プラグインメーカー、Sound MagicがNeo EQというシリーズのEQプラグインを出しているのをご存じでしょうか?これは従来のパラメトリックEQ/ダイナミックEQの概念である「周波数を調整して、Qを調整」した上で、そのゲインを上げるか下げるか調整するという考え方を抜本的に覆すもの。プラグイン側が素材の音を聴いたうえで、調整すべき周波数やQをAIが自動的に割り出してくれるので、ユーザーは単に上げるか下げるかすれば、いい感じに処理してくれるというものとなっています。
現在でているNeo EQシリーズは第3世代になったもので、もっとも基本となる製品でるNeo EQ Violet、複数の楽器が混じった音にも効率よく対応できるNeo EQ Scarlett、そしてマスタリングに最適化されたNeo EQ Toscaの3種類があるほか、この3つをセットにしたNeo EQ Trinityが存在しています。現在Sound Magicは日本に代理店がないため、米ドルでのネット購入という形にはなりますが、現在約60%オフとなっているのでNeo EQ Trinityでも$149.00という価格になっています。実際どんなEQなのか試してみたので、紹介してみたいと思います。
調整すべき周波数をAIが自動設定してくれる新世代EQ、Neo EQシリーズ
AIにより調整すべき周波数とQを自動で割り出してくれるNeo EQ
Sound Magicは音源もエフェクトもいろいろなプラグインを作っているメーカーです。先日も「手ごろな価格でフルオーケストラサウンドを実現できるSound MagicのNeo Orchestra CEの実力」という記事で、ちょっとユニークなオーケストラ音源を紹介しましたが、単にサンプリングして編集をして…というメーカーではなく、かなりテクノロジーに長けたメーカーのようです。
以前紹介したフルオーケストラサウンドを実現する音源、Neo Orchestara CE
そのSound Magicの最新テクノロジーとアイディアによって生み出されたのが、今回紹介するNeo EQシリーズです。これは、ダイナミックEQと呼ばれるジャンルのプラグインですが、従来のダイナミックEQとの最大の違いは、ここに周波数の設定というものがないこと。EQって周波数を設定することが一番重要なポイントであり、その設定すべき周波数がいくつであるかを見つけることができれば、あとはスムーズに調整していくことができます。
ただ、その周波数を見つけ出すことが難しいのが実際のところ。プロのエンジニアは、その経験から音を聴くと、「これは〇〇Hzあたりをブーストすればいいい」とか「これは△△kHz近辺を抑えるといい感じになる」というのが見抜けるけれど、多くのユーザーにとっては、手探り状態だと思います。
Neo EQシリーズの中でもっともベーシックなプラグインで、各トラックで利用することが中心となるNeo EQ Violet
そうした問題に着目し、Sound Magicが取り組んだのは、プラグインが音をリアルタイムにチェックして、どの周波数をいじると効果的なのかを見つけるという技術。機械学習を用いた手法により、その周波数を自動的に見つけ出してくれるのです。しかも、リアルタイムにチェックするため、その見つけ出してくれる周波数も刻々と変化していくというのも重要な点。たとえば、ボーカルにEQを掛けるという場合で、中域を抑えつつ、高域を持ち上げたいとしたとしましょう。この場合、通常なら「400~500Hz」辺りを下げて「700Hz辺りを上げる」といった操作をすると思いますが、ずっと同じ音程を歌っているわけではないので、ターゲットから外れるときもあるわけです。それに対し、このNeo EQはボーカルの音律にしたがって周波数設定も変化していくので、しっかり追跡できるわけです。
またNeo EQシリーズは周波数だけでなくQについても自動で見出してくれます。Qとは設定した周波数の前後どのくらいの幅を持たせるかを表すもので、非常に重要なもの。これもセットで見つけ出してくれるのですから、ユーザーとしては超楽チンですよね。
個別トラックに有効に効くNeo EQ Violet
ここで、Neo EQシリーズのもっともベーシックなプラグインである、Neo EQ Violetのデモのビデオをご覧ください。
