元Native Instrumentsの技術者で、現在日本在住のジェームズ・ウォーカーホール(James Walker-Hall)さん。そのジェームズさんは2016年3月に10年間ベルリンで勤務したNative Instrumentsを退職して来日。ジェームズさん率いるNew Sonic Artsという会社からとてもユニークなプラグイン群をリリースしています。
実は、そのNew Sonic ArtsはジェームズさんがNative Instruments在籍時代から個人的に始めたソフトウェア会社で、これまで半分趣味のような形でやっていたものを、本格的にスタートさせたという会社。国内でもフックアップが運営するbeatcloud.jpでのダウンロード販売が2017年2月10日からスタートしたところです。非常に強力で斬新なソフトウェア音源としてGranite(12,960円)、Nuance(12,960円)、Vice(12,960円)の3種類と、Freestyle(16,200円)というプラグイン統括ソフトのそれぞれ。実際にどんな製品なのか、紹介してみたいと思います。
元NIの技術者、ジェームズ・ウォーカーホールさんのプラグインメーカー、New Sonic Artsが面白い!
「New Sonic Artsは2009年に立ち上げ、Native Instrumentsに勤務する傍ら、Native Instrumentsとはちょっと方向性の違うソフトウェア音源を開発してきました。最初にリリースしたのはグラニュラーシンセのGraniteというものでした。ここでコンセプトとなったのは使いやすく、シンプルであり、かつモダンなデザインであるとともに、妥協のないハイパフォーマンスを実現するということ。このコンセプトは、New Sonic Artsが出すすべての製品に共通するポイントです」とジェームズさん。
New Sonic ArtsのソフトはすべてWindows、Mac対応で、VST、Audio Unitsの環境で動作する
さらに、ジェームズさんが強調するのは新規性です。「最近の各社の音源を見ていて感じるのは、昔のシンセ、既存のシンセをエミュレーションするものばかりということです。過去のものばかり見ていても面白くないじゃないですか。だから、私は過去を振り返るのではなく、まったく新しい音源を作っていきたいという思いからNew Sonic Artsを立ち上げ、運営しているんです」(ジェームズさん)
シンプルな画面ながら、「なんだ、こりゃぁ!」というすごいインパクトの音源、Granite
まあ、過去の音源の復刻がいいのか、まったく新しい音源がいいのかという議論はともかく、その最初の製品であるGraniteを自分のPCにインストールしてみましたが、これ、すごいシンプルな画面ながら、かなり普通じゃない音源ですね。
スタンドアロンとしても、プラグインとしても動作するGranite、いわゆるグラニュラーシンセなんですが、起動するなり、すごいサウンドが飛び出してきます。画面を見てもわかる通り、サンプリングデータを読み込んで音を鳴らしているんですが、いわゆるサンプラーとはまったく異なり、この波形を非常に細かく刻んだ上で思い切り加工していくので、原音が跡形もなく消えちゃうほど、すごい変化を与えられるんですね。
グラニュラーシンセとしてのパラメーターがGrainタブで調整できるとともに、マスター用のMasterタブとエフェクト用のFX1、FX2のタブでパラメータの切り替えが可能。これらのパラメータは単に調整できるだけじゃなく、パラメータの動き自体をリアルタイムに記録できるのも、音源として非常に変で面白いところ。そうDAWのオートメーションに記録するのではなく、Granite自身の音色としてその動きを覚えちゃうんですよね。
波形のトリミングの動きまでもそのまま記録することができる
しかもその動きの記録は、波形のトリミングにも効いてきます。Graniteでは現在プレイ中の部分が黄色いバーが動いて示されるようになっており、まったく何の設定もしていなければ、ひたすらループして再生するサンプルプレイヤーです(キーをトリガーにして再生がスタートするのではなく、常にループ再生しているのがポイント)。そして、その再生範囲を水色のバーで指定できるのですが、その指定範囲自体も動かして、その動きを記録できちゃうんです。
Gateボタンをオンにすると、キーボードの弾くことが可能になる
もう、何がなんだかわからない感じですが、すごい発想の音源ですね。ちなみに、常に音が出続けているのはGateボタンがオフになっているから。これをオンにするとキーボードを押すと、音が出るようになり、そのキーによってピッチも変化するようになります。
このGraniteに対して、もっとシンプルなプレイバックサンプラーがNuanceです。これはとっても単純で、WAVやAIFFなどオーディオファイルをドラッグ&ドロップすれば、もう即サンプラーになるという扱いやすい音源です。
「Native InstrumentsにはKONTAKTという強力なサンプラーがあります。これはとてもいいサンプラーではあるけれど、機能が多彩すぎる面もあります。そこで、もっとずっとシンプルで軽いものが欲しいと開発したのが、このNuanceなんです」とジェームズさん。
確かに、ここまで軽く動作するサンプラーは見たことないといってもいいほど軽快に動作します。もちろんループポイントの設定やフィルター、エンベロープの設定などはもちろんできるし、LFOや各種エフェクトも装備。
キースプリットやレイヤーの設定も可能
また、キースプリットやレイヤーしていくこともできるので、サンプラーとして思い浮かぶことは基本的に何でもできちゃいますよ。
