12月7日22時、SteinbergからCubaseの新バージョン、Cubase 9シリーズが発表されると同時にオンラインでのダウンロード発売が開始されました(パッケージ版は9日の発売)。すでにそのお披露目イベントとなるSteinberg Day 2016が12月17日、18日に行われることが発表されていましたから、そろそろ発売されるはず、と予想していた人も多いとは思いますが、想像していたよりちょっと早めの発売でしたね。
2年ぶりのメジャーバージョンアップとなる今回は新しいプロジェクトウィンドウユーザーインターフェイスを採用するとともに、サンプラートラックというものを搭載し、Cubase自体がサンプラーとなるという、なかなか画期的な機能を装備しています。一足先に、そのCubase 9を入手して試してみたので、ファーストインプレッションという形で紹介してみたいと思います。
Cubase 9シリーズが発売された。今回の目玉機能はサンプラー機能の統合
まず、今回のCubase 9のラインナップですが、
オープン価格 想定売価(税別) |
|
Cubase Pro 9 通常版 | 57,000円 |
Cubase Pro 9 アカデミック版 | 38,000円 |
Cubase Artist 9 通常版 | 32,000円 |
Cubase Aritst 9 アカデミック版 | 18,000円 |
Cubase Elements 9 通常版 | 12,000円 |
Cubase Elemnets 9 アカデミック版 | 7,000円 |
Cubase AI 9 | バンドル |
Cubase LE 9 | バンドル |
というようになっています。これまでは上位2製品が発表のタイミングで登場し、その後しばらくしてからElementsとAIおよびLEの登場となっていましたが、今回は全ラインナップが一斉に発売されることになりました。
※12月7日 23:15追記
記事掲載後、Steinbergから連絡が入り、Cubase LE 9についてのみリリースが2017年1月ごろの見込みで、12月7日の現時点ではアクティベートしてもCubase LE 8とのことです。ご留意ください。
数日前には関係者向けにCubase 9に関する事前説明会が実施された
かなり多くの人にとって気になるのは、バージョンアップする際の価格ではないでしょうか?これについてはCubase Pro 8.5からCubase Pro 9が10,000円(税別)、Cubase Pro 8からCubase Pro 9が20,000円、またCubase Artist 8.5からCubase Artist 8.5が8,000円、Cubase Arist 8からCubase Aritst 9が13,000円とのこと。「前回は5,000円だったのに!」と私は思ったのですが、Steinbergによると、今回はメジャーバージョンアップなので、10,000円だとのことでした。
Cubase 9シリーズのパッケージ。中にはライセンスとSteinberg Keyが入っているだけなので、インストーラはダウンロードする
一方、「つい先日Cubase 8.5を買ったばかりだよ…」という方にはグレースピリオドという制度も従来通り用意されています。具体的には10月27日以降に購入した人は無償でCubase 9へ移行できるという権利です。これについてはSteinbergのWebページにおいて、eLicenserのコードを入力すれば、自分が対象かどうかを教えてくれるシステムになっているようなので、ぜひチェックしてみてくださいね。
今Cubase 8.5のパッケージを購入しアクティベーションしても自動的にCubase 9になる。よく見るとパッケージにバージョン表記はない
なおCubase AIやCubase LEについは本日からダウンロードする際に従来のCubase AI/LE 8からCubase AI/LE 9に切り替わるということで、ここにはグレースピリオドはないようです。どうしても、という方は有料ではあるけれどバージョンアップのためのパスが用意されているので、それを利用してみてください。
さて、ここからが本題。実際の機能などについてCubase Pro 9を起動して見ていきましょう。
Cubase Pro 9でプロジェクトを開き、再生している画面
プロジェクトを開いてみて、いきなり、なんか雰囲気が違いますよね。デザインのテイスト自体は変わらないけど…なんだろうと思ったら、画面の下側にMixConsoleがウィンドウではない形で表示されています。
どれを表示させるかは自分で設定することも可能
左ゾーンにあったインスペクター、右ゾーンにあったメディアベイに加え、下ゾーンが追加され、ここにMixConsoleが表示されるようになったのです。Studio OneやSONARなど、最近のDAWは1画面ですべてを表示させる方向になってきているので、Cubaseもそれを採用したというわけですね。
下ゾーンを消してトランスポートパネルを表示させれば、もうCubase 8.5と違いが分からない雰囲気に
また、トランスポートパネルも画面一番下に表示されて1画面化しているんですよ。ディスプレイの大画面化が一般的になってきた今、確かにこういうUIが使いやすいようにも思います。もちろん、画面はカスタマイズできるので、下ゾーンを消し、従来通りのトランスポートパネルにすることで、Cubase 8.5のときとほぼ同じUIにすることも可能ですよ。なお、Cubase 8でやや気に入らなかったのが右ゾーンに表示されるインストゥルメントラックが妙に大きかったこと。そうした声は世界中から届いていたようで、今回はだいぶスッキリしています。とはいえ、情報欠けはなく、すべて表示されているみたいですね。
MIDIクリップをダブルクリックすると、下ゾーンにはスコアエディターが表示される
この下ゾーンに表示できるのはMixConsoleだけではありません。たとえばMIDIクリップをダブルクリックすれば、ここにキーエディターが表示され、オーディオクリップをダブルクリックすればサンプルエディターが表示されるようになっています。MixConsoleとはタブで切り替えられるようになっているんですね。
オーディオクリップをダブルクックすると、サンプルエディターが表示される
必要に応じて開くエディタをキーエディターでなくスコアエディターにするとか、ドラムエディターにするといったことも可能ですよ。
トラックの追加メニューの中に「サンプラー」というのものが加わった
続いて紹介するのはCubase 9の最大の特徴ともいえるサンプラー機能についてです。今回Cubase 9では「サンプラートラック」というものが新たに追加されました。このサンプラートラックを作成すると、一見、普通のMIDIトラックのようなものが追加されるのですが、下ゾーンを見ると、ここには見慣れないサンプラーコントロールなるものが表示されています。
単なるMIDIトラックが追加されたようにも見えるが、下ゾーンに見慣れない画面が…
ここにMediaBayなどからオーディオをドラッグ&ドロップで持っていくと、もうこれだけでサンプラーとして機能しちゃうんです。もってくるのはMediaBayからだけでなく、オーディオトラックにレコーディングしたクリップなどでもOK。あとはMIDIキーボードを弾けば、その音で演奏できちゃうんですよ!
