先日、MOKというアメリカの3人のベンチャー企業が開発したまったく新しいソフトウェアシンセサイザ、Waverazor(ウェーブレイザー)が$150(現在は発売記念キャンペーンで半額の$75)でダウンロード販売が開始されました。これは、今年1月のNAMM SHOWで発表されて、大きな話題ともなったので見かけた方もいるかもしれませんが、現在特許出願中というまったく新しいシンセサイザであり、波形を自ら作っていくというユニークな方式となっています。
フィルターやエンベロープを動かすといった従来のシンセとは異なり、波形そのものをいじって新しい音を作り出すという音源なんです。先日MOKの中心メンバーで、Waverazorの開発者であるRob Rampley(ロブ・ランプリー)さんが来日し、私の事務所に遊びに来てくれたので、これがいったいどんな音源なのか、話を伺いつつ、実際に試してみました。
RobさんがDTMステーションに登場するのは、実は今回が2回目。2011年に「オリジナルPODよりも高性能だったMobile In/Mobile POD」という記事でインタビューをしていましたが、ヤマハが買収する前のLINE 6時代に、Mobile PODの開発者として話を聞いていたんですね。その記事にもある通り、Robさんは、その前にはAlesisにいてQuadraSynth、QS6、Andromeda A6など、往年の名器ともいえるシンセサイザを開発してきたソフトウェアエンジニアです。
MOKの中心メンバーで、Waverazorの開発者、Rob Rampleyさん
さて、このWaverazorの最大の特徴ともいえるのがオシレーター部分です。そのオシレーターの使い方を解説した1分半のビデオがあるので、ご覧ください。英語のビデオではありますが言葉が分からなくても、画面の動きを見れば十分その面白さは見えてくると思います。
何をしていたか、理解できましたか?40秒辺りから行っているのは、まず単純なサイン波の1周期を4つに分解し、最初の1/4の波形を大きくしたり、小さくしたり、変形させたりしているのです。
確かに、これまでもオシレーターの波形を描いて作るというシンセサイザはいろいろ存在していましたが、1/4を切り取り、そこを動かすことができるものは無かったと思います。この動きをパラメータとして割り当てられるわけですね。
ちなみに、ここではピッチ(波形の周期)とボリュームをX軸Y軸に割り当てて変化させていましたが、それとは別にフェイズ(位相)とオフセット(上下の位置)を調整することもできるため、本当に不思議な音作りができるんです。
別の1/4部分にノイズを割り当ててみた
さらに次の1/4部分を別の波形に割り当てることが可能になっているんです。具体的にはサイン波のほかに三角波、矩形波、ノコギリ波などなど、いろいろ選択できるのですが、ここで設定したのはノイズ。サイン波の周期の1/4部分だけノイズに変えちゃうなんて、妙なことができるわけですね。しかも、ビデオを見ると分かる通り、このノイズは決まった波形ではなく、リアルタイムに動いているから面白いんです。
EXPという波形には、さまざまなバリエーションも用意されている
この波形の中にはEXP、LOG、STATといったものもあるのですが、たとえばEXPひとつとっても、これには計16種類ものバリエーションがあるんで、かなりの波形の種類が用意されているわけです。
8つに分割。さらに最大16分割まで可能となっている
「この画面では1つの波形を4つに分割していましたが、4つ固定というわけではないんです。2つに分けたり、最大16分割可能になっているので、音作りの可能性は非常に高くなっているんです」とRobさんは説明してくれました。
オシロスコープモードにすると、鳴ってる音に合わせリアルタイムに波形が変化する
先ほどのビデオを見ても分かる通り、中央部では、波形をエディットできるだけでなく、ここをオシロスコープとして使うことができ、リアルタイム波形が変化するところも、使っていてテンションが上がってくるところ。
試しにその出力を手元にオシロスコープに突っ込んでみると、ピッタリ一致した
これがホントの波形なのか、試しにウチにあるオシロスコープを接続して鳴らしてみたら、確かに一致します。この辺はやっぱりしっかりとできていますね。
そしてWaverazorには、こうしたオシレーターが3つ搭載されており、それらを重ねて使うことができるようになっています。
MOKは開発のRobさんのほか、音作り担当のTaihoさん、Web担当のCrisさんの3人で運営している
「どう音作りをするかはアイディア次第ですが、メンバーの一人であるTaiho Yamadaがプリセットをいろいろ作ってみるので、ぜひこれを使ってみてください。かなり魅力的な音色がいっぱいありますが、今後もアップデートに合わせてプリセットも増やしていく予定です」(Robさん)。
Taiho Yamadaさんということは、日本人も開発に加わってるの!?と思ったら、日系三世のアメリカ人だそうです。奥さんが日本人で関西在住していたRobさんのほうが、日本語は話せるんだとか……。ちなみにTaihoさんもRobさんと同様Alesisにいて、その後M-Audioへ移籍したそうです。一方、もう一人のChris Comptonさんは、RobさんのLINE 6時代の同僚で、Waverazorでは主にWebの担当だそうです。
さて、そのプリセットを選んでみると、画面のデザインそのものは変わらないものの、左右に並ぶパラメータがいろいろと切り替わります。これはどういうことなんでしょうか?
