プロのミュージシャンやクリエイター、エンジニアからの絶大な人気と信頼を誇る米Universal Audioが、10月5日、これまでにない新たなUSB Type-C接続のオーディオインターフェイス、VOLTシリーズを発表し、11月から順次発売が開始されます。Apolloシリーズとは異なり、UAD-2機能は持たないシンプルなUSBオーディオインターフェイスである一方、1176サウンドを再現する76 COMPRESSORなるボタンが搭載され、これをオンにすることで内蔵のアナログコンプレッサを通した音に変化します。
またVINTAGEボタンをオンにすることでビンテージマイクプリアンプを通したようなサウンドにすることができ、こちらもすべてアナログ回路で処理できるようになっています。具体的にはVINTAGEボタンを搭載したシンプルな1in/2outのVOLT 1、2in/2outのVOLT 2に加え、76 COMPRESSORボタンも搭載した1in/2outのVOLT 176、2in/2outのVOLT 276、4in/4outのVOLT 476のほか、VOLT 2にコンデンサマイクとヘッドホンをセットにしたVOLT 2 Studio Pack、そしてVOLT 276をセットにしたVOLT 276 Studio Packの全7製品です。
Univerasal AudioがUSBオーディオインターフェイス、VOLTシリーズを発表。写真は2in/2outのVOLT 276
Universal Audioといえば、プロ御用達機材のメーカーとして幅広く知れ渡っており、Apollo Soloなどは、そのプロクオリティーのサウンドを比較的低価格で購入できることからDTMユーザーの間にも浸透してきています。
VINTAGEボタンを2つ搭載した2in/2outのVOLT 2
そのApolloシリーズがプロの間で使われている最大の理由はUAD-2というデジタル機構が搭載されていることで、業務用レコーディングスタジオに置かれているアウトボードのエフェクトやマイクプリアンプなどと同等のサウンドを、本体内でのエミュレーションで実現できること。そのUAD-2の技術とサウンドこそがApolloの真髄なのですが、今回同じUniversal Audioが出したVOLTシリーズは、Apolloシリーズとはまったく別のラインナップとして発表されたオーディオインターフェイスで、UAD-2は搭載されていません。
そのデジタル機構の代わりに本物のアナログ回路を搭載してしまったというのがVOLTシリーズのユニークなところであり、Apolloシリーズとも、他社のオーディオインターフェイスとも一線を画す設計となっているのです。
アメリカ・カリフォルニア州スコッツバレーにあるUniversal Audio本社
3年ほど前、アメリカ・カリフォルニア州にあるUniversal Audioを訪問した際、「アメリカ探訪記:最新DSP技術でApollo、Arrowを生み出すUniversal Audioは今も50年前のアナログ機材を生産し続けるメーカーだった」という記事を書いたことがありましたが、同社は、レコーディング機材メーカーとして老舗中の老舗。そして、50年前の開発された機器を今も現行品として生産し、販売しているのは驚異ともいえるところ。
いまも現行機種として販売されているUniversal Audio 1176LN Classic Limiting Amplifier
実際、同社が1967年に発売した1176 Limiting Amplifierは、世界中のレコーディングスタジオにおける定番機材であり、それをそのまま引き継ぐものが1176LN Classic Limiting Amplifierという名称で現在も販売されています。ちなみに、この1176LN Classic Limiting Amplifierの実売価格は税込みで294,800円とのことですから、簡単に手を出せるものではないのですが……。
そんな1176のオリジナルを作るUniversal Audioが1176のエッセンスを抽出し、アナログ回路のままオーディオインターフェイスに搭載したのがVOLTシリーズというわけなのです。正しくいうと、VOLT x76と76の型番になっているものが76 COMPRESSOR内蔵のオーディオインターフェイスで、VOLT 1およびVOLT 2はマイクプリアンプのみアナログ回路で構成されたものが搭載された機種になっています。
VOLT発表前、Universal Audioのインターナショナル・セールスマネジャーであるユウイチロウ“ICHI”ナガイさんにVOLTシリーズをリリースした理由について少しインタビューしてみました。
Univerasal Audio ユウイチロウ“ICHI”ナガイさんインタビュー
--今回のVOLTの発表、ちょっと驚きましたが、Apolloシリーズを展開しているUniversal Audioがなぜこうした製品を出すことになったのですか?
