ChaGPTやStable Diffusionなど、世界はここ1年、AIで盛り上がっていますが、もちろんDTMの世界でもAI技術がどんどん面白い製品を生み出しています。ミックスやマスタリングにAIを使ったり、歌声合成にAIを使ったりすることで、過去にない便利でユニークなツールが次々と生まれていますが、本命は何といっても音楽そのものの自動生成でしょう。AI作曲に関する賛否はいろいろあるとは思うけれど、AI作曲の世界で先頭を走っているのが日本のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)です。
DTMステーションでもこれまで何度か取り上げてきたソニーCSLのFlow Machinesは、研究用途ということもあって、同社が無償配布しているAI作曲支援ツール。AIがすべて曲を作るというのではなく、人間の作曲を手助けしていく、というコンセプトのツールではありますが、簡単な操作でそれっぽい曲ができてしまうのが楽しいところ。現在、Mac用とiPad用のそれぞれがありますが、この度iPad用がアップデートし、Logic Pro for iPadでの利用が可能になりました。実際どんなことができるのか試してみたので紹介してみましょう。
ソニーCSLのFlow Machinesがさらに進化して、Logic Pro for iPadでも利用可能になった
ソニーCSLが開発する無料のツール、Flow Machines
今から2年前「ソニーCSLがAI作曲支援ツール、Flow MachinesのiPad版を無料でリリース」という記事で、このAI作曲支援ツール、Flow Machinesを紹介したことがありましたが、その後もアップデートを繰り返しつつ、Mac版もリリースされるなど、進化し続けてきています。
iPad版、Mac版ともに無料ということもあり、読者の皆さんの中でも、使った経験のある方は多いと思います。とはいえ、まったく知らない方も少なくないと思うので、まずはソニーCSLが作ったFlow Machinesのコンセプト部分を紹介するビデオがあるので、こちらをご覧になってみてください。
ここにもある通り、このFlow MachinesはAIで作曲するツール。使い方はとっても簡単で、まずスタイルパレットというプリセットが数多く用意されているので、そこに並んでいるJazz/Fusion、Electronica、Lo-Fi Dream、CityPopFreeway……といったものを選択。そのジャンルの中に、コード進行やテンポの異なるスタイルパレットがあるので、そこから好きなものを選びます。少しプレビューしてみて、イメージに合うスタイルパレットであれば、あとはComposeボタンを押せば、そのコード進行での曲が出来上がるというツールなんです。
ソニーCSLが開発したAI作曲支援ツール、Flow Machines
Composeボタンを繰り返し押せば、雰囲気は近いながら、次々と違うメロディーが生まれ、それぞれ履歴として残っているので、ユーザーのフィーリングで気に入ったものを取り出せばいい、という使い方になっています。
スタイルパレットを選んでComposeボタンを押すだけでAIが作曲してくれる
AI作曲という言い方をすると「機械が作った曲なんて興味ない」とか「作曲家の敵になる」……などいろいろ議論が出てきそうですが、Flow Machinesのコンセプトは先ほどのビデオからも分かるとおり、人が作曲する際のヒントを得るためのツール、といった位置づけのもの。人が行う作曲を代替するわけではなく、クリエイターが便利に使うためのツールという性格のものになっています。
MIDIプラグインとして動作してDAWと連携
そのFlow Machines、前述のとおりiPad版とMac版があり、Windows版は未定という状況ですが、ユニークなのは、これがスタンドアロンのアプリであると同時に、プラグインとしても動作するという点です。
プラグインといっても一般的なAudioUnitsやVSTではなく、MIDI FXというプラグインの形になっています。つまり、DAWから見るてオーディオ処理をするエフェクトのプラグインやシンセサイザなどの音源として動作するプラグインではなく、MIDI機能を拡張する形でのプラグインとなっているのです。
MIDI FXというプラグインの形でDAW内でFlow Machinesを利用することが可能
正確にいうと、このMIDI FXもAudioUnitsの規格の中にあるものではありますが、ちょっと普通のプラグインとは違うんですね。通常MIDI FXはMIDIのトラックに対して、なんらかの効果を与えるもの。たとえば入力されたMIDIノートを元にアルペジオを生成したり、和音を生成したり、ノートのベロシティにバラつきを与えたり……といったものがよくありますが、このFlow Machinesは無から曲を生成するプラグインとなっているんですね。
MIDI FXとしてFlow Machinesをインストゥルメントトラックに組み込む
もちろん、生成したMIDIによる楽曲は自分の好きなプラグイン音源を使って鳴らすことが可能です。スタンドアロン版として動かす場合は、基本的にFlow Machinesに搭載されているGM音源を使う形になりますが、DAWに組み込んで使えば、好きな音源が使えるし、好きなエフェクトを使って音を加工していくことも可能。
もちろん生成されたMIDIデータをそのまま使うだけでなく、普通のMIDIデータですからユーザーが自由にエディットして使うこともできるし、出来上がった曲の一部のメロディだけを利用する……といったことも可能になっているのです。
Cubasis 3に続き、Logic Pro for iPadでも動作可能に
