音楽制作において非常に重要な位置を占めるモニター環境。ここがいい加減な音だと、当然ながら作品の仕上がりも曖昧なものになってしまいます。レコーディング時のモニターが大事であるのはもちろんのことながら、ミックス、マスタリングを自分で行う場合、いかに正確に音を捉えることができるかによって、最終的な音のクオリティーが決まってくるといっても過言ではありません。
そのミックスやマスタリング用のモニター専用に、レコーディング用とは別のシステムを導入し、しっかりと聴くことができる環境を整えるというのも一つの手。ここでは、4月26日に国内発売されたばかりで、現在のモニターシステムにおいて最高品質といってもいい、RMEのADI-2 DAC(実売価格税抜:150,000円)について紹介してみたいと思います。
モニターシステムに最高峰のシステム、RME ADI-2 DACを使ってみる
一言で「モニター環境を改善する」といっても、モニターの音を構成する要素は数多くあるので、簡単なものではありません。その要素を具体的に挙げてみると
- オーディオインターフェイス
- モニタースピーカー
- モニターヘッドホン
- スピーカーの配置
- 部屋の反響
などなど。超高性能なオーディオインターフェイスを入れても、安物のヘッドホンで聴いていたのでは、まともな音にはならないですし、いくらいいスピーカーを用意しても、その設置や向き、また周囲の家具や壁の位置によっては思った通りの音が鳴らせない可能性があります。
そのため、何か一つだけをよくするのではなく、バランスよく向上させていく必要があるのですが、今回注目したいのは、いろいろある中でも最終的なサウンドに大きく寄与するオーディオインターフェイスについてです。
普通オーディオインターフェイスというと、録音用としても再生用としても使うハードウェアを意味します。そしてオーディオインターフェイスは、その設計によって音も変わってくるし、値段も変わってきます。同様に入力数や出力数によっても値段は大きく変わってきます。
4月27日に国内で発売が開始されたばかりのRME ADI-2 DAC
でも、モニター用という点だけに注目すれば、再生性能さえよければいいし、極端な話、録音機能はなくても構わないですよね。また出力チャンネル数もサラウンドの作品を作るというのでなければ、ステレオの2chあればいいはずです。モニターに不用な機能は一切省いて、その分2chの再生の品質をできる限り最高のものにしよう、という考え方で設計されたのが、今回紹介するRMEのADI-2 DACなのです。
ご存知の通り、RMEはドイツのメーカーであり、Fireface UCXやFireface UFX+、MADIface XT、Babyface……などなどプロのレコーディング用などでも幅広く使われている機材を開発、販売しています。やはり、その音質の良さということから、多くの現場に導入されているのです。
WindowsでもMacでも安定して動作してくれるADI-2 DAC
そのRMEのいろいろある機材の中で、再生に特化するとともに、最高品質の音を出せるように設計したものが、ADI-2 DACなのです。昨年RMEが出した2IN/2OUTのオーディオインターフェイス、ADI-2 Proというのを出していますが、その入力部を省くとともに、再生機能をさらにブラッシュアップしたものです。実際、普段使っているオーディオインターフェイスからこちらに切り替えてみると、それまで気づかなかったリップノイズに気づいたり、いい感じだと思っていたプラグインのリバーブがオケに馴染んでいないのに気づくなど、明らかに高精細・高解像度だ、と感じられるサウンドが得られるのです。
その背景にはStedyClock FSというRME独自のクロック技術によりフェムト秒単位での高く精度と低ジッターを実現できていること、さらには旭化成エレクトロニクスのAK4490という高品位なDACチップが使われていることがあるようです。
ちなみに、DACチップとか、製品名であるADI-2 DACの“DAC”とはD/A Converterの略であり、オーディオインターフェイスの再生機能部分を表す用語です。「デジタルをアナログに変換する装置」であり、一般に“ダック”と呼んでいます。反対に録音機能部分がA/D Converterで、ADC(こちらエーディーシーと呼ぶようです)といいます。
352.8MHzのサンプリングレートの素材を再生してみたところ、確かにそのように表示された
では、そのADI-2 DACとはどんな機材なのか、もう少し具体的に見ていきましょう。これはハーフラックサイズのハードウェアで、スペック的には最高で768kHzのサンプリングレートまで扱えるというもの。通常のミックス、マスタリングでは使わないとは思いますがDSDも再生することが可能で、こちらは11.2MHzまで対応するという、まさに最高スペックを誇る機材です。
フロント左側にある2つのヘッドホンジャック
フロントには標準サイズのヘッドホン出力と、ステレオミニのヘッドホン出力の2つが用意されているのですが、これは単にコネクタサイズの違いというわけではないんです。標準サイズのほうはExtreme Power出力となっていて、ハイ・インピーダンス・ヘッドホンであっても余裕をもってドライブできるパワーを持っているのです。一方、ステレオミニのほうは、IEMと書かれていますが、これはIn Ear Monitorの略。つまり、いま利用者も多いインイヤーモニター・イヤホンに最適化されているんですね。
リアにはバランスのXLR出力とアンバランスのRCA出力がある
ヘッドホン接続に、ここまで気を使ったオーディオインターフェイスもないと思いますが、肝心のスピーカーへの接続はどうなっているのでしょうか?これはリアを見ていただくと分かりますが、XLRの3端子によるキャノン=バランス出力となっています。高品位なモニタースピーカーと接続するなら、もちろんのことでしょう。ただし、それと並行してアンバランスのRCAピンジャックでの出力も用意されているので、必要に応じて家庭用のオーディオ機器にも接続して、音のチェックをするということもできそうですね。
ドライバの設定はバッファサイズがあるだけの単純なもの
ところで、RMEのFirefaceシリーズやBabyfaceなどを使った経験のある方だと「全体をコントロールするソフトであるTotalMix FXが高機能すぎて難しい……」なんて印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、単純に2OUTだけを装備するADI-2 DACの使い方はシンプル。MacならCoreAudio、WindowsならASIOドライバを設定するだけですぐに動作させることができます。コントロールパネルの設定もバッファサイズのみですから、ここで戸惑うことはないと思います。
しっかりした4つの脚があるのは、ほかのオーディオインターフェイスではあまり見かけない!?