ここにオーディオ素材をドラッグすれば、もうそれだけでサンプラーとして機能してしまう!
FL STUDIOなどサンプラー機能をDAWに内包しているようなものはありましたが、さらに使いやすくなった印象です。特筆すべきは、これがVSTインストゥルメントではなく、Cubaseのトラックであるということ。そのため、動作が軽く、また操作がとにかく簡単で使いやすいんですよね。
ここでレコーディングすれば、MIDIトラックとしてサンプラーの演奏を記録していくことができる
もちろん、かなり高性能なサンプラーなので、ピッチや音量の調整はもちろんのこと、シンセサイザ的にフィルタをいじったり、サンプラーとして利用するポイントを指定したり、さらにはループポイントを指定し、そこにクロスフェードをかけて、スムーズにする……なんてことも自由自在です。
必要に応じてサンプリングポイントやループポンとをエディットしたり、音色をいじることも可能
これまでのCubaseだって、サンプル素材をオーディオトラックに貼り付けて曲を構成するということは可能でしたが、たとえばリリースの長いドラムを張り付けていくと、2つ同時には鳴らせないために、同じトラックにあると、どうしても前の音の尻尾が切れてしまっていたわけですが、サンプラーだったら、その心配はありません。また、音程を自由に変えられるだけでなく、ベロシティーの設定で音量も変えられるので、いちいちフェードカーブを描く必要もなく、扱いは圧倒的に簡単になります。
編集したサンプラーのデータをHALionやGrooveAgentのライブラリとして転送することも可能
また、ユニークなのは、こうして編集したサンプラーの素材をHALionやGrooveAgentのライブラリーとしてエクスポートできるという点。実は、このサンプラー機能自体がHALionのエンジンでできているので、そんなことも簡単にできちゃうんですね。
MixConsoleの見た目自体は一見ほとんど変わらないが……
そしてもう一つ、Cubase 9の大きな機能として搭載されたのがMixConsoleのヒストリー機能です。たとえばMixConsoleにおいてEQの設定を変更したり、インサーションのプラグインを追加したり、またフェーダーを動かしたりという操作をした際、これまで元に戻すということができませんでした。確かにオートメーション機能を用いれば、その動きは記録できますが、オートメーションのライト状態でない限り、その設定の記録は残らないため、「さっきの音のほうがよかった…」という場合に元に戻す術がなかったのです。
MixConsoleをいじった履歴をすべて記録するヒストリー機能が追加されている
それに対し、Cubase 9では、その履歴がすべて記録されるようになったので、いつでも、以前の状態に戻すことができるし、REDO機能もあるので、再度同じ設定にすることも可能です。
このMixConsoleのヒストリー機能は、オーディオやMIDI編集のヒストリー機能とは別に独立したものとなっているんです。だから、新たにレコーディングしたトラックについても、このMixConsoleのヒストリー機能を使って、以前の設定と、新しい設定で比較するといったこともできるんですよ。
WaveLab9のMasterRigから転用した8バンドEQのFrequencyはM/S処理も可能になっている
一方、プラグインに関しては、今回それほど大きい目玉となるようなものはありません。一番大きいのがFrequencyというマルチバンドEQが搭載されたことです。これを見て、「あれ?」と思う方もいると思いますが、これはWaveLab 9搭載のMasterRigにあるEQ機能とほぼ同じものですね。8バンドある中の任意のバンドを通常のStereoのほかにM/S設定にすることが可能。これによって、これまでにはない音作りができそうですよね。
UIが変わったbrickwall limiter
そのほか、brickwall limiterとmaximizerのユーザーインターフェイスが変わっています。brickwall limiterのほうは、見た目が変わっただけで中身は同じなのですが、maximizerにおいてはRECOVER、RELEASEという新たなパラメータも追加され、中身が少し変わっています。
機能強化されたmaximizerは従来と同じ動作をするCLASSICモードも搭載されている
とはいえ、Cubase 8.xのプロジェクトを再生したいといった場合、違うプラグインに差し変わってしまうと、音が変わってしまう心配があります。そこで、従来と同じmaximizerにするためにCLASSICモードというのがあるので、これをオンにすれば大丈夫ですよ。
以上、Cubase Pro 9を中心にザックリと新機能について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?とりあえずしばらく使ってみても、非常に安定していて動作に問題はなさそうなので、私のDAW環境はCubase Pro 8.5から完全にCubase Pro 9へ移行させようと思っています。
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