人の歌声をVOCALOIDに!歌声変換プラグイン、VOCALO CHANGER PLUGINをヤマハが発売開始

10月18日、ヤマハがVOCALO CHANGER PLUGIN(ボカロ・チェンジャー・プラグイン)なるWindows/Mac用のVST3およびAudioUnits対応のプラグインのダウンロード販売を開始しました。これは人が歌った歌声をVOCALOIDの合成音声に変換することができるプラグイン。打ち込みを必要とせず、より簡単にVOCALOIDの歌声を作ることができるユニークなプラグインです。昨年発売されたVOCALOID6に搭載されていたVOCALO CHANGERという機能をプラグインとして切り出した格好ですが、単なる切り出しではなく、リアルタイムでの変換が可能になったり、操作可能なパラメータが追加されるなど、かなりパワーアップしたソフトとなっています。

価格は22,000円(税込)で、VOCALOIDユーザーであれば、クロスグレード版(※対象商品は記事最後に記載)を11,000円で購入可能。ここにはVOCALOID6用として登場していたHARUKAAKITOALLENSARAHの4つのボイスバンクが同梱されているほか、AI Megpoid符色など、サードバーティ製も含めたVOCALOID:AI対応のボイスバンクも利用可能となっています。発売前に、どんなプラグインなのか試すことができたので、紹介していきましょう。

ヤマハが人の歌声をボカロの歌声に変換するプラグイン、VOCALO CHANGER PLUGINを発売

人の歌声をボカロの歌声に変換するVST3/AUプラグイン

VOCALO CHANGER PLUGINは、人の歌声をVOCALOIDの歌声に変換してくれるプラグイン。これまでVOCALOIDの歌声を作るためには、ピアノロールで音符や歌詞を入力するのが必須であり、その面倒さからVOCALOIDを敬遠していた人も少なくないと思います。しかし、このVOCALO CHANGER PLUGINを使えば、打ち込み作業不要でVOCALOIDの歌声を作り出すことができる、という意味では画期的。これによって、新たなユーザー層が大きく広がっていきそうです。

VST3/AUのプラグインとして登場したVOCALO CHANGER PLUGIN

使い方的には、いたってシンプルで、DAWのボーカルトラックにインサーションとしてVOCALO CHANGER PLUGINを設定するだけ。

ボーカルトラックにインサーションエフェクトとしてVOCALO CHANGER PLUGINをセットするだけでOK

まさにボーカルエフェクトのように利用できるので、いわゆるボイスチャンジャーのようにも思えるところですが、VOCALO CHANGER PLUGINは歌声をエフェクトで加工する、というものではありません。人の歌声を元にピッチや歌詞を抽出し、それを利用してAIが活躍する形でVOCALOIDの歌声を合成するのです。そのため、歌い方の特徴はそのままに、元の声はまったく残らず別の声色に変換されるのがおおきな特徴となっています。もっともDRY/WETというパラメータがあるので、合成した声と元の声をミックスすることは可能です。

既存のボーカルトラックをVOCALOIDの歌声に変換!

ためしに、声優の小岩井ことりさんが歌うボーカルをVOCALO CHANGER PLUGINでAI Megpoidと、符色の歌声に変換してみたので、ちょっと聴いてみてください。

どうですか?VOCALOID:AIのAI歌声合成なので、従来のVOCALOIDとは少しニュアンスは違いますが、歌声がまったく別人の歌声に入れ替わったのが分かると思います。確かに小岩井さん的な歌い回しではあるけれど、別人が小岩井さんの歌い方を真似しているような感じで、声質は劇的に変化しています。

ちなみに、この曲はDTMステーションのレーベルであるDTMステーションCreativeで以前リリースした「ハレのち☆ことり」という曲。1,000枚限定でリリースしたCDは即完売となりましたが「幻のCDアルバムのプレゼントも!? 小岩井ことりさんの楽曲2曲のステムデータをe-onkyo musicから配信開始。自分でミックスした作品はYouTubeでの公開もOK!」という記事でも紹介した通り、その曲のSTEMデータがあるので、これを利用して、VOCALO CHANGER PLUGINで変換してみたのです。

分かりやすいように、ボーカルをやや大きめにミックスしていますが、メインボーカルがAI Megpoid、コーラスパートが符色の歌声ですね。変換した上で、Cubaseのセンド/リターンを用いてリバーブに送っているので、いい感じにオケに馴染んでいると思います。

DAWが必須。ボーカルトラックに挿せばOK

では、もう少し機能面を掘り下げていきましょう。まず、今回発売されたVOCALO CHANGER PLUGINは、従来のVOCALOID製品のようにスタンドアロンで動作するものではなく、DAW上のプラグインとして動作させるもの。そのため、CubaseをはじめとするDAWを必須とするのが注意点。VOCALOID6の場合はCubase AIがバンドルされていましたが、VOCALO CHANGER PLUGINには付属していないので、その点は気を付けてください。

Studio One 6.5 Professionalでも使うことができた

ここではWindows版のCubase 12 Proを使っていますが、Cubaseに限らず、Studio One、Ableton Live、FL Studio、Logic Pro、ABILITY Pro……などなど、VST3やAudioUnitsのプラグインが利用できるDAWであれば、どれでも利用できますよ。

