DTMステーションにも何度も登場し、DTMでの作編曲からミキシングまで、自宅録音ユーザーを中心に高い人気を誇る4インチウーハーのパワードモニタースピーカーNEUMANN(ノイマン) KH 80 DSP。6畳〜8畳の自宅スタジオにはピッタリであるものの、それ以上の規模ではややサイズ不足との声が多く聞かれ、DSP音場補正機能を搭載したミドルクラスモデルの登場を望む声が多く聞かれていました。このような背景の中、満を持して登場したのが6.5インチウーハーを持つDSP音場補正機能搭載モニタースピーカー、NEUMANN KH 150です。
専用マイクで計測してキャリブレーションを行う機能はモニタースピーカーの必須機能になりつつあり、KH 150はモデル名に「DSP」という名称が含まれませんが、キャリブレーション機能を搭載しています。基本的にはKH 80 DSPのサイズアップ版なのですが、モデル名にDSP表記がないので、本当に同じ機能を持っているのか心配な人も多いでしょう。発売前にKH 150をお借りすることができたので、DTMステーションでよく知られれているKH 80 DSP、その他のNEUMANNモデルとの比較を中心に紹介してみたいと思います。
リリースされたばかりのNEUMANN KH 150とキャリブレーションを行うソフトウェアAutomatic Monitor Alignment
いろいろなモデルのいいとこ取り 機能で比較するKH 150
KH 150を紹介するにあたって、改めてNEUMANNのモニタースピーカーラインナップを紹介しておきましょう。NEUMANNのモニタースピーカーは、1991年にNEUMANNがゼンハイザーグループに入った後にその歴史がスタートします。2005年にゼンハイザーグループは1945年創業のスピーカーブランドKlein + Hummelを買収。その後3社の技術が結集され、NEUMANNブランドとしてモニタースピーカーをリリースするようになりました。
近年人気のKH 80 DSPはシリーズの中で最も小さいモデルであり、自宅スタジオ等に適しています。スタジオ写真で見ることが多いのは5.25インチウーハーの2ウェイモデル(スピーカーユニットが2つの構成)KH 120と8.25インチウーハーの3ウェイモデル(スピーカーユニットが3つの構成)KH 310でしょう。今回リリースされたKH 150は、モデル名の通りKH 120とKH 310の間に位置するモデル。6.5インチウーハーを搭載した2ウェイスピーカーです。
KH 150リリース以前のNEUMANNのスピーカーラインナップ。KH 310以上の大型スピーカーやサブウーハーもラインナップされている。
これら4機種の機能面を比較してみましょう。
KH 80 DSP | KH 120 | KH 150 | KH 310 | |
構成 | 2ウェイ | 2ウェイ | 2ウェイ | 3ウェイ |
ツイーター (高域用ユニット) |
1インチ | 1インチ | 1インチ | 1インチ |
スコーカー (中域用ユニット) |
無し | 無し | 無し | 3インチ |
ウーハー (低域用ユニット) |
4インチ | 5.25インチ | 6.5インチ | 8.25インチ |
DSP | 搭載 | 非搭載 | 搭載 | 非搭載 |
モニターアライメント機能 | 有り | 無し ※KH 750 DSP経由で可能 |
有り | 無し ※KH 750 DSP経由で可能 |
Neumann.Controlアプリ対応 | 有り | 無し | 無し | 無し |
音質調整 | プリセット | 3ポイント | 3ポイント | 3ポイント |
アナログ入力端子 | XLR/TRS | XLR ロック付 |
XLR ロック付 |
XLR ロック付 |
デジタル入力 | 無し | 無し | あり S/P DIF COAXIAL |
無し |
ご覧の通り、KH 150は後発ということもあり、いいとこ取りモデルとなっています。内部にDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)を搭載しているため、別売りのMA 1測定用マイクを用いることで、設置場所にあわせて最適な音に調整するモニターアライメント機能(キャリブレーション機能)が使用可能です。
