米ラスベガスで2年ぶりのリアル開催となった世界最大のコンシューマ系デジタル展示会「CES」に合わせ、Rolandがワイヤレスのマルチ・カメラによるライブ配信をモバイル・デバイスで手軽に実現するシステム、AeroCasterを発表しました。国内での発売時期はまだ確定していないようですが、実売価格は税込みで51,000円程度になる見込みです。また、このAeroCasterと同時に、ほかにも配信・映像関連の機材を3機種発表しています。
1つはZoomやTeams、Google Meetsといったオンライン会議システムを利用したWeb会議やプレゼンテーションをより高品質な映像と音声で、効率よく届けるための機材UVC-02(税込実売価格42,000円程度)、またUVC-02に最適化されたグースネック型コンデンサマイクのCGM-30(同10,000円程度)、さらにHDMIの入力映像・オーディオをリアルタイムに解析し、それにマッチした色の光や明るさで照明をコントロールするVC-1-DMX(同70,000円程度)のそれぞれ。CESに出展・発表する機材を事前にチェックすることができたので、どんな機材なのか紹介してみましょう。
RolandがCES 2022でAeroCasterなど配信・映像関連機材4機種を発表
4台のスマホと1台のiPadをカメラとして使って配信できるAeroCaster
今回の製品群はDTMとはちょっと方向性が違う機材ですが、自宅から音楽をライブ配信したり、ライブハウスなどから簡易的なシステムでの生配信を行うというニーズが増えているので、そうした情報を求めている人にとっては、今回の新製品はぜひチェックしてもらいたい機材です。それぞれ、異なる内容の製品なので、順番に見ていきます。
今回のメインとなる製品がAeroCasterです。ちょうど2年前のCESのときもRolandはGO:LIVECASTというスマホで配信できる機材を発表し、今も人気商品として多くのユーザーが使っています。これについては「誰でも気軽にスマホ・タブレットで高音質・高画質なライブ配信を。RolandのGO:LIVECASTが画期的!」という記事で紹介していましたが、今回のAeroCasterは、それをさらに大きくアップグレードし、4つのスマホカメラと1つのiPadのカメラの計5つの映像を利用できるストリーミングミキサーとなっています。
DTMステーションのネット配信番組、DTMステーションPlus!では、RolandのVR-4HD(税込実売価格30万円前後)というAVミキサーを使っていますが、これと近い感覚で使える4+1入力をもったシステムです。一般的にスイッチャーやストリーミングミキサーなどと呼ばれる機材はHDMIの入力を複数持ち、その入力を切り替える形で操作するものです。しかし、このAeroCasterのコアであるハードウェア、VRC-01にはHDMI入力はなく、iPadのWi-Fiを通じてスマホからの映像・音声信号を受けるという非常にユニークなスイッチャーとなっているのです。
確かに、HDMI対応のビデオカメラを複数揃えるとなると、かなり大がかりなものになるし、トータルコストも莫大なものになってきます。しかし、iPhoneやAndroidなどのスマホであれば、比較的容易に複数台揃えることが可能だと思います。また、最近のスマホは下手なビデオカメラを大きく上回る映像性能を持っているから、これをカメラとして使えるというのは非常に強力な手段だと思います。ちなみにこれらのスマホにはAeroCaster Cameraというアプリをインストールしておきます。そしてこのアプリを起動して、VRC-01と同じLANの中にあるWi-Fiに接続されていることで、接続できる仕組みとなっています。
同じLAN内にある4台までのスマホをAeroCaster Cameraアプリを使ってサテライトカメラとして利用できる
また多くのスイッチャー/ストリーミングミキサーでは、ミックスした結果をHDMIで出力したり、USBでPCに送った上で、OBSなどのソフトを使って配信するのが一般的ですが、AeroCasterはその点でも異なります。iPadを用い、iPad上の専用アプリ、AeroCaster Liveを使って配信する形となっているのです。
iPadアプリのAeroCaster Liveを使うことで、ここから配信できる
このiPadアプリとVRC-01を用いることで、カットやクロス・ディゾルブ、ワイプを使って、シチュエーションに応じたトランジションをリアルタイムにスムーズに実行することができます。また映像へのテキストや画像(透過PNGファイル対応)の挿入、ピクチャー・イン・ピクチャーの画面合成、分割画面などの設定をシーンとして登録、すぐに呼び出す、といったことも可能。最大30個のシーンを作成し切り替えることができるようになっているので、かなり高性能なストリーミングミキサーといっていいと思います。
初心者でも複数のスマホをカメラとして利用しながら簡単に配信ができる
そのビデオ信号のブロック・ダイアグラムは以下の通りとなっているので、これを見るとほぼすべてが把握できると思います。このブロック・ダイアグラムの右側にみ記載されているとおり、USB Type-C端子を搭載したiPadであれば、変換アダプタを介すことでHDMI出力も可能なので、そこからモニター画面を表示させたり、場合によってはOBSなどに送るといった使い方も可能ですね。
