Avid Pro Toolsの最新バージョンPro Tools 2022.04が本日発表されました。これまでのバージョンと大きく違うのは、Pro Tools | Firstがラインナップから消える一方、新たにPro Tools Artistが誕生。また無印のPro ToolsはPro Tools Studioという名前に変わり、フラグシップであるPro Tools Ultimateにも動きがありました。さらに新音源の追加、新機能が搭載され、ここ数年の中でもかなり大きなアップデートとなっています。
Pro Toolsといえば、レコーディングスタジオのデファクトスタンダードあり、レコーディングスタジオで録音した場合のデータのやり取りを行うのには必須のツール。音楽業界のみならず、映像業界でも音声の部分では、このDAWが使われているので、今回の大型アップデートがどんな内容になっているか、多くの方が気になるところだと思います。とくにサブスクリプション版と永続版(買取版)がどういう体系になるのか気にしている人も多いのではないでしょうか?そこでPro Tools 2022.4の内容をチェックするとともに、ライセンスの形態などを含めたラインナップをじっくりチェックしていきましょう。
Pro Toolsが2022.4でラインナップを大きく一新した
まずはラインナップが大きく変更されたので、これについて見ていきましょう。以下の図が、これまでのライナップとの比較となっています。
図からも分かるように無料版のPro Tools | Firstは終了となり、新しくサブスクリプション専用のPro Tools Artistが登場しました。そして無印のPro ToolsはPro Tools Studioという名前に変わり、Pro Tools Ultimateは永続版とサブスクリプション版で呼び方が変わります。Pro Tools Ultimateの永続版はそのままの名前を引き継ぎ、サブスクリプション版はPro Tools Flexという名前になります。
エントリーユーザー向けのPro Tools Artist
混乱しそうにいろいろな名前が登場しているので、ひとつずつ順番に見ていきましょう。まずは、Pro Tools Artistについてです。これまで無料版として使えていたPro Tools | Firstは、ほかのラインナップと違い、データの管理などでもいろいろな制限がありました。今回その無料版がなくなるのはちょっと残念なところではありますが、有料のサブスクリプション版としてエントリーユーザーから中級ユーザー向けに登場するPro Tools Artistは上位モデルにあたるPro Tools Studio、Pro Tools UltimateおよびPro Tools Flexとのデータのやり取りが容易になっているのも特徴です。
価格はPro Tools Studioの3分の1とリーズナブルにも関わらず、ARTIST PLUGIN BUNDLEが付属しているので、BF-76をはじめ、Pultec EQP-1A、AIRのプラグイン……なども利用可能。ヒップホップ、エレクトリック、ポップ、シンガーソングライターなど、さまざまなジャンルで本格的に使えるものとなっています。
スタンダード版の名称はPro Tools Studioに変更
次にPro Tools Studioです。これまで「Pro Tools」と呼んだときに、それが無印版なのかUltimate版なのか、総称として言っているのか、判断しにくかったので、Pro Tools Studioと名付けられたことでだいぶ分かりやすくなりました。機能的にみると2022.04からは扱えるトラック数が256から512に変更され、サラウンド・ミキシング機能追加(Dolby Atmos対応)されたこと、さらにPro Tools | Carbon Hybrid Engine対応したことなどが大きなトピックス。これまで通り、Pro Tools | Carbon Hybrid Engine対応していますので、今後、Pro Tools | Carbonには、この基本性能のアップしたPro Tools Studioがバンドルされることになります。Pro Tools全体がアップデートされ、便利な機能や新音源が追加されているので、これらについては後述します。
Pro Tools Studioは、扱えるトラック数が256から512に変更され、サラウンドの機能追加がされた
永続版がPro Tools Ultimate、サブスク版のFlexはUltimateにオマケ付き
最後にPro Tools UltimateおよびPro Tools Flexについて。永続版はPro Tools Ultimate、サブスクリプション版はPro Tools Flexというサービス名称になっていますが、ほぼ同等のものとなっています。スペック的にはAuxトラックを512から1024扱うことができるようになり、H.265 ビデオのサポート、さらにI/Oが64から256に大幅増加しています。ほかにもいろいろアップデートはあるのですが、気になるのはこの両者の違い。重要なのはソフトウェアの部分としての違いは一切ないという点。現状の違いとしては、おまけの有無。このタイミングだとPro Tools Flexは、IK Multimedia、Plugin Alliance、ERA……など、総額2000ドル相当のプラグインやサウンドライブラリを使うことが可能となる年間サブスク用Inner Circle特典以外だと、Pro Tools 用の1,600を超える事前構築済みマクロおよびコマンドにアクセスできるSoundFlow Cloud Avid Editionを使うことが可能なのですが、今後もっと充実してくるとのことでした。
永続版はどうやって入手できるのか?
