以前「鈴木Daichi秀行、田辺恵二、松隈ケンタ、瀬川英史、水島康貴……ガチプロ作家勢がSynthesizer Vのコンピアルバムを作成!?一般枠の公募も開始」という記事で紹介した、メジャーで活躍するトップ作家勢によるSynthesizer Vのコンピアルバムが完成し、5月19日に配信がスタートします。タイトルは、『AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI』。
参加したクリエイターは、鈴木Daichi秀行さん、田辺恵二さん、瀬川英史さん、Yamato Kasai(Mili)さん、中土智博さん、水島康貴さん、コモリタミノルさん、松隈ケンタさん、ケンカイヨシさん…といった、そうそうたる豪華メンバー。さらに今回、ポルノグラフィティやいきものがかりの作曲・編曲などで知られる本間昭光さんが参加していたことも発表されました。一方、一般枠からも3名が参加し、合計14曲が収録されています。以前インタビューさせていただいてから、完成に至るまでの経緯について、前回と同様に鈴木Daichi秀行さん、田辺恵二さんにお伺いしてきました。楽曲を制作してみた結果感じたSynthesizer Vの魅力、AI歌声合成の未来などについて紹介していきましょう。
豪華メンバーが勢揃いしたコンピアルバム『AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI』が配信スタート
ーー前回インタビューさせていただいたタイミングで、一般公募が開始されましたが、その応募状況、どうだったのでしょうか?
田辺:どのくらい、どんな作品が来るのか、我々も予想がつかなかったので楽しみにしてましたが、結果的に一般募集に関しては、110曲の応募がありました。ほとんどの人が1作品でしたが、中には2曲、3曲応募してくれた方もいたので、人数にすると80人強でしたね。
Daichi:一般公募では、打ち込み系のボカロPっぽい楽曲が多いのかな、と思っていたのですが、意外と生楽器系の楽曲だったり、弾き語り、歌謡曲テイストが多くて、少し不思議でもありましたね。あくまで仮説ですが、生楽器系の音楽での応募が多かった理由は、ベースになっている方向性の違いだと思います。ボカロは、ひとつの新しい楽器、歌うシンセみたいなニュアンスが強く、作品としても人間が歌えないようなものを作る面白さがあります。一方、Synthesizer Vは、すごくリアルで、人間が歌うものを表現するみたいな違いがありますね。だからなのか、僕らが知っている時代のDTMというか、ベテラン勢からの応募が多かったですよ。
ーーベテラン勢が多かったということは、年齢的にも比較的上の方が多かったということでしょうか?
田辺:年齢を聞いていたわけではないので、具体的には分かりません。でも曲調から年齢層が高そうだなと感じましたね。Synthesizer Vは滑らかに歌わせる上でVOCALOIDで駆使されるような調声は不要です。単純にメロディと歌詞を入力すれば、とてもリアルに歌ってくれるという点から、そういう層が使い始めたのかなと思いますね。
--110曲集まったものの中から3曲が今回のアルバムに選出されたわけですが、これはどのように選んだのですか?
田辺:基本的にはメンバーみんなでの投票で決めるということにしたのですが、110曲全部を送ると大変なので、あらかじめDaichiさんと僕とで40曲ほどに絞り込んだ上で、みなさんに投げたんです。その結果、上位に挙がったのがこの3曲だったということですね。
Daichi:40曲の中でも、確かに今回の3曲のデキはとてもよかったので、ここに落ち着いた形ですね。ほかも、非常によくできた曲が多かったのですが、Synthesizer Vの歌がよく、曲としてのデキもよくて、ミックスなども上手くできていないと困るので、ここに決まった形です。
--ミックスも含め、応募者が行う形だったんですね。そもそも応募データって、パラデータとかではなく2ミックス?
田辺:はい、2ミックスのみですね。
Daichi:ミックスを誰かに頼むのであれば各自でお願いします、というスタンスだったんですけど、結局みなさんご自身でやっていたようですね。見ていると、応募者の多くがMIDIの時代からのクリエイターが多い印象でしたが、特に「心配ないからね」を作ったAkira Suzukiさんの楽曲は、30年前に作ったオケを使っているそうなんですよね。当時ハードシンセを鳴らして、作ったものだろうと思いますが、クオリティがめちゃくちゃ高いんですよ。ダイナミクス的なところも含めて斬新で、プラグインでは出せない豪華さがあり、プロの中に混ざっても引けを取らない完成度でした。
--30年前のオケを使って作った、ということでの応募だったのですか?
