本当にRMEの新製品Fireface 802 FSは音がいいのか?創業メンバーの開発者が技術仕様を解説

世界中のプロの間で幅広く使われているオーディオインターフェイスやAD/DA、MADIやDante、AVBなどのインターフェイスを開発・販売している1996年に設立されたドイツの老舗メーカーRME。そんなRMEの創業メンバーで開発者の1人でもあるマティアス・カーステンズさん、RMEシニア・プロダクト・マネージャーのマックス・ホルトマンさんが先日久しぶりに来日し、RME製品の発表会を行いました。

今回紹介されたのは、Fireface 802 FSADI-2/4 Pro SEADI-2 RemoteM-32 Proシリーズ、そして世界初公開の電源ユニットLNI-2 DC。Fireface 802 FSに関しては、約10年ぶりのアップデートであり、Firaface UFX IIIと同様のアナログボードを採用、フラグシップモデルの技術仕様を継承している正統なモデルとなっています。またこれまでのFireface 802と比べて、最新のAD/DAコンバーターを採用したことにより、THD+N(歪み率)の改善、SN比もよくなり、DCカップリング出力も搭載されました。さらにADI-2シリーズで初めて採用されたSteadyClock FS回路を搭載し、ジッター値をフェムト秒(1000兆分の1秒)単位の精度で抑制させることができるので、結果一切のデータ損失や音質劣化、音像が劣化しないとのこと。そんなRMEの各種新製品がある中、ここではFireface 802 FSを中心に紹介していきましょう。

本当にRMEの新製品Fireface 802 FSは音がいいのか?創業メンバーの開発者が技術仕様を解説

Fireface 802の後継機種Fireface 802 FSが新登場

9月21日発売のFireface 802 FS(市場予想価格:330,000 円税込)は、2014年にリリースされたFireface 802の後継機種。ライブ会場やスタジオ、配信などのプロフェッショナルな現場で求められるサウンドクオリティと安定性、柔軟でシンプルな機能性を集約した1Uサイズのオーディオインターフェイスです。30入力/30出力チャンネル搭載、最大192 kHz対応、RME USB 2テクノロジーによる超低レイテンシー動作、極めて信頼性の高いドライバ、SteadyClock FSによるフェムト秒(1000兆分の1秒)精度のジッター抑制、各入出力に対して個別に設定可能な基準レベル、直感的に操作できるフロント・パネルの4つのゲインノブとレベル/ステータスLED、完全なスタンドアローン動作、プロフェッショナルな入出力をiPadに追加するクラスコンプライアントモードも搭載。またWindows/Macで同じ操作性で使用可能。

9月21日発売のFireface 802 FS(市場予想価格:330,000 円税込)

アナログとデジタル基板が新たに開発され、機能のアップデートが行われている

さらにFireface 802 FSはアナログとデジタル基板が新たに開発され、DCカップリング対応となったのでCV信号出力でモジュラーシンセを制御することもできます。また最新のAD/DAコンバーターによるTHD+N(歪み率)の向上、SN比の改善、2系統のADAT入出力をそれぞれオプティカルSPDIF入出力として使用可能、ヘッドホン出力のノイズ低下と出力インピーダンス2Ωという非常に小さな値になるなど、基礎的なスペックが向上しています。コントローラーソフト、DSPデジタルミキサーTotalMix FXを使い柔軟なミックスとパッチベイを実現したり、DIGICheckというRME独自のオーディオ計測解析ユーティリティ、別売りの本体に直接接続可能なUSBコントローラーARC USBなど、多彩な機能もFireface 802 FSの魅力となっています。

Fireface 802 FSのフロントパネル、リアパネル

ちなみに2014年に発売されたFireface 802は、フラグシップモデルFireface UFXよりも、少し買いやすい価格帯のバージョンとしてリリースされた製品であり。Fireface 802は基本的に、UFXシリーズと同じアナログとデジタル回路が使用されています。大きく違うところは、マイクプリアンプのゲインがノブで調整できる点。UFXシリーズは、デジタル制御なのでツマミがないので、ここが異なる点となっており、それはFireface 802 FSでも引き継がれています。

製品をアップデートする理由となった半導体ショック

ここ1年で、RMEは続々と新製品を発表していますが、その背景としてコロナによる半導体ショックが大きく影響しているとのこと。なかでも以前「延岡のAKM工場火災の影響で世界中のオーディオインターフェイスが枯渇する可能性」という記事でも取り上げたAKM=旭化成エレクトロニクスの火災によるダメージが大きく、一時RMEの製造が止まっていたようです。

