先日、Plugin AllianceからCenozoix Compressor(セノゾイックス コンプレッサ)というユニークなプラグインが発売されました。発売・流通元はPlugin Allianceですが開発を行なったThree-Body Technologyという中国北京のベンチャー企業。バリバリなメタルギター音源として有名なHeavier7Stringsをはじめ、数々の高性能音源を開発してきた実績のある会社です。同社がリリースしているCABINETRONでは、8つのキャビネットシミュレーターを同時に動かして、それをミックスしたりことができたり、Kirchhoff-EQは究極のパラメトリックEQともいえる音作りができるプラグインであるなど、非常にユニークながらも、実践的でかなり高品質なプラグインを世の中に送り出しています。
そんなThree-Body Technologyの新作がCenozoix Compressorなわけですが、これはモダンタイプとビンテージタイプのコンプレッサアルゴリズムを24種類搭載したプラグインとなっています。Drum、Vocal、Bus、Masteringなど、用途に合わせたモダンタイプのコンプとBlack FET、Blue FET、Vintage Opto、Virtual-Muなど、ビンテージコンプが搭載されており、これ1つであらゆるコンプレッサを再現することができます。ほかにも従来のコンプに搭載しておらず、別のプラグインで対応する必要があったトランジェント周りの機能や不自然なクリック音の除去機能…といったユーティリティも充実しています。さらに、Anti-Derivative Anti-Aliasing(ADAA)という技術により、高調波におけるひずみを回避していたりと、まさに究極のコンプレッサプラグインとなっているのです。そんなCenozoix Compressorを実際に試してみたので、紹介していきましょう。
24種類のコンプを搭載した究極のコンプレッサCenozoix Compressor
画期的なアイディアで実用的なプラグインや音源を開発するThree-Body Technology
Three-Body Technologyは以前、「ギター経験のなくても本気のプレイができるメタル系・超ギター音源、Heavier7Stringsがスゴイ!」、「誰でも簡単にヘビメタギターサウンドを演奏できるHeavier7Stringsはまだまだ進化中」といった記事でも紹介したメタル系ギター音源Heavier7Stringsを開発していたり、「手軽に自分だけのサチュレーションサウンドが作れる、OwnTHDが面白い」で紹介したサチュレーター、「究極のキャビネットシミュレーター!? 豊富なIRライブラリ搭載で超高性能・多機能なCABINETRON誕生」で紹介したキャビネットシュミレーターなど、ギター系で高い評価と実績を持つメーカー。
Heavier7Stringsを開発した会社が、Three-Body Technology
そんなThree-Body Technologyが新たに開発したのがCenozoix Compressorであり、今回はNative Instruments傘下のPlugiin Allianceからリリースされています。Cenozoix Compressorの前に開発されたEQプラグインKirchhoff-EQからPlugin Alliance入りしていて、今回は第2弾。あくまでThree-Body Technologyがチーム Allianceに買収されたというわけではなく、プロダクトによって、Plugin Allianceに入るという形になっているようです。
ちなみにPlugin Allianceは、SSL、SPL、Focusrite、Mäag Audio、elysia、Millennia、AMEK、Vertigo……といった名だたるメーカーのプラグインを要するプラットフォーム。ここに仲間入りしているわけですから、それだけプロに認められているメーカーということですね。
コンプに必要な要素をすべて詰め込んだプラグインCenozoix Compressor
さて、Cenozoix Compressorを起動してみると、以下のような画面が表示されます。
上段右側には、リアルタイムに波形が圧縮されている結果が表示されるので、視覚的にも分かりやすくなっています。左側は従来のプラグインのコンプにも搭載されているようなUIになっていますね。
12種類のビンテージスタイルと12種類のモダンスタイル、計24種類のアルゴリズムを搭載
上段にはメーター類が集約されており、下段でコンプの設定を調整していきます。Cenozoix Compressorにはさまざまな特徴があるのですが、やはりポイントは24種類あるコンプレッサアルゴリズムです。12種類のビンテージスタイルと12種類のモダンスタイルが搭載されており、用途によって自由に選択可能。まずは12種類のビンテージスタイルの特徴は以下の通りです。
12種類のビンテージスタイルと12種類のモダンスタイルが搭載されている
定番中の定番が並んだ12種類のビンテージスタイル
