10月27日、1st PLACEからCeVIO AIのソングボイス、IA(イア)とOИE(オネ)の発売が開始されました。VOCALOID 3版のIAの発売が2012年1月27日だったので、そこから数えて9年9か月、そのバリエーションであるIA ROCKSが発売された2014年6月27日から数えても7年4か月ぶりとなる新製品ですが、非常にリアルな歌声で歌わせることができる歌声合成ソフトに仕上がっています。具体的には日本語で歌わせることができるIAと英語のIA、それに日本語のOИEのそれぞれ。それぞれの単体に加え、CeVIO AIのソングエディタとセットとなったもの、またダウンロード版があったり、パッケージ版があったり…とさまざまなバリエーションが存在します。
そのCeVIO AIのIAとOИEの発売日の前日、ニコニコ生放送/YouTube Live番組であるDTMステーションPlus!で、CeVIO AI版のIA/OИEを紹介する特集を配信しました。この番組内では1st PLACEの代表取締役社長である村山久美子さん、音楽プロジェクトDeltimo(@deltimo)のコニシハヤオさんをゲストに、IAとOИEの歌声を披露するとともに、思い通りに歌わせるためのさまざまなテクニックをコニシさんに披露してもらいました。詳細はぜひ番組のアーカイブをご覧いただきたいのですが、ここではその概要をまとめるとともに、その調声テクニックを数多く盛り込んだデータもダウンロードできるようにしたので、紹介していきましょう。
CeVIO AIのソングボイス、IAとOИEが発売された
具体的な調声テクニックの紹介に入る前に、まずはそのCeVIO AIのIAやOИEの歌声を使ったデモソングがあるので、こちらをちょっと聴いてみてください。
これはIAのボイスモデルであるLiaさんの楽曲「時を刻む唄」をIAでカバーしたもの。これを聴くだけでも、このソフトの実力を存分に感じられると思います。一方、こちらはOИEの歌声。
こちらも、聴いただけでは人の歌声なのか、歌声合成のものなのか区別つかないレベルですが、高域の澄んだ声のキレイさは驚かされます。
10月26日に配信したDTMステーションPlus!でIAとOИEの特集をおこなった
そんな新製品のIAとOИEですが、番組内で村山さんに伺ったところ、これら新製品は、従来のVOCALOIDのIAやIA ROCKS、CeVIO Creator Studio版のOИEを置き換える製品というわけではなく、これまでのものも従来通り存在しつつ、その表現の幅を広げるための新しいバリエーションという位置づけなのだとか。
コニシハヤオさん(左前)、村山久美子さん(右前)、藤本(左後)、多田彰文さん(右後)
CeVIO AIについては、これまでも「CeVIO AI さとうささら、トークもソングも8月5日より、いよいよ発売開始」という記事をはじめ、何度も紹介してきているので、ここで詳細は省きますが、AIを用いた歌声合成、音声合成を実現するソフトウェアです。また、今年3月には「あの宇宙人姉妹がより滑らかに喋るようになった!? CeVIO AIトークボイスとしてリリースされたIAとONE」という記事も掲載していましたが、その時紹介したIAとOИEはトークボイスというもので、喋るための音声合成のためのものでした。それに対し、今回発売されたのはソングボイスというもので、歌うための音声合成のもの、となっています。
さて、その番組内で、CeVIO AIのIAで単純に音符と歌詞だけを入力した、いわゆる「ベタ打ち」と呼ばれる状態での歌声が披露されたので、こちらをお聴きください。
いかがですか?これが、ホントにベタ打ちなの?と思うレベルのとっても滑らかでキレイな歌声だと思います。が、コニシさんに伺うと、この状態だとさまざまな点で改良すべきポイントがあるのだとか……。
実は、この楽曲、コニシさんの音楽プロジェクトであるDeltimoの「手のひら革命」という楽曲をIAに歌わせたもの。オリジナルはエチレンさんという女性が生声で歌っているのですが、IAのベタ打ちだと、オリジナルとはかなり異なるし、表現力という面で物足りない面なども多々あるので、調声によってオリジナルに近づけていこう、というのが番組でのテーマとなっていたのです。