RMEの創業メンバーで開発者の1人でもあるマティアス・カーステンズさん

「RMEの特徴は、同じ製品を長期間販売していることです。長い年月使える製品をリリースしているので、Fireface 802も約10年間販売し、ユニットの更新はこれまでありませんでした。しかし、この2年間でほぼすべての製品を作り直さなければいけない事態が起こりました。まずはAKM工場の火災です。これによりAKMのチップの製造できなくなってしまったのです。これまでRME製品のほとんどがこのAKMチップを使用していたので、この影響で製品の製造停止が余儀なくされ、出荷を行うことができませんでした。続いてFPGAメーカーであるXILINX(ザイリンクス)の問題です。RMEではXILINXのSpartan 6 FPGAというチップをほとんどの機器で採用していたのですが、ある日突然、このチップの生産終了がアナウンスされ、いきなり供給されなくなってしまったのです。さらにコロナ禍における世界的な半導体不足が起き、あらゆる半導体が市場からなくなってしまったのです。これらが原因でハードウェアのアップデートが不可避となったのです。もちろんそんな悲しいニュースばかりではありません。この機会に大幅に設計を見直すことになり、結果としてFireface 802 FSは、以前のFireface 802に比べて格段に機能・性能がアップしているのです」と、マティアス・カーステンズさん。

Fireface 802よりも高い性能を誇るFireface 802 FS

この新しいFireface 802 FSでは、ADコンバータとしてAK5574、DAコンバータとしてAK4490というモデルを使用しています。前述のとおり、このコンバータにより、Fireface 802と比べて、最大7dB高い歪み率と数dB高いSN比を実現。またヘッドホンの出力は、ノイズが少なくなり、出力インピーダンスも従来の30Ωから2Ωと小さい値になりました。

ちなみに、このプレゼンテーション終了後に、マティアスさんに話を直接伺ってみたところ、このAKM問題により、RMEのほかの各機器でもADC、DACの見直しを図っており、製品の型番は変わっていないけれど、AKMのほかのチップもしくはESSのチップに交換しているものも多いとのこと。ただし、性能面では変わらないよう、徹底的にチェックしている、とのことでした。

Fireface 802 FSにはAK5574、AK4490を採用
一方、リアパネルにあるアナログ出力は、DCカップリング出力となっていることから、オーディオの出力だけでなく指定電圧の直流出力ができます。そのため、これをアナログシンセサイザに繋いで、CV/GATEでのコントロールも可能になっています。ほかにもリアパネルのADAT端子2系統それぞれを、S/PDIFに切り替えられるようになっています。以前は片方しか切り替えることができなかったのですが、これによりAES、ADAT、S/PDIFの3つが同時に使用可能となりました。

デジタルボードに関しても最新のSteadyClock FSが採用されています。FSは、Femto Secondの略で、1000兆分の1秒でジッター値を抑制するという意味で名付けられています。このSteadyClock FSの仕様についてはかなり専門的な内容となってしまうので、興味のある方は、マティアス・カーステンズさんが解説している「ジッターがオーディオに引き起こす問題とそれを解決するRME「SteadyClock FS」テクノロジーを開発者のマティアス・カーステンズが解説」という以下の動画をご覧ください。

最新モデルのリモートコントローラARC USBに対応

もちろんFireface 802 FSは、最新モデルのリモートコントローラARC USBに対応。Fireface 802 FSはスタンドアローンでも使用できるのですが、ARC USBもスタンドアローンで使用でき、このコントローラを使うとあらかじめ設定した6つのプリセットを読み込んだり、メイン出力、ヘッドホン出力、ボリュームの制御、トークバック…ということがワンクリックで行えるようになっています。

ARC USBリモート・コントローラー対応

CCモード(クラスコンプライアンスモード)スイッチを搭載

さらに小さいけど重要なアップデートポイントとしては、CCモード(クラスコンプライアンスモード)がスイッチ1つで切り替え可能となりました。CCモードは、Windows、macOS、LinuxなどのOSでネイティブにサポートされているUSBの規格で、ドライバーをインストールしなくても、USB接続するだけで認識され、すぐに使うことができる、というものです。CCモードにTotalMix FX for iPadアプリを使用することで、Fireface 802 FS をiPadから全てコントロール可能となるのもユニークなポイントで、iPadにプロフェッショナル・レベルのアナログ入出力を追加することができます。従来のFireface 802を含めRMEのオーディオインターフェイスでは、以前からCCモードは備えていたものの、深いメニュー階層での切り替えだったため、オン/オフの切り替えがしにくかったのですが、今回、物理ボタンでの切り替えが可能になったのは、とっても便利になったポイントだと思います。

リアパネルに、CCモードスイッチを搭載

Fireface 802を持っていて、Fireface 802 FSを買い足すと入出力を拡張できる

そして最後にFireface 802 FSは、Fireface 802と同じドライバを使用しているので、もしFireface 802を持っていて、これに追加してFireface 802 FSを導入した場合、コンピュータ上では2つで1つのオーディオインターフェイスとして認識されるため、倍の入出力が使用可能になります。これはRMEの機器に共通する特徴でもあるのですが、WindowsでもmacOSでも、同じドライバで走らせれば同じデバイスとして認識されるのです。

