個体感度差1dB以内の高精度を誇るマイクを開発する、Austrian Audioの秘密

2019年に日本でも製品の発売が開始されたオーストリアのメーカー、Austrian Audio。そこから2、3年でプロの現場でも使用されるようになり、業界で高い評価を受けるメーカーに進化していきました。実際ローリングストーンズやスティング、ボン・ジョヴィ……など、ワールドツアーを行うアーティストが同社のマイクを使用するようになる一方、プロのレコーディング現場においてもAustrian Audio製品を使うケースがどんどん増えてきているようです。以前、OC818OC18が発売されたタイミングに記事で紹介したことがありましたが、その後楽器用マイクやハンドマイクを展開。また、Hi-X65Hi-X60といったヘッドホンも発売しています。
そんなAustrian Audioは、2023年9月20日で日本上陸5周年を迎え、これを祝してマイクロフォンとヘッドフォンの主要アイテムを対象とした最大45%OFFとなる「Austrian Audio 日本上陸5周年記念プロモーション」を日本限定で実施中。そして、先日Austrian AudioのCEOであるマーティン・ザイドルMartin A. Seidl)さんが来日していた際、お会いしてインタビューすることができました。改めてAustrian Audioという会社ができた経緯やこれまでの歩み、そして今後どういった進化をしていくのか、なぜAustrian Audioが精度の高いマイクを開発できるのかなど、お話を伺ってみました。

先日、来日時にインタビューさせていただいたAustrian AudioのCEO、マーティン・ザイドルさん

元AKG社員が集まってできたメーカーAustrian Audio

ーー以前の営業部長であるマーティン・カールセン(Dave Karlsen)さんへのインタビューでもお伺いしたことがありましたが、改めて会社ができた背景を教えてください。
マーティン:私は30年以上この業界で働いており、ハーマンでは、そのうち16年勤務していました。ただ会社の方針が大きく変わってきて、私たちが目指していた方向と大きく乖離してしまったのです。そこで会社を辞め、AKGのあったオーストリアのウィーンを離れ、イギリス・マンチェスターで別の仕事をしていました。そうした中、2015年にAKG本部が閉鎖されることが決まり、以前一緒に働いていたチームのメンバーも解雇されてしまったのです。ある程度、予想はしていたものの、このままではマズイと、当時のメンバーを集め、会社を立ち上げたのが、Austrian Audioです。AKG時代と同じ場所、同じ家具、同じ道具、同じチームで、仕事を続けていくことにしたのです。もっとも、数年前、その建物が取り壊されることになったため、400m離れた新しいビルに移転したんだけど、家具は建物のオーナーから譲ってもらったので、今も使ってますよ。

ーー立ち上げ当時は何名くらいだったのですか?
マーティン:AKGは大きな会社だったので、コンシューマー向け、プロフェッショナル向け、自動車関連の部署があり、そこでは多くの人数が働いていたのですが、私はプロフェッショナル向けのレコーディング機材の開発を行いたかったので、そこにいた開発チームを中心に24名でスタートしました。その後少しずつ人を増やし、今では50名以上がメンバーとなっていますが、その大半は、元AKGのメンバーですね。ちなみにオフィスがクローズするのは、前からアナウンスされていたので、先に辞めて、ほかの場所に移っていたメンバーもいたのですが、Austrian Audioが立ち上がったのを聞いて、駆けつけてくれたチームメンバーもいました。

ーー最初は24名でスタートしたとのことですが、どういった展開をしてきたのでしょうか?
マーティン:立ち上げた当時から、ビジョンもあり、達成したい目標もあり、そのための戦略も持っていました。初めのころに作ったのは、本来であれば10年前に作られるべきだったものを製品化していったのです。今まで通りの伝統的なアナログテクノロジーを使って、現代的なデジタルに対応できる製品を作っていったのです。AKG時代に培ってきた経験や知識を十分に活かしながら、新しいカプセルの開発などを行なっています。私たちはビンテージ製品の再開発やリモデルといったことにはまったく興味はなく、新しい技術も使って、常に新しい製品を作ることをモットーにしています。

OC818を皮切りにプロフェッショナルな現場を想定した製品を開発してきた

ーーその最初の製品が、以前「C414の伝統を引き継ぎつつ、現代にマッチしたモダンマイクが誕生!元AKG社員約30人が集まってできたメーカー、Austrian Audio始動」という記事でも紹介した、OC818でしたよね。
マーティン:最初にリリースしたマイクOC818とOC18のときに取材していただきましたね。その4、5ヶ月後にはヘッドホンHi-X50やHi-X55を発売しました。これも、ドライバを一から開発しており、そのデザイン開発には1年以上の歳月をかけました。ロードマップとしては、初めにラージダイアフラムのコンデンサマイクを作って、それが軌道に乗ったら、次はスモールダイアフラムマイクを出そうと決めており、これも楽器用マイクとしてCC8をリリースしています。レコーディングで使えるマイクを開発した後は、ライブシーンを想定したマイクをリリースしたのですが、コロナの影響でライブが一切できない状況になってしまったのは、想定外でしたね。レコーディングはそれでも行われていたので、OC818などは売れていたのですが、ライブ用のマイクはタイミングが悪かったですね。まさに外れを引いてしまった感じです。

