FOSTEXから、あの黄色い星型のウーファーを持つモニタースピーカー、NFシリーズが限定100ペア(200台)と、極少数ではありますが、新機種として発売されることになりました。NF01Rというこのモデルは、以前、大ヒットとなったNF-01Aの復刻版といえるもので、大きさも見た目のデザインもソックリ。
ただし、まったく同じものを復刻させたわけではなく、デザインや音のテイストは継承しつつも、現在の音楽制作シーンにマッチするように、新たに開発しなおした、完全な新モデルとのこと。でも、なぜこのタイミングでNFシリーズを復刻したのか、またNF-01Aと何が違うのか、そしてなぜたった100ペアしか生産しないのかなど、FOSTEXの担当者にお話を伺ってみました。お話を伺ったのはマーケティング担当の佐藤昭宏さんと、開発を担当のエンジニア、仲前学さんのお二人です。
--FOSTEXのモニタースピーカーというと、見た目ですぐに分かる特徴的なデザインになっていますが、そういえば最近あまり見かけなかったですね。
佐藤:はい、当社のモニタースピーカー、NFシリーズは1999年にパッシブタイプのNF1を発売したのがスタートで、その後NF1にアンプを搭載したアクティブスピーカーのNF1A、さらにウーファーの口径が異なるNF-01Aを発売しました。またアナログとデジタルのハイブリッドアンプを搭載し、内部をDSP処理するNF4Aを出してきましたが、部材調達の問題などもあり、2014年に最後の在庫モデルを販売しつくしてシリーズ終了となっていました。
NF01Rの開発した仲前学さん(左)とマーケティング担当の佐藤昭宏さん(右)
--NFシリーズ、かなり人気のモニタースピーカーでしたが、最近あまり見かけないと思っていたら、終了していたんですね!
佐藤:近年、電源周りの規制や環境物質的な規制、さらにはPSEなどの問題もあり、モニタースピーカー生産における部品調達が難しくなってきたのです。もちろん、各部品メーカーも代替品を用意してきてのですが、これら代替品で試してみると、我々が求めるクオリティーのサウンドを保つことができなくなっていました。これを、このまま使うわけにはいかないので、いったん足を止めて、この先どうしていくかをしっかり考えようということで、一度終了させたのです。この間、多くの方から、やはりNFが欲しいと声をいただきました。中でもNF-01Aを求める声が多かったので、NFシリーズ復活に向けて、まずはNF-01Aから取り組んでいこう、ということになったのです。
100ペア限定と少量生産だが、3月31日に発売されるFOSTEX NF01R
--個人的にはNF-4Aはユニークな機材で好きでしたが……。
佐藤:NF-4Aは純マグネシウムツィーターを搭載するとともに、ハイブリッドアンプを搭載し、72bitDSPで位相特性の優れた高精度システムEQ、タイムアライメントを実現するなど、新しいことにチャレンジしたのですが、正直なところ10cmウーファーにしたのに、新技術をつぎ込みすぎて、NF-01Aとほとんど大きさ的には変わらなかったんですよね…。そうした点も踏まえると、やはり復刻するならNF-01Aがいいだろうとなったのです。
新しいNF01R(左)と従来のNF-01A(右)よく見るとウーファーの放射線状の形状が変わっている
--今回のNF01Rを見る限り、見た目もそっくりですが、現在調達可能な部品で、ほぼ同等のものを作ったと考えていいのですか?