Brit VCA | タイトでパンチのあるサウンドで知られ、幅広いジャンルや楽器に対応するクラシック・チャンネル・ストリップのコンプレッサーにインスパイアされたモデル。 |
Glue VCA | Glueのニックネームで知られるクラシックVCAコンプレッサーにインスパイアされたモデル。ミックス・バスにインサートすると、トラックを接着剤のように”くっつけ”、まとまりのあるミックスを作り出します。 |
US VCA | 様々な楽器に対応するアメリカン・クラシックVCAコンプレッサーにインスパイアされたモデル。パンチの効いたトランジェント・レスポンスで、GlueやBrit VCAスタイルとは正反対の「ストレート」なサウンドが特徴。 |
Black VCA | ブラック・カラーのクラシックVCAコンプレッサーにインスパイアされており、アタック・ノブがないにもかかわらず、他のモデルでは再現できないユニークなトランジェントを生み出します。 |
Red VCA | クリーンで透明で温かみのあるサウンドで知られる”赤色”のVCAコンプレッサーにインスパイアされています。 |
Dist.VCA | 豊かなサチュレーションを生み出し、サウンドをタイトで厚みのあるものにするクラシックVCAコンプレッサーにインスパイアされています。 |
Black FET & Blue FET | クラシックFETコンプレッサーの2バージョンからインスパイアされたモデル。BlackとBlueのサウンドは似ていますが、少し異なります。ボーカルやドラム、ギター、ベースなど、あらゆるサウンドに対応します。 |
Vintage Opto | 高名なOptoコンプレッサーにインスパイアされたモデル。音質だけでなく、ユニークな マルチステージ・アタックとリリースが特徴です。 |
Diode-Bridge | 高名なDiode-Bridgeコンプレッサー・モデルにインスパイアされたモデル。強くコンプレッションすればするほど、サウンドはオープンになります。 |
Virtual-Mu | クラシック・チューブ・コンプレッサーにインスパイアされたモデルです。豊かな偶数次高調波歪みで知られ、ふくよかなローエンドと心地よいハイエンドをもたらします。 |
Vintage Tube | 豊かな高調波歪みで知られるクラシックなビンテージ・チューブ・コンプレッサーにインスパイアされ、温かみと深く潜るローエンドをもたらします。様々なサウンド、特にベースのコンプレッションに適しています。 |
名前は伏せられていますが、SSL、DBX、NEVE、1176、LA-2A、API……だったりと、定番が並んでいますね。なんとなくタイトルとツマミの見た目から分かる人も多いのではないでしょうか?これらをプラグインで集めるとしても、そこそこの金額になってしまうので、この12種類が手に入るだけでもCenozoix Compressorを持っていて損はないですね。
続いて12種類のモダンスタイルについてです。こちらはビンテージスタイルと違って、用途や目的ごとにチューニングされたコンプレッサになっています。それぞれの特徴は以下の通りです。
用途ごとにチューニングされた12種類のモダンスタイル
Clean | 科学的に「正しい」コンプレッション・スタイルで、あらゆる「特殊な処理」を行いません。Cleanは本ソフトウェアのデフォルト・スタイルで、すべてのパラメータを調整できます。理論上、Tight, Sensitiveなどを調整すれば、このスタイルであらゆるコンプレッションを実現できます。 |
Tight | Cleanに近く、内部パラメーターを調整してよりタイトでモダンなサウンドにできます。ローエンドがコンプレッションされると、アタック・タイムとリリース・タイムが自動的に短くなり、タイト感が増します。ただし、これにより低域の歪みが増加し、自然さが犠牲になる点に注意してください。 |
Open | 広汎な目的に適し、ワイド・オープンなサウンドを得やすい。調整できないパラメータがある点に注意してください。 |
Natural | Openに似ていますが、より自然で、控えめなコンプレッションのサウンドです。各種アコースティック楽器、特に弦楽四重奏のようなレガート奏法を行う楽器にお勧めします。 |
Vocal | Cleanに似ていますが、ボーカル向けです。 |
Pluck | Cleanとよく似ていますが、ギターやハープなどの撥弦楽器に適しています。アタック・セクションは、撥弦楽器のトランジェントに「魔法」を与えるような、強めの適応調整で適用されます。 |
Smooth | Naturalに似ていますが、よりスムーズです。 |
Drum | 少しダッキング感のある「ハード」なトランジェントを生成し、よりパワフルなサウンドを生み出します。ドラムのサスティンを伸ばすために、若干の調整でリリースが適用されます。このスタイルではトランジェントが強くなるため、Clampパラメータを大きく設定した上でコンプレッションを強め、「ボリューム」を「歪み量」に変換するのがお勧めです。 |