しかもドラムモードというものもあり、これを利用することで、ドラム音源として扱うことも可能で、MPCやMaschineなどと連携して使うこともできるようです。
そしてもう一つの音源がViceです。こちらはドラムループスライサーで、手持ちのWAVやAIFFのリズムループ素材を読み込ませると、自動的にスライスしてくれるというもの。とくにViceの場合はDAWのプラグインとして使うのが非常に有効なんです。
というのも、スライスされた時点で、各スライス素材にMIDIのノート番号が割り振られ、鍵盤を弾けば、それぞれを演奏することができるのですが、ViceからDAWのトラックへドラッグ&ドロップすることで、そのMIDIキー情報がMIDIデータとしてMIDIトラックに張り付けられるのです。これにより、DAWのテンポにマッチした形でループ素材を再生することもできるし、そのリズムを自由に組み替えることだって可能です。
Cubase上でVICEからMIDIトラックへとドラッグ&ドロップ
ここではCubaseを使ってみましたが、Studio OneでもLogicでもSONARでも何でも連携してくれます。まあ、やっていることは元祖スライスツールである、PropellerheadのReCycle!と近いものではありますが、プラグインとして利用でき、DAWと完全に連動するという点では非常に便利ですよね。
各スライスにノートが割り振られており、順番に演奏できるようになっている
もちろん、スライスするためのしきい値を設定することもできるし、各スライスごとにエンベロープを設定することができるほか、モジュレーションやLFOを設定したり、エフェクトもかけることができるなど、自由度のほうも抜群。これも非常に軽快に動いてくれるのも嬉しいところです。
そして、New Sonic Artsの最新ソフトとなるのがFreestyleというツール。これはDAWのプラグインとして動作しつつも、これ自体がVSTのホストとなるというちょっと変わったソフトです。フリーウェアのVST Hostなんかにもちょっと近いソフトではありますが、かなり柔軟性が高く、いろいろなことができるツールなんです。
画面上にプラグインを並べて配線していくことができるVSTホストアプリ、Freestyle
Freestyleの中にプラグインの音源やエフェクトをドラッグ&ドロップで持っていくと、そのプラグインが起動するとともに、自動で配線されていくのです。そのため、音源とエフェクトをセットにしてパラメータまで作りこんだ状態で自分専用の音源として保存しておくことができるのはもちろん、複数の音源を並列で並べてミックスするといったことも可能です。
「見た目からするとReaktorにも近いように見えますが、Reaktorはもっとソフト開発に近いツールで実際に楽器を作るために用いますが、Freestyleはユーザーがもっと気軽に使えるようにしています。信号は上から下に流れるようになっているので、視覚的にも分かりやすいと思います」(ジェームズさん)
New Sonic Arts以外のプラグインも同じように扱うことができる
ドラッグ&ドロップで自動配線されますが、もちろん手動で接続を調整できるし、自動で配置されたミキサーをクロスフェーダーに置き換えたり、配線途中に別のエフェクトを追加するなど、使い方は自由自在。見た目通りに配線しているだけだから、誰でもすぐに使うことができますよ。
「このFreestyleは音楽制作用としても使える一方、パフォーマンス用として利用できるのも大きな利点です。DAWを起動しなくても、軽く動作するFreestyleだけでソフトウェア音源やエフェクトを利用できるので、PCを楽器としてステージで使うような場合に大きく役立つはずです。Macの場合は同様の使い方ができるMainstageというソフトが付属していますが、MainstageがないWindowsの場合、Freestyleが威力を発揮してくれるはずです」とジェームズさんは語ります。
キースプリットをしたり、各パラメータを設定して一つの音源にまとめあげることができる
なお、前述のとおり、FreestyleではVSTプラグインを読み込める一方で、Freestyle自身がVST、Audio UnitsそしてAAXのプラグインとして機能するので、LogicやGarageband、Pro ToolsなどでVSTプラグインが利用できるなど、ラッパーとしての役割も果たしてくれます。
※追記 2017.8.7
記事掲載当初AAX対応と書いていましたが、AAXには非対応でした。修正してお詫びいたします
これらNew Sonic Artsのソフトは国内においてはbeatcloudで扱っており、日本語サポートの上、日本円で購入できるほか、それぞれの体験版もダウンロード可能です。この体験版がなかなかの太っ腹で、ユーザーが作成したプリセットを読み込むことができない以外、すべての機能が使えてしまいます。気に入ってから購入すればいいので、まずは試してみることをお勧めしますよ。
また、それぞれ単品で販売されているほか、ここで紹介した4本がすべてパックとなったFreestyle Suiteというものもあるので、これらを購入するのがお得かもしれませんね。
【価格チェック】
◎beatcloud.jp ⇒ Granite
◎beatcloud.jp ⇒ Nuance
◎beatcloud.jp ⇒ Vice
◎beatcloud.jp ⇒ Freestyle
◎beatcloud.jp ⇒ Freestyle Suite
【関連情報】
New Sonic Arts製品情報(beatcloud)
New Sonic Artsサイト(英語)
Graniteデモ版ダウンロード
Nuanceデモ版ダウンロード
Viceデモ版ダウンロード
Freestyleデモ版ダウンロード