DTMステーションでも何度も紹介している人気のNEUMANN(ノイマン)モニタースピーカー。NEUMANNブランド最初のモニタースピーカーはKH 120というモデルでしたが、そのリニューアル版となるKH 120 Ⅱが発売されました。最大のアップデートは、自宅録音ユーザーに人気のKH 80 DSP同様にDSPを搭載し、キャリブレーションに対応したこと。旧KH 120でキャリブレーションを行うためにはDSP搭載のサブウーハーKH 750 DSPが必要でしたので、単体でキャリブレーションできるようになったことはDTMerにとって朗報ではないでしょうか。
実際に使ってみると、モデル名は似ているもののどうやら旧モデルKH 120とは全く異なるスピーカーであることがわかってきました。横浜のfeel at home Musicスタジオのご協力をいただいてKH 120 Ⅱを設置し、旧モデルとの違いなどをチェックしてみました。
キャリブレーションに対応した最新機種KH 120 Ⅱ。単品の写真だとKH 80 DSP/KH 150と区別がつかないほどそっくり
KH 120 Ⅱの概要と旧モデルKH 120 A&KH 80 DSPとの違い
KH 120 Ⅱは「Ⅱ(ツー)」とあるように2代目のモデル。初代KH 120は2010年にNEUMANN初のモニタースピーカーとして発表されました。5.25インチウーハー(低域用スピーカーユニット)と1インチツイーター(高域用スピーカーユニット)をもつパワードモニタースピーカーで、アナログ入力のみのKH 120 Aとデジタル入力ありのKH 120 Dがラインナップされました。
2010年に発表された旧モデルKH 120。あのNEUMANNがモニタースピーカーをリリースしたと大きな話題になった製品
NEUMANNはKH 120以降ラインナップを拡充し、近年注目されているのはDTMステーションでも紹介したDSP搭載のKH 80 DSP。自宅規模に最適な4インチウーハーを持ち、別売りのMA 1測定用マイクを使用することで設置環境にあわせて出力音を補正するキャリブーレション機能に対応したスピーカーです。
NEUMANNで初のDSPキャリブレーション対応機種、KH 80 DSP。そのサイズから自宅でミキシングを行うユーザーに広く普及した人気機種
その後DSP搭載/キャリブレーション対応モデルを拡充し、サブウーハーKH 750 DSP、KH 150がリリースされました。すべてのDSP搭載モデルに「DSP」というモデル名がついているわけではなく、KH 150はDSP搭載/キャリブレーション対応ですが、モデル名に「DSP」はありません。
KH 120 Ⅱもモデル名に「DSP」がありませんが、DSP搭載/キャリブレーション対応となっていて、これが旧モデルKH 120との最大の違いです。
また、KH 120 Ⅱの正式名称はKH 120 Ⅱ EU/KRとなっているので、販売店などでは名称がバラつくことがありそうです。EU/KRというのは仕向け(販売地域)に関するモデルわけを示すもので、「EU/KR」バージョンはEUとありますが日本の電源(100V)に対応しており問題なく使用できます。国内の正規販売店から購入すれば国内向けモデルが購入できると考えて良いでしょう。
設置されたKH 120 Ⅱ。設置してみると5.25インチというサイズの割にコンパクトな印象で、大きさは感じなかった
他の違いについては表にまとめてみました。
KH 80 DSP A G EU | KH 120 A | KH 120 Ⅱ EU/KR | KH 150 EU/KC | |
DSP/LAN端子 | 搭載 | 非搭載 | 搭載 | 搭載 |
MA 1(別売)でのキャリブレーション | 対応 | 非対応 (KH 750 DSP経由で可能) |
対応 | 対応 |
ウーハーサイズ | 4インチ (100mm) |
5.25インチ (130mm) |
5.25インチ (130mm) |
6.5インチ (165mm) |
ツイーターサイズ | 1インチ (25mm) |
1インチ (25mm) |
1インチ (25mm) |
1インチ (25mm) |
周波数特性 (+/-3dB) |