お分かりいただけたでしょうか?ホルンのアンサンブルですが、前半は何も掛けない状態、後半は、少し調整した状態です。低域は変えず、中域を若干上げて、その倍音は絞って、高域は持ち上げる……といった操作ですが、ドラスティックに音が変化して、音がクッキリと前に出てきているのが分かると思います。
EQって、うまく周波数設定ができていないと、効きが悪いため、極端に持ち上げたり、下げたりしてしまいがちです。でも、そうした無理な使い方をすると、さまざまなバランスが崩れてしまい、思った音になりません。でも、効果的な周波数、Qの設定を自動で行ってくれるなら、そうした心配がいらず、少し調整するだけで、いい感じに仕上げることが可能です。
ちなみに、Neo EQ Violetにおいては、GAIN 1がメインとなる基音周波数。GAIN 2はその倍音周波数、GAIN 3さらにGAIN 4はその上の倍音周波数となります。そのGAIN 2~4を何倍音にするかは、HARMONIC MODEの設定によって変わってきます。デフォルトのNumericであれば2倍音、3倍音、4倍音ですし、Odd Oderにすれば奇数倍音だから3倍音、5倍音、7倍音となるわけです。
GAIN 2~GAIN 4が何倍音になるかはHARMONIC MODEで設定する
なおそうした割り出しとは別に低域をもっと持ち上げたいとか抑えたい、高域をもっと上げたい、下げたいという要望に対して効くようにLOW GAIN、HIGH GAINというパラメータも用意されているます。
一方、GAIN 1~4まである4つのバンド設定の下にはDynamicというスイッチがありますが、これをオンにするとダイナミックEQとして機能し、その帯域にコンプをかけることが可能になります。そのくらいで掛けるのかについてはTHRES.(スレッショルド)で調整していきます。またゲインの調整にも、ダイナミクス調整においても掛けすぎると、ブチッというノイズが乗ったり、歪みが発生することがあります。それを抑えてゆっくりと効くようにするためのSmoothというパラメータがあるので、問題がある場合はここを調整してみるといいようです。
複数の楽器構成のサウンドにも効くNeo EQ Scarlett
続いて、もう少し複雑なサウンドに対応するとともに、Supernovaという高周波要素を利用して音に輝きを出すための機能を備えたNeo EQ Scarlettについて紹介してみましょう。
こちらも基本的にはNeo EQ Violetと同様に、自動的にEQとして設定すべき周波数やQを見つけ出してくれるのですが、少し違うのは単に基音とその倍音という構成ではなく、サウンドを構成している主要の4パートを見つけ出し、主なものから順に割り出してくれるという仕掛けになっているという点です。たとえばボーカルなど一番目立つ音がGAIN 1に割り振られ、ギターがGAIN 2、ピアノがGAIN 3……などといった具合です。
複数種類の楽器が重なった音もキレイに分割してEQ処理ができるNeo EQ Scarlett
これだけでも十分過ぎる便利さなのですが、Neo EQ Scarlettにはもう一つ、すごい機能が搭載されています。それがSupernovaというもの。直訳すれば超新星ということなんですが、キラリンって光るような音作りを可能にしてくれるユニークな機能なのです。
どういうことなのか、以下にそのSupernovaでの効果も含めたNeo EQ Scarlettのデモビデオがあるのでご覧になってみてください。
前半約50秒の英語での解説については置いておくとして、そこからバイオリンのオリジナルトラックが流れます。そして1:20辺りからは低域と高域を少し持ち上げた場合にサウンドとなっています。これは、先ほどのNeo EQ Violet同様に、すごく聴いてますよね。
音をキラリと光らせるSupernovaの技術
が、ちょっと不思議ともいえる機能が、2:00からのSupernovaのデモ。ピアノとボーカルやピアノソロの曲になっていますが、お分かりになったでしょうか?ここではGAINのほうは4バンドともいじっておらず、単純にSupernovaのボタンを「ここだ!」という一瞬に押しているというもの。
