士号を取得しています。博士号取得後、すぐにUVIに採用され、それ以来、同社で働いています。
--今回Tape Suiteを開発することになったキッカケ、経緯を教えてください。
ジュディ:博士課程では、フェロマグネティズム(強磁性)の研究に取り組みました。これは、ストンプペダル、アンプ、スピーカーに見られるノンリニアインダクターやトランスフォーマーをシミュレートするための研究です。ただ、この研究は磁性体の特性をシミュレートするものなので、同じく磁性体を用いたテープシミュレーションに応用することができると考えていました。加えて、私はテープミュージックの独特の特徴、例えば歪み、デチューン、磁束密度、予測不可能性、フィードバックによる自己発振などが好きで常に注目してきました。特にそれが持つ膨大な音の可能性に魅了されています。私がUVIに履いて最初に開発したプラグインでハードウェアとして存在する実際のコンプレッサーを忠実にエミュレートした製品、Opalのリリース後、このTape Suiteの開発に注力することができました。とてもクリエイティブなエフェクトに取り組むことができて大変嬉しく思っています。
--これまでも、さまざまなメーカーからテープを通した音にするエフェクトはいろいろありましたが、これらとTape Suiteは何が違うのでしょうか?
ジュディ:多くのプラグインは、例えばアイコニックなStuder A800のような特定のマシンをエミュレートすることを目的としたマスタリング用途向けのものか、一般なテープモデルを提供していることが多く、テープベースのエフェクトにおけるクリエイティブな可能性が限られていると感じていました。Tape Suiteでは、テープサウンドに寄与する核心要素、すなわち磁化、再生ヘッドのフィルタリング、そしてトランスポートのモデリングに焦点を当て、ユーザーが探索できる広いパラメーター範囲を提供できるようにしました。実機のキャリブレーションでTape Suiteのパラメーターを操作したときに得られるような結果を提供するテープデッキの製造メーカーは実際には存在しませんが、このTape Suiteのモデリングはまさに実際のテープデッキと同様な動作、音の変化を再現できるようになっています。つまり磁気テープの自然な欠点を補正したりせずに、または意図的にテープのコーティング、再生ヘッドの位置、キャプスタンを変更した場合のマシンの音を再現しています。実際にこれを少し試しただけでも、とても楽しめると思います。また、製品を単なる「テープサウンド」エフェクトに留まらず、共通のモデルに基づいたエフェクトコレクションにしようと、開発の早い段階で決定しました。それをDelay、Flanger、Chorusに絞り、それぞれに特定のコントロールを追加しました。Colorには、ノイズテクスチャーやスピーカー、およびその他のデバイスからのインパルスレスポンスを追加し、音をさらに変化させました。単一の巨大なマルチエフェクトではなく、4つの個別のストリームライン化されたプラグインを持つことで、特定の使用ケースに対して適切なツールを際立たせることができるようにしたのです。
--UVIというとサンプリング音源のイメージが強いので、Tape SuiteもIRを使ったエフェクトなのかなと思いましたが、物理モデリングであってIRは使っていないのですか?