専用ソフトウェアAutomatic Monitor Alignmentの画面。LAN経由で接続し、画面の指示に従ってMA 1マイクを動かしながら計測を行う。
ただし、KH 80 DSP用のiPadアプリNeumann.Controlは非対応となっているので、注意が必要です。とは言っても、パソコン・LAN経由のキャリブレーションができるので、実質的に困ることはないでしょう。なお、本体のみでの音質調整機構については、プロ向けの機種であるKH 310やKH 120と同じ3ポイントでの調整が可能。本体背面のスイッチを操作することで好みの音質に調整できます。
また、DSP内部では信号がデジタル処理となるため、入力されたアナログ信号はデジタル変換されています。これに伴ってデジタル入力が装備され、デジタル信号のままでも入力が可能です。
本体背面にはローカルモード動作時に有効な音質調整スイッチが用意されるほか、デジタル信号を直接入力するCOAXIAL端子も装備する。
機能を比較しているだけでもNEUMANNモニタースピーカーの進化がわかりますね。
上位機種を上回る高性能も スペックで比較するKH 150
続いてはスペック面からも比較してみましょう。
KH 80 DSP | KH 120 | KH 150 | KH 310 | |
周波数特性(+/-3dB) | 57Hz 〜 21kHz | 52Hz 〜 21kHz | 39Hz 〜20.4kHz | 34Hz 〜 21kHz |
セルフノイズ | 20dB以下/10cm | 20dB以下/10cm | 20dB以下/10cm | 20dB以下/10cm |
全高調波歪み0.5%以下 | 200Hz以上 | 100Hz以上 | 75Hz以上 | 85Hz以上 |
最大SPL | 102.8dB SPL | 105.1dB SPL | 112.7dB SPL | 110.3dB SPL |
※セルフノイズ:100dB SPL/0dBに設定、全高調波歪み:95dB SPL/1m、最大SPL:フルスペース/3%THD/1m
使用しているツイーターユニット(高域用ユニット)が同じなので高域部分の特性はほぼ同じですが、低域再生能力が大きく異なります。KH 150はなんと39Hzという超低域から再生可能となっていました。
KH 150の周波数特性。EDMのベースや生楽器の低音もカバーできる39Hz〜という低域再生能力を誇る。
8.25インチという大型のウーハーを備えるKH 310でも34Hz〜となっていますから、比較してみるとかなり高い低域再生能力を誇っていることがわかるでしょう。サブウーハー無しで豊かな低域を望む場合はKH 150かKH 310の2択になりそうです。モニターアライメント機能が必要な場合、KH 310は非対応なのでKH 150一択になりそうです。
豊かな低域を生み出すバスレフポートと、キャビネットに隠されたロングスロー・バス・ドライバー。
KH 150の最大SPLがいちばん高いことも特徴として挙げられます。最大SPLは簡単にいえば「どのくらい大きな音が出るか」ということですが、上位機種であり大型のKH 310を上回る音量が出ることに注目です。12畳を超えるような大きなコントロールルームを持つスタジオでは音量が必要になりますから、最大SPLも重要な選定基準になるのではないでしょうか。
写真のKH 310を上回る大音量が出せることで、使用可能な環境の幅が大きく広がっている。
また、音質面ではありませんが、全シリーズ共通で装備されているMMDウェーブガイドという構造も紹介しておきましょう。NEUMANNスピーカーのキャビネットは3Dモデリングで設計された3D形状が特徴。象徴するものが、ツイーターの周囲の窪みを中心としたMMDウェーブガイド構造です。
KHシリーズの音の飛び方を決定している3D形状のMMDウェーブガイド。KH 150は特に彫りが深い。
コンソールやデスクの上で使われることを想定し、上下の指向性(音の飛ぶ範囲)は狭くなっている一方で、複数の人間が同時に聞きやすいように左右方向の指向性が広く調整されています。もちろんKH 150でも装備され、以下のような計測結果が公表されています。まずは水平方向の指向性をご覧ください。
