DTMにとって必須のアイテムの一つであるのがマイク。ボーカル、アコースティック楽器、ギターアンプの出音……、打ち込みやサンプル素材を使う以外は、やはりマイクは必要ですが、どんなマイクを選ぶかで音が大きく変わってくるのも事実です。できれば複数のマイクを持って、使い分けていくのがお勧めなんですが、予算の都合上、なかなかそうもいきませんよね。
そんな中、キャラクタが大きく異なる2種類のマイクをセットで15,000円(税抜き)という面白いマイクのセットが発売されることになりました。MONSTER 7という、このマイクセットを開発したのは、SIRE(サイア)というアメリカの会社で、マイク製品は今回が初とのこと。でも、ここは、あのマーカス・ミラーのベースを作っているメーカーなんですよ。ベースのピックアップで培った技術でダイナミックマイクは開発できると取り組んだ結果、かなりいい音のマイクが2種類完成したんです。パッケージに入っているREDはコンデンサマイクっぽい繊細なサウンド、BLUEは力強い迫力あるサウンドで、なかなか使えるんです。実際どんな音なのか、女性ボーカル、男性ボーカル、アコースティックギターの3種類を定番マイクのShure SM58と録り比べてみたので、実際音を聴きながら比較してみましょう。
2種類の特性の高音質ダイナミックマイクがセットとなったMONSTER 7が間もなく発売
今回、国内発売が決まったSIREのMONSETER 7は、2本のダイナミックマイクをセットにしたこれまでにない珍しい製品。パッケージの中にはMONSTER 7 RED、MONSTER 7 BLUEという2種類のマイクが入っているのですが、SIREによればREDはプロのボーカリスト向け、BLUEはボーカルのほか、スピーチ、ラップ、ロック/リアルマルチ用と説明されています。
でもマイクというとSHURE、Sennheiser、AKG、Neumann、Audio-Technica、sE、SONY、TELEFUNKEN、Aston、beyerdynamic……と名だたるメーカーがあり、それぞれ長い歴史を持っているだけに、なかなか新規参入というのも難しいようにも思います。そんな中に、自社のピックアップ技術をベースにして、完全にゼロから新しいマイクを作ってきたんですよね。
SIREはあのマーカス・ミラーのベースを作るメーカー
確かにベースやギターのピックアップも、スピーカーも、ダイナミックマイクも永久磁石とコイルを用いて音の信号と電気信号を変換する構造という意味では共通点があります。その意味では、マーカス・ミラーが音の面で絶大な信頼を置くSIREも可能性を持つメーカーとは言えそうです。SIREによれば「開発の最初の1年間は、細かい調整プロセスを経てマイクを完成させました。昨年の夏、発売直前に、マイクの再調整のため、発売を延期しました。そして1年の厳しいチューニングを経て、最終的にマイクを完成させ、リリースする準備が整ったのです」とのこと。
MONSTER 7 RED、BLUEとも指向性は同じ特性となっている
REDもBLUEも指向性においてはほぼ同一ですが、周波数特性は結構異なっているとのこと。それぞれのグラフを見るとREDのほうがなだらかで、BLUEのほうが低域まで出ているようですよね。
MONSTER 7 REDの周波数特性
なかなか興味がそそられるところですが、音の世界は理論だけでは分からず、実際に音で試してみないと評価しにくいのも事実です。そこでRED、BLUE、それぞれどんな音なのかを試してみることにしました。
MONSTER 7 BLUEの周波数特性
その音のチェックに協力いただいたのは、DTMステーションEngineeringでもお馴染みのレコーディングエンジニア、飛澤正人さん。今回は、MONSETER 7の販売を行うRock oNさんと共同企画としてレコーディングテストを行ったのです。
飛澤さんのPENTANGLE STUDIOでレコーディングテストを行ってみた
レコーディングを行ったのは飛澤さんのスタジオであるPENTANGLE STUDIO。ここで、アコースティックギター、女性ボーカル、男性ボーカルのそれぞれをREDおよびBLUE、そして比較対象としてSHUREのSM58およびBETA58と録り比べてみたのです。
左からOHAGIさん、飛澤さん、コテカナさん
そのレコーディング素材となる演奏および歌唱に協力してくれたのは、ギタリストの森本隆寛(@mr0513)さん、OHAGINZのボーカル、OHAGI(@ohagi1217)さん、そして4月29日リリース予定のDTMステーションCreativeの初CDのシンガーでもあるコテカナこと小寺可南子(@cana_ko_tera)さんの3人。
それぞれ同じ条件で録っているので、まずは以下のSoundCloudで聴いてみてください。
それぞれ結構違うのが分かると思います。実はこのときに使ったのは、最終のカラーリングがされていないものだったので、両方ともシルバーボディーでしたが、発売されるときには赤と青のリングが施されるとのこと。また、シルバーボディーのものとブラックボディーのものの2つの色が登場するそうです。ただ、すでに量産をスタートしており、音的には最終製品との違いはありません。
今回テストしたのは、出荷直前の量産品だが、カラーリングが施されていないものだった
聴いてみてももお分かりいただけたと思いますが、ここではあえて、違いを分かりやすくするために、リバーブもかけず、もちろんEQを含めその他のエフェクトもまったく使っていないんです。唯一使ったのは、音圧をある程度揃えるために使ったコンプのみ(最大-5dB程度)。リバーブなしというのは、特にボーカリストにとっては酷な表現方法ではありますが、その分違いが鮮明にわかりますよね。もっとも、歌ってもらっている際のモニターにはリバーブを加えたものを返していましたよ。