ジュディ:Tape Suiteのテープモデルはハイブリッドです。磁化とトランスポート(Tape SimulationとModulation)には物理モデリングを、コンパンダー(Compander)や再生フィルタリング(Playback Filtering)には信号ベースのモデリングを使用しています。Colorに含まれる追加デバイスのために使用されているのはインパルスレスポンス(IR)のみです。
--Tape Simulation、Compander、Playback Filtering、およびModulationの4種類の物理モデリングを組み合わせているようですが、中でも独自なもの、また開発で大変だったものはどれですか?またどうやって、その大変なものをクリアしたのかを少し教えてください。
ジュディ:前述の通り、実際にはTape SimulationとModulationセクションだけが物理モデリングで行っています。テープシミュレーションの磁化モデルは、私の博士課程の成果であり、当時かなりの時間をかけて理解しました。実際の強磁性体(飽和、メタスタビリティ、ヒステリシス、温度への感度など)の特徴を捉えるマクロモデルを設計し、少ない変数とパラメーターで容易に制御およびリアルタイムでシミュレートできるようにしたかったのです。このモデルを広範な電子回路の他の部品に接続できるようにモジュラーにしたかったです。また、このモデルをエネルギーベースにし、限界までプッシュされてもリアルな音を出すことができるようにしました。これらの制約から、統計物理学とポート・ハミルトン系(port-Hamiltonian system)に注目し、すべての要件を満たすモデルを最終的に開発しました。オンライン上でも公開されているので、興味のある方はご覧になってみてください(https://dafx2020.mdw.ac.at/proceedings/papers/DAFx20in21_paper_16.pdf)。その後、このモデルを学会で発表し、査読付きジャーナルに論文を公表しました。幸運なことに、Tape Suiteの開発が始まったときにこれらの経験を活かすことができました。Modulationセクションに関しては、直接ディレイにLFOを適用する代わりに、テープの速度自体を制御してよりリアルなワウやフラッターを得たかったのです。しかし、これはユーザーが設定したテープの長さに対応する瞬時のディレイを見つけるために速度を統合する必要がありました。また、ランダムモジュレーションの可能性も必要で、この統合は事前計算ではなくその場で行われなければなりませんでした。そのため、ディレイ検索アルゴリズムの最適化に多くの思考を注ぎ、CPU負荷を削減し、コーラスのためにボイスを追加できるようにしました。Companderに関しては、いくつかの機械を入出力測定と最小限の回路図から逆解析する必要があり、かなりの挑戦でしたが、私は特にこの種の作業が好きです。Playback Filteringの効果は文献で十分に文書化されていますので、効率的でパラメトリックな実装を見つけることが課題でした。そして、UVIのより経験豊富な開発者たちの助言に頼ることができました。
--トレーラーのビデオを見るとナカミチやソニー、ティアックなど日本メーカーのデッキがいろいろ登場しますが、これら個別の機器をモデリングしたものなのでしょうか?それとも一般的なテープレコーダーをモデリングし、パラメーターでいろいろ調整できるというものなのでしょうか?
ジュディ:はい。先ほどもお話した通り、これは汎用のパラメトリックモデルであり、特定のテープマシンを再現することを目指したものではありません。
--ジュディさんご自身のもともとテープレコーダーに関する思い出などあったら教えてください。
ジュディ:音響工学を学び始めた当時、教授たちは最初、私たちにDAWを触らせてくれませんでした。代わりに重いナグラ(Nagras)を使用した素材収録、テープをハサミとセロテープで手作業の編集、そして二つのテーププレーヤーとテープレコーダーでミキシングを行う必要がありました。これは非常に手間がかかる作業でしたが、私たちに物事を整理して取り組むこと、選択的になること、そして何事も二度考えることを教えてくれました。この経験は非常に貴重でした。デジタルに切り替えた際も、これらの良い習慣の多くを保つよう努めました。また、小学校時代、父親が私のクラスメイトや私たちをステラボックス(Stellavox)で録音してくれたことにも良い思い出があります。週末中ずっと歌っていた記憶があります。数年前にそのコピーを見つけた際、再び聴いてみると、まるでタイムマシンに乗ったような感覚でした。テープ特有の音が当然のようにノスタルジアを加えていました。そして、もちろん、私が育った90年代から2000年代初頭は、友達とミックステープを交換するのが流行していた時代です。それを作る時間は本当に何かを意味していて、それは愛情を込めた作業でした。私は今でもいくつかのミックステープを持っています!
--日本のDTMステーションの読者へコメント、メッセージがあればぜひお願いします。
ジュディ:難しい話を最後までご覧いただき、ありがとうございます。Tape Suiteは、ほかにはない、非常にリアルにテープレコーダーを再現するソフトウェアであるともに、音楽制作において、さまざまなシチュエーションで活用できるユニークなエフェクトにもなっています。ぜひ、多くの方に楽しんでいただけることを願っています!
--ありがとうございました。
【関連情報】
UVI Tape Suite製品情報
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