このSupernovaは、オーディオ内の高周波要素の輝き強化して、キラリとした音にするように設計されたツールです。こうした音響強化はプロのレコーディングでもよく見られワザなのですが、印象に残る音に対して一瞬掛けるだけですが、これによってトラック全体に輝きを与える効果をだしています。
Supernovaをうまく利用することで、キラリとしたサウンドに仕立てることが可能
このSupernovaの効果は非常に短いトランジェント信号として構成されていますが、すぐに最大70dB程度の強度レベルに達することがあるのだとか。そのため従来のEQフィルター技術では、標準フィルターの能力を超えているため、この効果を再現するのが困難です。しかし、Sound Magicによる、最新の高調波再合成テクノロジーを使用してこれらのトランジェントを再現することができ、キラリとしたサウンドが作れる、というわけです。
マスタリング用EQのNeo EQ Tosca
そして最後に紹介するのがマスタリング用のプラグインであるNeo EQ Toscaです。これは前述のNeo EQ VioletやNeo EQ Scarlettとも異なる特性を持っています。
ご存じのとおりマスタリングでは、それほど派手に音を変えることはしない一方で、歪みを最小限に抑えた最高レベルの高精度EQ処理が求められます。それに対しNeo EQ Toscaでは高精度なピッチ検出アルゴリズムが搭載されており、正確で鮮明なサウンド解析を行います。
マスタリング用EQとして利用するのに最適なNeo EQ Tosca
その結果、マスタリング用として効く4つの周波数ゾーンを割り出し、GAIN 1~GAIN 4に割り振ってくれるのです。ちなみにGAIN 1は200~1000Hzの範囲の周波数に対応しており、人間が聴く音楽の音域としてもっとも目立つ部分ですね。またGAIN 2に設定されるのは約1~2kHzのサウンド、GAIN 3は2~4kHz、GAIN 4は4~8kHzとなっており、ちょっと動かせば効果的に効く周波数が設定される仕掛けとなっています。
このゲイン調整においては超低歪みになっているので、自然なサウンドでのマスタリングが可能になっています。
またこのマスタリング用のNeo EQ Toscaにも、Neo EQ Scarlettと同様の考え方のSupernovaが搭載されているので、ちょっとキラっとさせたいところには一瞬掛けることで効果を出すことが可能です。
以上、Sound MagicのNeo EQシリーズ、3つを簡単に紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?日本ではこれまであまり知られていないソフトだと思いますが、第2世代のNeo EQはNAMM Showにおけるプロオーディオ/サウンドプロダクションにおける最優秀賞を選ぶTEC Aardsにおいて2020年、信号処理ソフトウェア (ダイナミクス / EQ / ユーティリティ) 部門にノミネートされるなど、注目された製品でもあります。今回取り上げた3製品はその第2世代から抜本的なシステム変更があり、アルゴリズムを完全に作り直して、大きく機能・性能進化させた第3世代。そのため、実践においてもさらに使いやすく効果的なものになってます。
冒頭でも紹介したとおり、Sound Magic製品は現在まだ日本に代理店がないため、Sound Magicサイトから直接ダウンロード購入という形になります。また現在セール中となっているため、通常$129.00のNeo EQ Violetが$49.00、通常$169.00のNeo EQ Scarlettが$69.00、通常$169.00のNeo EQ Toscaが$69.00と約60%オフとなっています。さらにその3点をセットにしたNeo EQ Trinityは通常$399.00が$149.00とさらに手ごろな価格になっているので、この機会に入手してみてはいかがですか?
なお各プラグインともデモ版もあるので、少し試してみたいと方はダウンロードしてみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Neo EQ Violet製品情報
Neo EQ Scalett製品情報
Neo EQ Tosca製品情報
Neo EQ Trinity製品情報