OC818(左)とOC18(中)は、Austrian Audioが最初に出した製品

ーー最近はライブも行われるようになり、状況も変化してきています。
マーティン:本当に喜ばしいことです。コロナ禍でも、開発は続けており、レコーディングで使うフラグシップヘッドホンHi-X60、マスタリング・ミキシングで使うHi-X65もリリースしています。またShure、Sony、Lectrosonicsのワイヤレスシステムに対応したOC707WL1、OD505WL1といったマイクカプセルも製品化してきました。

ワイヤレスシステムのヘッドのマイク部分だけを製品化している

--ワイヤレスマイク用のマイクカプセルも高い評価を得ているようですが、ワイヤレスマイクシステムとしての製品化は考えていないのですか?
マーティン:もちろん検討はしました。ただ、われわれは音響が専門で、音響のエキスパートではありますが、ワイヤレスシステムを開発するとなると、トランスミッターやレシーバなど、音響とは異なる高度な技術が必要となってきます。そして、この分野は大手2社が市場をリードしていることを考えると、そこへの参入は容易ではありません。そうしたところにパワーをかけるよりも、われわれが得意な分野に注力するほういい、と判断したのです。そのため、マイク部分に特化した製品を出しているわけです。

ローリングストーンズの現場でも使用されるAustrian Audioの製品

ーーAustrian Audioがスタートしてから数年経ちますが、現在の自己評価はいかがでしょうか?
マーティン:この6年間で成し遂げたことをとても誇りに思っています。コロナ禍が収まり、大規模なライブが再開される中、ローリングストーンズやボン・ジョヴィ、スティング……など、有名なバンド、アーティストが、Austrian Audioのマイクを新たに導入して、世界ツアーを行なってくれていることは、非常に素晴らしいことだと感じます。まだまだ、アイディアは尽きないので、10年間はアイディアが枯渇することはないでしょうね。唯一、クリスマスに願い事が叶うのであれば、パンデミックや戦争、材料不足、インフレなどなしに、平穏に過ごせる日々になってほしいです。会社ができてからの半分以上は、危機的な世界を潜り抜けてきたので、そう考えると自分たちの行動は間違っていなかったと思えます。

ダイナミックマイクはビックアーティストの世界ツアーライブでも使われるようになった

ーーそんな大きなライブツアーに利用されるようになってきたんですね。日本でもレコーディング現場でAustrian Audioの評価が高いのですが、そうした評価は世界共通なのでしょうか?。
マーティン:ワールドツアーを行うアーティストが利用してくれているバックには、クレアブラザーズ・オーディオ・エンタープライズというライブのオペレートを行う会社があることが影響しています。同社がAustrian Audioのマイクを高く評価してくれたことがあり、「このライブにはAustrian Audioのマイクを使ってくれ」といった指示もあったりするそうです。北アメリカでは、非常に高い評価を受けて、製品も売れており、認知度も上がっています。日本や韓国でも有名なアーティストが使用してくれているので、嬉しいですね。ただ、今のところ中国やインドへの進出はできていないので、次はその辺りをメインに広げていきたいと思います。もちろん自分たちのホームであるオーストリアでは、かなり人気が高く、ドイツ、イギリスのライブシーンでも使用されています。まだまだ若い製品なので、これからも広げていきたいと思っています。

素材、経験値、クオリティチェックによって、誤差を最小限にする

ーーさらにこの先のAustrian Audioの展開としては、どんなことを考えられているのでしょうか?
マーティン:イマーシブのような多チャンネルの録音が増えてきているので、トレンドはそこにあると思ってます。その点においてAustrian AudioのOC818は、非常に高いポテンシャルを持っていると考えています。多くのメーカーでは、特性を揃えたステレオペアという製品を販売していますが、OC818にステレオペアはありません。もともと、どのロットでも誤差が非常に少なくなる形で設計、生産しているので、どれを選んで買ってもマッチしているのです。そして今日買ったものと、2年後に買ったものでも一緒に使えうことが可能です。つまり、何本あっても特性は完全にそろっているから、多チャンネル録音に向いているわけです。しっかりクオリティチェックを行なっているので、どんどん買い足していってチャンネルをいくらでも増やせますので、これは多チャンネル録音に有利な点だと感じています。

Austrian Audio自社開発のダイアフラム

ーーどうしてもアナログ機材は誤差がでてくると思うのですが、なぜAustrian Audioでは、誤差を非常に小さくできるのでしょうか?
マーティン:セラミックを使ったカプセルを自社開発しているというのがポイントなのですが、さらにクオリティチェックを3段階で行なっているので、誤差を非常に小さくすることを実現しています。まず、マイクカプセルにマウントする前の膜の部分を計測して、これが規定に沿ったものかチェックします。次にカプセルを組み立てた後に再度計測を行います。最後、すべての部品を組み合わせて完成したときにも計測を行なっています。また計測する機会も自社で開発しており、さらに細かい抵抗値なども調整することにより、誤差を最小限に抑えています。使う素材、経験値、クオリティチェックがポイントとなっています。

ーー最後にDTMステーション読者に向けてコメントをお願いいたします。
マーティン:素晴らしいことに進むことを諦めないでほしいと思います。自分が信じていることがあれば、他人からどう思われようと無視して、突き進んでいってほしいですね。Austrian Audioもそうして、ここまで来ることができました。ぜひ、これからもAustrian Audioとともに進んでいきましょう。また、われわれが日本での販売を開始してちょうど5周年ということで特別セールを実施しているところなので、ぜひそちらもチェックいただければと思います。

Austrian Audioの日本上陸5周年記念のセールを実施中

ーーありがとうございました。

【関連情報】
Austrian Audioサイト
Austrian Audio 日本上陸5周年記念プロモーション情報

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