ABILITY 4.0 Proでもバッチリ動作

前述の通り、使い方はボーカルトラックに挿入するだけ。その上で、変換したいVOCALOIDのキャラクタを選べば、人の歌声がVOCALOIDの歌声に変わってくれます。歌わせながら、つまりDAWの再生をしながら、キャラクタを変更することができるのも面白いところです。

変換したい歌声のキャラクタを選択する

さらに、先ほどのデモ曲からも分かるとおり、1つのプロジェクトに複数のVOCALO CHANGER PLUGINを挿して、同時に立ち上げて使ってもOK。それぞれのプラグインも軽いので、PCの処理能力にもよるとは思いますが、普通のマシンであれば10個くらい同時に立ち上げても問題なさそうですね。

VOCALOIDの歌声を司る5つのパラメータ

画面を見てみると、パラメータが5つあることが分かると思います。簡単に紹介していくと、まずPitch Shiftは、まさにピッチシフトであり元の歌声からどのくらい音程を上下させるかというもの。0.1刻みで-24~+24、つまり、上下2オクターブの範囲でピッチを変えることができるのです。そのため男性の歌声を元に女性ボーカルにする場合は+12とか+24するとよさそうです。

Pitch Shiftパラメータで音程を調整する

その隣のExpressionは歌声の表現の強さを調整するためのものです。単に音量を調整するのではなく、声質や声の張りなども変わるのが面白いところ。ボイスバンクによっても異なりますが、小さくするとささやくような歌声になったり、大きくするとより張りのある声になるなど、雰囲気が変わってくるのがいいですね。

Expressionパラメータで歌声の表現の強さを調整する

一方、下のInput GainはVOCALO CHANGER PLUGINに入ってくる音量を調整するもの。これが小さすぎると、うまく変換できないことがあるし、大きすぎると歌詞をうまく表現できなくなるなど最終的な歌声の質にも大きくかかわってくるパラメータなので、うまく調整してください。

それに対し、Output GainはVOCALO CHANGERで変換された歌声の音量をどのくらいにするかのパラメータです。そして最後のDry/Wetは先ほども少し説明しましたが、変換前=Dryと変換後=Wetのバランスを調整するもの。デフォルトはWetが100%となっているので、元の歌声が消えて、完全にVOCALOIDの歌声に変わっていますが、必要に応じて、元の歌声を混ぜていくことも可能です。

マイクからの入力の変換も不可能ではない!?

ここまで見てきて、読者のみなさんの中には、「このVOCALO CHANGERって、リアルタイムに歌声を変換できるのでは!?」と思われた方も多いと思います。もちろん、私もそう思って、実は録音した音を変換するより前に、リアルタイム変換をしてみました。

マイクからの声の入力にVOCALO CHANGER PLUGINを適用することはできるが……

結論からいうと、できます!ただし、やはり入力される歌声を元にピッチを抽出し、歌詞を取り出し、それを元にVOCALOID:AIのエンジンで歌声合成しているため、どうしてもレイテンシーが発生してしまうのです。オーディオインターフェイスのバッファサイズをできる限り小さくしてみても、やはり約200msecの遅れが出てしまうので、リアルタイムに歌って変換というのは正直難しいところです。仮に250msecだとすると、BPM=120の曲だと半拍=8分音符分遅れるので、オケを聴きながら変換された歌声をモニターしながら歌うとなると、ちょっと無理そうですよね。

一方、歌声ではなく、しゃべり声を入れても、それなりに変換してくれました。本来の使い方ではないとは思いますが、場合によっては、そんな利用の仕方をしてみるのも面白そうです。

VOCALOID6との関係性について

ここで気になるのが、VOCALOID6との違いや、その関係性だと思います。以前「VOCALOID 5の資産をすべて引き継ぎつつ、AI歌声合成を実現させたVOCALOID6の実力」という記事の中でVOCALOID6の機能としてVOCALO CHANGERについて紹介しました。エンジン的には今回のVOCALO CHANGER PLUGINとほぼ同じものではありますが、今回Expressionというパラメータが追加されているので、より表現力を調整できるのが大きな特徴です。

VOCALOID6に搭載されているVOCALO CHANGER機能

またVOCALOID6の場合は、一度、オーディオであるボーカルをVOCALOIDの歌声にすべて変換してから再生となっていたため、それなりに時間を要しましたが、VOCALO CHANGER PLUGINの場合、200msecのレイテンシーがあるとはいえ、ほぼリアルタイムに歌声が聴けるという面では大きな進化だと思います。

VOCALOID6に搭載されているのと同じ4つのキャラクタが標準搭載されている

一方で、VOCALOID6もVOCALO CHANGER PLUGINもHARUKA、AKITO、ALLEN、SARAHの4つの同じキャラクタがボイスバンクとして収録されているわけですが、データ的には同じものを使っているわけではなく、別モノのようです。