そんなMIDI FXとしてMac上で使えるだけでなく、iPad上でも利用できるのも楽しいところですが、MIDI FXというやや特殊なプラグインであることもあって、これまでiPad上で利用できるのはSteinbergのCubasis 3だけでした。
これまでもCubasis 3にMIDI FXとしてFlow Machinesを組み込んで使うことができた
しかし、10月13日にアップデートされた最新版のFlow Machines 1.1.7では、先日AppleからリリースされたLogic Pro for iPadでも動作するようになっています。ソニーCSLによると、やはりMIDI FX自体がやや特殊な仕様であるため、当初Logic Pro for iPadでは、そのまま動かなかったようです。そのためLogic Pro for iPadで動くように調整を行ってリリースしたのが今回のバージョンとのことです。
今回のバージョン、1.1.7からLogic Pro for iPadで利用できるようになっている
ちなみにiPad上にはCubasis、Logic ProのほかにもGarageBand、Auria Pro、FL Studio、MultitrackDAW……などなどさまざまなDAWが存在していますが、現時点ではMIDI FXに対応しているDAWがほとんど無いようで、プラグインとして使えるのはCubasis 3とLogic Pro for iPadのみとなっているようです。
RolandのDAWであるZenbeatsがMIDI FXに対応していて、試してみたところFlow Machinesを組み込み、自動作曲結果を鳴らすことまではできたのですが、それをMIDIトラックに録音することができませんでした。あと一歩というところだったのですが、ぜひ今後Zenbeats側なのかFlow Machines側なのか分かりませんが、うまくアップデートで対応してくれるといいな…と思っているところです。
RolandのZenbeatsにFlow Machinesを組み込んで動かすところまでは行ったのだけど…
そのLogic Pro for iPadについて、DTMステーションでこれまで紹介したことはありませんでしたが、まさにMac版のLogic ProをiPadで動くようにしたもので、かなり多彩な機能を備えています。無料のGaregeBandの上位版という位置づけではありますが、より本格的な音楽制作、レコーディングで使えるようになっています。
サブスクリプションでの課金が必要となるが、高機能なDAWとして使えるLogic Pro for iPad
ただし、GarageBandのように無料というわけにはいかず、サブスクとなっています。具体的には700円/月または7,000円/年。ほかのDAWとは異なり、買い切り版は存在せずサブスクのみとなっているので、好き嫌いは分かれそうではありますが……。ただし、1か月は無料で使えるので、実際どんなものなのか、とりあえず試してみるのはよさそうですね。
Logic Pro for iPadにおけるFlow Machines活用手順
では、実際にLogic Pro for iPadにおいてFlow Machinesをどう使うのか?これについては、開発元のソニーCSLが分かりやすいビデオを出しているので、これを見るのが一番わかりやすいと思います。
簡単に説明すると、Flow Machinesではメロディー、コード、ベースの3つを生成することができるので、あらかじめ、3つのMIDIトラックを作成し、それぞれにソフトウェア音源を割り当てておきます。
予めLogic Pro for iPadにメロディ、コード、ベースのインストゥルメントトラックを作成しておく
前述の通り、このソフトウェア音源は何でも使えるのでLogic Pro内蔵の音源でもいいし、サードパーティーのプラグインでもOKです。
それぞれのトラックにMIDI FXとしてFlow Machinesを組み込んでいく
準備ができたら、それぞれのトラックににMIDI FXとしてFlow Machinesを組み込みます。あとは、スタイルパレットを選んで、Composeボタンを押せば完成です。
ただし、Composeボタンを押しただけだと作曲結果はFlow Machinesの中にあるだけなので、気に入った曲が生成できたら録音ボタンを押して、各トラックでMIDIレコーディングを行うことでデータとして出来上がるのです。
Flow Machinesで作曲した曲がMIDIデータとして記録されていく
その上で、必要に応じてエディットしていくことができる、というわけです。
以上、簡単に最新版のFlow Machinesについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?AIによる作曲ということについては、賛否はあるとは思いますが、Flow Machinesの場合は全部を任せるというよりも、クリエイターにヒントを与えてくれる可能性のある便利なツールという意味で、気軽に使うことができそうです。
何より無料で使え、とくに課金もないので、iPadユーザーであれば、試してみてはいかがでしょうか?今回はLogic Pro for iPadに対応したということで、ここでの連携にフォーカスを当てましたが、スタンドアロンでも使うことができ、生成されたMIDIデータを取り出して活用することもできるし、MIDIではなくオーディオとしてエクスポートすることも可能なので、利用法はいろいろ。ぜひユーザーそれぞれの活用法を探ってみてください。
【関連情報】
Flow Machinesサイト
【ダウンロード】
◎AppStore ⇒ Flow Machines for iPad