Hard | 「ハード」なアタックでサウンドを激しくドライブする、最もアグレッシブなスタイルです。ハードな加工が要求されるトラックに最適です。 |
Loud | Openとよく似ていますが、よりアグレッシブです。自然さを少し犠牲にすることで、「音の壁」効果を実現します。このスタイルを使用する場合、強めのレシオで大胆にコンプレッションし、メイクアップ・ゲインを上げることでよりラウドなサウンドを得られます。ユーザーが設定するアタックとリリースは、あくまで「目安」に過ぎません。 エンジン内部のアダプティブ・アタックとリリース調整により、より多くの効果が得られます。 |
Bus | マスタリングに似ていますが、コンプレッションの痕跡を強めに残し、Glue感を強調します。同時に、タイトなサウンドで、MasteringスタイルとTightスタイルをブレンドしたような感触があります。各種のバス/グループ・チャンネルに適しています。 |
Mastering | ダイナミクスを制限しながらコンプレッションを最小限に抑えます。同時にGlueのような感触で、トラック間の音量バランスを崩さないようにします。マスタリングに適していますが、各種のグループ・トラックにも使用できます。 |
ここにある通り、あらゆるソースのミックスにも使うことができるし、マスタリングにも使用できるのが、Cenozoix Compressorの特徴。Three-Body Technologyのページには各試聴サンプルもあるのでチェックしてみるといいと思います。
Three-Body Technologyには各試聴サンプルがある
逆にこれだけ種類があると、初心者の方はどれを使ったらいいか迷いそうですが、まずはモダンスタイルの各音源ソースに特化したアルゴリズムを使って行って、慣れてきたらビンテージスタイルの名機モデリングたちを使っていくと、音源のクオリティも上がりつつ、ミックスに対しての知識も付いてくるのでは、と思います。逆に、ある程度ミックス経験がある方は、気軽に別のコンプを使って試してみるということができますね。
Cenozoix Compressor1つで、ミックスに必要なコンプをほぼ網羅できるので、特に作曲編曲もしてミックスをするという方は、いろいろ音源なども揃えるとなると、かなりの金額になってしまうので、コンプはCenozoix Compressorで完結させてしまうというのが、いいかもしれませんね。
さて、24種類のコンプレッサアルゴリズムを紹介しましたが、Cenozoix Compressorには、ほかにもたくさんのパラメータが搭載されています。といっても、基本的には普通のコンプレッサとして使えばOKで、Threshold、Rasio、Knee、Attack、Releaseを調整すれば、それだけで十分いいサウンドを作ることが可能。でももし、さらに詳細にコントロールしたい場合、サウンドを作り込めるオプションが搭載されているので、これらについても見ていきましょう。
自分のスタイルに合わせたコンプのカスタマイズ
左から見ていくと、まずはPeak/RMSです。これは、たまにほかのコンプでも見かけるパラメータですが、これは入力信号をPeakとRMSのどちらで分析するか、または両方を組み合わせて分析するかを設定するもの。一般的にPeakは瞬間的なサウンドに、RMSは持続したサウンドに用いられており、これを自由な数値に設定することができます。Peakコンプレッションは速いトランジェントを捉えるのに優れているので、コンプレッション感が強く、一方RMSコンプレッションは、滑らかなアタックとリリースでより自然なサウンドをもたらすとされています。ただ、RMSは、レスポンスが遅いため速いトランジェントが漏れる可能性もあるという特徴もあります。Peak/RMSを真ん中に調整すると、Peakコンプレッションの長所をトランジェント処理に生かすだけでなく、RMSコンプレッションの特徴であるスムーズなリリースを実現させることも可能。
入力信号をPeakとRMSのどちらで分析するか、さらにミックスするか調整できる
次にFF/FBです。これは、Feed-forward / Feedback(フィードフォワード / フィードバック・コンプレッション)の略で、これは2つのコンプレッサの制御方式です。技術的な内容は置いておいて、dbx160など現代的なコンプはフィードフォワード方式が多く、1176やLA-2といったビンテージ物はフィードバック方式が採用されています。音の特徴としては、フィードフォワード方式はナチュラルでクリーンなサウンドで、フィードバック方式は粘りのある太いサウンドになります。Cenozoix Compressorでは、この2つのモードを切り替えるだけでなく、必要に応じてブレンドすることが可能となっています。もちろん、一部を除いてビンテージスタイルのアルゴリズムを選択している場合は、基本このパラメータは固定となっているので、操作することはできません。
Peak/RMS、FF/FB、Odd/Evenでコンプの特性をコントロールできる
