ご存知のとおり日本の楽器メーカーは世界のトップを走っており、家電メーカー、クルマメーカーが沈みつつある中、今も力強く突き進んでいます。YAMAHA、Roland、KORG、KAWAI、TAMA、SUZUKI、CASIO……、さらにレコーディング機材、エフェクターメーカーも入れればTEAC、ZOOMなどなど。読者の中には、「え?それって日本のメーカーだったの?」なんてところもありそうですが、日本のメーカーは強いのです。
でも、安穏としていたらいつ追い越されるか分からない過酷な競争の世界であることも確か。事実、中国メーカーが近年、着実に力をつけてきており、世界進出をしてきているのです。「でも、中国製品なんて、質が低くて、使い物にならないでしょ」なんて甘いことを考えている状況ではなくなりつつあります。そんな中、中国最大規模の楽器メーカー、Cherub Technology(チェルブテクノロジー)が日本進出を決め、4月23日に第1弾となる製品の発売を開始しました。具体的にはギター用のマルチエフェクターであるCerberus(ケルベロス、市場予想価格33,600円)、デジタルワイヤレスシステムのB-2(同13,800円)、そしてクリップ式ギターチューナーのWST-530(同1,200円)のそれぞれ。日本の担当者にも話を伺うとともに、製品を触ってみたので、簡単に紹介してみましょう。
中国から大手電子楽器メーカー、Cherub Technologyが日本上陸
私自身もCherub Technologyという会社の存在を初めて知りましたが、同社は香港の隣、深セン市の経済特区内に本社を構えるとともに、そのすぐ隣の珠海市のハイテクパークに研究・開発部門、そして工場を持つ1998年設立のメーカー。すでに、従業員数は450名を超える規模とのことですから、まさに大企業ですよね。
香港の近く、珠海のハイテクパークで研究・開発を行っている
まだお会いしていませんが、社長で、開発エンジニアでもある趙哲(ジャオ・ジュ)さんは、長年、京セラから携帯電話用の部品を中国へ輸入するビジネスを行ってきたことから日本語も達者とのこと。楽器好きが高じて20年前に2人のエンジニアでデジタルチューナーを開発したことからCherub Technologyを立ち上げ、電子楽器メーカーとして大きく成長させてきたそうです。
チューナー、メトロノーム、リズムマシン、ギターコード表示機能などが1つになった機材も5,000円程度で近く登場する予定
そのため、今もデジタルチューナー、メトロノームといった分野において強い力を持っており、世界規模においても大きなシェアを持つに至っていると同時に、日本の楽器メーカーに対してもOEM供給をしているのだとか。つまり、日本メーカー製のチューナーと思って買ったものが、実はCherubで開発・生産されたものの可能性もかなり高いというわけですね。
NUXブランドのデジタルドラム
NEXブランドのデジタルピアノ
現在同社では、Cherub、NUX(ニューエックス)、Musedo(ミューセド)の3ブランドを展開。Cherubではチューナー、メトロノームなどを展開する一方、NUXではデジタルピアノ、デジタルドラム、ギターアンプ、ギターエフェクト、ワイヤレスシステム、ルーパーなどを、そしてMusedoではチューナーなどのほか、アクセサリ類を出しています。まあ、このラインナップを見れば、まだ全方向的に網羅できているわけではなく、発展途上なのかな……とも思うところではありますが、実物の製品を触ってみた限り、かなり手ごわそうではあります。
今回発売されることになったギターエフェクター、Cerberus
今回、国内で発売されるのは、いずれもNUXブランドの製品。冒頭でも少し触れた通り、ギター用の統合型エフェクト&コントローラのCerberus、2.4GHz帯を使った1chのワイヤレスシステム、B-2、そして、クリップ式ギターチューナーのWST-530のそれぞれ。順番に紹介していきましょう。
デザイン的にも仕上がりを見ても、なかなかカッコイイ
まずCerberusは、かなりガッチリしたボディーのギターエフェクト。デザイン的にもカッコいいし、仕上がりもしっかりしています。見ればすぐにわかる通り、DRIVE、DIST、MOD、DELAYと順に並んでいますが、オーダードライブとディストーションはアナログ回路、モジュレーションとディレイはデジタル回路とデジアナ統合機材で、アナログ部分もパラメータ設定などはデジタルコントロールできるので、完全な再現性を持つ機材となっています。
そして最大の特徴は、いま話題のIR(インパルスレスポンス)に対応したキャビネットシミュレーターを搭載していること。そしてIRデータはCerberusをPCとUSB接続することで、さまざまなものを転送して使うことができるし、PCと接続すればエフェクトの設定管理なども可能になっているのです。もちろんPCはWindowsもMacもOK、試してみたところ使い勝手も抜群ですね。実際、ギタリストのJake Cloudchairさんが弾いているデモビデオが以下のものです。
マルチエフェクターという意味では、当然日本メーカーもさまざまな製品を手ごろな価格で出しているわけですが、このCerberus、使ってみてすぐに感じるのは「これって、シンプルなアナログエフェクトを4つ並べた感じだ!」ということ。そう、パラメータを1つ1つデジタルで操作するという使い方ではなく、それぞれのノブをいじり、スイッチで設定することで、音作りができるのです。しかも、オーバードライブとディストーションは、アナログ回路なので、かなり力強い歪が得られるというのもグッとくるところですね。