そんなアップデートされたPro Toolsですが、今後はどのバージョンも基本はサブスクリプションの購入となり、永続版の新規販売は終了していく方向のようです。とはいえ「サブスクリプションにはどうしても抵抗があり、買い切りとなる永続版が欲しい」という人も多いと思います。いつまで永続版があるのかはハッキリしないものの、その永続版を入手する方法は、現時点いくつか残されています。
1.従来の永続版を有効期限内に更新する
まずは現在、永続版のPro Toolsを持っている人が対象となります。Pro Toolsの仕様上、直近の加入または更新から1年間が過ぎてしまうと年間アップグレード&サポートプランは失効してしまうため、新たにリリースされるバージョンをダウンロードできなくなります。もしPro Tools 2022.04を使いたいのであれば、プランの有効期限より前に、有効期間を1年間延長する「Pro Tools年間アップグレード&サポートプラン更新」の手続きを行うことで永続版を入手することが可能になります。
2.有効期限が切れた人は再加入する
一方、すでにプランの有効期限が切れてしまった人でも、過去にPro Toolsの永続版を購入した人であれば、「再加入」ライセンスを購入することで永続版を入手することが可能。まさに救済措置ともいえるものですね。
価格については、Pro Tools Studio永続版の「Pro Tools年間アップグレード&サポートプラン更新」は22,100円、「再加入」は38,700円。一方Pro Tools Ultimateの「Pro Tools年間アップグレード&サポートプラン更新」は44,300円、「再加入」は83,200円となっています。今回は更新や再加入の値段は変わっていないものの、今後は値上げになる可能性があるとのことです。
3.Ultimateに限り新規購入可能な裏ワザも
このように、これまでPro Toolsを使ってきたユーザーであれば永続版を入手することが可能となっているのですが、新規に永続を入手することは絶対不可能なのでしょうか?実はUltimateの場合、最後の裏技ともいえる方法が一つの残されています。
それはHDXカードに、永続版のPro Tools Ultimateがバンドルされたものを購入するという方法。発売されているのは2022年内いっぱいとのことなので、どうしても永続版を新たに入手したいという人はこれを購入しておくのがよさそうです。
サブスクは基本は年間契約だが、AvidのWebサイトなら月額プランも
新規のサブスクリプション加入についてですが、Pro Tools Artistは年間11,700円、Pro Tools Studioは年間35,300円、Pro Tools Flexは118,000円となっています。ほかにも先生や生徒が使うアカデミック版、更新のプラン、月額プランなどもあります。「この仕事をするのに、ちょっとだけPro Toolsを使いたい」…といった場合は月額のサブスクリプションが安くすむので、チェックしてみるといいですね。詳しくAvidのページでご確認ください。
Pro Tools 2022.4に搭載された新機能
さて、新しく追加された音源や機能についても簡単に見ていきましょう。まずは、GrooveCellという音源。これはシンプルで、直観的に使えるドラムマシーンサンプラー。シーケンサーやエフェクト機能内蔵しており、Pro Toolsを利用して、基礎から楽曲を組み上げる際に最適。MIDIやAudioを書き出し、Pro Tools上で編集したりできる、万能型の音源となっています。
SynthCellは、アルペジエーターとエフェクト機能内蔵されたシンセサイザ。これも簡単操作で、カッコいいシンセサウンドが作れるとのこと。32ボイスポリフォニーで、2オシレーター、2 フィルター、8×8 Mod Matrixなどを搭載。今回の記事は速報という形なので、今後機会があれば、新しいインストゥルメント音源を深堀したいと思っています。
32ボイスポリフォニー、2オシレーター、2 フィルター搭載のSynthCell
また、Pro Toolsを立ち上げたときに表示されるダッシュボードのUIが変わり、ここからチュートリアルにアクセスできたり、新しいセッションテンプレートが追加されました。
そのほか、テンプレートやトラックプリセットが新しく更新されていたり、
テンプレートやトラックプリセットがより使いやすくなった
キーボードのショートカットが編集可能になりました。これまでショートカットがなかった機能にショートカットを割り当てたり、自由に組み替えられるようになっています。Pro Toolsは業界標準のDAWでもあるので、ほかのDAWのキーボードショートカットをPro Tools仕様に揃えるということが普通でしたが、最近の若いユーザーはその限りでもないので、新たにPro Toolsを導入する人も使いやすくなったといえますね。