いろいろと調整していったのですが、「まず最初に手を付けるべきは何ですか?」という私の質問に対して、コニシさんは「早口の発音がちょっとうまくできないケースがあります。それを簡単に直すことができます」とのお返事。確かに、この楽曲、やや早口なので、細かく聴いていくと、ハッキリ発音できていない箇所もあるようです。
子音と母音の時間調整をすることで、発音をハッキリさせることができる
具体的には「すべてを」という冒頭の歌詞において「べ」が弱いため、ベタ打ちだと「すえてを」といったニュアンスに聴こえています。これをエディタのタイミング(TMG)画面で見てみると「b」の子音の部分、「e」の母音の部分の長さが確認できますが、「e」の時間を延ばして「b」と「e」のバランスを少し修正するだけ、とのこと。素人的には子音部分を延ばしたほうがいいようにも思うのですが、実際には母音を延ばすとハッキリと「べ」と聴こえるようになりました。同様に、「うまく」の「ま」がハッキリ聴こえないところも「m」と「a」の時間バランスを修正して「a」を長くすることで、「ま」がよく聴こえるようになりました。
続いて、披露してくれたワザはピッチの描き方。エディタにおいてピッチ=PITを選んだ上で ペンシルツールやラインツールを使って、ピッチ補正ができるのですが、ここにもいろいろなテクニックがあると、コニシさん。
一つ目のテクニックとしては、母音が連続すると2つ目の母音がケロることがあるので、それを直す方法。ケロるとは、声がケロケロしたロボット的な声になることを意味しているのですが、この曲の場合「目を合わせ」という歌詞の「を=お」と「あ」と繋がる「あ」がケロっています。そこで、ピッチの動きを「お」から「あ」に向けて斜めに滑らかにするだけ。確かにこれによって、自然な歌声になりました。
ピッチを滑らかにつなぐことで、ケロった声を自然にできることも
逆に自然に歌っている部分を、ケロケロボイスにすることも簡単、とのこと。具体的には、柔らかい曲線で描かれている緑色のピッチをペンシルツールやラインツールを用いて、オレンジ色で水平・垂直とまっすぐに描くことで実現させることができます。
ピッチを水平・垂直にまっすぐつなぐことで、ケロケロボイス化することができる
ここで、コニシさんから便利なTIPSとして教えてもらったのが、ピッチを描く上で、ペンシルツールを使うより、直線を描くラインツールが便利である、という話。たとえば、ビブラートなどもこのピッチを描くことで実現させるのですが、直観的に考えると、ペンシルツールを使って丁寧に、滑らかに描いていったほうがよさそうに思えます。ところが、ある種、乱暴なまでに直線的適当に描いていっても滑らかなビブラートになるし、下手にペンシルツールで滑らかに描くより自然に聴こえるんですね。この辺をAIが上手に調整してくれている、ということなのかもしれません。
直線ツールで波を描くことでキレイにビブラートを歌わせることができる
また、ピッチに関しては、いわゆる「しゃくり」をどう表現するかといった手法もコニシさんがいくつかテクノックを教えてくれており、上手な歌わせ方をしているので、この辺も番組のアーカイブをご覧になってください。
さらに、なるほどと納得いったのが、音符と音符の隙間とブレスの関係について。たとえば、間に8分休符程度の間があると、CeVIO AIが勝手にブレスを入れてしまうのです。とくに、そうした間が何度も続くと、妙にブレスが多くなってしまい、非常に不自然な歌い方になってしまいます。
そこで音符と音符の間を詰めた上で、促音=「っ」を入れることで、ちゃんと間をあけられるけれど、ブレスが入らない音にすることができるとのこと。その間をどのくらいにするかはタイミング=TMG画面で細かく設定していくこともできるというわけなのです。
ブレスが目立つ場合「っ」を入れてつなぐことで、ブレスを消すことができる
ほかにも、最適なビブラートを上手に入れる方法、「し」の発音をよりハッキリさせる方法……などなど、普通に使っていたらなかなか分からないティップスを山ほど紹介してくれています。
そして、コニシさんは、この番組内で使った「手のひら革命」の楽曲のベタ打ちデータと、コニシさんのノウハウが山ほど入った、存分に調声したデータ、さらに、この楽曲のオケデータも提供していただいたので、以下からダウンロードできるようにしてみました。
「みなさん、ご自身の研究用に存分に使ってください」とのことだったので、ぜひ利用してみてはいかがでしょうか?