「Waverazorは、パッと見では、シンプルなシンセサイザに見えますが、実は内部的には約400種類のパラメータを持っているんです。これを全部エディットできるようにしてしまうと、あまりにも複雑になりすぎて使いづらくなるのと、UI的にもスッキリしないため、あえてそれらを組み合わせてマクロ化しているんです。その意味でも、プリセットをいろいろ選んでいただけると、このWaverazorの面白さが見えてくると思います」とRobさんは説明してくれました。
その400のパラメータの中には各ボイスごとに3オシレーター、3フィルターを装備していて、そのフィルターにはラダーフィルター、10ポールフィルターがあったり……といろいろなものが詰め込まれているみたいですね。
実際、マクロ化されたWaverazorの画面にあるパラメーターを動かしてみると、かなりドラスティックに音色が変化するのも面白いところです。もちろん、各パラメーターをMIDIのコントロールチェンジに割り当てて、外部コントローラから変化させることもできるので、使い方はいろいろ考えられそうですね。
システム的には3系統独立のエフェクト・センド/リターンが装備されているほか、ウェーブ・シーケンサ&アルペジエイタも搭載されています。プリセットとしてシンプルなパターンがいろいろ用意されているので、これで、いろいろ切り替えが可能です。
ところで、ここで気になるのが、Waverazorの動作環境です。これについてもRobさんに伺ってみました。「現在はWindowsの32bit/64bitおよびMacのプラグイン環境で動作します。VSTおよびAUへの対応ですが、まもなくAAXにも対応させる予定です。さらに、まもなくLinuxのVST版もリリースする予定です」とのこと。
なんでも使えるようですが、え?LinuxってVSTが使えるんですか??最近Ubuntuにもご無沙汰していたので、今度改めて試してみようと思います。そういえばBITWIG StudioもtracktionもLinux版がありますもんね。
ダウンロードページを見ると、Mac版、Windows版の隣にLinux版、さらにはRaspberry Pi版も!?
「Linux版、手元でも問題なく動作しています。tracktionのプラグインとして動作してくれていますが、Ubuntuで試す限り、快適ですよ。ドライバはUSBクラスコンプライアントでの動作となりますが、レイテンシーも極めて小さく、なかなか使いやすいです」とRobさんは説明してくれました。ちなみに、ダウンロードサイトを見てみると、Linux版の隣にはRaspberry Piの表示も……。これは将来Raspberry Pi版も予定されている、ということなのでしょうか……!? Raspberry Piが何であるかは省略しますが、何かすごい時代がやってきているみたいですね。
Tracktionのマーケットプレイスサイトでダウンロード購入する
そして多くのみなさんが、気になるのは、どうやって購入するか、という点でしょう。現在、MOKの日本代理店は存在していないため、クレジットカードを使って海外サイトからの購入ということになるのですが、tracktionが運営するマーケットプレイスサイトで購入する形になっています。
※下記に記載した通り、メディア・インテグレーションが日本代理店としてオンライン販売を開始しました
現在Waverazorはリリースキャンペーンで半額の$75で発売されている
30日間フリーで使えるトライアル版もあるので、まずはこれを試してみるのがいいかもしれません。購入するにせよ、トライアル版を入手するにせよ、tracktionサイトのアカウントが必要になるので、ダウンロード手続きをする途中に出てくる画面で、名前やメールアドレスなどの登録を行ってください。
設定画面で日本語を選択すると、日本語表記になる
購入自体は簡単に行えますが、「英語のドキュメントだけだと使える自信がない…」という方もご心配なく。設定画面を見ると言語を選べる設定があり、日本語も選択可能です。まあ、日本語表示があるのは設定画面くらいしかないのですが日本語に設定すると簡易マニュアルであるクイックスタートガイドのPDFも日本語で読むことが可能になるんです。
すでにPDFの日本語クイックスタートガイドが完成されている
5月5日現在のバージョンだと、英語マニュアルになってしまいますが、日本語マニュアルはすでに完成しており、tracktionサイトからもダウンロード可能になっていますので、安心して使うことができると思います。
ぜひ、この不思議で面白く、非常に強烈なシンセサイザ、Waverazorを試してみてはいかがですか?
【追記】2017年5月21日
5月18日より、Waveraorの取り扱いをメディア・インテグレーションがはじめ、MIストアからダウンロード購入が可能になったので、以下に日本語サイトのリンクを入れました。価格的には本国から購入するのと、ほぼ同額であり、国内も新発売キャンペーンの半額の9,450円(税込み)となっています。またメディア・インテグレーションから購入した場合、国内でのメールによるサポートも受けられます。
【関連情報】
MOK Waverazor Webサイト(日本語)
MOKサイト
◎Amazon ⇒ MOK Waverazor
◎サウンドハウス ⇒ MOK Waverazor
◎MIストア ⇒ MOK Waverazor