無償アップデートでイマーシブ/DolbyAtmos対応に。Studio One 6.5はヘッドホンで空間オーディオ作品が作れる

PreSonusから、Studio Oneの最新バージョンStudio One 6.5が発表されました。なんといっても今回の目玉は、Studio Oneがイマーシブオーディオにネイティブ対応したこと。最大9.1.6までのモニタリングレイアウトに対応し、Dolby Atmosを含むイマーシブオーディオフォーマットでの楽曲制作、ミキシングが可能になりました。また、バイノーラルヘッドフォンミックスもサポートしているため、ヘッドホンさえ持っていれば、空間オーディオ作品を作ることも可能。

さらに、付属のプラグインがすべてマルチチャンネルに対応し、Surround Delay、Open Air2ネイティブ7.1.4コンボリューションリバーブなどの新しいエフェクトも追加されたので、サードパーティ製のプラグインを一切導入することなく、イマーシブミックスをスタートさせることができるのです。そのほか、ノートエディター/スコアリングが強化されたり、プロジェクトページでもARAプラグインが使えるようになったり、DAWprojectファイル・フォーマットに対応しました。なお、Studio One 6.5のバージョンアップなので、バージョン6.xユーザーは無償で、この機能を使うことができます。現時点で唯一無二の機能を搭載したDAW Studiio One 6.5の進化点の概要を紹介していきましょう。

イマーシブオーディオフォーマットに対応したStduio One 6.5 Professional Editonが発売

Studio One 6以上のライセンスを持っていれば、無償でStudio One 6.5を使える

Studio One 6がリリースされたのが、2022年9月30日なので、約1年でバージョン6.5まで進化したStudio One。この間にも、さまざまな機能強化が行われてきたわけですが、もしStudio One 5以下を使っている方がいれば、「Studio One 6にメジャーバージョンアップ。ビデオトラックや歌詞機能も搭載し、スマート・テンプレートで操作性も大きく向上」や「Studio One 6.1が登場し、プロンプター機能を搭載。4月1日まで30%OFFのキャンペーンも実施中!」という記事も参考にバージョンアップを検討してみてもいいかもしれませんね。

イマーシブオーディオに対応したStudio One 6.5

すでにStudio One 6以上のライセンスを持っていれば、冒頭でもお伝えしたように無償でStudio One 6.5にバージョンアップすることが可能。メジャーバージョン並みの機能強化となっているので、ぜひとも活用してみてください。

さて、新機能についてですが、主な部分は以下の通りです。

・イマーシブ・オーディオ制作ワークフローを統合
・Dolby Atmos統合
・Dolby Atmosバイノーラル・ヘッドフォン・モニタリング対応
・アップデートされたイマーシブ・オーディオ互換プラグイン・セット
・7.1.4 HDIRsを搭載したOpenAir2コンボリューション・リバーブ
・新しいSurround Multi-Tap Delayプラグイン
・タブ譜とリードシートの強化
・プロジェクト・ページでのARAプラグイン対応
・Studio One Remoteでイマーシブ・オーディオ・ミキシングが可能に
・DAWprojectファイル・フォーマット(.dawproject)対応

Dolby Atmosなどイマーシブオーディオフォーマットでの音楽制作が可能になったStudio One 6.5

やはり目玉は、最大9.1.6までのモニタリングレイアウトに対応したところでしょう。これにより、Dolby Atmosなどイマーシブオーディオフォーマットでの制作が可能になりました。ステレオ、5.1、5.1.2、5.1.4、7.1、7.1.4、9.1.6から選択可能で、ファイルのインポートからエクスポートまで、すべてをStudio Oneで完結することができるようになったのです。

最大9.1.6までのモニタリングレイアウトに対応

これに合わせて、標準搭載のプラグインや機能も刷新され、Surround PannerやObject Pannerといった、イマーシブ対応の機能が追加されています。

Surround PannerやObject Pannerといった、イマーシブ対応の機能が追加された

とはいえ、たとえば7.1.4チャンネルのスピーカー環境を作ることは容易ではないため、、「イマーシブオーディオ対応って一部のプロのための機能では!?」と思う方も多そうです。でも、そうした多くのスピーカーに囲まれた環境を用意する必要なく、ごく普通の普段使っているヘッドホンだけで、Dolby Atmosでミックスが可能になっている、というのがStudio One 6.5の最大のポイントかもしれません。

本来であれば大規模なスタジオ、莫大な予算をかけて作ったスタジオでしか行えなかったことが、自宅で行えるようになった…というのは最新の技術がなせる業といっていいと思います。
新プラグインSurround Delay

Dolby Atmosコンテンツはヘッドホンだけで制作可能?