イチ:Apollo Soloなど低価格な製品も展開してきましたが、やはりエントリーユーザーにとっては機能的にも価格的にもハードルが高い感じている方が多くいて、そこへのアプローチができていませんでした。そこに向けた製品を出そうという話を以前から社内で積み重ねてきた中、ようやくリリースすることができました。
Universal Audio のユウイチロウ“ICHI”ナガイさん
--USBオーディオインターフェイスは、数多くのメーカーが製品を出しているので、ある意味後発となると思います。なぜ、この激戦区にUniversal Audioが入ってきたのでしょうか?
イチ:音楽制作におけるワークフローを考える上で、Universal Audioはトーンというものを一番大切に考えてきました。つまり音には味がなくちゃダメだ、そこがなければサウンドが音楽になっていかないのです。そのためのシステムとしてUAD-2があったわけですが、エントリーユーザー向けの低コストの製品を…と考えると、UAD-2を搭載するのは難しい。かといって、CPUベースで作るとどうしてもレイテンシーが問題になってしまう。そこで、アナログ回路で実現しようというアイディアが出てきて、私たちは長年のアナログ技術の蓄積もあるので、それをVOLTに搭載したのです。
--そのアナログ回路とはどんなものなのですか?
イチ:いうならばアナログのプラグインのようなもので、オン/オフのスイッチで簡単に使える回路です。ひとつはVINTAGEプリアンプモードを実現するための回路で、真空管やトランスを通したようなサウンドにするための回路です。実際には真空管やトランスを使っているわけではないのですが、それに近いサウンドにできるのです。そして1176コンプもVOLT x76に搭載しました。
--そうしたアナログ回路、Universal Audioではこれまでも使っていたのですか?
イチ:はい、まったく同じものというわけではありませんが、4-710d Four-Channel Tone-Blending Mic Preampというラックマウント型のマイクプリ(実売価格269,500円)というものに、1176のコンプが入っており、これをアナログ回路で実現していました。そのノウハウをVOLTに持ってきたというわけです。この価格帯から考えれば、常識を超える高品位なコンプを搭載できたと思います。
マイクプリアンプの4-710d Four-Channel Tone-Blending Mic Preampにも1176相当のアナログコンプ回路が入っている
--とくに初心者ユーザーにとって、コンプレッサって扱い方が難しい面があると思います。そこにはどうとらえたのでしょうか?
イチ:本来であればRATIO、THRESHOLD、ATTACK、RELEASEなどのパラメーターを設定していくわけですが、それだと初心者には難しいでしょう。そこでボーカル用(VOC)、ギター用(GTR)、アタックの速いサウンド用(FAST)と3つのモードだけを用意し、それを切り替えるだけで、いい感じの音になるように設計しています。なので、ユーザーは難しいことを考えなくても、適当に選んで、気持ちいい音だと感じるモードを選べばいいだけ。なので、とっても簡単に使えます。同様にVINTAGEボタンもオンにしたほうが気持ちよければそちらを使い、オフにしたほうがいいサウンドはそうするといいわけです。このVINTAGEボタンをオンにすると、低音が太く、温かい感じのサウンドになりますね。
両サイドに木を使ったオーディオインターフェイスとなっている。写真はVOLT 176
--一方でリアを見ると、いずれの機種にもMIDI端子がありますね?