条件を揃えるため、マイクの向きや距離などを綿密に調整
「SM58はいい意味でも悪い意味でも標準。ボーカルに使うダイナミックマイクとしての基準となるものですね。そんな58と比べるとREDはコンデンサーマイクっぽい音で上下のレンジが広いです。逆に58ってこうなんだよな、ってレンジの狭さを再認識します」と飛澤さんは、ズバズバと評価してくれます。
コンプだけをかける形でレコーディングを行っていく
「RED、BLUEともにハイの抜けがすごく印象的。クリアに上が抜けている印象です。そこを差し引いて考えるとBLUEの方がローがでているのかもしれないですね。ただ、BLUEは5kHzぐらいにピークがあるためパッと耳で聴いた感じだとBLUEのハイ抜けが印象に残り、ローの物足りなさを感じてしまうくらいです。なかなかパンチのあるサウンドですね。REDのほうがバランスが取れている印象です。特性としてはフラットで上の方が伸びている感じるサウンドで、誰にとっても扱いやすいと思いますよ」と飛澤さん。
とっても爽やかな歌声のOHAGIさん
もちろん、どのマイクが好きかは人によって違うだろうし、何に使うかによって、音作りも変わってくると思いますが、飛澤さんは「アコギを録ったときに感じたのはストロークでもアルペジオでも使いやすいのはREDですね。でもBLUEは激しいサウンドに合わせていくようなストローク系のアコギやボーカルであれば、あまり加工せずに抜けてきてくれるので、素材によってはすごくいい効果を発揮してくれると思います。これがセットで15,000円というのは、ちょっと安すぎなんじゃないですか(笑)」と高評価でした。。
複数のマイクをトライしながらも、まったく同じ感じで歌ってくれたコテカナさん
ここでは、このSM58、RED、BLUEの3つの音を紹介しましたが、実はほかにも4種類、計7つのマイクで同じテストをしていたんです。具体的にはSennheiser E845、sE Electronics V7、Shure Beta57、TELEFUNKEN M80のそれぞれ。
アコギからやく15cm程度の距離に2つのマイクを設置して録り比べ
ここでは、あまりたくさんの音を並べてしまうと分かりにくいかな、という判断で3つの音に絞りましたが、Rock oNサイトでまもなく、すべてのマイクでの録り音を公開するとのことなので、興味のある方は聴き比べてみても面白いと思います。
REDとBLUEは、2つ並べて設置して、同時にレコーディングしている
しかもRock oNサイトでは、SoundCloudの音だけでなく、24bit/96kHzでのWAVデータもダウンロードできるようにするとのことですから真剣に評価できると思いますよ。私も、その24bit/96kHzでのレコーディング結果を聴きましたが、MONSTER 7 RED、BLUEともに、かなり使えるマイクだ、という印象を持ちました。
一方で、レコーディングに参加してくれたコテカナさんは「今回、ダイナミックマイク、コンデンサマイクを織り交ぜてレコーディングしましたが、ダイナミックマイクの音をモニターすると、とくにハイの音がゴチャゴチャになって歌いずらい面がありました。ただ、REDだけはゴチャゴチャが解消されてスッキリしていて、歌いやすかったです」とのコメント。ゴチャゴチャとは何を意味するのか、やや分からない面はありましたが、やっぱり、モニターしていてもかなり違うということなんですね。
無事レコーディングを終えてホッとしたコテカナさんとOHAGIさん
またOHAGIさんは「モニターは、BLUEもREDも、SM58と比較して明らかに聴きやすく、歌いやすかったですね。私は路上ライブなんかをすることも多く、何かいいマイクがないかな…と思っていたところなんですよ。2本で15,000円というのは相当安いし、ライブ用にも使ってみたいなと思いました」と話してくれました。
これだけの音質が得られる、異なる特性のマイクが2つセットで15,000円というのは、やっぱり、面白い企画の製品だな、と思います。
このMONSTER 7についての正式発表会を、なんと4月10日のDTMステーションPlus!の番組内で行う予定です。
今回、ゲストにはグラミー賞受賞者であり、Madonna、The Roots、Aretha Franklin、TLC、Usher……と名だたるアーティストを手掛けてきたレコーディングエンジニア、Carlton Lynnさん、そして、われらがコテカナさんもボーカリストとして呼んで、この2つのマイクをテストしてみますので、お楽しみに!
【関連情報】
MONSTER 7製品情報
Sire MONSTER 7 登場!価格を超えたサウンドに到達したダイナミックマイク!(Rock oNサイト)
【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ MONSTER 7(シルバー仕様)
◎Rock oN ⇒ MONSTER 7(ブラック仕様)
【第103回 DTMステーションPlus!】
2018年4月10日(火) 20:30~22:30
ニコニコ生放送 http://live.nicovideo.jp/gate/lv312129611
Fresh! by CyberAgnet https://freshlive.tv/dtmstationplus/200557