一方のオーディオ系のブロック・ダイアグラムは以下のようになっています。これを見てもわかる通りコンボジャックでのマイク入力を2系統、3.5mmのステレオライン入力が1系統、さらにヘッドセットマイク入力を装備するとともに、本体内にもマイクが搭載されているので、ここからの入力も可能になっているのです。
さらにスマホ側であるAeroCaster Cameraのマイクからの入力もあり、この際、オート・ディレイなる非常に強力な機能が搭載されているのも重要なポイント。これはネットワーク経由で入力されたカメラ映像の遅延を自動的に算出し、映像と音声のズレが小さくなるよう自動調整して出力するというもの。現在日本国内での特許出願中なのだとか……。さらに、iCloudドライブ内に保存されているメディア、コンテンツへアクセスも可能で、ジングルの再生やBGMの再生、効果音の再生など効果的な演出もできるようになっているのです。
AeroCasterは基本的にiPadと連携させて仕様するシステムになっている
ざっと紹介するだけでも、かなり高機能なシステムですが、スマホとiPadだけで操作できることもあり、初めてのユーザーでも気軽に高音質、高画質な配信ができるというのが最大の特徴。発売されたらぜひ実際に試してみたいと思っているところです。
Web会議をより快適に行うためのUVC-02とグースネック型コンデンサマイクCGM-30
続いて紹介するのは配信用というよりはWeb会議用のシステムであるUVC-02です。リモートワークが広まった昨今、より高画質、高音質でオンラインミーティングに参加したいという人も少なくないと思います。そのために、ビデオカメラを購入したり、オーディオインターフェイス、マイクなどを購入したいという人も多いと思いますが、いざ会議になると、操作が煩雑でつい事故が発生……なんていうケースも少なくはいのではないでしょうか?
そうしたトラブルを回避し、スマートに効率よくキレイな映像、聴き取りやすい音声で会議に参加できるようにする、というのがUVC-02なのです。
基本的にはHDMI入力端子にカメラを接続し、マイク端子にマイクを接続し、PCとはUSB 3.0のケーブルで接続すればOK。この際、手持ちのHDMI接続のカメラと、コンデンサマイクやダイナミックマイクをUVC-02に繋げばいいのですが、オプションとして用意されているグースネック型コンデンサマイク、CGM-30を接続すると、非常にスマートで高音質な環境を簡単に構築することができます。
UVC-02にグースネック型コンデンサマイクCGM-30を取り付けたところ
で、UVC-02を使うと何がいいのか、というと、まずは大きな3つの丸いボタンがある点。真ん中の一番大きいTALKをオフにするとマイクからの音が遮断され、Web会議側にこちらからのマイクの音が行かなくなります。まあ、Zoomなどのソフトを使って音を遮断することもできますが、いざというときに、まごつくことも少なくありません。そんなとき、手元のスイッチで一発オフにできれば安心です。同様にVIDEO OUTをオフにすればHDMIからの映像を簡単に遮断することができるのです。
また、このマイクからの音を、そのまま送るのではなく聴き取りやすく、クリアな音声に整えることができるのも大きな特徴です。UVC-02は、Web会議時の音声に有効なエコー・キャンセル機能とノイズ・リダクション機能が搭載されており、これが標準で機能するようになっているのです。これにより騒音など周囲の環境音を気にすることなくプレゼンテーションに集中し、聞き手にもクリアな音声を届けることができます。また必要に応じて、そのノイズリダクションやEQ、コンプ、ディエッサなどの設定を細かく調整することができるようになっています。
一方、左側にはAUDIO OUTというボタンがありますが、こちらはリアにあるAUX INへのオーディオ信号などマイク入力以外からの音をミュートすることができる形になっています。が、見てみるとほかにもいろいろなツマミやボタンがありますよね。これらについても紹介していくと、ツマミ類はすべて音量をコントロールするためのものです。
左のHDMIはHDMI接続からのカメラからの入力音量をコントロールするためのもの。カメラマイクが不要であれば、最小に絞ってしまえばいいですね。またAUXはAUX INの入力音量のコントロール、MICはメインマイクのコントロールで、H.MICはリアの3.5mmのヘッドセット端子に接続したマイクの音量コントロール、さらにPHONESはそのヘッドセット端子に接続したヘッドホン出力のコントロールとなっています。一方、MONITOR OUTはリアのMONITOR OUTからの出力音量をコントロールするもの。ここにモニタースピーカーなどを接続しておけば、ヘッドホンなしでのWeb会議が可能になるというわけです。
モニタースピーカーを接続することで、より快適なWeb会議が可能に
さらに強力なのは、iPad上で動作するアプリ、AeroCaster Switcher(2021年9月リリース済)を組み合わせることで、先ほどのAeroCasterと同様、同じLAN内のWi-Fi環境にあれば、映像のみスマホやタブレットを最大4台までサテライト・カメラとして接続できるという点。この際、やはり母艦はiPadとなり、iPadアプリでそれぞれのスマホからの映像を集約し、ここで確認して切り替えることも可能なのです。この点を考えると簡易的なネット生配信用としては、UVC-02でも十分行けそうです。この際、PCからOBSでの配信ができるわけですから、OBS環境に慣れている人なら、これが使いやすいかもしれません。