また検索機能が強化され、プラグインの検索だけでなく、トラックの検索、マーカー、グループ、プレイリスト、各種機能を簡単に呼び出すことが可能になりました。
検索機能の強化で、使いたい機能にすぐにアクセスできるようになった
これら以外にも、ビデオの改善点カラー・スペース対応、DSPモードの自動的切り替え、編集挿入点へのスポット、ソロ・セーフの初期値化、Dolby Atmosのグループ、WINDOWSオーディオ機器WASAPI対応など、機能強化されているので、ぜひチェックしてみてください。
製品名 | Pro Tools Artist | Pro Tools Studio | Pro Tools Flex |
INCLUDED SOFTWARE | Pro Tools Artist | Pro Tools Studio | Pro Tools Ultimate |
AUDIO TRACKS | 32 | 512 | 2048 |
AUX TRACKS | 32 | 120 | 1024 |
INSTRUMENT TRACKS | 32 | 512 | 512 |
MIDI TRACKS | 64 | 1024 | 1024 |
VCA TRACKS | 0 | 128 | 128 |
MASTER TRACKS | 1 | 64 | 512 |
VIDEO TRACKS | 0 | 1 | 64 |
ROUTING FOLDERS | 32 | 128 | 1024 |
NATIVE I/O | 16 | 64 | 256 |
SUPPORT | STANDARD | STANDARD | EXPERTPLUS |
HARDWARE SUPPORTED | NATIVE ONLY | NATIVE + CARBON + S6L | NATIVE + CARBON + S6L + HDX + HD NATTVE |
DIGILINK LICENSE | – | – | YES |
SURROUND/ATMOS/AMBISONICS MIXING | STEREO ONLY | YES | YES |
CLIPFX | CLIP FX PREVIEW ONLY | CLIP FX EDITING | CLIP FX EDITING |
BOUNCE MIX MULTISTEM | – | YES | YES |
AAF/OMF IMPORT/EXPORT | – | YES | YES |
INCLUDED PLUGINS | ARTIST BUNDLE (100* PLUGINS) | COMPLETE BUNDLE | COMPLETE BUNDLE |
HEAT | – | YES | YES |
GROOVECELL/SYNTHCELL VIRTUAL INSTRUMENTS |
YES | YES | YES |
INNER CIRCLE REWARDS | ANNUAL SUBSCRIPTION ONLY | ANNUAL SUBSCRIPTION ONLY | ANNUAL SUBSCRIPTION ONLY |
サブスクリプション版3製品のスペック
さて、進化したPro Toolsいかがだったでしょうか?現在円安が進んでいて、今後もっと加速すると来年以降のサブスクリプション料金が上がる可能性も否定できません。実はPro Toolsのサブスクリプションは複数年分を一気に支払うことも可能。つまりもし、今後も円安が進むと予測するのであれば、3年分や4年分のサブスクリプションを前もって買うこともできるので、少し検討するのもありかもしれませんね。永続版の新規購入がなくなるので、そこには賛否両論ありそうですが、Pro Tools Artistも登場し選択肢も増え、1ヶ月からでもサブスクリプションで使えるので、自分に合った使い方の幅はあるので、アップデートされたPro Toolsをぜひ試してみてはいかがでしょうか?
Pro Tools | Firstを使える人の条件
Firstに関しては、新規でダウンロードはできなくなり、既存ユーザーは、無償のクラウドスペースも去年廃止になったため利用不可。ただ、そのタイミングで有償のクラウドスペースを購入していた人、もしくはローカル保存していた人は引き続き使うことが可能。
ローカルに保存する方法 https://youtu.be/996ALQUrA70
その他Firstに関するFAQ https://avid.secure.force.com/pkb/articles/en_US/faq/Where-can-I-get-Pro-Tools-First
※本記事に表記の税別表示価格は、2022/4/27現在のものです。価格は予告なく変更される可能性がありますので、予めご了承ください。
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