Cerberusのリアパネル、アナログの入出力のほかにUSB、MIDI入出力もある
リアパネルを見て気づくのは、入出力がいろいろあること。これ、どうなってるの?と思ったら、なかなかうまくできていました。基本的には左のINPUTにギターを入れて、右のOUTPUT2からの出力をPAに入れたり、オーディオインターフェイスに突っ込んでレコーディングする形になっているのですが、接続方法によって、いろいろな使い方ができるのです。
Cerberusのシグナルフロー
まずオーバードライブ・ディストーションのアナログエリアにあるOUTPUTから取り出すと、デジタル回路を通らず、アナログのエフェクトのみをかけた状態で取り出すことが可能です。
Cerberusの接続例
またOUTPUT2から出した場合はIRキャビネットシミュレーターを通した音が出てきますが、OUTPUT1から出した場合は、IRキャビネットシミュレーターなしの音が出てくるので、普通のギターエフェクトとしてそのままギターアンプへ接続することが可能なのです。OUTPUT1とOUTPUT2は同時に利用できるから、ライブなどのときは、PA側でうまくミックスさせるといった使い方もできそうです。
本体左側はデジタルエフェクトとなっている
一方、このデジタル側にもINPUTという端子がありますが、ここに入れれば、アナログ回路を通さずに直接モジュレーション、ディレイをかけることが可能になるわけです。
メニュー構造などはなく、すべてスイッチとノブで操作できるので、わかりやすい
またMIDIの入出力端子もありますが、これはプログラムチェンジを送って予め用意しておいたエフェクト設定に切り替えることを実現するためのもの。もちろん、USB側からもコントロールすることは可能なので、ライブ中などDAWからのオケに合わせて演奏するといった場合、プログラムチェンジ情報も出せば、いちいち操作することなく、すぐに目的の音色が利用できるようになるというわけです。
Cerberusソフトウェアを使うことで設定の管理やIRデータのロードなども可能
なお、IRデータのフォーマットは44.1kHz/24bitの512サンプル分のWAVファイル。探してみるとネット上にもいろいろあるし、場合によっては自分で作成することも可能なので試してみると面白いですよ。
小さな箱の中にトランシーバーとレシーバーがセットで入っているB-2
そして、もう一つの製品B-2は非常にシンプルなもので、1chモノラルのTSケーブルをワイヤレス化したというもの。Wi-FiやBluetoothなどで用いる2.4GHz帯の電波を用いて飛ばすことができるという製品です。送信側のトランシーバーと受信側のレシーバーがセットで入っているので、普段使っているケーブルの代わりに挿すだけ。
とってもコンパクトながら30mの飛距離を実現
もちろんギター、ベース用として使うこともできるし、エレクトリックチェロとかエレクトリックバイオリンといった電子楽器を接続して使うのもよさっそうです。ここでは32bit/48kHzのPCMデジタル信号として伝送されるため、非常に高音質。音の遅れはまったくわかりませんでしたが、スペックを見るとレイテンシーも5msecとのことなので、実用上まったく問題なく使えそうですよね。
トランシーバーをギターなどに挿すだけでOK
気になる飛距離ですが、見通しのいいところで30mとのこと。そのため、プロオーディオ機材として大きいステージで使うのには無理がありそうですが、自宅でDTM用に使うとか、小さい規模のライブハウスで使う分には問題なさそうですね。また、バッテリーはUSBでの充電式となっており、無信号時にスリープする機能により6~20時間の連続使用ができるとのこと。
ただし、2.4GHz帯での使用となるため、Wi-Fiが飛び交っているところや、電子レンジを使うエリアだとトラブルが出る可能性はあります。ボタンを押すことで4chの切り替えが可能なので、問題のないチャンネルを探してみるという使い方になりそうです。また、あくまでもモノラルなのでステレオで飛ばす必要がある場合は2組必要となるし、2ch分を使う必要があるので、比較的電波状況のいいところで使う必要が出てきますね。とはいえ、実売価格13,800円という手ごろな価格で入手できる魅力は大きいと思います。
クリップチューナーのWST-530
そして、もう一つのクリップチューナー、WST-530は、私自身は触っていないのですが、最新の高速音程認識回路を採用したチューナーとのこと。小型ながら見やすいLCD表示で設計されており、チューニング精度も±1セント、440Hzに固定されたチューナーになっています。クロマチック、ギター、ベース、ウクレレCの4つのモードを持ち、スイッチで切り替え。1,200円との値段ですから、一つ予備で持っておくチューナーとしても悪くなさそうですね。
以上、中国メーカーのCherub Technologyが日本で発売する製品についてレポートしてみました。今後続々とさまざまな製品を日本投入とのことですから、日本メーカーもうかうかとしていられない状況になりそうです。みなさんは、どう判断していきますか?
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