ここで少し気になるのはDolby Atmosのミックスをヘッドホンだけで行っても大丈夫なのか、という点でしょう。この点について、PreSonusが見解を出しています。まず一般的な音楽を聴く場合、80%の人がヘッドホンで聴いている、と言われています。これを元に考えるとDolby Atmosコンテンツも80%がヘッドフォンで聴かれ(バイノーラルモード)ていると考えられます。一方、19%がサウンドバーやスマートスピーカーなど、バーチャルスピーカーで聴いているといわれているから、専用の7.1.4システムで聴いている人は1%に満たない、と推測されます。場合によっては0.1%程度ともいわれているので、この割合を見ると、事実上誰も持っていないスピーカーシステムでモニターするよりも、実際のリスニング状況に近づけて作成すべきではないか、と主張しているのです。

Open Airが進化し、Open Air2ネイティブ7.1.4コンボリューションリバーブに

またStudio One 6.5に搭載されたDolby Atmos Rendererアプリケーションでは、128の各チャンネルを、3つの異なるHRTFアルゴリズム(near、mid、far)に加えて、そのチャンネルのバイノーラルレンダリングを無効にする「off」を加えた4つのバイノーラルレンダリングモードのいずれかに設定可能で、これらのバイノーラルレンダリングモードにより、ミキシングエンジニアは、バイノーラル体験をより個別のスピーカー体験に近いサウンドに調整することが可能になっています。

Studio One 6.5に新しく搭載されたDolby Atmos Renderer

もっともDolby Atmosのエンコーダーを搭載したのは、このStudio One 6.5が初めてというわけではありません。具体的にはLogic Pro、Nuendo、DaVinci Resolveなどがありますし、ProToolsでもオプションとして出しています。

ただし、実際にDAWで制作し、エンコードした音が、Apple MusicやAmazon Musicなどで配信した音で忠実に再現されるか……というと、ここが必ずしも一致しないケースが多いのが難しいところです。特にリスニング環境ではApple Musicの仕様がDolby Atmosと完全互換ではなさそうであるため、ミックスした音と配信された音には違い出ている、と言われています。

これはAppleがユーザーへのストリーミングに使用している古いDD+JOCコーデックにおいて、バイノーラルレンダーモードのメタデータがすべて無視され、Dolby Atmos Rendererすらまったく使用せず、ヘッドフォン仮想化およびスピーカー仮想化に独自のSpatial Audioテクノロジーを使用しているためだ、とPreSonusも見解を出しているのです。

ちなみにLogic Proでエンコードした場合、Apple Musicでの配信の音と一致するのですが、ここにはトリックがある模様です。Dolby Atmosを有効にしたLogicのパラメーターはSpatial Audioと表示される、とPreSonusは指摘しています。つまりこれはLogicがAppleのSpatial Audioエンジンを使っていることを示唆していて、純正のDolby Atmosではない、ということ。この辺の良し悪しの判断は置いておきますが、Apple Musicでの配信だけを考えれば、AppleのSpatial Audioエンジンが有利ではありそうです。そのためPreSonusでも、将来のアップデートでApple Spatial Audioのネイティブサポートを追加する予定と話しています。

将来、個人のHRTFへも対応する予定

もうひとつイマーシブオーディオをヘッドホンで再現する上で重要になってくるのがHRTF(Head related transfer function)=頭部伝達関数についてです。簡単に説明すると、これは音源が、その人の耳にどう聴こえるのかを関数として表すもの。当然、人によって顔の形や耳たぶの形が異なるため、HRTFは大きく異なってきます。自分のHRTFが計測できれば、かなり立体的な音として聴こえる一方、パーソナライズされていないと、立体的に聴こえない人も出てくるという問題があります。これを解決するために、将来のStudio Oneのアップデートで、パーソナライズHRTFを利用するオプションを搭載する予定とのことですから、期待したいところです。本来HRTFは綿密な測定が必要になりますが、最近は耳をカメラで撮るだけで個人のHRTFを推定する技術なども出てきているので、どんな形で対応していくかも楽しみです。

と、ちょっと複雑なテーマについて書きましたが、Studio One 6.5がしっかり考えて開発されているので、とりあえず一部のシチュエーションを除いては、安心してヘッドホンだけでDolby Atmosのミキシングしても大丈夫そう。ちなみに、Studio One 6.5は、Rendererの出力をスピーカーとヘッドフォンの両方で同時に独立してモニターできる唯一のDAW。またミキサー内に便利なレンダラーリモートパネルが搭載され、モニターフォーマット、グローバルボリューム、ラウドネスメーターなどの重要なパラメーターにアクセスできるようにもなっています。今後のアップデートも楽しみですが、なにがともあれ、イマーシブオーディオのミキシングを手軽に体験できるようになったので、まずは試してみるのがいいと思いますよ。

