ユーロラックのシンセサイザというと、みなさんはどういうイメージをお持ちでしょうか?「とてもマニアックなガジェット」、「非常に難解で素人には手が出せないもの」なんて風に思っている方も多いのではないでしょうか?確かに奥深いユーロラック・シンセの世界、一言で語れるものではないとは思いますが、そこにポップで楽しく、でもすごく強力なシンセサイザが登場してきました。
「LIFE IS A TRIP」をテーマとして打ち出してきたヨーロッパのメーカー、Endorphine.es(エンドルフィン)が開発したEndorphin.es SHUTTLEは5つのユーロラックを84hpの1つのケースにまとめたシンセサイザ。パネルを見ると、飛行機やロケット、UFOに誘拐される牛などのイラストがちりばめられている、なんともブッ飛んだ機材であり、音の作り方も独創的。その一方でPCともUSBで接続でき、手軽に演奏・コントロールができるなど、使いやすさの面でも工夫が凝らされています。実際どんなものなのか見せてもらったので、紹介してみたいと思います。
とっても不思議な世界観を持つ、でも非常に強力なシンセサイザ、Endorphin.es SHUTTLE
普通ユーロラックのシンセサイザというと、小さなモジュールを複数ラックに並べて、パッチングケーブルを挿しながら構成していくわけですが、このEndorphin.es SHUTTLEは、1枚のパネルにすべてまとまったシンセサイザシステムです。
1枚のパネルにすべてが収まったシステム型のシンセサイザ
また普通ならVCO、VCF、エンベロープジェネレーター、LFO、VCA…といったモジュールが並ぶわけですが、ここにあるのは
- Furthrrrr Generator (サウンドソース)
- Grand Terminal (フィルター、エンベロープ、エフェクト)
- Gateway (ユーティリティー、オートチューナー)
- Cockpit (ミキサー)
- Shuttle Control (MIDI to CVコンバーター、CV ソース、パワーディストリビューター)
というちょっと見慣れないモジュールとなっています。実は、これら5つのモジュールは、もともと単体で販売されていたもので、熱狂的なファンも多かった人気製品だったのだとか……。今回それを合体させて1つのシンセサイザとして販売したわけですが、こうしたシステムは創業者であるMoritzさんが、Endorphin.esを立ち上げた5年前から夢見ていたものなんだとか……。
見た目にも非常にカッコいい、Endorphin.es SHUTTLE
いろいろ文字で説明するよりも、まずは音を聴いてみたいところですよね。先日、Endorphin.esの取り扱いを開始したRock oN Companyでデモを見せてもらったので、撮影してみました。簡単な使い方、音の出し方を含めて確認できると思うので、ぜひご覧になってみてください。
いかがですか?モジュール名がちょっと聞きなれない感じで不思議な気はするけれど、なかなか、いい感じのサウンドが出てますよね。
音源部分であるFurthrrr Generator
実際何をしていたのかを含め、SHUTTLEの構造について少しみていきましょう。まず、音の発生源であるオシレーターがあるのがFurthrrrr Generator。これは「西海岸系のコンプレックス・オシレーター」などと言われているタイプのオシレーター。MOOGなどのオシレーターと違うのは、倍音を調整し、オシレーター同士でモジュレーションしながら音を作っていくタイプのものであるということ。つまり2つのVCOを持ったオシレーターとなっていて、右がキャリア、左がオペレータと、FM的な音作りができる音源になっているんですよね。
三角波×2、サイン波、ノコギリ波、矩形波、ノイズを端子から取り出す
波形としては三角波×2、サイン波、ノコギリ波、矩形波、ノイズとあり、特徴的なのはWaveShaperという倍音をさまざまな角度から調整するパラメーターが3つあること。当然、倍音のないサイン波には効きませんが、三角 波のメタリックな音色変化はまさに西海岸スタイルでないと表現できない圧倒的な個性があります。一般的なアナログシンセでは三角 波はサイン波同様プレーンでおとなし目の印象があると思いますが、WaveShaperにかかれば、かなりえげつないサウンドも作り上げることができてしまうんですよね。
フィルター兼エンベロープジェネレーター兼エフェクトというGrand Terminal
次にGrand Terminalですが、これは簡単にいえばフィルター兼エンベロープジェネレーター兼エフェクトというモジュールです。モジュラーシンセというと、アナログという印象が強いですが、Endorphin.esは必ずしもアナログがにこだわっているわけではないのも面白いところ。そう、このフィルターもエフェクトもデジタルなんですよね。
フィルターの種類としてはローパス、ハイパス、バンドバス、コムフィルター、ローパスゲートなど8種類でカットオフ、レゾナンスのパラメーターも用意されているから、一般的なフィルターとして違和感なく使うことがができます。またデジタルフィルターであるだけに、音のキレもすごくいいんです。
2つあるフィルターはここで選択する
