私も、これまでいろんな電子楽器を見て、触ってきたつもりですが、今回ZOOMから発売された新製品、ARQ Aero Rhythm Trak AR-96(以下、ARQ)ほどぶっ飛んだ製品を見たのは初めてのような気がします。もちろん、いい意味でですけどね。確かにジャンルとしてはリズムマシンの一種だとは思います。でも、この見た目、デザイン、音の出し方、発想……すべてにおいて斬新というか、これまでにない、奇想天外なマシンなんです。
今年1月のNAMMで発表されてから、「何なんだろう、これ?」って気にはなっていました。その一方で、写真やビデオも少しずつ出ていたので、見てはいたものの、いったいこれが何なのか、さっぱり掴めずにいました。正直に言っちゃうと、丸型蛍光灯のシーリングライトにしか見えなかったのですが……ごめんなさい、ZOOMさん!!。そのARQを試すことができたので、まずはファーストインプレッションということで紹介してみたいと思います。
これまでになかった斬新な楽器、ZOOMのARQ Aero Rhythm Trak AR-96
デジタル技術が進んで、さまざまな機器が登場する世の中ではありますが、楽器の世界って、結構保守的で、あまり斬新なモノってないですよね。80年代に登場したRolandのTRシリーズとAKAIのMPCシリーズは、確かに画期的であったし、それが今も生きているわけですが、それ以降、新しいスタイルのものってあまりなかったように思います。
そこに登場した今回のARQ、よくここまで斬新なことができたなと感心してしまいます。実際どんなものなのか、まずは以下の概要紹介ビデオからご覧になってみてください。
初めて見たら、「何だ?これ!?」って思いますよね。まず、その形状から見ていきましょう。このARQ、基本的には机やテーブルの上に置くタイプの機材で、UFO?、宇宙ステーション?というような不思議な円盤状のもの。何に似てるかと言われれば、前述のとおり、蛍光灯のシーリングライトの中身にそっくり……という感じです。
パッと見は、蛍光灯のシーリングライトのようだが……
しかも、その蛍光灯管に相当する部分が、取り外し可能となっているんですよね。名称としては台座に当たる部分をベースステーション、蛍光灯管に相当する部分をリングコントローラーと呼んでいます。
蛍光灯管のような部分は取り外し可能
それぞれの役割を簡単にいうとベースステーションが本体部分で、ここに音源機能、シーケンサ機能などが備わっています。一方のリングコントローラーは演奏する部分であり、ここを叩いたり、振ったりすることで演奏できるほか、シーケンスパターンのステップ入力なども、これを使って行っていきます。
通常はベースステーションとリングコントローラーはドッキングさせた状態で使い、この状態だとリングコントローラーに通電し、充電もされます。しかし、切り離しても、それぞれがBluetooth LEで接続されているために、そのまま使うことができるわけです。
電源を入れてない状態だと、蛍光灯管のようですが、スイッチをオンにすると、先ほどのビデオにもあった通り、イルミネーションのように光り出します。上から見ると、32のカラーLEDが光っており、光の色によって意味に違いがあるのです。さらに横から見てみると、同じ位置の上面、側面、下面と3つのLEDが光っているのが分かると思います。つまり、32×3=96のLEDが埋め込まれているんですね。ほかにも現在演奏中の位置やインストゥルメント情報を示すLEDもあるんです(おそらく32×2=64個)。
このリングコントローラー、握ってみると分かりますが、ツルツルのガラス面というわけではなく、しっとりと柔らかいラバー感触になっているんです。しかも、96個のLEDが埋め込まれた表面は96の格子状となっていて、それぞれがPADとなっているんです。つまり、これらを叩くとそれでドラムやパーカッション、また各種楽器音を鳴らすことができるようになっています。しかも叩いたときのベロシティー検知はもちろんのこと、押し込んだ際の圧力も検知して音源へその情報を送ることができるようになっているんです。
ちょっと考えただけでも、なんかすごいことになってますよね。先ほどのビデオでは、このリングコントローラを握って、タンバリンのように扱っていましたが、この中に3軸加速度センサーも埋め込まれているんです。
握った位置のPADを無効にするグリップエリア設定
そのため、3軸で加速度センサーからの信号を用いて、サウンドやエフェクトをリアルタイムにコントロールすることが可能で、揺すったり、傾けたり、回転させることで、ARQ内蔵エフェクトのパラメーターを変化させることだってできるわけです。「でも、リングを握っちゃったら、変な音が出るのでは?」と心配になる人もいるでしょう。そこも大丈夫、握る位置確保のためにPAD演奏を無効にする、グリップエリア設定なる機能が用意されるんです。これによって、まさにタンバリンのように扱うことができるわけですね。よくこんなユーザーインターフェイスを考えたな、とつくづく感心してしまいます。