同一LAN内にあるスマホと接続することで、それらをサテライトカメラとして利用することが可能
そしてもう一つ、Rolandならではの機能であり、UVC-02最大の特徴ともいえるのがエフェクト機能です。前述の通り、音をクリアにするためのノイズ除去機能などが標準で機能するわけですが、それに留まらずSFX機能、いわゆるボイスチェンジャー機能を搭載しているのです。ご存じの通り、Rolandは人気ボイチェン機器、VT-4のメーカー。VT-4そのものとまではいかないものの、そのコアとなる部分がUVC-02に搭載されているため、男性ボイスを女性ボイスに変換したり、変声にするなど、プリセットがいろいろ用意されているので、これで簡単に設定することが可能です。
このUVC-02のオーディオ信号とビデオ信号の流れをブロック・ダイアグラムで表したものが以下のものなので、これを見れば、かなり強力なシステムになっていることが理解できると思います。
もちろんボイスチェンジャーも含め、エコーキャンセルやEQ、コンプなどのエフェクト機能は、UVC-02内部にあるDSPが処理してくれるので、PC側に付加は掛からず簡単に扱うことが可能になっています。また細かな設定についてはPC上で動作するユーティリティで設定していく形になります。なお、Windows限定にはなりますがA1、A2というボタンにパワーポイントのページ送りボタンなどをアサインすることができるようになっているのも見逃せないポイントです。
HDMI入力信号を元に照明をコントロールするVC-1-DMX
HDMIのビデオ映像を元に照明をリアルタイムにコントロールできるVC-1-DMXのシステム
そして、今回CESで発表されたもう一つの機材が、ライティングコンバーターのVC-1-DMXというもの。これはコンサートやダンス・クラブなどのイベント、またカラオケやパブリックビューイングなどの空間において、ステージの動きや映像に合わせたダイナミックな照明演出を簡単に行い、参加者を盛り上げていこう、という機材。具体的には映像信号をHDMIで入力すると、リアルタイムに照明の色をコントロールしたり、音楽のテンポに合わせてミラーボールの回転速度を変化させることができる、というもの。
照明システムに詳しい方ならご存じの通り、照明のコントロールにはDMXという規格が利用されています。DMXはMIDIの照明コントロール版のようなもので、最大512chをシリアル信号で高速にコントロールできるというもの。つまり、HDMI信号をリアルタイムで自動解析した上で、DMXに変換して送信することができるコンバーターというわけです。
HDMIのビデオ信号およびオーディオ信号をリアルタイム解析して、照明コントロールを行う
先日見せてもらったデモでは、VC-1-DMXの出力を4台のLED照明に接続して、壁の色を演出できる形になっていましたが、見た感じではディスプレイの映像と完全に同時に壁の照明の色が連動する形になっていて、これなら簡単に空間演出ができると感じました。
今回見せてもらったデモではDMX接続のLED照明をコントロールしていた
すべて自動制御なので、照明専用のオペレーターがいなくても簡単に利用できそうです。この際HDMIの映像からは32か所を情報を検知して解析すると同時にHDMIのオーディオ信号、さらにはアナログ入力のオーディオ信号も解析して、ライティングコントロールを行っているのだとか。
ちなみにLED照明はRoland製品ではなく、1台数万円で販売されているものを購入して並べたとのことでした。またVC-1-DMXにはディップスイッチがあり、これを設定することでDMX機器に対応したプリセット・マップを選択可能になっています。
VC-1-DMXのフロントパネル。ここにあるディップス一致でプリセットマップを選択できる
さらにMIDIおよびUSB-MIDIも装備しており、外部MIDI機器から照明を直接コントロールすることも可能になっています。たとえば、MIDIのコントロール・チェンジを使って、照明全体の調光(マスターディマー)を行うとか、ムービングライトのチルト、パンなど、さまざまなDMXパラメータをMIDIコントローラー側から制御することができるようになっているのです。USB-MIDIにも対応しているので、DAWを用いて照明をコントロールしていくといった使い方も可能です。
VC-1-DMXのリアパネル。MIDI INも装備。右の2つ端子が5ピンおよび3ピンのDMXの出力
なおmacOS / Windows用の専用ソフトウェアが用意されているので、既存のDMX対応照明機器に合わせてVC-1-DMXをカスタマイズすることも可能。個々の照明機器に合わせて、映像や音声からの解析情報や、MIDIコントロールなどを512のDMXチャネルに割り当てることが可能になっているのです。
以上、RolandがCESで発表した4つの機器についてその概要を紹介してみました。DTMそのものではありませんが、その発展形として、いろいろな活用ができそうです。