なお、ここまでは、すべてCeVIO AIのソングエディタ上での調声でしたが、実際に曲に仕上げていくには、できあがった歌声を、オケにどのように馴染ませるかも重要だ、とコニシさん。番組内では、Pro Toolsを用いてエフェクト処理をしていましたが、そこについても少しふれておきましょう。
オケにボーカルを馴染ませるのにDAWとプラグインを利用する。ここではPro Toolsを使用
やはり詳細は番組のアーカイブを見ながら、音を確認しながらチェックいただきたいのですが、手順だけを簡単に追うと、まずQを使ってバランスいい音に整えた上で、コンプレッサを用いて馴らしてやる。その上で、ディレイを使って馴染ませるとともに、リバーブを使って響きを加える……という手順。また必要に応じて「さしすせそ」などの音がキツく感じる際はディエッサーを使って滑らかにする、というものでした。
コニシさんはWavesのプラグインを利用して、ボーカルを加工していった
どのDAWでどのエフェクトを使っても大丈夫とのことでしたが、コニシさんのPro Toolsの場合、EQとしてWavesのSheps 73とapi 550A EQUALIZER、コンプレッサとしてWavesのCLA-3Aやdbx-160、リバーブとしてもWavesのHReverbを使っていました。
WavesのChris lord-algeを利用することでインスタントに歌声をオケに馴染ませることができた
またそうしたエフェクトをいろいろ組み合わせなくても、WavesのChris lord-algeというものを使いプリセットを選ぶだけで、かなりいい感じに整えてくれるという実例も紹介してもらいました。こうしたツールを上手に活用するのも省力化という意味で重要なテクニックですね。
さまざまな組み合わせのパッケージ版、ダウンロード版があるので、自分の環境に合った製品を選ぼう
さて、このCeVIO AIのIAとOИE、パッケージ版とダウンロード版があり、さらにボイス単体とスターターパックもあって、どれを選べばいいかは迷いどころ。まず、CeVIO AIのソングエディタを持っている方であれば、ボイス単体の購入でいいですし、初めての方であればエディタ付きのスターターパックの購入がよさそうです。
パッケージ版であれば、IAやOИEの特別ライブ映像や、数量限定アクリルスタンドやポストカードが封入特典として用意されているほか、IAの日本語と英語がセットの「DUO PACKAGE」にはIAオリジナルCD(製品版)全員プレゼントなどの色々な特典があるようです。
一方、とにかく安く入手するのであれば、ダウンロード版のほうがよさそうです。これまでCeVIO AIトークボイスを販売していたVector PC SHOPに加え、DLsiteやamazonなどでのダウンロード販売が行われるようになり、DLsiteとVectorでは期間限定で、10%オフのキャンペーンなども行われているので、早めに入手するのがよさそうです。
パッケージ版、ダウンロード版ともに、CeVIO AIで歌わせたプロジェクトファイルとインスト音源も付き、調整の参考になりそうです。
【関連情報】
1st PLACEソフトウェア情報
【価格チェック&購入】
(パッケージ版)
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(ダウンロード版)
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