日本の音楽シーンを牽引する松井五郎さんが語る「作詞の極意」。JASRACの音楽クリエイター向けイベントCreator’s Pathより

以前「どうやって音楽でお金を稼ぐか知っていますか?JASRAC主催の音楽クリエイター限定・無料トークイベント、Creator’s Path」という記事で紹介した、日本音楽著作権協会=JASRACが主催するトークイベントCreator’s Pathが2月1日に開催されました。これは、著作権やJASRACの信託契約などに関する知識や情報を音楽クリエイターに提供することで、その創作活動を支援することを目的とした、音楽クリエイター向けの支援プログラムです。ゲストは毎回第一線で活躍する音楽クリエイターなので、音楽制作のノウハウだったり、考え方、仕事につながるヒント…などなど、著作権の知識だけでなく、制作の参考になる話も満載のイベントとなっています。

以前の記事でも紹介していますが、この日のゲストは、2018年にオリコン年間ランキング・作曲家部門において1位を受賞した前迫潤哉さん。SMAP「無我夢中なLIFE」、King & Prince「MAGIC WORD」、NiziU「Step and a step」などの作詞を手掛ける木村友威さん。そしてスペシャルゲストとして、1981年にチャゲ&飛鳥の2枚目のアルバム「熱風」で作詞家デビュー後、安全地帯、工藤静香、BOØWY、氷室京介、郷ひろみ、MAX、V6など、幅広いアーティストに作品を提供し、現在までの総作品数は3000曲を超える、日本の音楽シーンを牽引する松井五郎さん。この日、六本木クラップスで行われたCreator’s Path ”LOUNGE”に実際に行ってきたので、その様子を紹介していきましょう。

松井五郎さん(写真中央)、前迫潤哉さん(写真右)、木村友威さん(写真左)をゲストに開催された第13回目Creator’s Path

豪華ゲストが出演するCreator’s Path

2017年からスタートしたCreator’s Pathは、今回で13回目の開催となりました。会場は、六本木クラップス。学生の方や初めて参加する方も多く、すでに音楽制作を始めている人も、これから始めようとしている人も、誰でも楽しめるイベントとなっていました。そんな今回のCreator’s Pathのテーマは、「作詞家の見ている世界。ゲストと参加者による作詞ミニワークショップ」。実際に第一線で活躍する作詞家さんの裏話や制作のヒントを聞きつつ、お題から思い浮かべたフレーズなどを発表する来場者参加型のワークショップという形で行われました。

第13回目のCreator’s Pathは六本木クラップスで行われた

Creator’s Pathの冒頭で松井五郎さん、前迫潤哉さん、木村友威さん、3名のプロフィール紹介や最近のワタシと題して、写真とともに活動報告した後、作詞のワークショップがスタート。このワークショップでは、来場者が事前に配られた写真を見て「要素」「タイトル」「フレーズ」を書き出して、その表現方法についてプロの作詞家と一緒に考えていく、というものになっていました。

「要素」は写真に写っているものや、そこから連想されるもの。「タイトル」は、タイトル付け。「フレーズ」は、「要素」で書き出したものから想像を膨らませていき、歌詞になる前段階の簡単な文章を作っていくというもの。そんなワークショップの中で、作詞の参考になる話がたくさんあったので、その触りを少しだけピックアップして紹介していきます。

ゲストと参加者による作詞ミニワークショップ

見えない要素を見つけ出す

前迫:ここまでいくつか来場者の方が書き出してくれた「要素」「タイトル」「フレーズ」を見てきましたが、松井さんはどう思われましたか?
松井:最小のワードで最大限のものを表現するということを僕は普段意識しています。みなさんが書き出した「要素」をいくつか見させていただきましたが、写っているものだけを書き出している方が多いですね。見えているものだけでなく、見えないものも捉えられるようになるといいですね。

トッププロ3名による作詞についてのトークで会場も大きく盛り上がった

松井五郎さんが成功したきっかけは出会い

前迫:ところで、松井さんが成功したきっかけはなんだったのでしょうか?
松井:一番は出会いですね。たとえば、玉置浩二と出会ったり、氷室京介と出会ったり、自分の言葉の世界をちゃんと伝えてくれる素晴らしい人たちがいたからこそ、今の僕はあると思います。歌詞は机の上で書いているだけでは何の役にも立たない。曲になり、アレンジされ、歌ってくれる人がいて初めて完成すると思うんですよね。だからこそ、ライブハウスでもYouTubeでも、いい声だなと思う人に連絡とってみて、曲を作ってみたりとか、積極的にアプローチしていってほしいと思います。