STEP、INST、SONG、LOOPERの4つのモードがある
機能面についても簡単に見ていきましょう。ARQには大きく4つのモードが備わっています。具体的には楽器的に演奏するためのINSTモード、パターンをステップ入力するためのSTEPモード、作成した複数のパターンを組み合わせて一つの曲として演奏するためのSONGモード、そして作成済みのパターンやソング、INPUT端子からの入力、WAVファイルなどのキャプチャー素材を組み合わせ、ルーパーシーケンスとして一つの曲にまとめることができるLOOPERモードのそれぞれ。
プリセット音色も膨大に用意されている
まずINSTモードは前述の通りリングコントローラーを使って演奏するためのものです。ARQには468種類のPCM波形と70種類のシンセ波形を持っており、これらを音源として使っていくことができます。もちろん、単にプリセットを読み込むというだけでなく、ノイズジェネレーターやフィルターなどを通しながらシンセサイザ的な音作りが可能なので、出せる音は無限大といってもいいですよね。
また、最大5系統のエフェクト(インサートFX、グローバルフィルター、ディレイ、リバーブ、マスターFX)を使用可能となっているので、より手軽に音をいじっていくことも可能です。インサートFXにはコーラス、フェイザー、リングモジュレーター、ビットクラッシャー、ディストーション……とさまざまな種類が使えるようになっています。
FILTER、DELAY、REVERB、MASTER FXはボタン一つで操作可能
そして、リングコントローラーは、96個のPADを叩いて使うPADレイアウトのほか、一周する鍵盤のように音階が並んで演奏できるKEYレイアウトがあるので、用途に応じて使い分けることができます。ちなみに白鍵に相当する部分が白、黒鍵に相当する部分が青で光りますよ。これらを3軸加速度センサーと組み合わせてどう演奏すれば、うまくいくのか、まだよく把握できてませんが、すごい可能性を秘めた楽器といえそうです。
STEPモードは、比較的RolandのTRシリーズ的なステップシーケンサといえそうです。一周で32ステップあるので、2小節分を入力していくことができ上面、側面、下面にある3系統のPADに別々のインストゥルメントを割り当てていくことが可能となっています。
SONGモードも、ドラムマシン、シーケンサを使ってきた方ならご存じの通りの機能です。最近はRolandのAIRAシリーズでSONGモードを排除するといった動きもあるようですが、このSONGモードではRECボタンを押した状態で、各パターンを再生させることでその順番を記録でき、PLAYボタンを押せば、それを再現できるようになっているわけですね。
標準ジャックでLとRのOUTPUT(左)、INPUT(右)も用意されている
そしてLooperモードは、いわゆるルーパーとして使うためのもの。面白いのは、ARQで作り出したサウンドを素材としてキャプチャできるほか、INPUT端子が2つあるので、ここから取り込んだ音もキャプチャして重ねていくことができるという点。しかも、それらの音を最大で16音まで重ねることができ、必要に応じて、それぞれをONにしたりOFFにしたりできるので、かなりのパフォーマンスを実現できそうです。
もちろん、そうした操作もベースステーションと切り離したリングコントローラーを使って操作できるので、どう利用するかはアイディア次第といった感じですね。
なお、Looperモードを使うには、キャプチャ素材を保存しておくためのメモリー領域としてSDカードを入れておくことが必須となります。
iPhoneやiPadとの接続も可能
ちなみに、ARQとPCとの連携はというと、これもUSB接続およびBLE-MIDI接続が可能になっています。USB接続でもやり取りするのはMIDI信号だけのようですが、まさにキーボードに代わるパフォーマンス用のMIDIコントローラとして使えそうですね。ARQにはAbleton Live Liteもバンドルされているので、これと組み合わせて使うというのも面白そうです。
この、あまりにも斬新なARQ、まずは全体像をとらえてみましたが、アイディア次第でいろいろと化けそうな機材ですね。私自身、まだどう使うとARQの本領を発揮できるかを習得できていないので、また改めてフォーカスを絞った記事も作れればと考えているところです。
【関連情報】
ARQ Aero Rhythm Trak AR-96製品情報
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