実際、VOCALOID6にAI Megpoidが入ったマシンに、VOCALO CHANGER PLUGINをインストールしてみたのですが、AI MegpoidはVOCALO CHANGER PLUGINからは見えません。ただし、Megpoidの開発元であるインターネットのサイト(ユーザーサポートのマイページ 要ユーザー登録)からVOCALO CHANGER PLUGIN用のAI Megpoidのインストーラを入手し、インストールすることで、VOCALO CHANGER PLUGINで使えるようになります。AI Megpoidのユーザーであれば、追加購入の必要はなく、無料でダウンロードできるようです。

VOCALO CHANGER PLUGINでAI Megpoidを使うには、AI Megpoid for VOCALO CHANGERのインストールが必要

注意すべきは、VOCALO CHANGER PLUGIN用のAI Megpoidや符色をインストールしたらシリアルコードを入力して認証しないといけない、という点です。VOCALOID6用AI Megpoidと符色が認証済みだからといって、VOCALO CHANGER PLUGIN用が自動で認証済みにはなるわけではないようです。

シリアルコードはVOCALOID6 Editor用ボイスバンクとVOCALO CHANGER PLUGIN用ボイスバンクで共通ですが、認証は独立なんですね。VOCALO CHANGER PLUGIN付属のVOCALOID Authorizerを使って認証を行う必要がありますのでお忘れなく。

 

なお、10月18日時点において、VOCALO CHANGER PLUGINを同梱の4つのボイスバンクのほかで利用できるのは、AI Megpoidと符色の2つのみ。AI 音街ウナ SugarやAI 音街ウナ Spicy、ZOLA Project、Po-utaのVOCALOID6のボイスバンクについては順次対応していくとのことであり、いずれもユーザーはVOCALO CHANGER PLUGIN用の追加ボイスバングが無償で入手できるようなので、しばらく待ちましょう!

ちなみに、VOCALOID6はAI歌声合成と、従来の歌声合成の2つのエンジンを搭載したハイブリッドとなっており、VOCALOID5までのボイスバンクを読み込んで使うことができましたが、今回のVOCALO CHANGER PLUGINは、初音ミクをはじめとするVOCALOID5までのボイスバンクは使えないので、その点は要注意です。

以上、VOCALO CHANGER PLUGINについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?今後、このVOCALO CHANGER PLUGINを使って、どんな音楽、どんなボカロ曲が生まれてくるのか、従来のVOCALOID作品とどんな違いが出てくるのかなど、楽しみです。

 

VOCALO CHANGER PLUGINのクロスグレード対象製品
以下の製品を持っている方は、通常版の半額となるクロスグレード版の購入が可能です。

VOCALOID3 Editor
VOCALOID3 Editor SE
VOCALOID Editor for Cubase
VOCALOID Editor for Cubase NEO
VOCALOID4 Editor for Cubase
VOCALOID4 Editor
VOCALOID5 STANDARD
VOCALOID5 PREMIUM
VOCALOID6 Editor

 

【関連情報】
VOCALO CHANGER PLUGIN製品情報
AI Megpoid製品情報
VOCALOID公式サイト

【体験版ダウンロード】
VOCALO CHANGER PLUGIN 体験版

【価格チェック&購入】
◎VOCALOID SHOP ⇒ VOCALO CHANGER PLUGIN
◎VOCALOID SHOP ⇒ VOCALO CHANGER PLUGIN クロスグレード版
◎VOCALOID SHOP ⇒ VOCALOID6ボイスバンク 符色(Fuiro) ※10月31日まで30% OFFのセール中
◎VOCALOID SHOP ⇒ VOCALOID6ボイスバンク AI Megpoid

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • USA-mikatsu

    リアルタイム歌声変換を首を長ーくして待っていました!
    しかし0.2sec.のレイテンシーは、もう少し何とかならないものか、と少し残念に感じます。
    このレイテンシー、PCの処理能力が高ければ、いくらか短くなるものでしょうか?
    藤本様はどのような環境でお試しになられましたか?
    参考にしたく、ご教示いただければ幸いです。
    末筆ながら、いつも楽しみに拝読しております。
    どうぞ末永くご活躍を期待しています!

    2023年10月19日 1:24 AM
    • 藤本 健

      USA-mikatsuさん

      ヤマハと話しをしたところ、リアルタイム変換をしようと思っているわけではないようで、あくまでもDAW上で録音したデータに対しての変換が目的、とのこと。
      リアルタイム変換は、ヤマハの「なりきりマイク」などで実現させていて、エンジン的には近いものだけど、チューニングが違うんだとか。リアルタイム変換だと、どうしても精度が落ちるため、ここでは精度を高くするため、あえて200msec程度の遅延がでるバッファを入れているのだとか。

      私はCore i9のWindows環境で試し、オーディオIFにはUA22Cを使っていました。バッファサイズを一番小さくしても250msecが200msec強になるという感じで、厳しいと思います。

      2023年10月19日 10:00 AM
  • USA-mikatsu

    なるほどです、あえてレイテンシーをとっているのですね。
    これからも新しいトピックを楽しみに読ませていただきます。
    いつも末端のDTMerに有益な情報をありがとうございます!

    2023年10月19日 11:29 AM

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