57 Hz 〜 21 kHz | 52 Hz 〜 21 kHz | 44 Hz 〜 21 kHz | 39 Hz 〜 20.4 kHz |
最大音圧レベル | 108.8 dB SPL | 111.1 dB SPL | 116.8 dB SPL | 118.7 dB SPL |
低域アンプ出力 | 120W | 80W | 145W | 145W |
高域アンプ出力 | 70W | 80W | 100W | 100W |
クロスオーバー周波数 | 1.8kHz | 2.0kHz | 1.7kHz | 1.7kHz |
アナログ入力端子 | XLR/TRS | XLR | XLR | XLR |
サイズ (H x W x D) |
233 x 154 x 194 mm | 277 x 182 x 220 mm |
287 x 182 x 227 mm | 345 x 225 x 273 mm |
重量 | 3.5kg | 6.2kg | 5.4kg | 8.0kg |
電源 | 100〜240V | 100〜240V | 100〜240V | 100〜240V |
まとめてみると、DSP搭載/キャリブレーション対応の他にも様々なスペックが異なっています。特に再生可能な音の範囲を示す周波数特性が広く改善され、低域が44Hzまで再生可能になっています。アンプもパワーアップされ、出せる音量を示す最大音圧レベルも向上しています。
一方でNEUMANN独自のMMDウエーブガイドやELEF、ロングスローバスドライバー、防磁キャビネット等のハードウェア設計思想はそのまま踏襲されているようです。これらは上記4機種では共通の特徴となっていました。
サイズを超えた低域再生を支えるNEUMANN独特の筐体構造は健在。実物ではプラスチック感もなく高品位で精密感のある仕上がり
背面のブラケット取り付け穴も健在で上記4機種では共通の特徴。「スピーカー購入で25,000円以上するスタンドがもらえる!? NEUMANN KH 80 DSPキャンペーン実施中」で紹介した純正のデスクトップスタンドLH 65が使用できるほか、純正ブラケットを使用してイマーシブオーディオ環境のセットアップなども可能です。
(リンク先の記事内のキャンペーンは終了しています。ご注意ください。)
背面には音質調整をするスイッチ類と、キャリブレーションに使用するLAN端子、そしてブラケット用のネジ穴が用意されている
ということで、旧KH 120とKH 120 Ⅱはモデル名と筐体の設計思想は同じですが、すべてのパフォーマンスが向上したうえにDSP搭載となった、似て非なるモデルということができるでしょう。旧KH 120ユーザーにとっても買い替えの価値はあるモデルチェンジと言えそうです。
DSPを活用したキャリブレーション機能を改めて体験
実際に音を聞いてみようということで、ボーカルレコーディングからギターレコーディングまで対応する横浜のfeel at home Musicスタジオのオーナー村瀬さん(@feel_at_home_M)にご協力いただき、KH 120 Ⅱをセッティングしました。
feel at home Musicスタジオ
NEUMANNのモニタースピーカーはそのまま置いても良い音がするのですが、小規模スタジオや自宅などの広さではキャリブレーション機能ありきで使用するのがユーザーでは定説となっているようです。筆者も何度も体験しているのですが、改めてfeel at home MusicスタジオにてMA 1マイクを使用したキャリブレーションを行ってもらいました。
専用の計測用マイクMA 1をオーディオインターフェースに接続し、テスト用の信号音を7箇所の位置で拾うことでキャリブレーションを行う
キャリブレーション作業には無料の専用ソフトウェアAutomatic Monitor Alignment Softwareを使用します。このソフト以前はフリーダウンロードだったのですが、現在は購入後にユーザー登録をすることでダウンロードが可能になります。ソフトウェア自体も改良が加えられ、初期バージョンより使いやすくなっていますよ。
キャリブレーションの様子は「自宅をレコーディングスタジオに作り変えるNEUMANNのモニタースピーカー、KH 80 DSPのキャリブレーションを試してみた」でも紹介しています。
