NEVE氏の設計思想を組み込んだオーディオインターフェイス、UR-RT2、UR-RT4がSteinbergから手頃価格で発売

プロ御用達のビンテージ機材で知られるNeve(ニーヴ)。これはRupert Neve(ルパート・ニーヴ)さんという方が設計したミキシングコンソールやコンプレッサ、EQ、マイクプリなどなどさまざまな機材を意味するもので、これらの製品は今も多くのスタジオで使われています。そのNeveさんは1960年代以降、複数のブランドに関わるとともに、数多くの製品を生み出してきたのです。そしてNeveさんは現在も現役のエンジニア。2005年にRupert Neve Designs社を立ち上げ、マイクプリのPortico、チャンネルストリップのShelford、ヘッドホンアンプのRNHPなど数多くのヒット製品を作っているのです。

このたび、そのRupert Neve DesignsとSteinbergYAMAHAがタッグを組む形で非常にユニークなオーディオインターフェイスが開発されました。世界的に大ヒットのオーディオインターフェイス、URシリーズの新ラインナップとして4IN/2OUTのUR-RT2(オープン価格、実売想定価格は税抜き38,700円)、そして6IN/4OUTのUR-RT4(同64,800円)で4月24日より発売されます。この発表に先立ち、先日、乃木坂のソニー・ミュージックスタジオでUR-RTを用いたレコーディングテストを兼ねた内覧会が行われたので、その内容を紹介してみましょう。

Rupert Neve Designsのトランスフォーマーが入ったUR-RTシリーズが誕生


SteinbergのオーディオインターフェイスはUR12、UR22mkII、UR242、UR44、UR28M、UR824と6製品ありますが、今回登場するUR-RT2およびUR-RT4は、UR-RTシリーズとして従来のラインナップに加わる形で発売されるものです。


URシリーズに追加される形で誕生したUR-RTシリーズ

単体としては2015年11月に発売されたUR22mkII以来の新製品となるので、約2年半ぶり。従来のURシリーズがブラックフェイスだったのに対し、UR-RTシリーズはシルバーフェイスとちょっと雰囲気が違うのですが、持ち上げてみるとズッシリと重くなっていることがわかります。もちろん単に重たくしたというのではないですよ。そう、Rupert Neve Designsの音の決め手となるトランスフォーマーという部品が搭載されているから重たくなっているのです。


Rupert Neve Designsのロゴが入ったトランスフォーマーが基板上に搭載されている

どういうことなのか、もう少し見ていきましょう。もともと2010年にYAMAHAとRupert Neve Designs(以下、RND)は技術提携をしており、YAMAHA独自のデジタルモデリング技術、VCM=Virtual Circuitry Modelingを用いてRNDのアナログ回路をプラグイン化するなどして、製品を出してきた経緯があります。

ずっしりとした重みをもつトランスフォーマー
しかし、このUR-RTはモデリングではなく、RNDのアナログ部品そのものをオーディオインターフェイス内に入れ込んでしまったという、まさにデジタルとアナログの融合製品なのです。

今も現役の開発エンジニアとして活躍するRupert Neveさん

実はNeveさんがこれまで出してきた数々の名機には音作りの上で共通点があるのです。それは、どの製品にもトランスフォーマーが搭載されているということ。トランスフォーマーとはちょっと聞きなれない言葉ではありますが、これはいわゆるトランス=変圧器のことなんです。そう、トランスフォーマーとは鉄をコイルで巻いた部品なのですが、これを通すことで、独特のサウンドへと変わるのです。

トランスフォーマーとは、いわゆるトランス=変圧器のこと

Neveさんが「トランスフォーマー設計は科学であり、芸術でもあります。私のコンソールが今も使い続けられている理由はトランスフォーマーにあります」と語っている通り、これが重要なポイントなのです。