Daichi:いえ、そうではなく、選考後のメールのやりとりで、「2ミックスの完成版のWAVデータをください」みたいなやりとりをしていたときに、「30年近く前の曲なので、2ミックスのカラオケしか残っておらず、パラデータがないんです。改めてオケを作り直すことは可能ですが、雰囲気変わっちゃいますよね」みたいな返事があったので、わかったんです。聴いていると、当時の雰囲気が好きな人が再現しているのかな…と普通に思うじゃないですか。でも、そうじゃなかった(笑)
左からTucky’s Masteringの瀧口“Tucky”博達さん、Daichiさん、田辺さん
ーー前回のインタビューでプロのみなさまは、奇をてらったものでなく、いつも通りの楽曲を作ってという話でしたが、思った通りにいきましたか?
田辺:瀬川英史さんは普段は劇伴音楽が中心ですし、中土智博さんはアニメの作編曲を担当していることが多く、曲ができるまでは少し想像できなかったのですが、完成後の楽曲を聴いたら、「いつも通りだね」となりましたね。ちなみに今回初発表となったのが、音楽プロデューサーの本間昭光さん、湊 貴大さんですね。
Daichi:本間さんは、いつも一緒に曲を作っている米米CLUBのギタリスト林部直樹さんと作っているので、これだけでも豪華ですよね。
田辺:松隈さんにオファーした際は、Synthesizer Vで作った楽曲を聴いてもらったのですが、これだったらぜひ参加したいとなりましたね。また水島康貴さんチームでは、作詞として大御所の松井五郎さんも参加してくださりました。これだけのメンバーが面白がってくれたのも、それだけSynthesizer Vには魅力があるってことですよね。それぞれの方とは、ちょくちょく一緒になりますが、これだけのメンバーが集まることはないので、かなり貴重だと思いますよ。
ーーこれだけすごいメンバーが集まっていますが、ここでのプロの定義ってどう捉えるといいですか?最近はボカロP出身のプロもどんどん活躍の場を増やしていますが、今回のメンバーの中では、湊 貴大さんを除くといなそうですよね?
Daichi:分かりやすさでいうと、これまでどんな楽曲を作っていたかになると思います。今回集まっていただいた方々は、職業作曲家として活動してきた方々が、本気で作ったアルバムになっているので、新しい面白さがあると思いますよ。Synthesizer Vで作る楽曲は、ボカロPとの相性の方がよさそうに思えますが、今回はあえて普通に人間が歌う曲を普段作っている人たちがSynthesizer Vを使って楽曲を作ったらどうなるか実験してみました。結果的に、いい意味で普通のものができましたね。これがAIの歌声といわれなければ、普通に聴いてしまうと思いますよ。
ーー今回の制作において大変なことはありましたか?
Daichi:Synthesizer Vを使うのは、今回が初だったのですが、簡単に使えてしまったので、大変なところはなかったですね。
田辺:Daichiさんとコラボした楽曲「リリカリズム」は、コーラスパートが80トラックぐらいあったので、それを整理するのが大変でしたね。これは、Synthesizer V関係なしに大変だったところですね。一方で、僕自身の楽曲「春のせいで」はハモリなしの歌謡曲で、歌を前面に出しているので、より生々しさを追求するのが少し大変でした。MelodyneとかAutoTuneとかでピッチを補正するのっていうのは無しにしたので、そこも難しかった点ですね。普段は仮歌の人に伝えるために使っているので、ここまで作り込まないですが、今回は音符の長さ、止めるところ、息使いにかなりこだわりました。制作している途中でもSynthesizer Vはバージョンアップしていったので、1.8.1でかなりのパラメータをオートメーションできるようになり、細部まで作り込みましたね。大変でしたが、ボカロで作れといわれたら、できないですね。
ーー最後に「AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI」は、特にどんな人に聴いてもらいたいですか?