一方、普通のオーディオインターフェイスと異なり、底面部に4つインシュレーターというか丸い4つの脚があるのです。そのため、これ単体をデスク上に置くと、オーディオ機材っぽくてカッコいいのですが、これにはワイヤレスのリモコンが付属していているのも一般のオーディオインターフェイスとちょっと違うところ。
標準でこのようなリモコンが付属している
このリモコンでは、電源のオン/オフ、ボリュームの調整のほか、入力の切り替え、4つあるプリセットの呼び出しができるようになっています。
USBのほか、S/PDIFのコアキシャル、オプティカルからのアナログ変換も可能になっている
そうリアパネルを見ると分かるとおり、入力はUSBだけでなく、コアキシャルのS/PDIF、オプティカルのS/PDIFも用意されており、PCと接続せずにS/PDIFのDACとしても利用することができるんですね。
エンコーダー・ノブで簡易的なBass・Treble調整ができる
こうした操作はリモコンだけでなく、本体で行うことも可能だし、本体のメイン・ノブ、そして、液晶の右側にある2つのエンコーダー・ノブの3つ(いずれもプッシュ操作も可能)を用いることで、さらに多くの機能を引き出すことが可能になります。
5バンドのパラメトリックEQで細かく調整も可能
その機能、少し具体的に紹介してみましょう。まずは簡易EQ機能としてエンコーダー・ノブを使うことで、ベース、トレブルの調整が可能です。さらにより高精度なEQとして768 kHz対応の高品質5バンド・パラメトリックEQも搭載されています。各バンドごとにゲイン、周波数、Qの設定ができ、その結果をプリセットとして保存することも可能になっています。
ラウドネスの設定画面
さらに、ラウドネス機能というものが搭載されているのも面白いところ。ラウドネスは、周波数と音量によって変化する人間の聴覚感度を補正する機能で、ADI-2 DACに搭載されるラウドネスは、ボリュームを下げるにつれ補正されるベースとトレブルの最大ゲイン値を設定可能になっています。また各ゲインが最大に達するボリューム値も設定でき、ユーザーの聴覚や好みに合わせて適切な設定を行うことが可能です。
ヘッドホンを使いながらスピーカーで聴いているような音にしてくれるクロスフィード機能
また、モニター用機材と考えたときに、非常によくできているのがクロスフィード・エミュレーション機能です。これはヘッドホンで聴きながらも、標準的なスピーカーのセットアップに近い音像でモニタリングできるというものです。5段階での調整が可能で、スピーカーで出力と同様の自然なアンビエンス感を得ることができます。
ディスプレイを暗くできたり、しばらく触らないと完全OFFにするAutoDarkモードもある
そのほか、この液晶ディスプレイ、高解像度のIPS方式のものであり、再生中はFFT表示させることも可能など、使っていても楽しい感じがする一方で、「真剣に音を聴く上で、このまぶしい感じが嫌い」という人もしるかもしれません。そういう人のために、画面の明るさ/色合いの変更したり、背景色を黒に変更するDarkモードが用意されていたり、LEDをすべて自動消灯するAutoDarkモードも備えているなど、かなり柔軟な設定ができるようになっています。
ADI-2 DACについては、以下のようなプロモーションビデオもあるので、気になる方は参考にしてみてください。
いずれにせよ、最大のポイントは、このADI-2 DACの音質。価格的にポンと購入というわけにはいかないかもしれませんが、実際試してみても、なるほど、と思える高品質なものでした。Genelecのモニタースピーカーなんかがあれば、よさそうですが、ペアで5万円程度で購入可能なYAMAHAのMSP 5 STUDIOで使っても十分、その良さを感じられました。またSONYのMDR-CD900STで使っていても十分効果が感じられます。モニター環境をもう少し向上させたいと思っている方は、一度検討してみてはいかがですか?
【関連情報】
RME ADI-2 DAC製品情報
ADI-2 DACポータルサイト
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