Rupert Neve Designsの製品にはトランスフォーマーが入っている

そのこだわりのトランスフォーマーを搭載したのが、今回のUR-RTシリーズというわけなのです。もちろん、YAMAHAのデジタル技術でトランスフォーマーをモデリングするという手法もあったのだと思いますが、今回は、Rupert Neve Designs社の本物のトランスを搭載したオーディオインターフェースを作りたいという思いもあり、あえてアナログ部品をここに搭載することになったそうです。

6IN/4OUTのオーディオインターフェイスUR-RT4

つまり、このUR-RTはNeveサウンドを模倣した製品ではなく、オリジナルのサウンド。従来、非常に高価だったNeveサウンドが、この価格で手に入るとなると、結構画期的ですよね。

4IN/2OUTのオーディオインターフェイス、UR-RT2

また面白いのは、UR-RTではRNDのトランスフォーマーを通した音と、通さない音を聴き比べ、使い分けることが可能になっているという点です。UR-RT2およびUR-RT4のフロントパネルにはスイッチがあり、これをオンにすることで入ってきたオーディオ信号がトランスフォーマーを経由した上でレコーディングできる仕組みになっているのです。


トランスフォーマーを通すかどうか、フロントのスイッチで切り替えられるようになっている

ブロックダイアグラムを見るとわかるとおり、マイクプリ=ヘッドアンプを通過した後に、このスイッチがあるので、必要に応じて使い分けが可能なわけです。もちろん、マイクプリは定評のあるYAMAHAのD-PRE。そのD-PRE+RNDトランスフォーマーということで高品位なサウンドを作り出す仕掛けです。


トランスフォーマーはヘッドアンプ、D-Preを通った後、A/Dの前に置かれている

先日のソニー・ミュージックスタジオでのテストでは、ボーカルを録る際に、マイクからの信号を2chに分岐させた上で片方をオンのチャンネルへ、もう片方をオフのチャンネルへ入力して同時レコーディングして、聴き比べたのです。



乃木坂のソニー・ミュージックスタジオで内覧会が行われた
その結果、ちょっと不思議な感じではありますが、オンにした音のほうが、自然で心地よいサチュレーション感が加わった音になっていたのです。もう少し分かりやす表現すると、より太くツヤのある音であり、オケの中におって、抜群に存在感のある音になるんです。

レコーディングエンジニアの峰岸良行さん

今回のテストでは、レコーディングエンジニアの峰岸良行さんがレコーディングを行い、ボーカルは中村泰輔さんがレコーディングブース内にいて歌ったものを録っています。


トランスフォーマー、オンとオフの2通りで同時にレコーディングしていった

実は、そのレコーディングテストの前に、単にDACの聴き比べとして現行機種でもあるUR44と、今回の新機種のUR-RT4とで、音を鳴らしたのですが、結構違いがあったのも面白いところ。

素材としてはエリック・クラプトンの「Change the world」を再生していたのですが、峰岸さんも「UR-RTに切り替えた瞬間にドバッと広がる感じでね」と語っていましたが、その背景にはダイナミックレンジが上がった結果、分解能が増して 細部が良く聞こえるようになったことがあるようです。そうUR44だと105dBだったものが、UR-RT2およびUR-RT4では112dBとなっていることが、再生系での音の違いになっているのです。

一方、そのレコーディングの聴き比べにおいて、峰岸さんは「トランスフォーマーでのサチュレーション感、倍音の伸びに注目して聴いてください」と解説の上、それぞれを再生してくれたのですが、確かにUR-RTのほうは子音の立ち方や高域に特徴が現れていました。倍音がパーっと広がる感じで、明らかにスイッチオンのほうが、気持ちいい音になっているんですよね。


トランスフォーマーを通した音だとモニターしやすかったと話す、中村泰輔さん

ボーカルの中村さんも「モニターしていて、クッキリとオケから抜ける形で声が戻ってくるので、とっても歌いやすかったです」と話していましたが、確かにその抜け具合いは外からでもわかりやすい形でした。