田辺:僕は、ボカロを作る人や聴いている人、若い人に聴いてもらいたいな、と思っています。こういう方向性のものもあるよってことを伝えたいですね。それと、シンガーが近くにいないと困っている、プロアマにも聴いてもらいたいです。すごく可能性があるよってことが伝わったらいいですね。
Daichi:自分で作ったものをどんどん発表していくという時代になっていて、AI作曲なども出てきているなか、誰が作っているかが価値になっていくと思うんです。なので、作家も楽曲提供を行いつつ、自分の作品を残していく必要があると考えています。そのときに、シンガーと組んで、楽曲を発表するのもいいし、Synthesizer Vのようなものを使ってもいいと思います。AI歌声合成を使うと、すごく作家性が出るし、英語も歌えるので、海外に進出したりといったことも可能だと思いますよ。ボカロ以外の普通の楽曲を聴いている人も、これなら普通に聴けるので、Synthesizer Vが主役というよりも、作家が主役で活動できる時代ですね。ぜひいろいろな方に聴いていただき、多くの作品が出てきたら面白いですね。
コモリタミノルさんオンラインインタビュー
Daichiさん、田辺さんとのインタビューをしているときに、今回のアルバム『AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI』の参加メンバーであるコモリタミノルさんとオンラインで接続してお話を伺うことができましたので、その時の内容を紹介しましょう。
ーーコモリタさんが、Synthesizer Vを使い始めたきっかけを教えてください。
コモリタ:一番最初、Twitterを見ていたら、Synthesizer Vがいいということをみんなが発信していたので、記事をチェックしてみて、サンプルを聴いてみたら、想像以上のクオリティがあるなと思ったんです。パッと聴いて人が歌っているように聴こえたんですよね。そこからすぐに、Synthesizer Vとボイスを4つ購入しました。ライブラリを見ると、Kevin、Mai、Natalie、Saki AI、SOLARIAが並んでいますね。最初、自分が作りかけていた楽曲を読み込ませて、再生したらちゃんと歌っていて驚きました。
ーーそこから、どうして「AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI」に参加することになったのでしょうか?
コモリタ:FacebookでDaichiさんの投稿を見つけて、コメントしたら、「参加しますか?」といわれ、軽い感じで参加することになりました。
ーー最初は軽いノリだったんですね。その後Synthesizer Vは、普段の仕事でも使えそうですか?
コモリタ:さまざまな楽曲にフィットさせたいので、キャラクター数が増えたら、さらに使いやすくなりそうですね。これまで仮歌は、自分で歌ってたのですが、本人に合うかどうか判断するときに、おじさんが歌うよりもSynthesizer Vのほうが、イメージが伝わりやすいと思います。自分としては、英語圏で作品をもっと出していきたいと思っているので、そっちで使っていくと思います。
ーーなぜ英語圏なのですか?
コモリタ:2年前ぐらいに自分のソロ曲「Bunny Bunny」を出したのですが、一番再生されたのがアメリカだったんです。そこから英語圏を意識するようになりました。また生々しい話ですが、ある程度の規模でも印税は、1万円程度しかないんです。一方「Bunny Bunny」は、今年に入って3万円ぐらいにはなっているんですよ。年間では10万円ぐらいにはなっていて、少ない額ですが、どっちが安定するのかを考えると、もはやそういうことなのかと。英語で伝わりやすいものを作るのは、やらなくてはいけないことになっているので、Synthesizer Vと人が歌う、2パターンで英語圏に挑戦していこうと思っています。
ーー最後に楽曲「Kaleidoscope」を作ってみて、Synthesizer Vの歌い方やボイスの評価なども含めて感想を教えてください。
コモリタ:ボトムが膨らんだ声が好きなんでKevinを使い、通常の男性キーよりも2から3度高く歌わせています。中性的なミックスボイス中心に使ったのですが、意外と狙った通りにちゃんと歌ってくれましたね。
【楽曲情報】
AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI情報
AIボーカルコンピVol.1 with Synthesizer V AI配信リンク
【関連情報】
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Synthesizer V製品情報
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