「DSPってよく目にするけど、いまいちよく分からない」という方も少なくないと思います。これはデジタル・シグナル・プロセッサ(Digital Signal Processor)の略で、高速演算を行うICのこと。パソコンの中枢にあるCPUとよく似たものではあるのですが、DSPは信号処理専用のICで、エフェクトやミキサーなどを動かすために特化したICなのです。DAWでエフェクトを複数動かすと、やはりCPUパワーが足りなくなってきますが、PCにDSPを搭載すればCPUパワーをまったく消費することなく、サクサクとエフェクトを動かしたり、膨大なチャンネルストリップを搭載したミキシングコンソールを動かすことが可能になるのです。
そのDSPには、いくつかの種類・規格がありますが、今、DTM・DAWの世界の業界標準のようになっているのが米UNIVERSAL AUDIOのUAD-2というもの(正確に表現すればUAD-2のハードウェアにDSPのICが実装されているのですが)。MacでもWindowsでも利用することが可能であり、VST、AudioUnits、RTAS、AAX 64で利用できるので、要するにほとんどすべてのDAW環境でUAD-2を使うことができるのです。そのUAD-2のハードウェアとして、また新たな製品、UAD-2 Satellite USBが追加され、Windows環境でもより便利に、そしてパワフルに利用することが可能になりました。この発売に合わせ、米UNIVERSAL AUDIOからインターナショナル・セールスマネジャーであるユウイチロウ“ICHI”ナガイさんが来日していたので、UAD-2全般について、改めてお話を伺ってみました。
UAD-2 Satellite USBの発売で来日したUAのユウイチロウ“ICHI”ナガイさんにお話しを伺った
--この度、UAD-2 Satellite USBというものが発売されたとのことですが、これはどんな製品なのですか?
ICHI:製品ラインナップとしては
・UAD-2 Satellite USB QUAD CORE
・UAD-2 Satellite USB QUAD CUSTOM
・UAD-2 Satellite USB OCTO CORE
・UAD-2 Satellite USB OCTO CUSTOM
・UAD-2 Satellite USB OCTO ULITIMATE 4
の計5製品となります。いずれもUSB 3.0でWindowsのPCに接続して使うもので、QUADは4つのDSPを搭載したもの、OCTOは8つのDSPを搭載したものとなっています。見た目は、これまでThunderbolt版として出していたUAD-2 Satelliteと端子以外まったく同じであり、機能的にもまったく同じものですが、こちらはUSB 3.0接続でありWindows専用というのが大きな違いです。
UAD-2 Satellite USBのフロントパネル
--このUAD-2 Satellite USBを接続することで、さまざまなプラグインを快適に動かすことができるわけですね。
ICHI:そのとおりです。これまでもWindowsで使えるUAD-2として、PCIe接続のもの、FireWire接続のものがあったほか、先日発売したUSBオーディオインターフェイスにUAD-2を実装したapollo twin USBがありました。このapollo twin USBでも2つのDSPが搭載されていたのですが、ノートPC環境でパワフルにDAWを動かしていく上で2つのDSPでは物足りないというユーザーや、オーディオインターフェイス機能はいらないので、DSPだけ欲しいという人のために、今回の製品をリリースさせました。これによってWindows環境でもMac環境でも同じようにUAD-2を使えるようになったのです。
USB 3.0端子が搭載されたUAD-2 Satellite USB
--Thunderbolt接続でもUSB3.0接続でも、同じラインナップが揃ったということですね。Thunderbolt版をWindowsで使ったり、反対にUSB 3.0版をMacで使うことはできないのですか?
ICHI:将来的にそのようなことを可能にする可能性はありますが、現時点においてはMacはThunderbolt版を使い、WindowsはUSB 3.0版を使うという形で、それぞれが専用となっています。接続インターフェイスが違っても製品の価格的にはいずれも同じになっています。
来日に合わせてインタビューさせていただいたICHIさん
--たとえばすでにapollo twin USBを持っている人が、UAD-2 Satellite USBのQUADやOCTOを追加した場合、どのようなことになるのでしょうか?
ICHI:UAD-2はとてもシンプルな構造になっているので、接続したDSP分のパワーを使えるようになっています。つまりapollo twin USBの場合は2つのDSPを搭載していて、OCTOなら8つなので、この2つをセットで使えば10個のDSPを利用可能になります。また、OCTOを2つ接続したら16個のDSPが使えるというわけですね。USBデバイスは同時に2つまで接続が可能ですよ。
UAD Control Panelを見ると、接続されているDSPの状況が確認できる
--この画面を見ると、さらに多くのDSPが使えるようになっていますが……。
ICHI:USBデバイスは同時に2つまでですが、ほかにFireWire接続のものやPCIe接続のものを追加することは可能で、UAD-2デバイスを計6つまで同時に使用することが可能です。この場合も、単純に接続しているDSPの数を足していく形で、DSPを増やせば増やすほど、パワフルになります。
--先日、apollo twin USBを使って記事にしました。このとき2つのDSPであっても、結構なことができ、PCのCPUパワーを消費しないので、とても快適でしたが、実際、もっと多くのDSPパワーが必要になることはあるのですか?