ただ、その音の違いを波形で見て分かるかというと、実はほとんど差はない程度です。峰岸さんは「録り音は非常にわずかな違いで、極端な差があるわけではありません。ただ、リバーブの乗りに違いが出てくるし、コンプやエフェクトの乗りも違ってくるのです。これがトータルで聴いてくるのがトランスフォーマーの威力ですね」と語っている通りで、“エフェクト”というほどの違いではないのも面白いところでした。

録音した音を聴き比べ
一方、すでにレコーディング済みのナイロン弦のアコギについても再生しながら比較が行われたのですが、こちらも面白い結果になっていました。これはリボンマイクでステレオで録り、やはり2系統に分岐させてトランスフォーマーのオンとオフで録り比べていくるのですが、こちらはもう少し波形上でも差が出ていました。そう、オンのほうが、若干波形が大きいのです。

「音は大きくなって聞こえますが、ゲインは一緒です。トランスフォーマーを通したもののほうが、音は音像がグッと前に出てくるのが特徴です。ボーカルの場合は単音ですが、ギターにおいては複数の周波数の入力があるため、混ざり合った高変調歪みというか、膨らみと楽器独特のディテール感が強調されます。ナイロン弦の弾いた感じが強調されて録音されるために音楽的になるんですね」と峰岸さん。なるほどトランスフォーマーって面白いな、と感じました。

このUR-RTの開発を担当したのはヤマハ株式会社音響事業本部 開発統括部 PA開発部 電気G 主事の吉田威大さん。

UR-RTシリーズを開発したヤマハの吉田威大さん
吉田さんによると、このUR-RTの開発も最初からうまくいったわけではなかったそうです。

「最初に、RNDにこの話を持って行った際、彼らの製品で使っているトランスフォーマーをもらって、基板に搭載してみたのですが、なかなか思ったサウンドにはなりませんでした。何度かやり取りをしたところ、彼らから『UR-RTに合わせたトランスフォーマーを作ろうと思っている』と言ってくれたんですよ!」と吉田さん。そう、今回搭載されているトランスフォーマーは、RNDが作ったUR-RTに合わせて新たに開発したものなんですね。


UR-RTシリーズはコンパクトサイズながら、しっかりとトランスフォーマーが内蔵されている

「RNDが発売している製品に搭載されているトランスフォーマーは、入力段に入れるものと出力段に入れるものの2種類ありますが、特に音色に寄与しているのは出力段に入れるアウトプットステージ・トランスフォーマーなんです。それに対し、UR-RTではマイクプリの後で、A/Dに入る前にトランスフォーマーを置いてそのままCubaseなどのDAWに録音されるというかたちになるため、アウトプットステージ・トランスフォーマーをそのまま載せても、求める音にならなかったのです。そこで今回、A/Dの前に置いても アウトプットステージ・トランスフォーマーと同じ効果を生む“ミドルステージ・トランスフォーマー”を新たに開発してもらったことで、商品の実現性が見えてきたのです」(吉田さん)

苦労したのは、このスイッチのオンとオフでの音の差とのこと。
「サウンドの色付けについては、いろいろと悩みました。歪みを大きくすれば、音の差はハッキリするけれど使える音ではなくなります。一方で、歪みを弱くしすぎると、差がなくて効果がハッキリしなくなってしまいます。ちょうどいいところにするのに、いろいろとRNDからアドバイスをもらった結果、いい具合にすることができました」と吉田さん。

UR-RTシリーズは、そのようにいい具合に調整された形でトランスフォーマーが搭載されたことで、気持ちのいいレコーディングをスイッチ一つで実現できるようにした製品ですが、デザインにもこだわっているそうです。前述のとおり、従来のURシリーズと同じような外観を保ちつつもフロントがシルバーフェイスでプレミアム感を出しています。またノブの質感やトルク感も従来のURとは異なり、少し重めな高級な雰囲気を出すなど、ディテールにこだわっているのです。

