以前、「MatrixBrute、DrumBruteの投入でアナログシンセ、アナログドラムマシンに攻勢をかけるArturiaの狙い」という記事でも紹介した怪物ともいえるアナログシンセのMatrixBrute(マトリクス・ブルート)が先日発売になりました。この発売に合わせたユーザーイベントが、4月8日、東京・渋谷のRed Bull Studios Tokyo Hallで開催されたので、ちょっと見に行ってきました。
定価で298,000円と結構なお値段なので、気軽に買えるというものではないのですが、会場のホールには6台のMatrixBruteが展示され、来場者が自由に触れるようになっていた一方、ステージではお馴染みの氏家克典さん、Yasushi.Kさん、さらに飛び入りゲストとしてゲームミュージック作曲家のSota Fujimoriさんが出演して、MatrixBruteの実演セミナー&ライブが行われたのです。これを見ると、298,000円というのは、実はすごく安いのかも……と思わせてくれるものだったので、3人のセミナーのビデオも交えつつ、その内容を少し紹介してみたいと思います。
氏家克典さん(中)、Yasushi.Kさん(右)、Sota Fujimori(左)さんが出演して開催されたMatrixBrute Complete Session
最近、DTM関連のイベントも多い、Red Bull Studios Tokyo Hallで行われた今回の「MatrixBrute Complete Session」。ここにはアナログシンセファンや、Arturia製品ユーザーを中心に100人以上が集まって盛り上がるとともに、それぞれの人が発売されたばかりのMatrixBruteとはどんなものなのか、と真剣に触って試しているのが印象的なイベントとなっていました。
親子連れも含め多くのシンセファンがMatrixBruteに触れに集まった
パッと見にも、ものすごくいっぱいの端子やボタンがあるので、敬遠してしまう人も多そうですが、最初のステージに立ったYasushi.Kさんは「MatrixBruteを見て、スゲーかっこいいし、使ってみたいけれど、スゲー難しくて、オレには使いこなせないだろうな……と思っている人も多いんじゃないでしょうか?でも、これビックリするくらい簡単なんです。ツマミやボタンが多いことが難しいんじゃなく、全部が表に出ていて、触ったままに音が変化するんです。裏に階層があるわけではないので、メチャクチャ簡単です」と力説。
さっそく音を出してのデモが始まったのですが、すごい太い音で会場で見ていてもグッと来るんですよね。このビデオではVCOのサウンド単体を鳴らしたり、VCO2をVCO1でモジュレーションするところをデモしていますが、やっぱりアナログの威力はすごいな、と感心するところです。
数多くのパラメータが並んで、一見難しそうに思えるMatrixBruteだけど、意外と操作は簡単
そう、このMatrixBruteはフルアナログのシンセサイザ。こんなにたくさんのパラメータがあって、298,000円もするのに、モノフォニックという仕様なんですが、単音だけでなく、パラフォニックやデュオスプリットなどのボイス・モードも搭載しています。ここには3つのVCOを搭載するとともに、Steiner-ParkerフィルターとLadderフィルターという2つの代表的なフィルターを搭載、さらに5系統のアナログ・エフェクトを装備するなど、音に関連する部分はすべてがアナログで構成されているんですね。
ちなみにSteiner-Parkerフィルターは70年代の伝説のシンセ、Synthaconに搭載されている独特なフィルターで、ArturiaのMiniBruteやMicroBruteにも採用されて定評のあるもの。一方、LadderフィルターはMoogシンセに搭載されたあの太いサウンドを作り出すフィルターですね。
16×16のマトリックスのボタンを用いてモジュレーション間のパッチングが行える
そしてMatrixBruteという名前は、ここに16×16のモジュレーション・マトリクスのボタンが装備されており、これを押すだけで各モジュール間を自由にパッチングできるという仕様になっていること。
たとえばLFO1の信号をVCO1のPitchに突っ込むとか、LFO2の信号をVCO2のPWに突っ込むといったことがボタンを押すだけでOK。パッチングケーブルを使うことなくできてしまうし1つの信号を複数のモジュールへ分岐して渡すことも簡単にできてしまうのが大きなポイントにもなっているんです。
16×16のマトリックスボタンと対になる形で存在しているリアにあるのCVの入出力端子
「リアパネルを見るとたくさんの入出力端子がありますが、ここを見るとVCA、LFO 1 AMT、Ladder Cutoff、Steiner Cutoff、VCO Metal……と並んでいます。外部のモジュラーシンセなどから、ここのInに突っ込めば思い切り音が変化してくれます。一方、Outのほうは、ちょっと意味合いが違うんです。たとえばVCO 1 PitchのOutだとVCOの出力が出ているように思ってしまうかもしれませんが、ここはマトリックスで設定したVCO 1 Pitchへ送るものが出てくるんです。たとえばLFOのアマウントが行くわけです。ちょっと難しいですか……、いいんです、触っていればすぐにわかってくると思いますが、これを使うことで、モジュラーシンセのコントロールハブのような形でMatrixBruteを使うこともできるんですよ」とYasushi.Kさんは解説してくれました。