松井五郎さん:作詞家。1981年にチャゲ&飛鳥の2枚目のアルバム「熱風」で作詞家デビュー。安全地帯、工藤静香、BOØWY、氷室京介、郷ひろみ、MAX、V6など、幅広いアーティストに作品を提供。現在までの総作品数は、約3500曲。代表曲には、安全地帯「好きさ」「Friend」、工藤静香「恋一夜」「メタモルフォーゼ」、BOØWY「Dreamin’」、ビリーバンバン「また君に恋してる」、氷室京介「KISS ME」、光GENJI「勇気100%」、V6「愛なんだ」などがある。 1985年には、安全地帯の「悲しみにさよなら」で日本レコード大賞金賞を受賞。作詞家として、日本の音楽シーンを牽引する存在。

コンペで勝つための秘策

前迫:木村さんは、歌詞が採用されるためにしていることはありますか?
木村:コンペなので、書きまくっています。落ちたとしても、世に出た作品を聴いて、答え合わせはするようにしています。
前迫:正直聴きたくないですが、答え合わせは大切ですよね。木村さんは、1コンペ1作品だけでなく、3つとか書いていたりするんですよ。きっと、その想いは届くのではないかな、と思いますね。
松井:たくさん書くというのは、まさにその通りだと思います。玉置浩二からカセットテープの時代に1曲だけ作詞の依頼があり、そこにはセカンドアルバムのすべての曲、10曲が入っていたんです。1週間ぐらいの締め切りだったと思います。本来は依頼のきた1曲だけ作ればいいのですが、そのデモテープが素晴らしくて、感動して、頼まれてもいないのに残りの9曲も書いて提出してしまったんです。そしたら、すごく気に入ってくださり、ほかの人とは違う切り口で挑戦するというのは大事だと学びました。

木村友威さん:作詞家。2012年にKARAの「ロックオン」で作詞家デビュー。 主な提供楽曲には、SMAP「無我夢中なLIFE」、King & Prince「MAGIC WORD」、NiziU「Step and a step」、MAZZLE「Carnival」など。 作詞家として、幅広いアーティストに楽曲を提供しており、近年は特に若手アーティストへの楽曲提供が目立っている。今後も活躍が期待されるクリエイター。

流行りの言葉

前迫:松井さんは歌詞を書くときに、流行りの言葉は意識されますか?
松井:流行っているということは、流行らなくなるということですよね。そこが難しいところですね。どういう流行り方をしているかを意識しないと、すぐに時代遅れになってしまうということはあります。とはいえ、公衆電話とか十円玉並べてとか、リアリティを追求して、その時代を切り抜くという手もありますね。
前迫:流行りの言葉を外した方が、ずっと愛される可能性も秘めてますよね。アンテナ張って、読み解いていかなくてはいけないということですね。

前迫潤哉さん:鹿児島県出身の作詞家、作曲家、編曲家、シンガーソングライター。2018年、欅坂46の「ガラスを割れ!」がミリオンセラーを記録。同曲は第69回NHK紅白歌合戦でも披露された。 主な提供楽曲には、欅坂46「W-KEYAKIZAKAの詩」、日向坂46「JOYFUL LOVE」、NiziU「LOOK AT ME」、Snow Man「EVOLUTION」、King & Prince「Focus」、内田雄馬「Salt&Sugar」、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「SUMMER DAYS」など。2022年、音楽作家事務所「MOVEMENT PRODUCTION」を設立。2018年にはオリコン年間ランキング・作曲家部門において1位を受賞するなど、活躍が目覚ましい作曲家。

ハマりやメロディを意識して歌詞を書く

前迫:木村さんは、歌詞を書くときにメロディは意識されますか?
木村:まず歌います。ハマりとか、響きとかを意識して書くようにしています。
前迫:だからこそ、K-POPのハマりがいい歌詞を書けるんですね。
木村:K-POPの曲って、結構ハマり重視じゃないですか。デモが英語で歌われるものも多いので、そこにノリのいい日本語をはめないと、スピード感が落ちたり、もたってしまうので、歌いながら作っていますね。

などなど、Creator’s Pathでは、明日から実践できるようなノウハウやテクニックなど、プロアマ問わず参考になる話がたくさん飛び交ってました。ワークショップでは、ゲストも来場者も同じお題に挑戦して、ゲストがそのフレーズを出すに至った過程や考え方などを知ることができ、自分が書いたものと比較できるのも面白い経験となったはずです。また、ワークショップの後には、JASRAC職員を交えたトークコーナーがあり、著作権の知識やJASRACと契約するメリットなど、自分の楽曲を発表するのであれば必須の知識も学ぶことができました。またトークイベントの後に、参加者が会場で飲食をしながらゲストと直接お話できたり、JASRACの人に質問できたりするのが、このイベントの面白いところです。

以上、Creator’s Pathについて紹介しました。ここでは紹介しきれないほど、ためになる話が繰り広げられていたので、興味のある音楽クリエイターは申し込み無料なので、ぜひ次回参加してみてはいかがでしょうか?第一線の音楽クリエイターの制作の話は、雑誌やYouTubeなどでも見られますが、それが著作権やお金の話に結びつくのは、このイベントならではです。

【関連情報】

JASRACサイト