一方、エフェクトのほうも8種類で、こちらはすべて空間系。リバーブ、コーラス、ピンポンディレイ、テープエコー……など、あり、これも不思議なアイコンを使って選んでいくわけです。またエンベロープジェネレーターのほうは、一般的なADSRの構成ではないみたいですね。飛行機が上昇するアイコンがアタック、下降するアイコンがディケイとなっているので、基本はARですが、三つのモード切り替えでAR/ASRタイプ、ADタイプ、そしてループタイプが選択できます。ループタイプはLFO~音源として使うことができ、ピッチ情報を入力すれば第3のボイスとなります。なお、このシンプルなエンベロープジェネレーターの最大の特徴はスロープの自在な調整にあります。Linear(直線)を軸にExponential(指数)、そしてLogarithm(対数)のスロープにも調整できるため、いわゆるかつてのフラッグシップワークステーションシンセで作り上げていたような繊細なエンベロープを簡単に作り出すことができます。
付属のケーブルには、気持ちいい弾力性のあるものが採用されている
そしてGatewayはGrand Terminalを拡張するための機能となっています。VCFとVCAの間で信号の行き来をさせたりするユーティリティとしての側面を持つ一方、かなり高精度なオートチューナーとなっているんです。一般的にアナログオシレーターはチューニングが狂いやすいのがネックとなりますが、これを使うことでいちいちチューニングをしなくても、正確な音程を出すことができるというわけですね。
一番左側に位置するCockpitはステレオ4chのミキサーとなっています。でも、これ単なるミキサーではなく、機能的にも視覚的にも面白い構成になっているんです。まずはサイドチェインの入力を持っているので、ダッキングが可能。だから、サイドチェイン用のノブがDuck=アヒルのアイコンになってるんですよね。
CH3、CH4にはTRRSケーブルを使ってiPhoneなどに送ってエフェクト処理をし、戻すことができる
またCH3とCH4には4接点端子のTRRSケーブルが挿せるようになっていて、これをiPhoneなどと接続することでオーディオ信号を送り、エフェクトを通した音を返すということができるようになっているんです。これも現代的で便利な機能ですよね。
さらに各チャンネルに設置されているLEDはレベルの大きさによって明るさが変化するようになっているんです。これによって見た目で音量チェックができるわけです。
一番右側にあるUSB-MIDI-CV変換を行うShuttle Control
そして最後に紹介するのが一番右側にあるShuttle Controlというモジュール。これはUSB-MIDIをCV変換するためのものです。写真を見ると分かるとおり、ここには3つのUSB端子があるのですが、そのうち2つはUSB-MIDIキーボードなどと接続するたものもので、先ほどのビデオではArturia Keystepと接続していました。鍵盤を弾くとCVとGateの信号となって、左側の端子から出てくるわけですね。なお、このShuttle Controlの16個のアウトプットには膨大なパラメーターをアサインすることができ、ノート情報に連動して動くアルペジエイターやLFOからRoland TR-808のカウベルスタイルのノイズをコントロールソースとして吐き出したりと非常に高性能です。ピッチ情報一つとってもBuchlaタイプの1.2V/Octの電圧を出力できたりするため、SHUTTLE SYSTEMだけでなくモジュラーシステム全ての中核になれるモジュールですね。
USBから入ったMIDI信号はMIDIのチャンネルに応じて、隣の端子からCV信号で出力される
一方、上にあるUSB TypeBの端子はPCと接続するためのものです。WindowsでもMacでもUSBクラスコンプライアントなデバイスとして接続できるので、あとはDAWなどを使ってMIDIを信号を送ればいいのです。そのMIDI信号はMIDIチャンネルごとに振り分けられて、CV信号として出てくるのです。
PicotuneのMIDI OUTPUTとして「Shuttle Control v3」というポートが見え、ここに出力したところ演奏できた
この取材をしている際、手元にDAWが入ったPCがなかったのですが、メモに使っていたノートPCをEndorphin.es SHUTTLEにUSBで接続。そしてGoogle Chromeを起動し、以前「チップチューンを楽しめるMIDI共有サイト、Picotuneは大学生が開発」という記事で紹介したPicotuneを起動してみたところ、ここからEndorphin.es SHUTTLEをバッチリ演奏させることができました。
なお、このEndorphin.es SHUTTLE、ネジ部分を手で回せる構造になっており、これを取り外すと、簡単に中を見る開けてみることができます。
シャーシ部分も非常にしっかりしており、デザイン的にもカッコいいのが印象的でした。
Rock oN Company渋谷店で、現在Endorphin.es SHUTTLEが展示・デモ中
私も、この取材の最中に少し使わせてもらっただけですが、かなり面白いシンセサイザだと感じました。とはいえ、「上陸記念20台限定プライス」というものでも249,000円(税込)するので、そう簡単に手を出せないというのも事実。まずは自分で触って音を確認してみることをお勧めします。
Rock oN Companyの店頭では、KORGのシーケンサ、SQ-1と接続したデモが行われていた
現在、東京・渋谷の楽器店、Rock oN Company 渋谷店、及び同梅田店にてEndorphin.es SHUTTLEを展示・デモが行われているので、興味のある方は一度見に行ってみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Endorphin.es SHUTTLE製品情報
Rock oN Company渋谷店・梅田店
【価格チェック】
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