KH 150の水平方向の指向性を表した図。左右に広がるように音が飛んでいくのがわかる。
続いて垂直方向です。実際の使用環境をよく知っている設計と言えますね。
KH 150の垂直方向の指向性を表した図。左右の特性に対し狭いことがわかる。
このようにスペック面からもシリーズ共通のコンセプトが感じられつつ、進化を感じることができました。
実際にキャリブレーションして聴いてみた
試聴にあたっては置き場所なども重要なので、エンジニアの小泉こいた。貴裕(@KOITA_SWK)さんがちょうどKH 150をテスト用にセッティングしているとのことで、自宅スタジオにお邪魔して聴かせてもらいました。6畳間ではありますが吸音対策などがなされ、スピーカースタンドが用意されていました。
机の上に置いてあるのがセッティング中のKH 150。スタンドに乗っているKH 80 DSPと比較するとサイズ感がよくわかる。
キャリブレーションは別売りのMA 1マイクを用いて行われ、KH 80 DSPとまったく同じようにキャリブレーションができるとのこと。キャリブレーションの詳細は以前の記事「自宅をレコーディングスタジオに作り変えるNEUMANNのモニタースピーカー、KH 80 DSPのキャリブレーションを試してみた」を参考にしてみてください。
音を聴いてみると、たしかに低域がよく出ているのが一聴してわかります。KH 80 DSPも4インチスピーカーながらよく低音が出ていると感心しましたが、さらにひとまわり豊かな低音で、まるで大きなレコーディングスタジオで聞くような音です。
また、低音以外の音質に関してはほぼKH 80 DSPと同じ音で驚きました。ツイーターユニットが同じ部品ということ、キャリブレーションして音質をあわせているということもあるのでしょうが、中域〜高域にかけては聴き分けが難しいほどです。
6.5インチと聞いた時は自宅には大きすぎるかと思いましたが、キャリブレーションして使う前提であれば、もちろんある程度の音響対策は必要だと思いますが、自宅でも気にせず使うことができそうです。4インチのKH 80 DSPもコンパクトで良いと思いますが、大きいスピーカーがお好みの方は検討してみてはいかがでしょうか。
見た目は大きいが、音を聞くとさほど大きすぎるという印象はなく、自然に聞くことができた。
豊富なオプションでイマーシブオーディオ環境の構築にも使える
最後にオプションを紹介しておきましょう。KHシリーズはスピーカー本体の良さもさることながら、豊富なセッティングオプションも魅力のひとつです。KH 80 DSPに使える専用スタンド付きキャンペーンを以前の記事「スピーカー購入で25,000円以上するスタンドがもらえる!? NEUMANN KH 80 DSPキャンペーン実施中」で紹介しましたが、好評だそうですよ。
KH 150は片側で約8kgと、樹脂製ボディのわりには重いスピーカーです。したがって、記事で紹介したスタンドLH 65は使用できず、専用のLH 66というスタンドが新たに用意されています。
そのほか、スピーカー背面のボルト穴を活用して様々なセットアップが可能。特にイマーシブ環境を構築する際には、これらの豊富なセットアップオプションが役に立ちそうです。
セッティングオプションはグラフィックでわかりやすく案内されている。様々な環境に対応できるのが一目瞭然だ。
以上のように、KH 150はNEUMANNのこれまでのノウハウを凝縮させた「いいとこ取り」スピーカーになっているようです。6.5インチウーハー、重量は8kgですから、基本的なターゲットは比較的大きめのレコーディングスタジオになるでしょう。しかし、キャリブレーションをしてしまえばある程度小さな部屋でもそこそこ使えそうです。もちろん価格面も気になるところですので、予算と部屋のサイズ、DSP補正を基準にスピーカーを選ぶと良さそうですね。
6畳のスタジオでも意外と普通に使えたのが印象的だったNEUMANN KH 150
コンパクトなモデルから大型モデルまで、一通りのサイズが揃ったNEUMANNスピーカー。部屋のデザインや音響調整の状況にあわせて最適なモデルを選んでみてはいかがでしょうか。
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