ミキサーの一番右側にレンダラーリモートパネルが搭載された

ノートエディター、スコアリングの強化

さて、イマーシブ以外の部分でも強化された機能があるので見ていきましょう。まずは、ノートエディター、スコアリングの強化についてです。これはどちらかというマイナーな部分ですが、記譜機能とノート編集機能が整備されました。リズムスラッシュの追加、コード・トラックと動的にリンクするコード表示、カスタムの弦チューニング、ギター・ベンドやリズム表示などギタータブ譜の表現力を向上させる機能が追加されています。

スコアエディターも強化されている

プロジェクトページでもARAプラグインが利用可能に

続いて、プロジェクトページでも、オーディオエディターとしてARAプラグインがサポートされた点について。主にマスタリングを行うときに使う、プロジェクトページでもARA対応となったので、Spectral LayersやIrcam ASAP、iZotope RXをデータ転送することなく、Studio One 6.5の内部機能であるかのように使用可能になりました。

プロジェクトページでもARAプラグインがサポートされた

DAWprojectファイル・フォーマットに対応

また複数のDAW間でセッションを共有できるように設計された、新しいオープンファイル交換フォーマットDAWproject(.dawproject)にも今回のStudio One 6.5で対応しました。これまでBitwig Studio 5.0.9が対応していましたが、これに続いて登場した形で、今後、ほかのDAWも続々と対応していくのでは…と期待されています。
これまでDAW間でやりとりするフォーマットとしてはOMFやAAFがあったりましたが、もともとビデオポストプロダクション用のフォーマットであったため、キレイにデータ移行できないケースが多く、簡単ではありませんでした。もちろんMIDIとオーディオデータを手動でエクスポートして、別のソフトウェアでインポートするという方法もありますが、さらに面倒で、キレイに再現することは容易ではありませんでした。

今回サポートした、.dawprojectは、時間、トラック、チャンネルに関連するすべての情報、すべてのオーディオ、ノート、オートメーション データ、さらにはプロジェクトで使用されているプラ​​グインの状態さえも含まれています。そのためDAW間でより簡単にデータ交換可能になっています。今後、ほかのDAWにも普及していくことで、より汎用性が高くなっていきそうです。

新しいオープンファイル交換フォーマットDAWproject(.dawproject)に対応

ほかのDAWユーザーなら25%オフの安価で入手可能

以上、Studio One 6.5の概要について紹介しました。メジャーバージョンアップでもないのに、挑戦的なアップデートでしたね。前述の通り、Studio One バージョン6以降を持っていれば、無償でStudio One 6.5にできて、イマーシブオーディオフォーマットで楽曲制作、ミックスができるようになるのは嬉しいところ。

もし、いま別のDAWを持っていて、Studio Oneを使ってみたいという方はクロスグレード版というものがあるので、それを購入するのがお勧め。具体的に対象となるのは以下のDAWです。

Ableton Live 9以降
Acoustica Mixcraft 8以降
Apple Logic Pro 9以降
Avid Pro Tools 11以降(サブスクリプションの場合は1年以上)
Bitwig Studio 2以降
Image-Line FL Studio 12以降
Internet ABILITY
Internet Singer Song Writer
Magix ACID Pro 9以降
Magix Samplitude Pro X4以降
MOTU Digital Performer 9以降
PreSonus Notion 6
Propellerhead Reason 10以降
Reaper 5以降
Sonar X2以降
Steinberg Cubase 9以降
Steinberg Nuendo 8以降
Tracktion Waveform 10以降

フリーウェア、ライト版、無償同梱されているDAWは対象外とのこと。また購入後に、シリアルナンバーなどの申請が必要にはなりますが、それだけで通常52,800円のものが39,600円と25%オフになってしまうのです。クロスグレードは乗り換え版などともいわれることから、時々誤解している人もいますが、別にこれまで使ってきたDAWの権利を放棄するとか、無効になるわけではなく、従来通り普通に使えるので心配はいらないですよ。

ちなみにこのタイミングで、Studio One Linux版もリリースされたのも、大きなニュースといえそうです。最近ユーザーも増えてきているUbuntuなどでStudo Oneが使えるというのは面白そうです。ただし、現状はサポート外とのこと。ぜひ、この進化したStudio Oneを試してみてはいかがでしょうか?

【関連サイト】
Studio One 6.5製品情報
【価格チェック&購入】
◎MI7オンラインショップ ⇒ Studio One Professional通常版
◎MI7オンラインショップ ⇒ Studio One Professionalクロスグレード版
◎MI7オンラインショップ ⇒ Studio One Professionalバージョンアップ/アップグレード(Professional/Producer 1.x〜5.xから)
◎MI7オンラインショップ ⇒ Studio One Professionalバージョンアップ/アップグレード(Artist 1.x〜6.xから)
◎MI7オンラインショップ ⇒ PreSonus Sphere 1年間