MA 1マイクは1本1本の特性が出荷前に計測・管理されているようで、ソフトウェアではシリアルナンバーを入力することで動作するようになります。オーディオインターフェースに接続し、ソフトウェアの指示に従って信号音の計測を進めていきます。7箇所で計測するので、マイクスタンドを用意しておくと便利ですよ。
計測後は以下のような画面が表示され、好みにあわせた微調整を行うことができます。部屋の音はターゲットカーブ(オレンジ)を目指して補正され、まるでスピーカーがあることを忘れるかのような自然なサウンドを聞くことができました。
feel at home Musicスタジオでのターゲットカーブと補正結果。10ポイントのEQで微調整を行うことができる
オーナーの村瀬さんも初体験だったようですが、「びっくりしました。この値段でこの音なら高くないと思いますね。購入したいものが増えました(笑)。」と非常に驚いていました。
いつもはGENELECを使用している村瀬さんもそのサウンドには「本当に驚いた」とのこと。
また、特筆すべきはキャリブレーションしてしまうとKH 80 DSP/KH 120 Ⅱ/KH 150のサウンドの差がほとんど無いということ。ブラインドテストをしたら同じスピーカーに聞こえるのではないかと思うほどそっくりでした。
ただしウーハーのサイズ差はサウンドに影響しており、低域再生能力には差があります。特に低域の情報量が多い楽曲を聞いた場合にはKH 120 Ⅱの方が有利であるように感じました。
5インチではなく5.25インチなので、かなりの広さまでカバーできるパワフルなスピーカーに仕上がっている
とはいうものの、KH 120 Ⅱアンプ出力145Wと非常にパワフルでもあるので、部屋の広さが6〜8畳くらいであればややオーバスペックな感も。6〜8畳くらいではKH 80 DSPの方が良さそうです。それ以上の広さ、しかし大規模なレコーディングスタジオほど広くない場合はKH 120 Ⅱが最適なスピーカーになりそうですね。いずれにせよ音の差が驚くほど少ないので、ご自身の環境にあわせてサイズ重視で選べば良いと思います。
5.25インチウーハーのKH 120 Ⅱにサブウーハーは必要?
KHシリーズには専用のKH 750 DSPというサブウーハーがラインナップされています。旧モデルKH 120ではキャリブレーションを行うためにKH 750 DSPが必須でしたが、KH 120 ⅡはDSP搭載。サブウーハーは必要でしょうか。
周囲のKHユーザーにヒアリングしてみたところでは、KH 150の場合はサブウーハーなしでも良さそう。一方でKH 80 DSPの場合はサブウーハーを導入することで特に小音量再生時の低域が見えやすくなり、作業効率向上に貢献する、とのことでした。
KHシリーズ専用のサブウーハー(低域用スピーカー)KH 750 DSP。導入することでシステム全体に余裕がでてくるのが特徴
KH 80 DSP/KH 120 Ⅱともに旧来の一般的な5インチウーハーのモニタースピーカーよりは豊かな低域なので不要といえば不要ですが、正確な低域チェックのためにはあったほうが良いかもしれません。KH 750 DSPは大きく重いので設置場所も重要。ご自宅の環境と相談して決めるのが良いでしょう。
なお、最新バージョンのAutomatic Monitor Alignment Softwareでは、ソフトウェアからサブウーハーを無効にする機能が追加されています。日中と深夜でサブウーハーの有無を切り替えたい場合などに便利ですね。
KH 120 Ⅱを紹介してきましたが、今回のリリースによってNEUMANNの主要ラインナップがDSP化されたことになり、機能に左右されずに好きなサイズを選ぶことができるようになりました。また、シリーズでサウンドが統一されているので、知り合いやよく行くスタジオがKHシリーズで統一されればどこでも同じ音で制作ができそうです。設置場所にあわせて人気のNEUMANNスピーカーを選んでみてください。
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KH 120 II製品情報
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