佐藤:同じものを作ったというわけではないんです。ライバルメーカーの製品を見ても、低域を出すのが最近の傾向です。もともとNF-01Aにはそうした設計的な考え方はなかったのですが、今回のNF01Rでは低域の量感を盛り込むことにチャレンジしようと開発していきました。ただ、デザイン的にはユーザーからの支持がある前モデルを踏襲しようということになったのです。大きな変更点の一つがウーファーのユニットの振動版を、従来のHP構造というものからHR構造というひねりを加えたものに変更した点です。写真で見比べていただけるとわかるとおり、NF-01Aではウーファー振動板の凹凸の稜線が直線的に繋がっているのに対し、NF01Rではひねりが加わって曲線的に繋がるようになっています。これによって分割振動による共振をより一層分散させる事が可能となり、振動音としての純度が高まっています。
ウーファーの磁石がより強力なものになっている
仲前:スピーカーユニットでは、低域を強化するために磁気回路を大きくいじっています。従来より強力な磁力を持ったものにすることで、より駆動力を上げることができました。NF-01Aを販売していた当時はブラウン管ディスプレイが主流でしたので、画面への影響を防ぐために防磁用のカバーを取り付けていたのですが、取り付け可能な寸法まで磁石のサイズを大きくしたことで駆動力がアップしているのです。また、ウーファーの振動版の形状にはひねりを加えていますが、素材の配合は従来のままのバナナパルプを使っています。
ウーファー(左)は新開発のものになった一方、 ツイーター(右)は従来からのものを採用している
--バナナパルプ?だから黄色いんですか??
仲前:よく言われるのですが、そうではないんですよ(笑)。確かにバナナなんですが、皮ではなくてバナナの木の繊維を使っているんです。だから甘くもないですよ(笑)。それにカーボンファイバー、アラミド繊維、パールマイカの3種類の化学繊維を合成させています。ちなみにアラミド繊維というのは防弾チョッキに使う素材ですね。これによって、これまでのNFシリーズが持っていた特徴を生かすことができました。一方で、ツイーターのほうは、従来NF-01Aで使っていたものをそのまま使っているので、当時の仕様のままです。
東京・双子玉川のFOSTEXショールームに展示されているNF01R
--先ほど、部品関係が入手困難になってきた、という話がありましたが……。
佐藤:スピーカーについては自社工場で生産しているので、当時のものがあったり、当時の作り方が再現できるんです。FOSTEXはフォスター電機の自社ブランド名でして、フォスター電機は世界中で使用されているスピーカーユニットの多くのシェアを持つ会社。そのため、スピーカーユニットにおいては、まったく問題なく作ることができるのです。それよりも部品で問題になるのは電子パーツ的なところですね。なお、その電気回路面においては電源部を強化しており、EIから専用のトロイダルトランスへ変更したほか、コンデンサの容量を大きくしたり、電源のインピーダンスを下げスピーカの駆動力を上げています。
--キャビネットについても、従来のものを使っているんですか?
仲前:ウーファーを変えると、当然バランスを取り直す必要があり、キャビネットのチューニングは必須となってきます。また低域の量感を増やすとなると、キャビネットの容量を大きくしていく必要が出てくるのですが、そこで従来あったサウンドリフレクタという反射板を廃止したのです。これによって空気が動く量が大きくなって低域をゆったりと鳴らせるようになりました。NF-01Aでは定在波を無くすためにサウンドリフレクタを入れていたのですが、それに代わる仕組みとして吸音材を使うようにしたのです。さまざまな吸音材を試して、極力少ない量で効果のある部分に配置した結果、従来の音の雰囲気を再現しつつ、低域にスピード感のあるしっかりとした音を出せるようになりました。さらにダクト部分にABS樹脂を用い、内部を鏡面仕上げにすることで、空気の通りがよくなり、低域がダイレクトに伝わるようになりました。
佐藤:結果としての周波数特性はNF-01Aでは50~40kHzとしていたものが、57Hz~25kHzとなりました。
NF-01A | NF01R | |
エンクロージャー方式 | 2ウェイ・バスレフ方式 | → |
内蔵ユニット | 130mm ウーハー(HP振動板) | 130mm ウーハー(新開発 HR振動板) |
内蔵ユニット | 20mm ソフトドーム・ツイーター | → |