ICHI:それは、どんなプラグインを使うのかによって異なってくるし、どれくらい大きな規模のプロジェクトを作るのかによっても変わってきます。apollo twinの場合、単なるオーディオインターフェイスにUAD-2が組み合わさったというものではなく、ここには大きなミキシングコンソールが入ったシステムになっているので、そこをどう駆使するのかにも絡んできますね。Universal AudioのWebサイトには、どのプラグインで、どのくらいのDSPパワーを消費するかを表した一覧を用意しているので、それをチェックするといいと思いますよ。
Universal Audioサイトを見ると、膨大なプラグインの一覧が表示sれ、どれだけのDSP負荷がかかるかを確認できる
--実際、一覧を見てみるとDSPパワーの1%程度しか使わないエフェクトが数多くある一方、40%、50%、さらには60%のパワーも使うものもあるんですね。
ICHI:そうですね。たとえば、かなりDSPパワーを食うプラグインでありながら、非常に人気が高いもののひとつにManleyのMassive Passive EQがあります。これはManleyからの非常に厳しい要求もあって、非常に細かく綿密なエミュレーションを行っています。また、44.1kHzや48kHzで使っていても192kHzへアップサンプリングした上で処理しているためにDSP負荷が高くなっているんですね。それだけに音は実物そのものであり、多くのユーザーからも喜ばれています。この辺を存分に使うためにはOCTOなど使っておくのがいいと思います。
--そのほかにも高負荷ながら、人気の高いプラグインってありますか?
ICHI:もちろん、いろいろありますよ。たとえばFender 55 Tweed Deluxeなどもギタリストにとっても人気が高いですよ。これは1955年製のFenderのギターアンプのダイナミックでナチュラルなクリーントーンや、ジューシーなオーバードライブサウンドを思う存分、モニタースピーカーやヘッドホンで鳴らすことができるので、これだけでもギター環境は変わりますね。ほかにも、ギタリスト用のプラグインは数多くあります。PETE THORNという著名なギタリストが東京都内のホテルでapollo twinを使って、思い切りギターの演奏をしているYouTubeビデオがアップされていたので、それをご覧になると、UAD-2とギターの組み合わせがどんなものなのか、雰囲気がすごくよく分かると思いますよ。
--ほかに、最近のプラグインで面白いものがあったりしますか?
ICHI:そうですね、AKGのスプリングリバーブ、BX20というものを出したのですが、これがすごくいいんですよ。実物は冷蔵庫くらい大きなリバーブなんですよ。いま考えるとそんな大きいリバーブがあったなんて信じられないですよね(笑)。たとえば、以下のような音ですね。
このリバーブでないと作れない素晴らしい音があるんですよね。それをUAD-2のプラグインで完璧なまでに再現しているのです。もちろん、冷蔵庫みたいに大きいエフェクトは論外としても、日本の住環境においてUAD-2が果たす役割は非常に大きいと思っています。プロが今も愛用しているビンテージ機材は、やはりとてもいい音であり、かつとにかく簡単に使えるということから、いまだに使われているわけですが、どれも大きいというネックがあります。それをUAD-2ならノートPC環境で利用可能なとてもコンパクトで機材に置き換えることができ、ビンテージ機材とまったく同じ音が出るのですからね。
冷蔵庫のような大きさのスプリングリバーブをプラグイン化したAKG BX20
--ところで、今回新たに発売される製品はQUADもOCTOも、「CORE」、「CUSTOM」、「ULTIMATE」というラインナップがありますが、これはどのように違うのですか?
ICHI:「CORE」パッケージがもっとも基本となるものであり、ここには、Analog Classics Plus plug-in bundleというものが含まれています。ここにはLegacy LA-2A、1176、Fairchild 670 といったソリッドなクラシックコンプレッサ、さらには Legacy Pultec EQP-1A とPultec ProのようなEQ、さらには真空管アンプの610-B Tube Preampや強力なエンハンサーであるPrecision Enhancer Hzプラグインなど、ミックス全般で使えるものが一通り揃っています。さらに「CUSTOM」はAnalog Classics Plus plug-in bundleに加え、レジストレーションの際にお好みで3つの単品UADプラグインをチョイスすることができます(45日以内に選択が必要)。そして、「ULTIMATE」がフラッグシップパッケージであり、V,8.4までのUA社制作プラグインすべて(83種類)が付属しています。ぜひニーズに合わせて選んでみてください。
--ありがとうございました。
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UAD-2 Satellite USB製品情報
apollo twin USB製品情報
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