また天板にスリットがあり、中にあるトランスフォーマーとRNDのロゴがさりげなく見えるようになっているのも、ちょっと嬉しいところですね。

天板のスリットから中のトランスフォーマーが覗けるデザインになっている
「RNDの心臓部であるトランスフォーマーを取り入れた一番の目的は、彼らの製品の心地よさを実現することで出音がよくなるのはもちろんですが、そのことで少しでも演奏のパフォーマンスを向上させる手助けになれば、ということです。ぜひこのサウンドの良さを多くの方に感じていただければと思います」と吉田さんは語ってくれました。

UR-RTは、手頃な価格でこのサウンドを実現したことで、一段上を行くオーディオインターフェイスとして広く使われていきそうですね。

UR-RT4 UR-RT2
最大サンプリングレート 192 kHz
入出力合計 6 イン / 4 アウト 4 イン / 2 アウト
アナログ入力 4 Combo(Ch1/2のTRS入力はHi-Z), 2 TRS 2 Combo(Ch1のTRS入力はHi-Z切換え可能), 2 TRS
マイク入力 4 (D-PRE with RND Transformer) 2 (D-PRE with RND Transformer)
HI-Z 入力 2 1
アナログ出力 4 2
ヘッドフォン端子 2 1
ループバック機能 搭載
iPad/iPhone接続 可能
※iPad/iPhoneで使用する場合、「Apple iPad Camera Connection Kit」または「Lightning – USBカメラアダプタ」が必要となります。
DSP Mixer + Effects DSPミキサー「dspMixFx」、DSPエフェクト「Sweet Spot Morphing Channel Strip」 / 「REV-X」 / 「Guitar Amp Classics」搭載
バンドルソフトウェア 64ビット浮動小数点オーディオエンジン搭載DAW「Cubase AI」、VSTエフェクトバンドル「Basic FX Suite」(「Sweet Spot Morphing Channel Strip」 / 「REV-X」 / 「Guitar Amp Classics」)、iPad用マルチタッチDAW「Cubasis LE」、iPad/iPhone用ミキサーアプリ「dspMixFx」
サイズ(W x H x D)/質量 267 x 47 x 208 mm / 2.4 kg 198 × 47 × 208 mm / 1.7 kg

【製品情報】
UR-RTシリーズ製品情報

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Commentsこの記事についたコメント

5件のコメント
  • retro mania

    なんかすごく良さそうですね、DAW側に音質の良さが反映されるのかが気になるところです。

    2018年4月11日 3:08 AM
  • ・・・

    興味はあるのですが、マイク入力1つだけで良いのですが、そういうDTMerへの対応、
    今回も全くのスルーですね。とても残念です。
    マイク入力1つだけで2.5万円とかで、製品出ませんかねぇ。
    その部分、あまりにも無駄な買い物感が強くて、二の足を踏みそうではあります。
    天板のスリットからの埃の堆積とかは、大丈夫なんでしょうか? 数年単位での堆積は。
    この製品にはCUBASE AIは、付かないのでしょうか。ま、そういうレベルではないのかな。
    UADのオーディオインターフェイスとも頂上決戦(まあ上には上があるにせよ)に
    なるような、お値段になっていますが、優劣はいかに? Winパソコンの多くの人は、
    こちらだけが選択肢の現状なんでしょうけど。
    やはり興味は尽きません♪♪

    2018年4月12日 12:15 AM
  • ヒンナヒンナ

    新製品もいいけどUR44のドライバ不安定なのなんとかして欲しい。
    UR242は安定してるんだけどなあ。
    まあこれ買っちゃうかもだけど。

    2018年4月12日 10:58 PM
  • ヒンナヒンナ

    新製品もいいけどUR44のドライバ不安定なのなんとかして欲しい。
    UR242は安定してるんだけどなあ。
    まあこれ買っちゃうかもだけど。

    2018年4月12日 10:58 PM
  • ラナ

     これの多入力のやつあると面白そうですね。8入力で2台束ねたら16chのデジタル卓みたいな感じになりますし、アナログの機材の入手力をデジグリットに回して自由にルーティング出来たら面白そうですね。

    2018年4月13日 12:26 AM

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