インピーダンス | 8Ω | → |
再生周波数特性 | 55Hz〜40kHz | 57 Hz~25 kHz |
最大出力音圧レベル | 104dB(1m / VOL:MAX / 定格入力レベル) | → |
エンクロージャ容積 | 6.7 L | → |
定格出力 | 高域= 50W、低域= 50W | 高域= 45W、低域= 50W |
出力レベル調整 | ∞~Max(0 dB)可変ボリューム付 | → |
ツイーター・レベル | 可変範囲± 3 dB(ボリューム付) | → |
低域補正 | +2dB、0dB、-2dB(at55Hz) | → |
インプット | XLR-3-31タイプ(2番HOT)/ BAL | → |
インプット | φ6mmフォーン・ジャック / UNBAL | → |
定格入力レベル | +4 dBu(XLR)、-10 dBV(フォーン) | → |
入力インピーダンス | 20 kΩ以上 | → |
クロスオーバー周波数 | 5kHz/-6dB/oct(WF) | 2.5kHz/-6dB/oct(. WF) |
クロスオーバー周波数 | 3.5kHz/-12dB/oct(TW) | 3.7kHz/-12dB/oct(. TW) |
電源(AC IN) | 100V ~50/60Hz | → |
消費電力 | 51W | 50W |
外形寸法(mm) | 187(幅)× 280(高さ)× 305(奥行き) | → |
本体質量 | 約9.6kg | 約8.5 kg |
--ええ?それでは、ものすごいスペックダウンのように見えますが、それでいいんですか?
仲前:数字だけで表現すると、そう見えてしまうのですが、実際にグラフで比較してみると、従来とほぼ同等であり、低域がより出るようになっているんです。これはプロのエンジニアにご使用いただくモニタースピーカーとして、より厳密な仕様値を表記するべきでは?と言うことで、以前よりも仕様値の取り方を厳しくしました。周波数特性の比較グラフを見て頂ければ、実際の特性には大きな差は無い事が分かると思います。ただしグラフでは差が分かりにくいのですが、低域で、わずかに0.5dB程度でずがNF01Rの方が音圧が高くなっており、聴感上では違いを感じていただけると思います。そもそもツイーターは何も変わっていないので、高域の特性は変わらないですし、ウーファーの改良やキャビネットの容量を大きくしたことで、低域も出るようになっているんですから。
周波数特性は数字上はスペックダウンのように思えるが、実際には変わっていないか、少しよくなっている
--なるほど、そう見ると、やはり非常に魅力的な製品に思えますが、限定100ペア=200台という少量生産になっているのはなぜなんでしょうか?
佐藤:新設計とはいえ、NF-01Aの音を踏襲するということで、どうしても当時の部材を使わざるを得なかった面もあり、大量に作ることができなかったというのが実際のところではあります。そのため、NF01Rは当時と同じ価格設定となるペアで98,000円(税込み)とし、国内限定で、かつ販売店は今回Rock oNさん限定という形にさせていただきました。とはいえ、NFシリーズはこれを契機に復活させていくつもりでして、NF01Rはある意味、ご挨拶的な製品という位置づけでもあるんです。まずは旧モデルのルックスをベースにした新しいNF01Rをみなさんに見ていただきつつ、これからの製品をご期待いただければと思います。
NFシリーズで特徴的なスピーカーの振動版はFOSTEXのほかのスピーカーでも採用されている
--今後の新シリーズ展開では、デザインが大きく変わってしまう可能性もあるんですか?
佐藤:モニタースピーカーとしての毛色はNF01Rとは少し違った形で進化していくと思いますが、デザインの要ともいえるHR構造を使ったウーファーユニットは今後もかわりません。その意味ではこのアイコン的デザインは踏襲させていきます。今後、シリーズ展開をさせていきますが、最近の世の中のニーズは大型よりも小型化なので、そうしたラインナップを拡充させていくことになりそうです。NF01RはRock oNさんの店頭および当社のショールームに展示してありますので、まずは、このサウンドを聴いてみてください。
--ありがとうございました。
【関連情報】
FOSTEX NF01R製品情報
Rock oN NF01R特集ページ
NF01Rスペシャルサイト
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