AD/DAコンバータとして最高峰のADI-2/4 Pro SE

続いてADI-2/4 Pro SEについてです。数々の受賞歴を誇るADI-2 Proシリーズの最新作ADI-2/4 Pro SE。業務用のマスタリングスタジオで使用できる圧倒的な性能を持ち、AD/DAコンバータとして最高峰の製品。回路基板は新開発となっており、IEMにも対応したExtreme Powerヘッドホンアンプ、新搭載の超低ノイズの4.4mm 5極バランスヘッドホン接続(Pentaconn採用)、2系統のバランス入力とTrue Balancedモードにより実現した4系統の独立したバランス出力、リアのXLR / TRS出力は独立したソースを出力でき一台でマスタリング時の外部エフェクトへのセットアップに対応、強化された電源によるハイパワーでノイズレスなオペレーション、外部機器の電源ON/OFF可能なトリガーアウト機能、さらにレコード盤を直接デジタル化可能なRIAAモードなどを搭載しています。さらに強化された仕様と高速化されたDSPによる透明なサウンド特性を有しており、オーディオ愛好家のリスニング環境からプロのマスタリングまで対応できる製品となっています。

数々の受賞歴を誇るADI-2 Proシリーズの最新作ADI-2/4 Pro SE

ADI-2シリーズを快適に操作できるADI-2 Remote

ADI-2 Remoteは、ADI-2シリーズを操作するためのmacOSおよびiPadOSアプリ。これまで、ADI-2シリーズは小さい画面を見ながら調整を行う必要がありましたが、ユーザーの強い要望により、このアプリを開発したとのこと。これを使うと、すべてのコントロールを行うことができ、設定のバックアップや、エクスポートとインポートにも対応したため、異なるデバイス間で設定を共有することも可能。

macOSおよびiPadOSアプリADI-2 Remote

RMEが本気で開発するリニア電源LNI-2 DC

世界初公開で現在開発中のADI-2のためのリニア電源LNI-2 DCは、世の中にある怪しい電源とは違い、しっかりとした実験や解析の元、根拠に基づいて開発されている製品。開発した理由としては、ADI-2シリーズに付属している電源では、見た目の問題で信用できないユーザーからの要望らしく、せっかく開発するのであれば、胡散臭いものが世の中に多いので、いいものを作ろうと思ったのだそう。ただ、マティアス・カーステンズさんがいうにはもともと付属している電源もしっかり作っているので、実際の出音に関してはまったく違いがないとのこと。ですが、電源はきれいになり、グランドノイズやハムノイズなどは完全に消えるので、そういったノイズの原因は遮断できますとマティアスさんは仰っていました。

世界初公開で現在開発中のADI-2のためのリニア電源LNI-2 DC

高い信頼性を合せ持つ32ch AD/DAコンバータM-32 Proシリーズ

MADI・AVB対応32チャンネル192 kHzハイエンドAD/DAコンバーターM-32 AD Pro II、M-32 DA Pro II、MADI・Dante対応M-32 AD Pro II-DM-32 DA Pro II-Dの4製品も発表されました。マックス・ホルトマンさんがプレゼンを担当した、このシリーズは、スタジオレコーディング、イマーシブオーディオ制作、プレイバックシステム、ライブサウンド、オーディオ測定/解析など、多くのプロフェッショナルアプリケーションに求められる厳しい要件を満たすべく設計され、高品質なアナログ変換とMADIに加え、AVBおよびDanteのいずれかを組み込んだデジタルオーディオネットワーク変換に対応した製品。

高品質なアナログ変換とMADIに加え、AVB/Danteいずれかを組み込んだデジタルオーディオネットワーク変換に対応したM-32 Proシリーズ

DAコンバーターチップはAK4414からAK4490に変更となり、THD+Nを-111 dBまで改善、ハイサンプリングレートでのインパルスレスポンスを最適化し、デジタル / アナログ変換処理がさらに改良されています。スペックは、最大32系統のアナログチャンネル、リダンダント動作可能なMADIおよびAVB/Dante入出力と電源ユニット、極めて低いレイテンシ120 dBのダイナミック・レンジ、自在に設定可能なチャンネル・ルーティング、フォーマットコンバージョン機能、シンプルな操作性を備えた真のリファレンスクラスコンバータです。

M-32 DA Pro IIなどについてプレゼンするマックス・ホルトマンさん

以上、RMEの新製品について、Fireface 802 FSを中心に紹介しました。AD/DAチップが変更されたことにより、続々と新製品が誕生しているRME。このタイミングで、基礎的なスペックの改良や問題点の改善が行われ、さらに使い勝手のよい製品となりました。長年愛用することのできる、RME製品をぜひチェックしてみてください。

【製品情報】
Fireface 802 FS製品情報
ADI-2/4 Pro SE製品情報
ADI-2 Remote製品情報
LNI-2 DC製品情報
M-32 AD Pro II / M-32 DA Pro II製品情報

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