続いて登場したSota Fujimoriさんは、ビンテージシンセにかなりの投資をしていることでも知られていますが、最近はEuroRack=ユーロラックにハマッていて、ここにもかなり投資しているのだとか。そのFujimoriさんから見ても、MatrixBruteはかなり面白いシンセであり、そうしたユーロラックなどとも連携できるという点で楽しいのだとか…。
SEQボタンを押すと、16×16のボタンはステップシーケンサへと変身
そのFujimoriさんのセミナーでは、主にシーケンサ部分についてデモと解説が行われました。以下のビデオがその冒頭です。
こんな感じのフレーズがMatrixBrute単体で簡単に作れてしまうんですね。タイやアクセントといった設定もできるなど、自由度も高そうです。ただ、FujimoriさんがArturiaに対して要望を出していたのは、平均律ではない音も出したい、という話。
SQ-1とMatrixBruteを接続することでドリフトサウンドのコントロールも可能に
「アナログシンセマニアとしては、12音階の平均律じゃないピッチ、いわゆるドリフトと呼ばれるド~#ドの間の音を出したいということですね。残念ながら現在の内蔵シーケンサでは平均律しか出せないのですが、ここにKORGのSQ-1を接続してコントロールすることで実現できるんですよ」とFujimoriさんは、ステージでもデモを行っていました。
さらに、Fujimoriさん流のワザとして披露していたのがVCOの設定について。
「MatrixBruteには3つのVCOがあるので、それぞれのピッチをズラすことで、シンセリードのサウンドを作ることができます。よくやるのはVCO1をド、VCO2をファ、VCO3をソと設定して演奏すると、プログレ風なものになります。ところが僕流の方法はド・ファ・ソではなく、ド・レ・ソと設定すること。これによっても、また独特なシンセリードができるんです」とのこと。こうしたワザはMatrixBruteに限らず、いろいろと応用できそうですが、こうした使い方も良さそうですよね。
MatrixBruteのプリセット音も作った氏家克典さんも登場
そして3番目に登場したのが会場のみなさんお待ちかねの氏家克典さん。氏家さんは、MatrixBruteのプリセット音色を作ったアーティストの一人でもあるのですが、今回のセミナーでは、そうしたプリセット音を紹介しながら、そのプリセット音を利用したデモ演奏を行っていました。
このプリセット音も、16×16のマトリックスのボタンを押すだけで選ぶことができるのですが、このビデオでもある通り、氏家さんが強調していたのは、プリセット音を弾いて聴くだけで納得しないように、という話。
キーボードの左側に用意されている4つのマクロノブを動かすことでプリセット音の醍醐味が分かるという
「このプリセット音色は世界中のプログラマが精魂込めて作っているのですが、これらの音色にはすべてストーリーがあるんです。そして特に注目してもらいたいのが、4つ並んでいるマクロノブ。ここにプログラマは命かけていますから!この4つのノブには、MatrixBruteにあるすべてのパラメータを任意にアサインできるようになっているんです。そしてプログラマはぜひ動かしたいパラメータをうまくここにアサインしているので、ぜひ弾きながらこのノブを動かしてその変化を聴いてみてください」と氏家さんは力説していました。
中はすべてアナログなので、プリセットを選択しても音が出るまで1~2秒かかり、こうしたパラメータも表示される
さらに、氏家さんは3つのVCOを利用することで3音ポリのシンセとして弾くワザについても披露。いくつかの有名フレーズを弾いていましたが、氏家さんが弾くと、3音どころか6音か8音くらい出ているように感じてしまうから不思議なんですよね。
最後にYasushi.Kさん、氏家克典さん、Sota Fujimoriさんが登場して演奏に
このようにして約1時間でYasushi.Kさん、Sota Fujimoriさん、氏家克典さんのセミナーが終わった後、3人がステージ集合。3台のMatrixBruteを用いて、YMOのテクノポリスを演奏して終了。
ステージ終了後もホールではMatrixBruteが解放されていたので、ステージの話を確かめるべく、来場者のみなさんがいろいろといじっていました。
ホールには6台のMatrixBruteが置かれ、来場者が自由に触れるようになっていた
個人的にいうと、298,000円は、やはりポンと出せる金額ではないけれど、これだけのことができるフルアナログのシンセって他には存在しませんし、これだけの機能をユーロラックで揃えたら数百万円コースになりそうなので、そう考えるとすごく安いようにも思えます。また、フルアナログだけれど、パラメータはすべてデジタルで記録できるというのも非常に便利なところです。
Red Bull Studios Tokyo Hallなので、Red Bullが飲めるのもこの会場の嬉しいところ
さらにUSB端子でPCと接続することにより、パッチ情報をPC側からいじることもできるようになっており、ソフトシンセ感覚で本物のアナログの音が出せるというのも魅力的に思えました。膨大なパラメータの割にはコンパクトなサイズに収まっているMatrixBrute、ちょっとお金を貯めて買ってみようか……とも悩んでいるところです。
PCソフトを用いることでUSB経由してMatrixBruteのパラメータをコントロールできる
【関連情報】
MatrixBrute製品情報
MiniBrute製品情報
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