続いてOdd/Evenについて。Odd(奇数)とEven(偶数)とあるように、奇数次と偶数次の倍音をコントロールができるパラメータとなっています。理論上、通常のコンプレッサは奇数次倍音しか発生しないのですが、Cenozoix Compressorでは、人工的に偶数次倍音を付加することが可能となっています。右に回して偶数次倍音を付加すると、アナログ真空管コンプレッサのような暖かく心地よいサウンドを得ることができます。ちなみに奇数次倍音は音の輪郭や明瞭さに影響します。これはビンテージスタイルでも調整可能なので、まさに自分だけのカスタムコンプレッサを作り上げることが可能となっているのです。
トランジェントの調整機能も充実
ここまでは、コンプレッサの特性についてのコントロールでしたが、ここからはトランジェント周りのコントロールについて見ていきましょう。トランジェントについてコントロールできるパラメータはClamp、De-Click、Punch/Pumpの3つ。
Clampは、アタックタイムを長く設定した際に、コンプが掛からなかったトランジェントに対して、ゲインリダクションを行えるパラメータ。コンプのアタックタイムが短いと人工的なサウンドになり、これが気に入らない場合、アタックタイムを長めに設定してClampを使うことで、トランジェントをコンプレッションしつつ、ナチュラルなサウンドを作ることができます。
Clamp、De-Click、Punch/Pumpの3つパラメータでトランジェントをコントロール
De-Clickは、ハードなコンプレッションを掛けた際に発生したり、鋭いトランジェントを持つサウンドのクリック音をコントロールできるパラメータ。1176などで深めにコンプをかけた際に発生する、あのアタック感を自在に調整できるのです。主にドラム/パーカッション類にコンプを掛ける際に重宝するパラメータとなっています。
De-Clickを使ってハードなコンプを掛けた際に発生しがちなパツッという音を軽減できる
続いて、Punch/Pumpは、名前の通りパンチ感とポンピング感をコントロールできるパラメータ。通常であれば、アタックやリリースを詳細に調整して、パンチ感やポンピング感を作る必要がありますが、Cenozoix Compressorでは、Punch/Pumpをコントロールするだけで、簡単に作ることが可能なのです。
Clamp、De-Click、Punch/Pumpでトランジェントをコントロールできる
リリースのコントロールについても、Sensitiveではオーディオコンテンツ内のさまざまなトランジェントに合わせて、リリースパラメータが自動的に調整する具合を決めることができたり、Tightを使って低域がメインの音源のリリースをコントロールできます。またサイドチェインコントロールも柔軟に調整でき、サイドチェイン用のEQが搭載されていたり、サイドチェインのモードも豊富に用意されています。
ただたくさんのコンプが使えるだけじゃない、音質への徹底的なこだわり
これだけいろいろなことができるコンプCenozoix Compressorですが、音質へのこだわりも半端じゃありません。Anti-Derivative Anti-Aliasing(ADAA)という技術により、高調波における歪みを回避しているのです。コンプレッサは、高周波倍音を発生させるエフェクトであり、デジタルコンプレッサにとってエイリアシングは最大の難敵。ちなみにエイリアシングとは、信号の周波数が現在のサンプルレートがサポートできる最大周波数を超えたときに発生する、高域のスペクトラムにおけるエラー信号のこと。このエラー信号が発生すると、人工的で不自然な音になるため、多くの場合アナログコンプの方が、デジタルコンプよりも音がいいとされる理由の1つなのだそう。
そんなエイリアシングの問題を解決するために採用したADAAは、当初Native Instruments社によって発明された技術。これまでウェーブシェイパーに利用されてきた技術ですが、これを初めてコンプに採用。さらにAdaptive Oversampling Interpolationという技術を新たに開発することで、アタックやリリースで発生する大量のエイリアシングも解決。しかもPCへの負荷を軽く保ったまま、クリーンで透明感のある、アナログ感のあるサウンドを実現しているのです。
以上、Cenozoix Compressorについて紹介しました。24種類のコンプレッサを搭載するだけに留まらず、コンプで起こる問題を解決するためのパラメータ、より作り込むためのパラメータ、そして高い音質を保つための設計…と、まさしく究極のコンプレッサでしたね。操作できるツマミが通常のコンプよりも多いので、最初は戸惑いそうですが、使いこなせば、かなり強い味方になってくれること間違いなしです。ぜひ、14日間のトライアル版もあるので、ぜひ試してみてください。
【関連情報】
Cenozoix Compressor製品情報(SONICWIRE)
Cenozoix Compressor製品情報(Three-Body Technology)
【価格チェック&購入】
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