イチ:Apolloは、ユーザーがプロであったり、ハイスキルの人が多かったので、キーボードは自前のUSBキーボードを持っている人が多く、ユーザー調査でも、MIDI端子はいらないという声が多かったので、搭載していませんでした。ところが、VOLTを企画するにあたり、エントリーユーザーのリサーチをしたところ、CASIOのキーボードやデジタルピアノなどUSBのないキーボードを持っている人が非常に多くいました。そこで、彼らが簡単にDTM環境に手持ちのキーボードを利用できるようにとVOLTにMIDI端子を搭載したのです。
VOLT 1のリアパネルを見ると、接続がUSB Type-CでMIDI入出力端子も装備されているのがわかる
--VOLT 1/2とVOLT x76では、見た目もちょっと違いますね。
イチ:デザインにもこだわりました。VOLT x76はテーブルトップ型となっていて、サイドに木を使っています。これによってちょっとオシャレでプレミアムな雰囲気を感じてもらえるのではないかと思っています。一方で、初心者ユーザーがDTMで音楽制作するために、ワークフローができていないと、とっかかりが難しい面もあります。そこで各ソフトウェアベンダーに協力を依頼し、豪華なソフトをいろいろ搭載しました。ぜひ、この辺も活用しながらVOLTを使ってみてください。
改めて整理してみるとVOLTシリーズ本体のスペックは以下のとおり。
入力ch | 出力ch | VINTAGE | 76 COMP | 税込実売価格 | |
VOLT 1 | 1 | 2 | 1 | - | 17,050円 |
VOLT 2 | 2 | 2 | 2 | - | 23,100円 |
VLOT 176 | 1 | 2 | 1 | 1 | 30,800円 |
VOLT 276 | 2 | 2 | 2 | 2 | 36,850円 |
VOLT 476 | 4 | 4 | 2 | 2 | 45,100円 |
写真を見ても分かる通り、76 COMPRESSORを搭載した製品は、左右が木製になっており見た目にも、高級感のあるシンセのような機材になっています。考えてみれば、木材が使われたオーディオインターフェイスって、これまでなかったような気がしますね。
VOLT 2とコンデンサマイク、モニターヘッドホンのセット、VOLT 2 Studio Pack
そして、冒頭でも紹介した通り、VOLTシリーズにはコンデンサマイクとモニターヘッドホン、3mのマイクケーブル、マイクのショックマウントをセットにしたVOLT Studio Packというものも出ています。具体的にはVOLT 2のセットのVOLT 2 Studio Packが税込み実売価格で39,600円、VOLT 276のセットであるVOLT 276 Studio Packが51,700円。これがあれば、レコーディングのための機材が一通り揃うので、初心者ユーザーで、この機に一挙に機材を揃えたいという場合には、いろいろ選ぶ手間も省けてよさそうです。
VOLT 276とコンデンサマイク、モニターヘッドホンのセット、VOLT 276 Studio Pack
さて、そのVOLT Studio Packを含め、今回リリースされたVOLTシリーズすべてに共通するのは、DTMにおいて役立つソフトがいろいろとバンドルされていること。具体的には以下の通りです。
バンドルソフト | メーカー | ジャンル |
Ableton Live Lite | Ableton | DAW |
Melodyne Essential | Celemony | ピッチ補正ソフト |
Relab LX480 Essentials | Relab | リバーブ |
Marshall Plexi Amp Bundle | Softube | ギターアンプシミュレーター |
Ampeg SVT-VR Bass Bundle | Plugin Alliance/Brainworx | ベースアンプシミュレーター |
Virtural Drummer | UJAM | ドラム音源 |
LABS | Spitfire Audio | ソフトウェア音源 |
いずれにせよ強力なソフトがいっぱいなので、見方によっては、このバンドルソフトだけで結構元が取れてしまいそうですね。
なお、VOLTシリーズは、WindowsおよびMacで利用できるのはもちろんのこと、USBクラスコンプライアントとなっているのでiPhoneやiPadさらにはAndroidで利用することも可能です。またプラグインではなく、ハードウェアとしてVINTAGEボタンや76 COMPRESSORボタンがあるので、これらをiPhoneなどでもすぐに使えるというのも大きなメリットですね。
以上、Universal Audioの新製品、VOLTシリーズについて概要を紹介してみました。まだ私自身も実機を試しているわけではないので、使い勝手など詳細まではわかっていませんが、イチさんの話からしても、期待はできそうです。また、新しい情報が入ってきたら、お知らせしていきます。
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